私のまちがってしまった青春ラブコメはもう取り戻せないのだろうか 作:ぶーちゃん☆
「ホントにマジウケんだよねー比企谷って!あいつマジで面白いんだってっ」
「かおりー……もうその話何回すれば気が済むのー……?」
私は思わず彼女らトップカーストの会話に耳を傾ける。それはもうすごい勢いですんごい集中力で。
「えー、んな事ないって。まだバレンタインの時の話とか全然してなくない?」
「いや……バレンタインの話だけで三回目だから。クリスマスの話まで入れたら通算〜……うん。分かんないくらい話してっから。アンタどんだけ比企谷君大好きなのよ」
「なにそれマジウケるっ!あたしが面白がってんのは友達としてだからっ!いやまぁまだ友達にはなってないかな?」
「友達ねー。どうだか〜。なんにせよクリスマスもバレンタインも、もうその話飽きたから次に新しい話仕入れてくるまでは比企谷トーク禁止ね」
「えー、だったら千佳も今度比企谷と一緒に遊ぼうよー。アイツ超ウケるからさー」
「私はアンタみたいに図太くないの!あんな事があった後にアンタみたいにヘラヘラ会えるワケ無いっての。それよりも比企谷トーク禁止ー」
「……千佳ぜんぜんウケない」
「はいはいウケなくて結構」
と、そこで比企谷トークとやらは終了した。ちょっと仲町さん余計な事しないでよ……
それにしても一体どうなってんの?だって折本さんがなんで今さら比企谷君とそんなに仲良くしてんの?
クリスマスとかバレンタインとか、青春さん達にとっての超二大イベントに、折本さんと比企谷君は会ってたって事なんでしょ……?
だって……あの折本かおりだよ?
もしかしたら比企谷違いなのかな。その可能性が高いよね?だって、折本さんと比企谷君って組み合わせは一番有り得ないはずだもん。
でも……ぐっ……き、気になるっ……
これは明日からイヤホン付けて音楽聞いてるフリして人間観察を楽しむタイプのぼっちにジョブチェンジ必至ですね。
ついさっきまでそっちのタイプのぼっちを軽く舐めてたばっかりなのに意志弱えーな……私。
※※※※※
自分の意志を曲げてまでも人間観察(折本観察)に勤しんだここ数日の結果、収穫はゼロでしたっ!
マジ仲町ばかやろうこのやろう。
それにしても我がクラスのトップカーストの女子二人が男の話、それどころかその男とのクリスマスやらバレンタインやらの話で盛り上がってたってのに、他のクラスメイト達がさして気にした様子も無かったんだよなぁ。特に男子共。
……これって、私が知らなかったってだけで、仲町さんと一緒でクラス中が聞き飽きてるくらいに折本さんが随分と比企谷トークを今まで散々してきたって事だよね……?
マジで私ばかやろうこのやろう。
なに「え?ああ私人間関係とか別に興味ないですから」みたいな顔して孤高のぼっちとか気取っちゃってるかなぁ。
くっそぉ!超聞きたかったぁっ!
……こうなったら直接折本さんに聞きに行って………………みられるワケがないっ!
いやいやクラスのトップカーストに底辺ぼっちが男の話聞きに行くとかどんな拷問なのよ!?罰ゲームなの?
