パンドラ日記   作:こりど

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10/3 改稿


4話―蒼の薔薇・後編

お嬢さん(フロイライン)!何と甘美な響き……)

 

 モモンの手を取り、通りを先導する…と言うより、酔っ払った子供か夢遊病者がフラフラと大人の男の手を引っ張っているような状態であったのだが、二人を指差したりしながら遠巻きに囲む群集など今の彼女にとっては空に浮かぶ雲よりどうでもいい存在であった。

 

 実のところ先刻、イビルアイは何を瞬間言われたのか解らなかった。しかし聞けばモモン様の解説によると、ドーツ語なる今は失われた古代言語『でお嬢さん』と言う意味らしい。

 (お嬢さん)

 再び胸がジジンと熱くなり、止まっている心臓も再び鼓動を刻んでいるのでは無いかと錯覚するほどだ、やっぱり止まってはいたが。

 

 200年以上もの昔から、むしろ男など自分の足元にも及ばない存在と、ある意味無垢な少女の心のままに生きて(?)きた彼女であった。

(力だけではない、またしても私の知らない知識を披露されるモモン様、どこまで底知れないお方だろう……ああこんな素敵な男性ヒトやはりもう私の人生で二度と会えるはずもない……そしてやはりこれは告白の流れなのでははないのだろうか? まさか……いつの間にか相思相愛になっていたとは、あの時の努力・アプローチは決して無駄では無かったのだ……)

 

 荷物のように小脇に抱えられた事や歓声を上げて彼に抱きついた記憶が頭を駆け巡る。

 

 ぐっと小さな握りこぶしを固めモモンを見上げると、モモンの方もまた困ったように顔を逸らした。またしても心臓が跳ねる。

(な、なんと、モモン様も照れておられるのか、これは本当に……いける)

 

 お、思い切って勝負だ、と意を決してモモンと腕を絡ませる。傍目から見れば鎧の大男にぶらさがる幼女でしかないが、以前のように素っ気なく離れるように言われる事もない。「やった、もはや勝利確実だ」と心の中で叫ぶイビルアイだった。

 

 さて群集の後ろでは蒼の薔薇一行。

 

「……やるわね大胆、ちょっとイビルアイを見直しちゃったわ」

「と未経験のボスが偉そうに言っている」

 笑顔ですっと手を上げるラキュースにささっと頭をガードするティナ。

「……漫才もいいけどよぉ、なんか思ったより順調だな、英雄どのはマジでロリコンなのか?」

 

 周囲を見ると通りで漆黒の英雄と仮面の幼女と言う珍カップルを見て、ヒソヒソ話す声も聞こえる。当事者では無いのだが身内の片割れには違い無いので何やら後ろめたくなる雰囲気だ。

 

「……ガガーラン、人聞きが悪い、()の英雄は年下が好みなのか?とかそんなソフトな表現がこの場では求められる」とはティア。

 

 いつもは彼女ら自身がその外見の派手さからそれなりに目立つ彼蒼の薔薇一行だったが、今日に限って言えば、もっと更に目立つカップルが先行しているため、さほどの注目を集めて居ない。ゆえに尾行は容易であった。まぁ前を行く二人の周りには人が連なっておりチンドン屋の行列を囲む輪の外から眺めている、もはや尾行と呼べるような状態ではなかったのだが。

 

「しかしおせっかいな筋肉はともかく、なぜ貴女までいるボス? もう帰っていいのに」

「そ、それはやっぱりリーダーとして見届ける責任があると言うか……」

「素直になろうボス、しかし少し貴方も惨めになってないか?」

 

 うっ、と露天に二人でしゃがみ込む楽しそうな男女の姿を見ているわが身に何ともいえない気分になってくる年頃の乙女ラキュースであった。

 

 

 

一方パンドラ。

 

(さて、どうもこれは案内ではなく所謂デートと呼ばれるものなんでしょうな)

 

 チラリと傍らの自らの腕に半ば腕にぶらさがているような仮面の少女を見る。現在の状況を確認する――先ほど露天でイビルアイが物欲しそうに見ていた彼から見るとガラクタにしか見えないアクセサリーを買い与えたところ――注意対象は安い包装袋を抱えご満悦の様子だ。

 

(状況は安定。だが、どうも先刻から案内される内容も施設も脈絡がありません、この娘は本当にモモン様にご執心と見て間違い無いようですね…)

 

 最初こそは冒険者組合を覗いて見たりしてたのだが、周りを見ると今はこれはもう完全にデートコースである。流石にアインズよりは常識的な対女性観察眼を持つパンドラではあったが同時に注意を払えとアインズに指令されていた人物のこの行動。

 いささか当惑もしていた、役者アクターである彼の目からして彼女の好意は演技に見えない。この人物に注意を払えはどういう事なのか。ではこの状況をどう判断し、自らはどう動けば主の意思にそえるのだろうか?

