楽しんでくれたら幸いです。
ていうかこれ長いので近々何話かに区切ろうと思います。
追記
分割が終了いたしました。
あの日の事は、はっきり覚えている。
当時、この国は世界を巻き込んだ、それはもう大きな戦争の最中であった。
その時、俺は艦上戦闘機のパイロットの一人だった。
その戦いの中で俺達は必死に戦っていた。
当時は皆が皆そうだった。
その一人だったに過ぎない。
しかし。
突如現れた人類共通の敵、深海棲艦による攻撃で、世界は戦争どころではなくなった。
だが、いくらそんな敵が現れたからと言っても、我が大日本帝国を含め世界各国がはいそうですかと皆仲良く手を取り合う事は無かった。
協力はしないが、相手もしてはいられない。
その為、人類は一時的に停戦した。
俺の記憶からこびりついて離れない、あの日。
四月の十八日。
その日は、対米軍前線から本国へ山本長官がご帰還なされる為、その護衛任務に就いていた時だった。
この所、何故か米軍からの攻撃は止み、また近海に敵空母はおろか敵影反応一つ無かった。
なのでそこまで多くの護衛は必要無いだろうとの事で、俺を含め六機の零戦が護衛任務に就く事になった。
念には念をと索敵機もかなり飛んでいたが、総じて反応は無かった。
しかし、現実は非常だった。
今となっては全てを覚えているわけでは無い。
あれはもうかなり前の事になるのだから。
しかし、それでも。
あの日、謎の飛行物体に攻撃されて火を噴きながら堕ちていく山本長官の乗る一式陸攻を。
唯々、零戦のコクピットの中から何も出来ず眺めていた時の事だけは。
はっきりと覚えている。
忘れようとしても、その度に夢に見るあの光景だけは。
きっと、死ぬまで忘れる事は無いのだろう。
後で分かった事、というかその当時の深海棲艦は存在すら認識されていないまさしく正体不明の敵だったのだが。
その日に一式陸攻を攻撃してきたのは空母一隻に駆逐艦二隻という少数部隊だった。
その部隊の艦載機のようなものが我々に襲いかかっていたのだ。
その後海軍は長官の仇と、謎の敵に総攻撃を仕掛けた。
結果、空母一隻は逃したものの深手を負わせ、駆逐艦二隻を撃破する事に成功した。
その残骸を回収して分かった事は、驚くべき事にこの敵は生物によく似た構造をしている事だった。
しかし同時に、何故この様な構造を備えるに至ったのかは今でも不明だが、戦艦や空母と言った艦船の特徴も兼ね備えている事が分かった。
人間ほどの大きさでありながら戦艦クラスの火力や装甲、果ては空母クラスの艦載機運用能力を持つとは。
それに人間ほどの大きさなので索敵機にも引っかかり辛くて敵わない。
苦戦もするというものだ。
そしてその後、その生物を解剖・解析し、その情報を元に深海棲艦に対抗する為に造られた存在が。
後に言う、艦娘だった。
それからは少しずつだか、前線を押し戻せて来ている。
それと共に、過去の兵器の殆どは無用の長物となっていった。
艦載機などは艦娘と同時期に現れた謎の生命体、通称『妖精』の大きさに合わせた物が運用される様になり、今では海軍は殆ど生産を受注していない。
それもそうだ。
今や海軍の主力は艦娘なのだから、彼女達に運用出来ない艦載機なんて必要無いのだろう。
第一航空戦隊、通称一航戦ですら解体されてしまった。
まぁ、主力の空母四隻が沈んでしまっていた当時の第一機動部隊なんて、もう既に解体されていたようなものだが。
同じく護衛に就いていた五名は、山本長官の仇討ちの戦で華々しく散っていった。
しかし、俺は、俺だけは生き残ってしまった。
作戦終了後、このまま着陸失敗にかこつけて墜落してしまおうか。
そこまで考えていた。
その時は今まで誇らしく思っていた空戦の腕を恨んだものだ。
俺はその後二ヶ月の謹慎の末、汚名をそそぐべく、最前線へ志願するつもりだった。
そして、罪滅ぼしの為に華々しく戦い、そこで死するつもりだった。
だが、そうはならなかった。
上官から告げられるのは、長ったらしく堅苦しい命令。
それを要約すれば、
「お前はもう、必要無い。」だった。
あまりに冷たく言い放たれるそれに、俺は不思議と納得できた。
同時に、俺はこの罪悪感を、一生抱えて生きていかなくてはならないのだ。
そう覚悟した。
いや、のうのうと生きていくつもりは無かった。
軍をやめた時点で死のうと、心に決めていた。
しかし、そんな俺を引き取った部隊があった。
それが深海棲艦を解剖して、その情報をまとめそれぞれを分類し、それらを元に艦娘を生み出した実験部隊、731部隊だった。
731部隊の面々は次に、艦娘の艦載機に、何とか海軍の熟練搭乗員達を搭乗させられないかと考えた。
そして辿り着いたのが、人間の妖精化だ。
正直、初めて聞いた時は思わず馬鹿か、と口に出してしまいそうだった。
だってそうだろう?
人間を妖精にするという、荒唐無稽な計画を話されて、それは良いと納得出来る奴はそうそういない。
だが、それで死ぬのも悪くない。
というより、どうでも良くなっていた。
だから、その実験体第一号に促されるまま志願した。
どうせ失敗するんだろうな、と思っていた。
今となってはそれは盛大な振りだったのかもしれない。
前置きが長くなってしまった様だ。
つまり、まとめると・・・
俺は、妖精に変身できる様になった。