私のまちがってしまった青春ラブコメはもう取り戻せないのだろうか 作:ぶーちゃん☆
ぼっちの朝は常人よりよっぽど遅い。
なぜなら部活動など当然やってるワケがないし、教室に早く到着しても話し相手も居ないから、ただただ気まずいだけなのだ。
つまりぼっちに取っては朝のSHRが始まるギリギリに教室に入る事こそが絶対的正義と言える。
ここ最近はある情報を聞き出す為に、私にしては珍しく早めの登校を心掛けていたのだが、昨日その情報を本人から放課後のファミレスにて直接聞き出すという、ぼっちにあるまじき暴挙にて情報入手という目的を達成してしまったことにより、晴れて無駄に早い通学から解放されたのだ。
とまぁそんなワケで、私二宮美耶は本日より無事に平和なぼっち道を邁進する事に相成ったのであーる!
なのにどうしてこうなった……
「ねぇねぇ美耶ー。なに一人でブツブツ言ってんの?超ウケるんですけど!あ、それウマそー!いただきーっ!」
「ちょっとかおりー!それ私が目ぇ付けてたのにー。んじゃあ二宮さん!私の玉子焼きとそのハンバーグ交換しようぜー」
……ねぇ?なんでなの……?
※※※※※
只今一限目の休み時間中。
昨日までは情報収集の為に音楽を聴いてるフリしてある人物をストーキン…………げふんげふん。
ある人物の会話に聞き耳を立ててたんだけど、今日からは今まで通りアニソンをガンガンに聴きながらラノベを読み耽っている。
はぁ、やっぱ教室ではこのスタイルこそ至高よね♪
外界から響いてくる、頭が痛くなるようなバカ騒ぎを完全に遮断して大好きなラノベの世界へと意識を旅立たせる。
この至高の時間はなんぴとたりとも邪魔させねーぜ!
あ、邪魔してくる知り合いなんて居ないんですけどもー!
「っうひぃ〜!」
へ!?なに!?なんか思いっきりイヤホン引っ込抜かれて、この先生きのこるのが恥ずかしいくらいの声を出しちゃったんですけど!?――(注)ちなみに《この先、生きのこる》であって、決して《この先生、きのこる》では無い――
「っうひぃ〜!だって!マジウケる!」
はっ!?
「ちょ?お、折本さん!?な、なに!?」
「え?なにって朝の挨拶に来ただけだけど?
だって美耶って朝来るの遅いからおはよーって言えないんだもん」
「ちょ、ちょっとアナタ、な、なに言ってるんですか……?」
「だからなんで敬語なの!?ウケるっ」
いやアンタ朝からウケ過ぎでしょ。なんかもう箸が転げるどころか微動だにしなくてもウケまくるレベル。
ちなみにここからの会話は、私二宮はヒソヒソで、折本さんは大音量にてお楽しみください。
「折本さん!?なんで普通に話し掛けてくんのよ!?」
「へ?だって昨日友達になったじゃん」
「と、友達未満でしょ!?折本さんがそう言ったんじゃない!」
「そだっけ?でも似たようなもんだし気にしなくていいんじゃん?」
「私が気にすんのよ!!
大体昨日教室で話し掛けないように注意するって言ってたよね!?」
「……あ、そーいえば言ったような。
でももう声掛けちゃったし別にいいよねっ」
「いいわけあるか!てか声デカイからぁ!」
「ヒソヒソ声で叫ぶとかウケるっ」
「いやウケねーよ!」
……………………………………………ってヤベェェェー!!あまりの突っ込みドコロ満載感に、思わず普通に大声で突っ込んじゃったよっ!?
ひぃやぁぁぁ……視線がぁ!クラス中の好奇の視線が私に降り注ぐよぉ……!
「ぶっ!やっぱ美耶面白いわ!
んじゃまた後でねー」
二限の予鈴と共にその女は去っていった……クラス中の突き刺さる視線を残して。
もうやだ。もう恥ずかしくて死んじゃうかもしんない。
※※※※※
三限の休み時間にはヤツは来なかったのだが、あからさまに周りからヒソヒソされてる私が居る。
折本かおり……ヤツを甘く見すぎていたようだ。ヤツの他者との距離の縮めっぷりは並みじゃなかった。
あの良く言えば空気を読まない、悪く言えば考え無しのバカっぷりで、トップカースト特有の交友関係を広げてきたのだ……あいつは……
あれ?良くも悪くも悪口しか言ってないや!
