パンドラ日記   作:こりど

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クレマン復活、でも本編行方不明。


8話―美姫ナーベ 中編

―ズーラーノーン

 

 

 

――某所

 

 イレアナはただの村娘だった。とある怪しげな儀式の生贄にされかけ運命が彼女を特別な者にした。それはその儀式使われた魔法の品の、使った連中さえ知らぬ能力。或いはそのアイテムは八欲がこの世界にもたらしたのではないかとのいわく付きのものであった。死体が転がる唯中に死を超越した存在・真祖と呼ばれる吸血鬼がこの世に残った。

 

 以来100年以上が過ぎている、イレアナは死を纏う魔法詠唱者(マジックキャスター)を多数擁する集団にその身を置き、彼女自身も人を超える能力で研鑽を積んだ結果、気が付けばNo.2の地位にまで昇りつめていた。秘密結社の名をズーラーノーンと言う。

 家族も友人も最早とうの昔に追憶の彼方にあり、今やその未だ小娘のような口調とは裏腹に恐ろしい実力を秘めた真祖(ヴァンパイア)は運命に復讐するかのように全てを支配するべくそこにあった。

 

 カジットの失敗の後。新たに組織が得た情報―王国には2体の強大な力を持つ吸血鬼が来ていた事。その内一体ホニョペニョコは残念ながらもう王国に新たに出現したアダマンタイト級冒険者に倒されてしまったようだ。だが集めた情報の通りなら恐らくイレアナと同格に近い強力な吸血鬼と推測される。そしてあと一体、吸血鬼は残っているという事になる。彼女から接触してズーラーノーンに迎え入れ自分の配下もしくは片腕。そういう形に持っていければ、彼女より強大な力を誇る盟主を抑えて自分が組織の頂点に立つのも夢ではない。

 そしてもう一つホニョペニョコを倒したと言う漆黒の英雄モモン、強力な魔法の品(マジックアイテム)の使用で倒したとされているがズーラーノーンにはその正体の情報がもたらされていた。死者の大魔法使い(エルダーリッチ)それがあの英雄の正体。一体何を企んでいるのか。組織により積極的にその正体が世間に噂されてないのは盟主も自分に近い考えなのかもしれない。

 

「噂を流せばその英雄とやらは失脚するのではないか?」

腕を組む屈強な肉体の男の影。肉体の大きさもさる事ながら鍛え上げられた者だけに存在する気を白く燐光のように発していた。

「そんな簡単なわけないでしょ、あれだけの有名人にもなれば酒場の法螺話と一笑されて終わりよ。第一私にも組織にも何も利益(メリット)」が無いわ」面倒臭そうに返事をする。

 

「逃げたのだったなその情報元のクレマンティーヌとやらは」

あの子(クレマン)の性格からして復活したらすぐ復讐に行くかと思ったんだけど。モモンの正体だけ告げて行方をくらましちゃったわ。よっぽどの目にあったのかしらね……」

 クレマンの死体を回収した時はその死に様は凄惨なものだったようだ、だがあの女のしてきた事を思えば意外に可愛いところもあったのだなと言う程度の感慨しかイレアナには浮かばない。

 

 だが、結局彼女とモモン(リッチ)との詳しい戦闘の詳細も不明のままだ。死体から見て取れたのは力で押しつぶされたようだと言う事のみ。だがあれも大仰に英雄などと呼ばれる存在であるとは言え、結局は人間でしかない。瞬間的な速度には目を見張るものがあったが。リッチは魔物、単純な力で彼女を凌駕する者も居るだろう。人間とはイレアナら上位の存在とは違い所詮弱い種族なのである。

 カジットの方は残念ながら復活に至らなかった。死者蘇生はレベルの他にもさまざまな要因で失敗する事がある。今回は残されたのは灰に近いものだったし致し方ない。カジット自体は惜しく無かったが生きていればもっと情報は得られたのかもしれなかったが。

 

「で、そいつがこっちに向かってると」

 街道に配置した眷族から上がる情報一行の事は捉えていた。

「ええ、思った以上に早かったね、どっちか(吸血鬼かモモン)が食いつくかもしれないとは思ってたんだけど、楽そうなモモンの方が来たわね。問題無いわエルダーリッチなら私であれ貴方であれ相性がいい。仮に私と貴方どちらか単独でも十分なんとかなる相手だわ」

 

 クレマンティーヌは武器の相性が悪かったわね、とイレアナ。

刺突武器が主力の彼女(クレマン)はアンデッドのリッチに不覚を取ったようだが自分は真なる吸血鬼、膂力も下位吸血鬼とは比べものにならない所詮リッチは魔法詠唱者(マジックキャスター)でしかなく、魔法戦闘も接近戦もこなせる彼女の敵では無いはずだ、目の前に居る男は言わずもがなだ。

