私のまちがってしまった青春ラブコメはもう取り戻せないのだろうか 作:ぶーちゃん☆
ある日の放課後に千葉のパルコで出会った四人の総武高校生徒。
その中の一人でもあり、すっごい可愛い娘三人を侍らせている憎むべきリア充のそのまたさらに上におわすリア王たる男子生徒。
私は、一体どんな奴なんだよ、その青春謳歌君は……と、視線をそいつに向けて軽く驚愕した。
……は?コレがリア王?
いや、確かに良く良く見れば顔の造形は中々に整ってはいる。それでも特に突出したイケメンて風貌では全然ない。
むしろ程よく?曲がった猫背やボサっとしたヘアースタイル。そして何よりこの目!この、まるで世の中の全てを舐めてんのかよ?と思わせるくらいの腐った目が、せっかくの中々に整った顔立ちを台無しにしていて、とてもじゃないけどモテ男がオラオラと放ちまくってるオーラとは真逆の印象しかない。
「もーっ!だから雪ノ下先輩達に今日のお買い物バレたく無かったんですよぉ……」
「ちょっといろはちゃん!?今日のお買い物はお仕事のなんじゃないの!?」
「ひっ!そ、そうなんですけどぉ……」
「だったらそもそも私達に内緒でそこの男だけを連れ出すこと自体が論理的におかしいと思うのだけれど……?」
「……はぃぃっ」
「大体お仕事のお買い物なのに洋服見に来るとか意味わかんないしっ!」
「……むぅっ、だから嫌だったんですよ……」
「一色さん何か言ったかしら?」
「いろはちゃんなにブツブツ言ってんのかな……?」
「ひぃぃっ!な、なんでも無いですー!」
「……どうでもいいけど早くしてくんね?」
「「「……は?」」」
「……」
なにこのハーレム修羅場……
でもやっぱりどう見てもリア王どころかリア充にも一切見えない目の腐った男子を、この美少女三人組が取り合いしているのは間違いないみたいだ。
最近はああいうのがモテるの?今度のはマスメディアさん達は[なに系男子(笑)]とかって造語を作って痛々しいくらいに必死で流行らせようとするんですかね。草ボーボーになるんでマジやめてください。
でも…………なんだろう?
私はあのリア王(仮)を知ってる気がする。どっかで会ったことある気がする。
でも生憎私には目の腐った友達もリア王な友達も居ないはずだ。あ、そもそも私友達が居ませんでしたっ!
おな中の男子かな……
でも残念ながら、私は中学卒業と同時に中学の同級生の顔の記憶なんかどっか飛んでっちゃったんだよね。いや、意識的に消そうとしたまである。今ではあれだけ仲の良かったはずのしーちゃんの顔でさえ思い出せないし、街で偶然声掛けられても「誰だっけ?」って本気で言える自信さえある。
人の脳ってすごいわ。興味の無い事は勝手に消えていってくれるんだから。
※※※※※
あのリア充四人組と離れた私はその後もう一度書店に戻り、今まであんまり手を出さなかったジャンルのラノベを購入した。
女の子に惚れられまくった主人公が修羅場りまくって地獄を見るハーレム物。
ふふふっ……これを読んでさっきの総武生達で脳内変換してやるっ。
さて、満足な買い物も終えたしそろそろ帰りますかね、と書店から足を踏み出したらもう寒い寒い。
「寒っむっ!」
ラノベを吟味してたらいつの間にか結構な時間が経ってたみたいだ。すっかり陽も落ち、あたりは夜の気配に支配されていた。
やべっ!家に連絡も入れずに千葉に長居しすぎちゃったよ。お母さん怒ってるかなぁ……夕ご飯抜きとか言われたらキツいなっ!