 

 群集の後ろの蒼の薔薇のメンバーの様子を伺う。彼の鋭敏な知覚は宿を出た所から、とっくにラキュース達の行動を捉えていた。

 本気では無いにせよ忍者も含むアダマンタイト級冒険者の彼女らの尾行は隠密行動の得意なパンドラにとっては筒抜けであったのだ。

 さて自分の現状と彼女らの行動をどう考えれば整合性がつくのか? 目下のところそれがパンドラの頭脳の大部分を占めている事だった。

 当初は説明されるがままに、イビルアイの説明を冒険者モモンとして真面目に聞いているフリのパンドラであったが、時間をかけ状況整理し終えた彼の優秀な頭脳はついにアインズの指令の意味する真実にたどり着いた。

 

(……なる……ほど、そういう事ですか! 蒼の薔薇の皆さんの行動といい、憚りながら腹心である私が派遣されたワケが解りました今回の指令の狙いが読めてきましたよ……)

 

 つまり、アレ(・・)である

 

(イビルアイに注意を払えとは即ち意味するところは隠語(オシノビ)、まさかっ!我が神の懸念されていた事が現地妻のケアが狙いであったとは……なるほど、この少女に心の癒しをお求めであったか)

 

 そっとヘルムの縁に指を当て考える。イビルアイが何か言っているのに適当に相槌を打つ。そして心の内で首を振る。パンドラの脳裏に守護者総括殿と第一から第三までを兼ねる女性守護者達が浮かぶからだ。彼女らは絶世の美女であり美少女である。熱心にアインズの愛を得るべく行動していたが、そのどちらがナザリックの支配者たるアインズの横に並んでも見劣りしない方々ではあったが、男性の人格を持つパンドラから見てもいささか度を越してるのが両者共に玉にキズだった。

 

 (いかな至高の御方と言えど心にはご負担、それも無理もあるまい)

 デミウルゴスなどはアインズ様が女性に興味を示さないのは、あるいはナザリックの将来の為にならないのではないかと言っていたが、どうやらそれは杞憂であったようである。

 

 (デミウルゴスの掌握した八本指から得た裏情報と対戦したユリ達戦闘メイドの証言から推測するに、蒼の薔薇のイビルアイの正体はほぼ確実にアンデッド。レベル的に考えて国堕としと呼ばれた吸血鬼、との事でしたがなるほど同じアンデッドのアインズ様の好みに符合しますね、そこに共感があるのでしょうか?)

 この際さりげなく同じアンデッドの吸血鬼であるシャルティアの事は思考からスルーしている。

 

 (……そう考えるとアインズ様のこの度のお手回し真にお見事、派遣されたのも僭越ながら半身とも呼べる小生であるのも納得できる。 そして蒼の薔薇はフォローの為の現地組要員と見ていいでしょう……或いは、まさや彼女らすらすでにアインズ様のお手つ……おっとそこまで考えるのはシモベとして不敬ですね……)

 

 十分に満足のいく結論だ。最初から吟味したが今のところ論理のどこにも穴は無い。そしてこの事はそう墓場の底まで秘せねばならぬ。

 特にアルベド様には、時折見せる守護者統括どのの燐光を放つような金の瞳が思い起こされ、恐怖耐性があるにもかかわらずパンドラは身震いした。いざとなったらこの身を盾にしてでも修羅場は防がねばならないだろう。

 

 他方パンドラにとって偉大な創造者たるアインズがどこでどう何人女を得ようと彼のその忠誠は微塵も揺らぐ事は無い。彼自身には性欲と呼べるものは無かったが、例えイビルアイを始末しようと、愛されようと、そこは問題ではない。結論のみ、我が神アインズが満足されると言う結果のみ重要なのである、例えそれが最悪アルベド達を始め同じ至高の御方に仕える同志を裏切るような行為であったとしてもだ。