 

「倒して良いのか?」

「……成り行き次第だけどモモンは、ホニョペニョコともう一体の国堕としの弟子だって言う吸血鬼の情報を聞き出した後に、説得が可能なら部下に加えたいわね。……噂の二体が誇大評価されてなけりゃ、ただのリッチじゃないのかもね、あるいはホニョペニョコを倒したってのも裏があるのかも」イレアナは暫し考え込んだ。

 

「でも計画は問題無いわ、チェリビダッケ、あんたも居るしね」

「言われた通り近隣の村から新しい死体は調達した。ゾンビもヤツが到着するまでには、もう少し増加するだろう。あんたの第三位階魔法、不死者創造(クリエイトアンデッド)」でな」

イリアナ自体は第4位階までの魔法の使用が可能なのだが全ての能力をさらす必要性は感じて無かった。

「カジットの保有してた死の宝珠があればもっと楽できたんだけど、そうね。あれもモモンに奪われたのなら回収できたらいいんだけど」

 

 「それと……あと丘の向こうには近づかないでよね、何やら首の後ろがチリチリする、何か気分の悪いものを感じるのよねあっちから」

「何やら曖昧な話だな、丘の向こうと言うとオークどもの争っている辺りか。あの周辺の族長クラスでも我らの敵では無いと思うが、お前が言うならあるいは聖王国の聖剣使いという女聖騎士が出張って来ているかもしれんな」

 

「勘は大事にしてるの長生きするには必要なものだったわ。そうね聖剣なら確かに私にはやっかいね。まぁとにかく聖王国方面は後回し。まずは地盤を固める、モモンを倒して情報を得る、可能なら仲間に迎える。貴方なら心配はいらないでしょ、かの王国最強のガゼフ・ストローノフでも楽勝なんでしょうから」

「……個人的にはそのモモン(リッチ)よりも裏世界で徒手で最強とか言う六腕のゼロとか言う者と立会いたいものだがな。同じバトルモンクとしては…他には似たような立場から言うと帝国の武王とかな」

まぁ楽しみは後に取っておこうと男は結んだ。

 

「あんたもビーストマンの中でも変り種よね」

 立った耳、盛り上がった肩は青い毛で覆われ逞しく毛深い巨体の上に鎧着(チェインシャツ)だけの男は「否定はせん」と獰猛な表情でニヤリと笑った。その口元は鋭い牙が並んでいた。

 

 

 

「戦利品の耳などは全部こちらが頂いてますが、本当に宜しいんでしょうか?」

「構わんとも気にしないでくれ」

いつもの流れで森の賢王(ハムスケ)の威容に驚いたり称えたりした一行は道中それでも何度かは戦闘をこなしたのだが、その道中はかなりアインズを呆れさせるものだった

(これはひどい)

魔法剣士とか言う触れ込みのクォーターエルフ(サン)は戦闘開始直後によく戦闘不能になっていた。と言うのは。

真っ先に突撃しようとして「馬鹿野郎前の戦士(タンク)に強化かけてからにしろ」とサブリーダーの盗賊による怒鳴り声。慌てて鎧強化(リーンフォースアーマー)×3。自分に同じく鎧強化(リーンフォースアーマー)短剣(ダガー)を抜き放つ頃には魔力枯渇(バテ)している有様。前の漆黒の剣の見事な連携が頭にあった為かよけい酷く見える。冒険者のレベルはあちらの方が低かったはずなのだが。

 魔法使える奴が先に突撃するのも論外だが、前も前で壁役を絞れば省エネで戦えるだろうに、とアインズ。どうも全員どこかしら問題があってあぶれていたのだな。と横目でなにやら納得して彼らの戦闘を眺めていた。その間も彼の両腕は凄まじい勢いで振り抜かれ人食い大鬼(オーガ)2体を瞬く間に切り倒していた。仮にも白金と金冒険者の集団、個々の力により最終的には勝利を収めていたのだが。よくあれで仮にも金や白金まで登れたものだと逆の意味でアインズを感心させた。

「ハァハァどうでしたかナーベさん」

「とっても格好がよろしいかと思いました」

にっこりと眩しい笑顔で答えるナーベ(パンドラ)の方は順調だったが、まぁ道中はそのような感じ。

 

 

 

「それにしてもアインズ様なぜにこのご依頼を?」

旅も二日目に入り、そろそろ目的地も近い頃。距離を取り七天メンバーを偵察に先行させハムスケと二人の一行になった折ナーベ(パンドラ)は尋ねた。

「……まず我々アダマンタイト級冒険者チーム漆黒は吸血鬼を追ってエ・ランテルに滞在してると言う事になってる。その噂の補強所謂アリバイ作りの一環だな。あいつ等が黙っていようと、口を滑らせようとモモンのやる事は常に皆から注目されてるいる。リアリティと言うのは必要な事だ。……後はユグドラシルの吸血鬼の違いも興味あったのでな、実験もかねてサンプルに何体か持って帰るのもいいかもしれん」

