ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~   作:杉田モアイ

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85 見抜く眼

 ラウンジでお茶を楽しむ事1時間。

 二杯目のお茶を飲み干して「これ以上飲んだらお腹がたぷたぷになってしまうわ」なんて考えていた所に、待ち人が宿の扉を潜ってやってきた。

 

 「アルフィン様、大変お待たせしたようで申し訳ありません」

 

 「いいのよ、ギャリソン。これからの事を考えたら必要な時間でしたのでしょう? 気にする事は無いわ」

 

 頭を下げるギャリソンに私は鷹揚に答える。

 普段ならこんな感じでは話さないんだけど、ここは人目があるからね。

 

 これからの事を考えると、周りの目がある場所では私は支配者然とした態度でいなければいけないと思うのよ。

 何せ都市国家とは言え、一国の主としてこの世界の国の人たちと対峙する事になるのだろうから。

 

 「早速報告を聞きたいところだけど、ここでする話では無いわね。まるんの部屋へ行きましょう。それとサチコ、私たちが滞在する部屋を用意してもらえるよう、この宿の者に申し付けてきなさい」

 

 「「畏まりました、アルフィン様」」

 

 恭しく頭を下げる執事とメイドに私はにっこりと微笑みながら頷き、ソファーから腰を上げた。

 そして私は、なるべく周りから優雅に見えるよう頭のてっぺんからつま先まで気を配りながらラウンジを後にした。

 

 

 

 「さぁギャリソン、報告を聞かせて頂戴」

 

 まるんたちが泊まっている部屋に入って緊張を解いた私は、いつもの口調に戻ってギャリソンにたずねる。

 今回ギャリソンが持ち帰った情報がどの程度の物かは解らないけど、何も無い状態でこの国のトップにかかわる人と会うわけにはいかないもの。

 例え少ない情報だったとしてもちゃんと精査して対策を考えるのが対人関係をうまく構築する基本だものね。

 

 「はい、アルフィン様。それでは冒険者ギルドから得た情報を御伝えします」

 

 こうしてギャリソンの報告を受けて解った事を羅列すると、

 

 皇帝の妾には基本上下はなく全員が愛妾と呼ばれていて、子供をなした者もなしていない者も同じ立場である。、

 ただロクシーと言う人は例外で、愛妾とリュハネンさんから聞かされていたけど実際は皇帝の内縁の妻である。

 皇帝に唯一政治について意見を許されている愛妾である。

 皇帝の子供は全員が彼女によって育てられている。

 

 そして相対した者の一部の話から、人の力量を見抜く”眼”を持っているのではないかと言われている。

 

 「う~ん、予想以上に厄介な人みたいね」

 

 愛妾と言うのが妾全員に使われていると言うのはちょっと驚いたけど、内縁の妻状態なのはこの人一人みたいだからそちらについての考え方はこの報告以前と考え方を変える必要は無いと思う。

 それより問題なのはその”眼”の方よね。

 

 「相手の力量を見抜く"眼"ねぇ。それって比喩なのかしら? それともカロッサさんのタレントのように生まれ持った異能? その辺りは冒険者ギルドではどう考えられているの?」

 

 「はい。これに関しては直接ロクシー様にお会いした方の中に、その眼に見つめられると心の底まで見透かされているような、全てを見られているような気がすると主張する者が複数いる事と皇帝から唯一政治について口を出すのを許可されている事から、何かのタレント持ちなのではないかと考えている者が多いようです。ただ、タレントで相手の能力を見る事ができる眼を持つ者はたまに居るそうですが、その者たちのタレントが相手に気付かれる可能性があるのは魔法などで正体を隠している事を見破るタレントくらいで、ただ何かしらの力を見るタイプのタレントを持つ者がその目を向けた事によってそのタレントを相手に気付かれたと言う事例は他に無いそうです。ですからあれはタレントではないと主張する者もいるようです。またそれとは別に、そもそもそう主張する者が立場の違いから感じている気のせいで、ロクシー様は相手の力量を見抜く力など持っていないと考えている者も一定数いるようです」

 

 そっかぁ。

 そう言えばカロッサさんが私の神聖魔法の力を見抜いた時も、私は何も感じなかったもんなぁ。

 と言う事はタレントじゃない? でも、もしタレントでその力が強すぎて鋭敏な人に悟られているのだとしたら?