 

 (英雄色を好むとは正にこの事か……そうかアインズ様のおっしゃられた『普通の英雄』とはこの事も含めていたのか)

 

 アインズは一つの言葉に無数の意味を込めて話すと言うのはナザリックにおいては最早常識のレベルだ。だがデミウルゴスや自分であってもその意図の全てを読み取るのは容易な事ではない、かと言って一々尋ねていては無能の謗りは免れない。主人の意図したところに思考の果てようやく到達したと言う安堵に内心ホッと胸を撫で下ろすパンドラであった。

 

 (危うく、何の成果も挙げぬまま、話を聞いただけで帰還して落胆したアインズ様に無能の評価受けるところでしたか……おっといかん! 正確に任務を遂行する事を心せねば……この度の私の役目はつまり熟して堕ちる寸前の果実のようにこの娘の心を掴む事、勢い余って主の情婦にお触りなどあってはならぬ事、勢い余って宿屋に直行などと言う成り行きになれば目も当てられぬ)

 ふいに過ぎさりし輝ける時代、漏れ聞いた至高の御方の会話が天啓のようにパンドラの脳裏に閃いた、かつてユグドラシルのゲーム時代アインズがふと漏らした言葉それは。

 

『YESロリ、NOタッチとかペロロンチーノさんが馬鹿な事言ってましたねぇ(溜息)』

 (おお主よ我今まさに天啓を得たり!)

 目の前の霧が鮮やかに晴れるようになすべき道が示された、ような気さえした。

 

「……見たまえイビルアイ!あちらの方が開けていて景色も良いようだが、少し足を伸ばしてみないかね?」

「は、はいモモン様の行きたい所ならどこへでも!」

 

 何事があったのか急ににテンションの上がった二人の行動が更に脈絡が無くなり、ストップアンドゴーの二人を後を尾けるラキュースらは大いに慌てるのであった。

 

 

 

 更に2時間が経過し、尾行していたラキュース達にも疲れと呆れが広がり始めていた。

 見るとイビルアイはどうやら最近この界隈で人気の冷やし菓子アイスの行列に二人分を買うべく行ってしまったらしい、ようやくの一息つけそうだ、皆顔を見合わせた。ガガーランの「帰るかもう」の声に皆が頷きかけた時、ふいに変化が訪れた。

 

 イビルアイに言い含められてどうやら大人しくベンチに座っていたモモンがやおら立ち止上がり、額に指先をかざしている。

 <伝言>(メッセージ)だろうか? それは普通は冒険者組合や大きな組織で交わすものであり、無いとは言わないが個人ではかなり珍しい。

 などとラキュースが思っていると、ふいに通信を終えたモモンがこちらを見た、ギクリとするラキュースらに大股に歩き寄りとあっと言う間に青の薔薇の面々の目の前に来たていた。忍者でる姉妹まで青ざめる隠れるタイミングを失うほどの異常な接近スピード。ガガーランなども「ゲッ」とそのまま彫像のように動きを止めた。

 

「あ、ああ、あのモモン様、これはその……」

わたわたと手を挙げかける。

「すまん、申し訳ないがラキュースどの、エ・ランテルで急ぎの用件が入ったようだ」

「え?」

 

 遠見にイビルアイの並んだアイスの行列を眺める「彼女がちょうど席を外している時に心苦しいがどうかよろしく、すまぬが頼む」そう言うと右手を差し出すモモン、一呼吸置いて別れの挨拶か、と慌てて応じるラキュース、ごついガントレット同士で握手をする。

 

「貴女方のこのたびの協力にも深く感謝している、この借りはいずれまた」

と言うモモンのワケの解らぬ言葉に「は、はあ」と間の抜けた言葉しか出ない、とりあえず尾行はとっくにバレていたようだ。赤面すると共になんて人だと内心舌を巻いた。

 

