最新話ではなく申し訳ありません。
「ここら辺で良いかな、っと。」
晩飯を食べ終わり、鳳翔さんの店を後にしてその足で埠頭に来ていた。
列機達は眠ってしまったので工廠に持って行った。
その時、夕張に遭遇してしまわなかった事は幸運としか言いようが無い。
俺は、酒と大福を持ちながら腰を下ろす。
そして、一つの大福を海に落とし、もう一つを口に運ぶ。
「工廠で他の奴らに振る舞われたやつとは違うけど、それでも美味しい大福だ、美味しさは俺が保証する。どうか皆で分けて食べてくれ。そして、後は俺達に任せてゆっくり休んでくれ。」
酒を御猪口に注ぎ、海に捧げた後、他の御猪口にもう一度注ぎ、ぐいっと一思いに飲み干す。
また俺は、生き残った。
いつもならそこで自虐になるのだが、今は違う。
俺は、今回の戦闘で死んでいった妖精さん達の事を無駄にすべきでは無い。
その為にはどうすれば良いのか。
その為に俺は何が出来るのか。
止まっていては、意味が無い。
何より、死んでいった者達に失礼だ。
そうか、そうだよな。
俺は今まで山本長官や死んでいった小隊の奴らに失礼な事をしていたのか。
「俺に出来る事を、精一杯やる。供養にはこれしか無いのかもしれんなぁ・・・。」
そうと決まれば先ずは、航空隊の熟練度だ。
大本営のエリート部隊だけあって技術はそれなりだが、それだけだ。
実戦では経験こそ光る。
これから強くなっていく。
少しでもそれの手助けになれば良い。
「まずは列機達の空戦の腕を上げてからだな。でも、初めての実戦で生き残れたのは大きい。ほとんど帰ってこれないからなぁ。」
空を見上げながら、独り言を呟く。
しばらく物思いにふけっていると、背後から足音がする。
その方向へ視線を移せば、大鳳を見つけた。
どうしたんだろうか。
まぁ、話し掛けてもろくな事が無さそうなので、気にせず酒を飲み続ける。
そうして、御猪口に酒を注ごうとした時、ちゃぷん、と徳利の中の酒が揺れる。
それに聞き取り、こちらへ気付く大鳳。
「・・・・・・あっ。」
「・・・・・・げっ。」
地獄耳さんめ。
あー、しくじったなぁ。
俺から先に退くべきかなぁ。
「あ、あの、えっと、その・・・」
すると大鳳は、もじもじしながらなにやらブツブツ呟いている。
何か言いたいのかねぇ。
取り敢えず、質問してみよう。
「この辺に何か忘れ物でもしたんですか?」
「あ、いや、そういうわけではないのだけど・・・。」
「んー、もしかして邪魔ですかね。じゃあ直ぐ退きますよ。」
「そうじゃなくて!あ、そうじゃなくて、その、えと、ごめんなさい!」
突然謝ってきた。
何に対しての謝罪なのだろう。
「ごめんなさい、私はあなたの事を誤解していたわ。あなたの悪評を大本営にいた頃に散々聞かされていたもの。でも、おかしいと気付くべきだった。だって」
「あー、その事ですか。良いですよ別に、気にしてませんから。」
「え、ええ⁉︎」
あっけらかんと言い放った俺に対して目を見開いて驚く大鳳。
そんなに驚かれても。
「どれだけあなたの認識を改めたって、いくら理解してくれる人を作ったって、それで罪が消える訳じゃあない。」
「・・・・・・・。」
「努力すべきなのはそこじゃなくて、次また同じ事を繰り返さない為にどうすべきかだと思うんだ。だから、別に謝らなくたって良いんだ。」
人に言われ続けるからこそ、悔い改めようと思える。
後悔し続ける。
そして、次に活かせる。
「そんな・・・・・・。」
一気に大鳳が暗い表情になる。
折角の美人がそれじゃあいけない。
ここは一つ、粋な台詞でも吐いてみるか。
「今日は月が綺麗ですし、こっち来て一緒に飲みませんか?」
「えっ、ええ!い、いきなり、そんな!」
ん、いきなり?
まぁ、唐突過ぎたかな。
似合わない事をしたよなぁ、うん。
「あー、すみません。つい、寂しかったので。では、これで。」
俺は徳利と御猪口を片付け、帰ろうとする。
それを大鳳が慌てて止める。
「あ、違うの!嫌なんじゃなくて、心の準備が!」
大鳳は言ってからカアァ、と頬を朱に染める。
そして、数回深呼吸をして、宣言する。
「不束者ですが、よろしくお願いします!」
だからさぁ、その挨拶流行っているのかよ。
数時間後、酔い潰れた大鳳を背負って寮に向かう所を青葉に見られて鎮守府中で噂になってしまっていたのは、また別のお話。