 

 「うん、これは対処した方がよさそうね」

 

 そう決めた私はその場で<メッセージ/伝言>の魔法を発動する。

 

 「アルフィス、聞こえる?」

 

 「ん? ああ、マスターか。どうしたんだ、俺に何かようか? って、俺にメッセージを飛ばす用件なんてマジックアイテムの用意くらいしかないな」

 

 打てば響くってこういう事を言うんだろうね。

 そうその通り、アルフィスに私が求めているのは探知阻害系のアクセサリーの用意だったりする。

 

 「ご明察。今度会うこの国の皇帝の愛妾さんが、もしかしたらこちらの能力を見抜くタレントを持っているかもしれないのよ。だからこれから言う効果を持つマジックアイテムを男性一人分と女性3人分用意して、準備が出来たら誰かにメッセージで連絡を頂戴。ゲートを開いて取りにいくから」

 

 「解った。メモを取るからちょっと待ってくれ。それとゲートはこちらで開く事が出来る奴に頼むからマスターがわざわざ戻ってくる必要は無いよ」

 

 「そう? ありがとね」

 

 そう言うとアルフィスの声が途切れ、なにやらごそごそとやっている様子が伝わってくる。

 さてはまた自分の作業室に篭ってたな。

 ホント引きこもり体質なんだから。

 

 まぁ私もリアルではデザインの仕事にかかると、ずっと一人で部屋に篭ってやっていたから、私の分身であるアルフィスが同じ事をやっていても何の不思議も無いのだけれどね。

 

 「きっと机の上もメモとか試作品でいっぱいなんだろうなぁ」

 

 簡単なメモを取る羊皮紙を探すだけの事に少し手間取っているアルフィスに、私は自分のオフィスの机の様子を幻視して苦笑いする。

 とそんな時、ようやくメモ用紙を見つけたアルフィスがこちらに声をかけてきた。

 

 「いいぞマスター、何がいるんだ?」

 

 「もう大丈夫なのね? それじゃあ言うわよ。<フォールスデータ・ライフ/虚偽情報・生命><フォールスデータ・マジック/虚偽情報・魔力><フォールスデータ・ステータス/虚偽情報・能力値>。この三つは虚偽情報の数値を調整して40レベル程度に抑えられる物を男性1、女性2で、30レベル程度に抑えられるものを女性1でお願い。これらは、なるべく目立たない指輪がいいわね」

 

 今回は私とシャイナ、そして執事としてギャリソンとメイドとしてヨウコを同行させようと思っているのよ。

 この場合、流石に護衛を兼ねているであろう3人が女王である私より強くないと能力を見破られた時に怪しまれるだろうから、私だけ30レベルでほかは40レベルと言う事にした。

 この世界の住人の力からするとちょっと強すぎる気がしないでも無いけど、もう私は回復魔法でやらかしちゃってるし、シャイナもカロッサさんの所で鉄の塊を真っ二つにすると言うのを周りに見られているから、これくらいなければ逆におかしいと思われるかもしれないからね。

 

 「おう、解った。他には?」

 

 「<フォールスデータ・ホーリーマジック/虚偽情報・神聖魔法>。これは私用にペンダント型でお願いね。これだけは既存の物ではなく、宝石多めで台座にはオリハルコンを使って作って頂戴。仮にも都市国家の支配者が付ける物だからあんまり安っぽすぎてもおかしいからね。レベルは30レベル程度で」

 

 指輪は冒険に支障をきたさない、装飾が何もついていない前衛用の物なら上から手袋をすれば見えなくなるけど、ペンダントはそうは行かないものね。

 まぁこれも指輪でいいと言えばいいのだけれど、立場的に何の指輪もしていないというのはおかしいから、これとは別に私はフェイクでセルニアが持ってきたピンクダイヤのついた普通の指輪を手袋の上からしていこうと思っているの。

 どうせ相手も着飾ってくるだろうから、こちらもなるべく豪華に行こうという訳だ。

 

 「デザインは前にマスターがつくった外装データーの中から適当に選んで作ればいいな? で、これだけでいいのか?」

 

 「そうねぇ」

 

 今回の会見で毒を盛られたりする心配は無いと思う。

 でも一応"たしなみとして"ギャリソンに毒感知のアイテムを持たせたほうがいいわよね。

 

 「ギャリソンに持たせる、毒が入っているかどうかが解るモノクルを一つ。ちゃんと調べてますよって言う仕草はしないとね」

 

 「そうだな。解った。それじゃあ出来次第メルヴァにでも連絡させるよ」

 

 「うん、お願いね」

 

 こうしてアルフィスとの連絡は終了。

 私は横でじっと待っていたまるんたちの方へと向き直ってこれからの行動方針を伝える事にする。

 

 「さて、アルフィスに必要な物の準備を頼んだから、あちらは問題なし。と言う事で私たちも出かけるわよ。ギャリソン、馬車の用意をして」

 

 「あるさん、出かけるってどこへ?」

 