 道端で王国の頂点のアダマンタイト級冒険者パーティのトップ二人が握手する姿は漆黒に金と紫の豪華な溝付鎧フリューテッドアーマーを着たモモンと純白のユニコーンが刻まれた魔法鎧マジックアーマーと言う煌びやかな組み合わせで、あたかも一枚絵のようですらあり嫌でも目立った。道ゆく人は思わずその光景に足を止め、たまたま通りすがった、こらから組合に行くのだろうか、低いランクの冒険者数グループも貴重な場面に遭遇したと憧れの視線を送っていた。

 

「では失礼」

 

 来た時と同じように唐突なオーバーアクションで一礼すると、漆黒の巨体は赤いマントを翻しやや慌しく石畳を去って行った。

 

 

 しばらくすると両手に冷やし菓子アイスの容器を持ったイビルアイが帰ってきた。キョロキョロとモモンを探す目が彼女ら蒼の薔薇を捉え、ラキュースらに事情を説明されるとガックリと肩を落とした。そうして黙って聞いていた彼女はやがてため息をつき状況を了解した。

 

「……そうか、もう行ってしまわれたか」

「ご、ごめんなさい何か事件か、急用みたいで……私がもう少しだけでも待ってもらえれば」

「ま、まぁ次があるってチビ……」

 また邪見にされたのかと思いイビルアイが落ち込んでると見たガガーランが声をかけかけるのを、「いや」と首を振った

「いいさ、また会えるからな……」

 

 その首には今日露天で買ってもらったオモチャのようなネックレスがあった。イビルアイは指先でそれ弄りながら日が傾きかけた王都から彼方のエ・ランテルの方を見やった。ガガーランが見るにその顔はどこか誇らしげだった。「まぁ勝利はもう約束されてるのだからな」などと偉そうな事を言う。そして皆の方に向き直り髪を払った。

ひゅうとガガーランが口笛を鳴らす

「あら余裕なのね?」とラキュース

「まぁな、さて……あとは何でお前らがここに居るのか、その辺の詳しい説明をじっくり聞こうじゃないか?」

 腕を組んだイビルアイは「うっ」と言う一同を見やると胸を逸らし以前の彼女の様に不敵に笑った。

「そ……そこに気がつくとはやはり天才か……」

珍しく気圧されたような双子が顔を合わせると、イビルアイの愉快そうな笑いが王都の石畳に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―ナザリック地下第九階層

 

 

「以上をもちまして報告を終わらせて頂きます」

アインズの私室にてパンドラが膝をついていた。

 

「いや、すまなかったなパンドラ。急に呼び戻してしまい、こちらで至急エクスチェンジボックスで確かめてもらいたい品があってな…時間もそろそろ気になって……それで、会合の方の首尾はどうだったのだ?」

 アインズはすこぶる上機嫌であった、パンドラを派遣したお陰で予定していた自分の業務が進み、今日一日はずいぶん余裕が出来た気がしていたのだ。

「アインズ様がお詫びになるなど」

 と平伏して報告するパンドラに「ははは、よいよい」とロール通りと言うか殿様のように事の顛末の説明に鷹揚に頷く。

 

「ほう……なるほどなるほど、あやつら蒼の薔薇との会合、協力体制は上手く築けたと見ていいんだな」

「はっ、恙なく、まさにアインズ様の思し召す計画のままかと」

「計画?……ふむふむ、そうかそうか。(何の事か解からんが)なるほど、では問題無く良好な関係が結べたようだな」

「正に良好な関係かと。特に蒼の薔薇とはリーダーであるラキュースなどとは意思連携が取れ、問題(現地の女性関係も)今後も上手く事が運べるのではないかと愚考致します……」

 

 パンドラが見るところでは、ラキュースらの協力もあり、もう彼女イビルアイは小指で押しても倒れる朽木も同然である。

 アインズもまた飲み会のコミュが取れたぐらいで大げさな奴だなとは思ったが『ほうれんそうも』も満足に出来ない部下に常日頃から頭を痛めていた折の事でもあり、パンドラがここまで言わずとも状況を整えてくれるとは嬉しい誤算だった。

 部下に任せてチーム漆黒としても友好的なネットワークが広がるのならばそれは労力のカットと言う点から見ても大変喜ばしい事である。想像以上に優秀だった自らのNPCにご満悦だった。

 

「……見事だパンドラよ、私から言うべき事はもはや無い、この度の働きご苦労であった」

「おおっ! もったい無きお言葉、このパンドラ幸せの極にございます」

 パンドラは創造主からの慰労の言葉に両手を差し上げ感激でその体を震わせた。

 