それにしてもさすがに二月の夜は寒過ぎる。
私はマフラーをしっかりと巻き直しつつ駅へと向かうのだった。
※※※※※
普段なら乗ることのない時間帯で乗り込んだ満員電車で待っていたのは……………チカンだった……
うっわ、最悪。だから満員電車とか嫌なのよ。とっとと声出して撃退してやりましょうかね。
「やめてください。この人チカンです」
そう声を発したつもりだったのに、意外なことになんにも声が出なかった。
嘘マジで!?私って自分で言うのもなんだけど結構強気だし、良く聞くこういう場面だって全然余裕で撃退出来る自信を持ってた。
なんなら「いざチカンにあったら怖くて声が出せませんでした」とか言ってる女性達をあらあら可愛いわね〜とかって馬鹿にしてたまである。
まさか、ホントに声が出せなくなっちゃうなんて……
やばいどうしよう……なんだこれ怖いっ……次の駅に到着しても開くドアは反対側だし……やばいやばいやばいやばいっ……
そうこうしてるうちにチカンの手はお尻からスカートの裾の方へと移動してくる。
ウソっ……どうしようっ……これ、スカートたくしあげられちゃったらっ……
そんな大ピンチなまさにその時、涙目の私は電車のシートの端っこに座る腐った目の男子学生と目が合ったのだった。
※※※※※
まさに少女マンガなんかで良くある古典的なシチュエーションだった。まさか私がこんなフィクションのような場面の登場人物になれるなんて。
あんな腐った目をしてるけどどうやらリア王(仮)らしいし、ここであのリア王(仮)に助けられて私も恋しちゃったりするのかな……?
なんて思ってた時期が私にもありました。次の瞬間リア王(仮)がスッと目を逸らすまでは。その間ほんのコンマ数秒の夢の如し。
「……」
え?なに?気付かなかったの?気付いたけど怖いから逃げたの?
…………………ふっ、他人に期待した私が馬鹿だったね。普段は他人なんか一切興味も無いし信用なんかしないのに、こういう時だけ期待しちゃった自分が情けない。
だったら自分でなんとかしてやろうじゃないのよ!
とにかくスカート捲られて直接触られる前までにはなんとかしてやるわよっ!
しかし無情にもやっぱり声を発する事が出来ずにいるとスカートが徐々に捲られていき、たぶんチカンの手がそろそろ下着に触れるんじゃないかと諦め掛けたその矢先、それは電車が次の駅に到着する為に停まりかけたその瞬間だった。
「うっわ!あのドアんとこに居んのチカンじゃね!?」
なんとリア王(仮)が突然叫んだ。それと同時に満員の乗客の目が一斉に各ドアへと向かう。
その瞬間弾かれたように、チカンは今まさに開いたドアへと駆け出し逃げて行き、人ごみの中へと消えていった。
た、助かった……の?
しかも乗客達の目がダッシュで逃げ出したチカンに向いているから、私はチカン被害者だと好奇の目に晒されずに済んだ。
これであのチカンが現行犯で捕まってたら、私にもすごい視線が集中したり取り調べとかにも同行させられていたんだろう。
なんか色んな意味で助かった。そしてまだ乗客達の目が逃げたチカンに集中してる間に、私はコッソリ場所を移動する。この後視線を向けられたら恥ずかしいからね。
と思っていそいそと移動していると、私より先にリア王がとっとと隣の車両に移動していた。
……ア、アイツまさか大声あげた自分に視線が集まらないように、チカンが逃げ出せる猶予を与える為に駅に到着するまで待ってたんじゃ…………さ、最悪だアイツ……パ、パンツの中とかにまで手を入れられて、手遅れになってたらどうしてくれんのよっ。
……とはいえ、アイツが助けてくれなかったら私はどこまでされていたんだろうか。想像しただけで身震いしてしまった。
※※※※※
チカン騒ぎがあったものの、逃げちゃったからか何事も無かったかのように電車は発車した。でも私は隣の車両に移動したアイツからは目を離さない。
いくら最悪な手段とは言え、助けられことには間違いない。ちゃんとお礼はしなくちゃね。でもチカン騒ぎで未だザワついている中でお礼とかちょっと無理。
だからアイツが電車を降りたら私もいつでも降りられる準備をしていた。
何駅か揺られながら、ようやくリア王が降りたその駅は、意外にも私と一緒の駅だった。
私はリア王をこっそりと追い掛け、改札を出て人目に付かなくなったあたりで声をかけた。
「あっ、あの……」
…………まさかの無視である。
あ、あれ?おかしいな。ちゃんと視界に入ってたよね?