 目的地を言わずに馬車の用意をさせたのに驚いたまるんが私に聞いてきたけど、そんなの決まってるじゃない。

 

 「リュハネンさんのところよ、当たり前でしょ。彼以上に今の状況が解っている人がいないのだから。と言う訳で、ユミちゃんは先触れとしてリュヘネンさんのところへ行って頂戴。場所は”当然”解っているんでしょ」

 

 「はい、私もギャリソンさんも把握してます。どれくらいでご訪問されますか?」

 

 「そうね、あなたがリュハネンさんの所に到着してから10分ほどで到着するようにギャリソンに言っておくわ」

 

 「畏まりました。それでは行って参ります」

 

 ユミちゃんはそう言うと一礼して部屋を出て行った。

 さて次はっと。

 

 「えっと、私に同行するのまるんとカルロッテさんの2人ね。シャイナは行っても意味がなさそうだし」

 

 「えぇ~! 私も行くのぉ?」

 

 なぜか自分は留守番組だと思っていたまるんが驚きの表情で聞き返してきた。

 あきれた、あなたが行くのは当然の事じゃないの。

 

 「当たり前じゃない。当日はともかく、この状況下ではロクシーさんと言う方と御会いするのはあなたと言う事になっているのだから、正式に私と変わったと伝えなくてはいけないでしょ。」

 

 「そうか、それもそうだね」

 

 「あと、メイドはユミちゃんがいるからヨウコとサチコ、あとセルニアはここで待機していて頂戴。あまり大勢でいくとあちらも困ってしまうでしょうし、アルフィスからアクセサリーを受け取る人が誰もいないというのも困るからね」

 

 「「「畏まりました」」」

 

 この後私たち外出組みは衣装と化粧を整え、どうやってかギャリソンが把握していると言うユミちゃんがリュハネンさんの所へ先触れとして到着した10分後に馬車がつくよう、宿を出発した。

 

 

 

 「えっ!? フライとかゲートの事、話しちゃったの?」

 

 「てへっ」

 

 てへっ、じゃありません! 可愛いけど。

 

 流石に黙っているのは問題があると思ったのか、行きの馬車の中でまるんは先日リュハネンさんと会った時に話してしまったことを私に伝えてきた。

 

 「違うんです、アルフィン様。まるん様がお話になられたのではありません。リュハネン様がアルフィン様やイングウェンザー城周辺の状況を見て気が付かれていたようで、それをつい口を滑らせたのです。その言葉にまるん様は動揺なされて」

 

 「なるほど、つい肯定的な事を口走ったわけね」

 

 双方迂闊者だったというわけだ。

 しかしなぁ、フライはともかくゲートはかなり問題がある気がする。

 だって、やろうと思えば好きなところに軍を送り込めるんだよ。

 そんな物騒な魔法を使えるなんて他国の人に教えたらダメじゃない。

 

 「大丈夫だよ、カロッサさんにも内緒にするって約束したし」

 

 「呪いでギアスをかけるならともかく、口約束ではなぁ。でもまぁ、知られてしまった後で騒いでも仕方ないか。なるようにしかならないし」

 

 私たちが彼らにとって利用価値が高く、また敵に回った時にどれだけ脅威になるかよ~く解っている人たちだから、他の人に話が広まる事は無いであろうと信じる事にしよう。

 まぁ、私も念を押しておくけどね。

 

 

 

 そうこう言っている間にリュハネンさんが滞在しているという”イーノックカウを治める領主の館"に到着。

 おいおい、聞いて無いよ! って馬鹿か私、そんなの当たり前じゃん。

 立場からして高級宿に泊まっていないのならそれ相応の身分の人の館に滞在してるなんてのは。

 

 幸い領主様はご不在で、リュハネンさんだけと会う事になった。

 よかった、もしいたらまた大事になる所だったよ。

 それによく考えたら、リュハネンさんより立場は私のほうが上なんだから呼びつければよかったんだよね。

 そんな事に気が付かないなんて、冷静なつもりだったけど案外私もテンパッていたのかもしれないわ。

 

 「こんにちは、リュハネンさん」

 

 「これはこれはアルフィン姫様。遠い所、足を運んでいただき恐縮です」

 

 こんな感じで始まったリュハネンさんとの会話。

 当日ロクシーさんに逢うのが私に代わったとか、先日まるんが口を滑らせた話とか、もろもろの話を一通り済ませた後、

 

 「リュハネンさん、一つお聞きしたい事があるのですが?」

 

 こう私は切り出した。

 

 「はい、なんでしょうか? 私にお答えできる事ならば良いのですが」

 

 ロクシーさんにお会いする前に一応色々と聞いておかなければいけない事があるのよね。

 