あ、罰ゲームをし合える友達居ませんでしたっ☆
でも……そんな拷問を受けてでも、私は折本さんに聞いてみたいと思っていた。なんであなたが比企谷君と仲良くなんてしていられるのかを。
折本かおり。
ある意味私のトラウマにトドメを差してくれたと言っても過言ではない女。
もちろん比企谷君が所構わず色んなトコで悪い噂を立てた事が原因ではあるけれど、三年になってからこの折本かおりに告白して振られ、それを言い触らされた事による比企谷君への嘲笑、それによる私へのとばっちりは最高潮になった。
『ねぇねぇ美耶〜!聞いたぁ?ナルが谷?オタ谷?……まぁなんでもいいや。アイツ今度は折本かおりに告白したらしいよー!』
『……え?そ、そうなんだ……』
『えー!マジで〜?さすがに身の程を知れって感じだよねーっ』
『だよねーっ!ホント可愛いきゃ誰でもいいのかよっ!って感じだよねぇ』
『ねっ!だから美耶も去年被害に合ったんだもんねー。美耶も可愛いからさー』
『……そ、そんな事ないよぉ』
『ぶっちゃけ可愛いとか超得だよねーとか思ってたけど、こういう被害者になんなら得とは言えないかもー。良かったぁ、私美耶達ほど顔面良くなくてー』
『ギャハハハっ!マジ言えてるー!』
『まぁ美耶も折本かおりもたまには痛い目みなよー!』
『それあるー』
それあるー、じゃねぇよ……
思い出しただけでも吐き気がする。なんだよ痛い目って。なんで比企谷君に告白されるのが痛い目だったり被害者だったりすんのよ。単なるあんたらの嫉妬の捌け口じゃない。
しかもしっかりと『美耶達ほど』とか言って、自分たちの可愛さもアピールしようと必死だしさ……
はぁ……思い出さなきゃ良かった。
おっと、今はそんなどす黒い感情に支配されてる場合では無かったね。
とにかく折本かおりはアイツら嫉妬組とは違えど、比企谷君からの告白を言い触らして笑い者にした張本人であるはずなのに、なんで今さら仲良くなってんの?なんで仲良くなれてんの?
トラウマとしてずっと避けてきたけど、かかわり合いなんか持ちたくないけど、でもこの聞きたい気持ちはもう押さえられそうもない。
そして私は立ち上がり、折本かおりの席へと向かうように見せ掛けてトイレに直行したのだった。
……だって無理ぃぃーーー!
※※※※※
それからさらに一週間ほど過ぎ、私はずっと話掛けられる隙を窺っていた。もうストーカー一歩手前だよっ!
それでもなかなか話し掛ける隙がない。さすがトップカースト、全然単独行動しやしない!
でも数日間窺って気付いた事がある。彼女もチャリ通なのだという事に。
まぁそりゃ中学一緒って事は学区が同じワケであって、私がなんの苦もなくチャリ通してる以上は折本さんだってチャリ通の可能性が高いって事くらいすぐ分かるはずなんだけどね。
でも比企谷君の事で頭が一杯で…………って違う違う!べ、別にそういうワケじゃなくって、気になる事があるからってだけの話なんだからねっ!?
と、とにかくそういった理由でそんな簡単な事にも頭が回らずに、数日間付け回す結果となったワケで……
つまり!放課後に駐輪場で待ち伏せしてれば、話し掛けやすい一人っきりの時を狙って強襲出来るって寸法なのですよ!
そして意気揚々と駐輪場で彼女を張ること今日で三日目。(完全に犯罪者の目)
ついに!ようやく折本さんが一人で帰る所に立ち合えた。
なんなの?リア充ってのはそんなに一人でおうちに帰んの嫌なのん?いやまぁ私もリア充時代はそうでしたっけねっ!
とにかくこれでようやく話し掛けられる。私は自転車の鍵を用意している折本かおりに向かって力強く歩を進めた。
この学校に入学してから、まともに人と会話するのなんていつぶりくらいなんだろう。てかまともに会話したことあったっけ?
ドキがムネムネしてるけど、でも大丈夫!
私は元々はトップカーストでリア充だったのだ。折本さんとだって、中学の時は何度か話した事だってあるし、ぜ、全然緊張らんてしてらいよ〜……?
だってこないだ久しぶりの家族以外との会話だってのに、昔の可愛いわたしを比企谷君に発揮できたもんっ。
まぁ比企谷君て知らなかったし全然効果も無かったですけどもっ!
そして全然一切何一つ緊張なんてしてない私は、折本かおりに対して冷静かつ慎重に声を掛けるのであった。
「あああのぉ〜!……お、折本しゃんっ……!」
壮絶に噛みました。もう死にたい。
つづく
この度もありがとうございました。
すみません。二件ほど感想よりご質問頂いたので、時期設定のご説明をさせて頂きます。
時期的には原作バレンタインイベントまでは済んでいる時期として書いてるんですけど、主人公が奉仕部と関われない立場なのに奉仕部がシリアス状態になっている設定までは拾いきれないので、陽乃さん絡みのシリアスイベントは無かったものとして……つまり奉仕部はバレンタイン後も何事も無く平和な状態のままという世界で読んで頂けると助かります。
紛らわしいのになんの説明もせずに申し訳ありませんでした!