「ちょっ、ちょっと!?」
仕方ないので私は彼の腕をむんずと掴む。
なにこれ?なんかまるでこの人がチカンみたいじゃん。
「なんで無視するんですかっ!」
お礼を言う為に呼び止めたのに、なんで私が怒ってるの?
「……や、別の人かと思ったんで」
いやいやいや、私アナタの目を見て話し掛けましたよね!?
なんなのこの人……と視線を向けた時、彼は私を見て驚いた表情を浮かべた。
「! ……に、にのっ……」
「二ニノッ?」
私が怪訝な表情で首をコテンっと傾げると、彼は一瞬苦笑いを浮かべて一言。
「……あ、や、なんでもないです。
で、なんの用ですか」
「なんの用って……さっきは……その……チカンから助けてくれてありがとうございましたっ」
昔取ったきねづかってヤツだ。
最近はめっきり出さなくなった可愛いわたしを全開にしてペコリっと頭を下げる。
いくらあんな可愛い娘たちを侍らせてるって言ったって、私だって結構可愛いのだっ。そんな可愛いわたしから恥じらった様子で可愛くお礼を言われたら男の子なら嬉しいはずだ。
お礼なんだから喜ばせなくちゃね!連絡先とか聞かれたらどうしようかな……
「え?……あ、ああさっきの被害者なのか。別にお礼とかいいんで。じゃ」
…………まさかのスルーである。
いや嘘でしょ……?そりゃあの娘達に比べればランク落ちは否めないけど、私ってそんなに魅力ないの?
なんか最近はぼっち道に邁進しすぎてて自分の女としての魅力とかに関心薄れてたけど、さすがにここまでの総スルーだとちょっぴり傷つくわ。
だってぼっちになった今でさえ、たまに告られんのよ私!
「いやいやいやっ、助けて貰ったのになんのお礼もしないわけには……」
「や、別に礼をされたくてやったわけじゃねぇから。」
「で、でも」
「もし下手にチカン騒ぎで電車が遅れたら帰りが遅くなっちまうからな。
チカンもやめさせられるしチカン騒ぎで電車も遅れない。一番効率が良かったってだけだから、にし……アンタに礼をされるいわれは無いんで。じゃ」
あんぐりと口を開けて呆然と立ちつくす私をよそに、彼はとっとと行ってしまった。
マジか……なんなのあの人……てか「チカンもやめさせられるし」って、やっぱり普通に助けてくれたんじゃん。
すると少しだけ先に行った彼が振り返り、少しだけ赤らめた頬をポリポリ掻きながら最後に一言だけ加えて、そして去っていった。
「ああ、そういや前になんかで見たんだが、電車の隅とかドア付近はチカンに狙われやすいんだと。
今度からは中央寄りに乗った方がいいぞ」
……………さんざん無視されてスルーされた挙げ句、まさかの今後の心配をされてしまいました。
いやマジでなんなの?あの腐った目のリア王。
普通こんな可愛い娘を助けてお礼したいって言われたら、なにかしらのリターンを期待するもんなんじゃないの?意味分かんないしワケ分かんないしムカつくし!
そして私は数年ぶりに自分の頬が熱くなっているのを感じるのだった。
くっそ……………ちょっと格好良いじゃねぇかっ……
つづく
第2話でした。ありがとうございました。
再会しても八幡を思い出さないのはご都合主義な気もしますが、元々印象の薄かったクラスメイトに数年ぶりに街で偶然会っても「誰だっけ?」になるのは良くある事?なのでいいかな、と。あの事件以来、意識的に八幡を見ないようにしてましたし。
それでも違和感あったらすみません。