鎮守府に帰ってこれた頃には、もう日は暮れてしまっていた。
「皆無事か⁉︎怪我はないか⁉︎」
鎮守府に帰還すると提督さんが血相を変えて走って来た。
ここまで心配してくれるなんて、いい提督さんに恵まれたかもしれないわね。
「はい、皆無傷ではありませんが、沈んだ者は誰一人おりません。」
「そうか、良かったぁ・・・本来ならこの鎮守府から他の艦隊も向かわせるのに、すまなかった。」
「長門さん達はこの鎮守府の防衛を任されているんだもの、仕方無いわ。それより、提督さん?すまなかった、じゃなくて他に言う事があるんじゃない?」
そうおどけて言うと、提督さんはハッとした様な顔で言葉を紡ぐ。
「そうだな、皆、お疲れ様。全員生還してくれて、ありがとう。」
「「「「はい!」」」」
その時、私のクロスボウの弾倉の一つが輝き出し、何かが飛び出す。
「ん、ああ、ここはまだ工廠じゃありませんでしたか。お、提督殿。」
提督さんに敬礼しながら間抜けた事を言う男。
言わずもがな、杉田庄一上等飛行兵曹だった。
「菅野でいい。お疲れ様、どうだった、その姿での初の実戦は?」
「上々であります。これならいけそうです。」
「うむ、今回皆が無事に帰って来たのは君の働きも大きいだろうな!」
「・・・・・・そうですかね。」
提督さんが笑いながらそう言うと、杉田さんは一瞬だけ目を伏せた後、歯切れ悪く答えた。
何かあったのかしら。
でも、まぁ、頑張っていたわね。
「よし、では傷の深い者から順次入渠する様に。入渠が長引く様であれば高速修復材も使って構わない。それと、今夜はきちんと休息を取る様に。では解散!」
「「「「はい!」」」」
「了解です。」
各自、装備を工廠に置いたり入渠したりする為に移動し始める。
それにしても・・・。
「杉田、ちょっと良いか?」
「何ですか、提督殿?」
「・・・まぁいい。それで、頭のそれは、何かね?」
「えっ、何かいます?」
「妖精さんが二人、いるのだが。」
私もさっき見た時から気になっていたのだけれど、杉田さんの頭に二人の妖精さんがくっついていた。
あれは何?
すると、妖精さんが交互に話し始める。
「すぎたさんがへんたいをくずすな、ともうしていたので!」
「どんなときもついていきます、はい!」
「・・・そんな訳らしいです。」
妖精さん達の言葉に、杉田さんがやれやれといった風に付け加える。
その姿を受けて、提督さんがほっこりした表情になる。
不覚にも、私も可愛いと思ってしまったわ・・・。
「ま、まぁ良いじゃないか、可愛いし。」
「困ってはいませんが、艤装にすぐ戻したほうが良いですかね?」
「いいんじゃないかしら、別に困ってはいないし。」
「そうですか。では、これで失礼します。」
「いきましょう、すぎたさん!」
「むかうところてきなしですね!」
杉田さんははぁ、と溜息を吐きつつ立ち去って行く。
頭に二人の妖精さんを乗せたまま。
その姿がおかしくて、つい独り言を言ってしまった。
「ふふっ、不思議な人。それに、戦犯だと聞いていたけれど、なかなか空戦の腕はあったわね。」
「・・・戦犯だと?大鳳、それはどこで聞いた?」
すると、提督さんが先程とは違い、とても恐ろしい顔で問いかけてきた。
何かに憤っている様な、そんな表情で。
その変貌ぶりに驚きつつ、私は答える。
「だ、大本営ではかなりそう言われてきました。十分な兵力であったにも関わらず山本長官をむざむざ死なせた、と。」
事件の詳細などは調べる事は出来なかったけど。
それを受け、提督さんは苦虫を噛み潰した様な顔で話し始める。
「・・・・・そうか。だがな、大鳳。それは違う。」
「・・・えっ?」
その後、提督さんから聞かされた話は私のあの人への評価を覆すものだった。