(うむうむ、そのポーズは今後の課題だが、どうなるのか少しばかり心配だったけど、やはりパンドラはなかなか優秀じゃないか! ……過去が過去だけに宝物殿の奥底に仕舞いこんではいたが、いやまったく案ずるより生むが安しとはホントにこの事だな、今度はもっと別の場所にも派遣してみるか……)

 

 そう言えばとふと思い出しアインズは尋ねた。

「……時にパンドラよアレの件はどうなった?あの(怪しい)魔法詠唱者(マジックキャスター)、イビルアイの件だ」

「ご安心をアインズ様、情報は全て私が掌握しております(墓まで持って行きます)、当然この身は例の者(現地妻)との過度な接触(おさわり)は極力慎みました、未だごく常識的(けんぜん)な範囲での距離(おつきあい)を保っているかと…」

「ほほう、流石だな」

 

(完璧じゃないか)

 もう一度ニヤリと頷くとナザリックの絶対支配者オーバーロードは内心で力強く「よっしゃ」とガッツポーズを決めたのであった。

 

 

 

―王都・数日後

 

 

 

「……そういえば、ラキュース、貴女、漆黒の英雄殿に婚約を申し込まれたんですってね?」

 

 バブゥ!と言う感じで口にしていた紅茶を噴出したラキュース(19歳)は、げほげほと咳き込み、とんでも無い事を言い放った親友、ラナーに向き直った。

「おおー」などと脇で言っている不埒忍者の事はとりあえず無視である。

 

「なな、何でそうなるのよ!? そんな事あるわけ無いでしょ、どこでどうなったらそうなるわけ!?」

 パニックである、面白そうに眺めたラナーは表情を変えずに一口紅茶を傾けると静かに続けた。

 

「…王宮ではもっぱらの噂よ? いえ正確には王都でかしら? 何でも…宿屋を埋め尽くすような花束を抱えたモモン様が貴女を尋ねてきて情熱的にプロポーズしたって……」

「はぁああ!? 何よそれ?」

 

どこでそうなった?

 「それはイビルアイだ、いや違う、いや違わないけど」と慌てふためき、そしてラキュースはあっけらかんとした表情のラナーを見る。相変わらずの世の中の全てに興味があるような無いような掴みどころのない微笑を浮かべている。

呻くラキュース、ふいに傍らのティナが、「あ」と声を上げた。

 

「……うっかり忘れてた、冒険者組合からメッセージの写し、ほいボス宛て」

 

 ティナはごそごそと懐を探ると一巻きの安そうな羊皮紙をテーブルの上に取り出した、嫌な予感MAXのラキュースが躊躇いの後にそれをひったくり、手早く蝋を切って文面に目を走らせ天を仰いだ。

 

 要約すると内容はこうであった、『でかした、うちでも半ば諦めかけていたお前にしてはまずまず上等な相手だ、婚礼の前に爵位の話もあるから、早急に帰ってこい』とのこと。

 ラキュースの頭の中に状況がリレー方式で表示されていく、漆黒の英雄、街の噂、花束、王都の噂、実家に伝わる、今ココ。

 

「ラナー……私ちょっと急用思い出した、少し実家に帰って来るからよろしく……」

「そう、叔父様と叔母様によろしくね」

「行ってらっしゃいボス」小さく手を振り紅茶をすするティア。

 

ハァ、と息を吐くと、勢いをつけて椅子から立ち上がりラキュースは「じゃあね」とやや足音高く退出して行った。それを見届けると従者もそれに従った。

「私も失礼致します、復活したうちのチビ……イビルアイが最近妙にやる気になってますので」

「そう」と頷くラナーにそう言うとティナは立ち上がりぺこりとラナーに一礼すると出て行った。

 

 残された黄金の姫はゆっくりと紅茶を最後まで飲み干すと優雅に立ち上がり、後ろの戸棚から一巻きのスクロールを取り出した。

「本当に不思議なお方ですねモモン様は……」

 

 ラナーは微笑した、人の縁など、どこで繋がるのか解からないものですねと。

 

 

 

 




「次はパンドラの設定(捏造)を説明しながら小話などでありんすえ」

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