 

「なるほど、そこまでお考えでしたか流石はアインズ様」

うむと頷くアインズは、ほとんど後付けで考えたんだが、と内心呟いた。

「設定言うのはよく解らんでござるが、また実験でござるか、その吸血鬼とやらも気の毒でござるな……やあ、あっちに見えるのがアベリオン丘陵とやらでござるな、(それがし)トブの森から出た事が無かったでござるがなかなかに見ごたえのある景色でござるな」

 

 鞍をつけて幾分乗り心地がUPしたハムスケの上でモモンもその風景に目を向ける、なだらかな丘陵がどこまでも広がって、ただただ単純に広いその景色はリアル世界ではスチームパンクの世界の息苦しい世界に生きていたアインズを少し感動させた。男の老後の幸せの一つが牧場の経営だと古い映画で見たのを思い出す。こんな所なら立地には最適だろう。そう言えばデミウルゴスも羊皮紙の開発に羊を飼ってるとか言っていたなと思い出す。

 

「それにしても、この旅のナーベどのはいつになく優しい気がするでござるよ、人間成長するものでござるなぁ」

モモンとナーベが無言のままチラリと目を合わせる。

(ややこしいからハムスケには黙っておけ)と言うのは出発前のやりとり。

今回は鞍に加え、人里離れた場所を目指しているため羞恥プレイ気分も少な目の移動はアインズには心理的にも随分リラックスできるものだった。

(はぁ行楽で一度来るのもいいかもしれないな)

などと風景を楽しんでいた。

 

「あんまあっちにゃ近寄りませんがね、亜人どもが日常的に争ってる危険地帯だそうだし」

と日の光に眩しそうに手をかざし丘陵の方を見やる盗賊のトゥース。

「ええと、目的地はそのかなり手前の方ですね」地図を確認するぺテルの色違いマッディ。

 

目的地をおぼしき場所に近づいたのは昼が中天を過ぎて少しの事だった

「あれか」

 街道から外れて西より、最後の戦闘から半日ほど経った時「ああ、ちょうどあのあたりですね」と見えてきた。

なだらかな丘陵が同じように続く手前、凹んで平らになったような場所が見える。人工的に手が加えられたのだろう、アインズは記録映像で見た古代遺跡郡跡地を思い出した、一番奥に見えるのは半ば崩落してるが、神殿のように見える。

 

「200年以上前のものですから、聖王国や王国の建国前からあるって事ですね…」

依頼を受ける時に軽く調べた情報を話すウッディ

(今回は何かと既視感(デジャヴュ)を感じるな、エ・ランテルでンフィーレアが囚われていた場所があんな感じだったな)

(行楽と言えば元のリアルでは世界遺産級なんだろうなあの廃墟とかも)

などとアインズは暢気に別の事を考えていた。

 

「まだ日没までは時間がある、探索を始めましょうモモンさ……」

地図から目を上げたマッディの目が驚愕に開かれる。

モモンは無言でナーベの手を借り巨大なグレートソードを二刀を抜き払った。

「いい気分でいたら、探索するまでも無く向こうからお出迎えか、随分サービスが効いてる観光スポットじゃないか」

 

 

 地の底から沸きだすように周りの廃墟からゾロゾロと群れをなす大量のゾンビが現れる。不死者(アンデッド)のその後ろに下位吸血鬼(レッサーヴァンパイア)が10体以上居るのを見て七天のメンバーからどよめきが漏れる。ゾンビなら例え倍居たとしても彼ら(七天八刀)でも問題は無い、しかし吸血鬼は手ごわい存在だ。明らかに依頼内容の想定から外れる事態だ。通常彼らだけなら逃げた方がいい状況、しかし漆黒のモモンがこちらに居れば話は別である皆の視線が集中する。

「では約束通り私が前に出よう、ナーベ、ハムスケ」

「了解致しました」

「承知でござるよ殿」

 

 

 対峙する二つの集団、モモンの考えていたのは吸血鬼がシャルティアの吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)のように美しくはないのだな、と言う程度。やがてその下位吸血鬼(レッサーヴァンパイア)を割るように薄い黒絹のようなトーガを纏った一人の少女が前に出てきた。こちらはなかなかなに美しい。金色の目、白蝋のような肌、微笑からのぞく小さな牙、言うまでもなく吸血鬼だろう。「親玉か」とアインズが呟く。