そして運命の昼休み。
私は普段、お昼は何食わぬ顔して教室で一人で食べている。
ぼっちの中には、一人で教室で食べている自分がいたたまれず、自分なりのベストプレイスを見つけたり、最悪『便所メシ』なるものを実行してまでも自らのアイデンティティーを守るらしいが、私のような自ら望んでぼっち道を邁進する自立型ぼっちには、教室で一人で食事を摂る気まずさなど児戯に等しいのである。まさに笑止!
しかしこの日ほど自らのこの鋼メンタルを恨んだ事は無い……
「美耶ー。一緒に弁当食べようよー」
「え、えっと二宮さん急にゴメンね……?かおりが強引でさぁ……」
逃がさんとばかりに私をがっちりガードするトップカースト女子二人。
そしてそんな二人と私を含めた三人に、それはもうスンゴイ好奇の視線を向けてくるクラスメイト達。
なんなの!?アンタたち私を殺す気なの!?
鋼メンタル?ごめんなさい嘘ですどうせ豆腐メンタルですしかも絹豆腐なんです。
意識を失いかけている私に、仲町さんが声を掛けて来た。
「えっと……もう一年近くクラスメイトなのに、接触ってなにげに初めてだよね?
ごめんね急に。かおりが聞かなくってさぁ……」
「あ……いや……はい」
卑屈卑屈卑屈ゥゥゥ!私カッコ悪いよぅ!
「ホントかおりって考え無しだからさぁ、言い出したら全然聞かないんだよねぇ……
二宮さんの事はあんまり詳しくは聞いてないんだけどさ、かおりが良い娘だからって」
「良い娘とか……そんなんじゃ、無い……ですから」
「あ、あはははは……で、でも、もし良かったらヨロシクねっ」
「あ、はい……」
仲町千佳、か。折本さんと双璧を成す我がクラスのトップカースト女子だけど、あのバ……お調子者と違ってちゃんとしてそうだし、もしかしたら意外と仲良くなれるのかも……?
なーんて、そんな風に考えてた時期が私にもありました。
そして冒頭へ……
ドラクエ3かよ。
※※※※※
「へぇ!二宮さんも比企谷君の知り合いなんだー」
「あ、うん……まぁ知り合いと言っても、つい最近まで顔も名前も忘れてたんだけど……」
「ねー!比企谷って意識しないとマジで影薄いからねー」
「ちょっとかおり!もうそういうのはやめたんじゃ無いの!?」
「あ……やばいやばい!ハァ〜……ホント悪気とか全然無いのになぁ」
「悪気無いのに影薄いってケラケラ笑えるあんたが凄いよ……
あんたのおかげで私だってあの日やらかしちゃったんだからねっ」
「ホントごめんって!」
「ま、まぁ私が調子乗っちゃったのが悪いんだけどね」
「だよねー!ホントそれあるっ!」
「……は?……」
「あ……すいません」
あの……もうわたくしめを解放しては頂けないでしょうか……?マジでトップカーストの距離の縮め方は、ぼっちには毒なんですよ……
でももう、一度こんな目に合ったら、クラス中の視線が痛すぎて明日からは教室で食べられませんけどね。どうしてくれんのよ……
「あ、で美耶ー、今日の放課後辺り、総武高校行ってくんのー?」
「……ひゃい?」
てか急に話振ってこないでよ!変な汗かいちゃうじゃない!
「ひゃいだって!ウケるー」
「……かおり」
「うひゃっ!ゴメンっ!
あー、あたしもうダメだぁ……」
もういいから机に突っ伏して頭抱えてないで早く話進めてよ……
そんな目で見てるとガバッと起き上がる折本さん。
「んで?比企谷に会いに行くんでしょ!?」
ねぇねぇ、なんでそんなに楽しそうなの?この人……
「いや……だから昨日も言ったように……その件は保留中だから……」
「もー!んなこと言ってたら永遠に行動に移せないよー?」
「……だから、私は……折本さんみたいに……積極的には行動出来ないから……」
「ねぇねぇ?二人してなんの話してんのー?」
「あ、えーっと……
昨日の話って、千佳に話しちゃって大丈夫?