 「単刀直入に聞きますけど、ロクシー様というのはどれくらいの地位の方なんでしょう?」

 

 「地位ですか? そうですね、対外的には独身である皇帝陛下の愛妾となっていますが、あの方だけは別格で実質奥様の位置にいる方です」

 

 その後色々と質問した感じだと、どうやら冒険者ギルドで集めてきた情報と齟齬は無いみたいね。

 ならある意味一番聞いておかなければいけないであろう内容を。

 

 「ところで、ロクシー様はご自身と私、どちらの格が上だとお考えなのでしょうか? それによって色々とこちらの対応を考えなければいけないので」

 

 これが同じ国の者ならば問題は無いのよね、だって、爵位を見れば上下が解るのだから。

 でも私は他国のトップ、女王様的立場だからこれに当てはまらない。

 

 では単純にそれぞれの立場で見ればいいと言う話になるんだけどこの位置関係がちょっと微妙なのよね。

 これがただの愛妾なら問題なく私のほうが上なんだけど、実質皇帝の奥さんとなるとそうは行かない。

 私は所詮都市国家の女王であり相手は非公式とは言え皇帝の奥さんなのだからよくて同格、国の大きさから考えるとあちらの方が上だと考えられている可能性もあるんだ。

 

 「貴族同士なら普通、目上の人から話しかけられない限り話しかけてはいけないというルールがあります。今回は会見と言う形をとるのでホストであるロクシー様からご挨拶されるとは思うのですがこの会見が最後で二度と御会いする事が無いなんて事は無いと思いますから、その時にこちらの立ち位置をはっきりさせておかなければ、この国と私たち都市国家イングウェンザーの間に諍いが起こるやも知れません。そうなっては困るでしょう?」

 

 「確かにそうです! いけない、私としたことが失念していました」

 

 これがロクシーさんと会うのがまるんなら問題はなかったのよね、単純にこちらが下だと言う態度を取らせればよかったのだから。

 でも、私が出て行くとなるとそうはいかない。

 如何に相手が大国だとは言え、国のトップがそう簡単に相手より下だと認めるわけにはいかないのだから。

 

 「それで、リュハネンさんはどのようにお考えなのですか?」

 

 私の問い掛けにリュハネンさんは少し考えてから口を開く。

 

 「あくまで私の考えなのですが、ロクシー様は御自分の立場をあまり高く考えておられないと思います」

 

 「と言うと?」

 

 「直接御会いした印象では、あの方からは野心という物があまり感じられませんでした。どちらかと言うと裏方に回るというか、縁の下の力持ちに徹している事に価値観を感じる方なのではないかと私は考えます。ですから、自分はあくまで皇帝陛下の愛妾であり、それ以上の者では無いというスタンスを崩さないと私は考えます」

 

 なるほど、それならばこちらが都市国家とは言え一国の主だと名乗れば、こちらの方を上に置くとリュハネンさんは考えているわけか。

 

 うん、あちらの国内で広まっている建前上の立場は大体解ったわ。

 

 「解りました。では私は同格の者としてロクシー様とお会いする事にします」

 

 「えっ!? アルフィン姫様、相手は皇帝陛下の実質的な妻とは言え愛妾です。それで宜しいのですか?」

 

 宜しいも何も、元々此方の者と会いたいと考えた時に、自ら訪ねようとせず此方を呼び出そうとしている時点で自分の方が上だと思ってるに決まってるのに、それを下の者に気付かせない人なんでしょ? そんな人相手に自分の方が上でござい! なんて態度で出て行ったら物笑いの種になるだけじゃないの。

 

 「ええ、宜しくてよ。あっ、でもこちらの立場は会見前にきちんとお伝えして置いてくださいね。あちらはただの貴族を相手にしていると思って会ってみたら他国の女王だったなんて聞いたら驚かせてしまうもの」

 

 そう言って私はリュハネンさんに微笑みかける。

 私がそんな事を考えているなんて伝える必要は無いし、相手は人の中身を見抜く"眼"を持っている人なんでしょ? その事がリュハネンさんから伝わっても困るものね。

 

 「解りました。明日御会いするのは都市国家イングウェンザーの支配者、アルフィン姫様であるという事をきちんとお伝えします」

 

 リュハネンさんが力強く答えてくれたのを満足そうに頷きながら聞き、私は領主の館を後にした。

 

 さぁ、明日は決戦だ!

 




 今回で自キャラ別行動編は終わりです。
 なので次回は外伝を挟みます。

 一話空けて、いよいよロクシーとの会見です。
 バハルス帝国の中枢の者との邂逅でアルフィンたちはどうなるんでしょうね?
 まぁ、あまり大きく変わる気はまったくしませんがw

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