「よく来たわね歓迎するわ漆黒の英雄モモン、クレマンティーヌ(・・・・・・・・)から色々と(・・・)話は聞いているわ」

 女の言葉にピクリと反応するアインズ。

むぅ、と意外なところから声が上がりアインズは傍の森の賢王を見た。

「何だ知っているのかハムスケ?あの吸血鬼の事を」

「いや、某は知らないでござるが、こやつが知ってると言ってるでござるよ殿、あやつズーラーノーンとか言う組織の、こらちょっと煩いいでござるよ」ハムスケはもごもご動く頬袋を押さえた。

(……そう言えばも居たな死の宝珠(そんなの)、それにしてもまたあいつらか)

 ズーラーノーンと言う単語にエ・ランテルの墓場で怪しげな事(死の螺旋)をやっていた集団を思い出す。八本指から徴収した裏世界の情報からでかなり手広く活動してる秘密結社だとは知っているが、まったくどこにでも現れるといささかウンザリする。お前らはイルミナティか。

 

「どういう成り行きなんですかねこれ……」

「ゾンビはともかく下位吸血鬼(レッサーヴァンパイア)の数が多過ぎるな」

「やるしかなさそうだな、逃げてもいい事なさそうだ」

「森の賢王さん期待してるぜ」

「任せるでござるよ」

七天八刀のメンバーは緊張感を湛えた表情でゆっくりと散開しながら思い思いに弓や剣を構えた。

 

「さてモモン私達はあちらで少し二人でお話をしましょう、貴方もその方がいいでしょう?」

女吸血鬼に言われたアインズはめんどくさそうに小さく頷いて了承する。

 

(……パンドラこの場は任せる、私はちょっと放置できない事案が発生した)

(承知いたしました)

(それとこいつら(七天八刀)はかなりへっぽこだ、油断してるとすぐ死ぬからハムスケは守備に回しておけ。最悪死んでもかまわんが、後の事はお前に任せる)

(畏まりました)

 

「ハムスケよ、七天の方々を守りつつ戦え、私が戻るまで無理をせず防御に徹するのだ!」

「了解でござるよ殿!」

では行ってくるとモモンは女の後を追った。

 

 残されたゾンビや下位吸血鬼(レッサーヴァンパイア)の群れは二人を追う気配は無い。不気味な沈黙を持ってゆらゆらと佇んでいる、それと指揮官らしい屈強な姿のビーストマンが一人。

 ナーベもふてぶてしく獰猛な笑いを浮かべたビーストマンの方を見てゆっくりと前に出た。任されたと言う事は倒して良いし倒さなくても良いと言う事である、しかしサンプルの件もあり戦闘能力を奪う程度は臣下としてやっておくべきことであろう。

 

「ええと……そこの後ろにいるクソッタレの蛆虫、このナーベがモモンさんに代わり潰してあげましょう、かかってきなさい」

 

 マントをバッと芝居かかった調子でかっこよく払う美姫、ちょいちょいと白魚のような指で不敵に笑い相手を挑発した。

暫時の空白の後、敵と味方の双方から当惑の眼差しがナーベに集まっていた。

 

「……ナーベさん?」

「ナーベどの?」

 

 む?怪訝そうに周りを見渡したパンドラは今のロールのどこか間違っていたのでしょうか?と……虫発言も適度に入れたはずなのですが、と考える。空気を読んで無い行為とはこういうものであろう、美貌であるだけに傍目には可愛くはあったのだが。

 

「貴様……人間のくせに舐めおって、ならさっそく殺ろうか、お前らあの女はおれがやる、残りをやれ」

 獣人らしき者から軽く怒気が上がり、部下のヴァンパイア達に指示が下った。ぞろりと吸血鬼達がゾンビを従え動き出す。

 

 「いくぞ皆」「応!」「ここは殿の名にかけて通さんでござるよ」

 気を取り直した味方達からの声も上がり、ゾンビと下位吸血鬼(レッサーヴァンパイア)の群れが向かってくるのを見て、ナーベは「さてさて」と迫り来るその前列を軽やかに飛び越えて跳躍して行った。

 




<キャラ紹介>
 『イリアナ』アイテムで吸血鬼化した真祖、強さはイビルアイより一回り下ぐらい。クレマンからちゃんと情報もらえなかった気の毒な人。

 『チェリビダッケ』吸血鬼の手下は人狼と言う事でビーストマンのはぐれ者に六腕のゼロを被せたような設定、故郷を出たところでイリアナに会って今回巻き込まれる可愛そうな人。

 ビーストマンの設定が明らかで無いので人間以上の獣人の集まりとここでは解釈しております。
纏めきれずまたしても3構成に。次回オチを回収していきます。

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