千佳は信用出来る子だよ」
「別に……いいけど」
ま、まぁ仮にそんな話が広められたとしても、誰も私の噂なんかしないだろうし、相手もうちの学校じゃないしね。それになんとなく仲町さんは信用出来そうな気もするし。折本さんの親友やってるくらいだしね。
そして私達は場所を移動した。
だって……折本さん、声デカ過ぎて駄々洩れなんだもん。
「……へぇ、そっかぁ。そんな事があったんだぁ……」
「……うん」
「えっと……そんな話を聞かせてくれてありがとね、二宮さん」
「あ、うん……」
「だからさー!そうやって悩んでんなら、早め早めに行動した方がいいって!」
「かおりはうっさい。誰もかれもがあんたみたいに考え無しの行動取れるほど、心臓に毛ぇ生えてないから」
「心臓に毛っ!ヤバいウケ「うっさい!」る……」
なんだよー……この二人漫才でもしてんのかよー……
「んー……かおりの意見はどうでもいいとしても、確かに私も会った方がいいと思うなー」
「……え?」
「私が偉そうなこと言えた立場じゃないけどさ、私も出来ることなら比企谷君に謝りたいなぁって思ってるんだ」
「そう……なんだ」
「うん。
……でもさ、私は比企谷君には全くの無関係の人間だから、今更私が謝っても「は?お前だれだっけ?」って感じになっちゃうと思うんだ。すぐに謝っとけば良かったのにさ。
こういうのって、後から後悔してももう遅いんだよね」
「……そう、だね」
「でも二宮さんは、すっごい偶然の出会いとかおりの話で、今がようやく出来たチャンスなワケじゃない?
だったらこのチャンスは生かしといた方が、後々モヤモヤしないで済むと思うんだ」
後から後悔してももう遅い、か……それは自分が痛いくらいに一番理解してる。
確かに……今ならチカンから助けて貰ったって大義名分もあるし、比企谷君に会いに行くっていう最大のチャンスなんだよね。
「まぁ私の場合は、このずっとモヤモヤした気持ちも調子に乗っちゃった罰なんだって受け入れてるけどさ、二宮さんには話が出来るってチャンスが与えられてるんだから、どうしたらいいか分からないんなら、やっぱ一度会っとくべきじゃないかな?」
「…………うん。だよね」
……仲町さんと話せて良かった。ちょっと……覚悟が出来たかも……!
「私……会いに行ってみようかな」
「おー!二宮さん男前ー!
私は全面的に応援するよ」
「……ありがとう、仲町さん」
「あ、あのぉ……あたし蚊帳の外過ぎてウケるんですけどー……」
どうやら真剣な話は折本さんが居ないとスムーズに進行するようですね!
話も終わり、私達は教室へと帰ってきた。うぐっ……やはり視線がツライ!
トップと最底辺が交わるのはここまで注目を集めるというのか……っ!
で、でも……ようやくこの地獄のお昼休みも終わりを告げようとしている。もうこんな事は金輪際起きないのだ!明日からは平和なぼっち生活がっ!
「んじゃねー、美耶ー。
明日からも一緒に弁当食べるからヨロシクー」
「よろしくねー、二宮さんっ」
…………どうやら平和なぼっち昼休みはもう過ごせないらしいです……
※※※※※
寒風吹き荒ぶ三月の夕方。
私は今、総武高校の校門前に立っています。
いやいや私行動早すぎじゃね?まさかの即日行動だよっ!
だって……気持ちが固まった今まさに行動に移らないと、もう無理そうなんですもの……
先ほどから帰宅中の総武生の目が痛いよママン……私、無駄にお顔立ちがそこそこ整ってるから、こういう時って無駄に目立っちゃうんですよ……後から後悔しても遅いですって?すでに後悔しっぱなしだよ!
たぶん私はかなりキョドっていたのだろう。そんな私に、心配するかのようについにお声が掛かかるのだった。
「やぁ、うちの学校になにか用かい?」
なんか金髪のえらいイケメンさんに声を掛けられました。
つづく
ありがとうございました。
更新が開いてしまって申し訳ありません。
次はここまでは開かないように頑張りますので宜しくお願いします。