ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~   作:杉田モアイ

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84 悪夢再来?

 

 

 「あっ出てきたわ。う~ん、動いているものを追うのは意外と難しいわねぇ」

 

 「もっと広範囲を映すようにしたらいいんじゃない? ズーム倍率が高いから大変だけど、低くすれば画面の中に入ってさえいれば見失わないし」

 

 イングウェンザー城地下6階層のいつもの会議室。

 そこでは私が遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を操作してイーノックカウの東門から出てきた馬車をシャイナと二人で見ていた。

 

 「ああそうか。えっと、どうやるんだっけ・・・よし成功! うん、これは楽だね」

 

 「追跡ゲームじゃないんだからさ、馬車を見失わないようにするだけなら最初からこうすればよかったんだよ」

 

 いつもはギャリソンに操作してもらうためにあまり使い慣れていない遠隔視の鏡に苦労しながらも、何とか走る馬車を見失わなくてすむような倍率に合わせる事ができて一安心。

 そのまま5分ほどその光景を眺めていると馬車が減速をし始め、やがて停車した。

 

 「あっ止まったわ。ならあそこが合流地点と言う事ね」

 

 「みたいだね。じゃあアルフィン、手間をかけるけど、<ゲート/転移門>を開いてくれる?」

 

 目的地が決まったと言う事で早速向かおうとシャイナが私に<ゲート>の魔法を使う事を依頼してきたんだけど、ここでちょっとした横槍が入った。

 

 「あの、アルフィン様、シャイナ様。やはり私の同行許可は下りないのでしょうか?」

 

 「メルヴァ、それに関しては何度も話したでしょ」

 

 そう、メルヴァである。

 彼女はまるんからの救援要請を聞き、てっきり自分も同行するものだと思い込んでいたようなのよね。

 でも流石にそんな訳にはいかない。

 だってギャリソンが外に出ている今、このイングウェンザー城を管理運営できるものはメルヴァしかいないのだから。

 

 「あなたにはこの城を管理してもらわないと。考えても見なさい、私とギャリソンがいない状態で誰にこの城を任せると言うの? セルニアにそれが勤まると思う? 後、あやめとアルフィスが残ってはいるけどあの二人は組織を動かすと言う事に関してはまったくの素人なんだから、いざ何か問題が起こった時に不安が残るもの。あなたまでこの城を離れたら私は安心して動く事ができなくなるの。解るでしょ?」

 

 「はい・・・」

 

 ああこれは、頭では解っているけど感情的には納得できて無いって顔よね。

 まぁ解るわよ、だってメルヴァは前に私がエントの村へと行った時に「アルフィン様が御一人で外出なされてしまわれたら、もし何かがあった時に変わりに死ぬ事ができません!」なんて言い放った子なんだから。

 今回は緊急事態みたいだし、一人この城に残るのは心が潰れる位不安なんだろうと私も思う。

 でもね、

 

 「メルヴァ、何度も言うわよ。貴方がこの城を守ってくれないと私は不安で力を発揮できないの。それはシャイナだって同じだろうし、今窮地に立っているまるんだってきっとそうだと思うわ。あなたがこの城に残っているからこそ、私たちは安心して行動できる。だから解って頂戴。そして私の留守を、この城を頼むわよメルヴァ」

 

 「・・・はい、解りました。行ってらっしゃいませ、アルフィン様」

 

 メルヴァは泣き笑いの表情で、だけど私にしっかりと頭を下げた。

 無理やりにでも自分の中で気持ちの整理をつけたのであろう彼女に、私は微笑みかけ、

 

 「はい、行って来ます」

 

 そう一言外出の挨拶をして、シャイナの方へと向き直る。

 

 「それじゃあ行くわよ。ヨウコとサチコも準備はいい?」

 

 「私は何時でも大丈夫だよ」

 

 「「はい」」

 

 今回も私に同行するメイドはこの二人。

 ギャリソンから言われてるからね、なるべくつれて歩いて欲しいって。

 そうすることで対外的にもこの二人が私付きだと知らせるって意味もあるらしい。

 

 私に何か伝えたいけど私の姿が見えない時、変わりの誰に伝えればいいかが解っていると言うのは周りからしたらとても助かるんだって。

 そういう配慮をするのも支配者の役目なんだそうな。

 

 閑話休題

 

 遠隔視の鏡を再度見て目的地を確認。

 

 「<ゲート/転移門> それじゃあメルヴァ、行って来ます」

 

 「行ってらっしゃいませ。お早いお帰りをお待ちしております」

 

 私は軽く手を振りながらメルバに再度外出の挨拶をすると、そのままゲートをくぐった。

 

 

 

 「あれ? 御者はユミちゃんなんだ」

 

 「はいアルフィン様、ギャリソンさんは所用がありまして今、冒険者ギルドへと出かけております」

 

 冒険者ギルド? う~ん、やっぱりこの国に誰かが何か仕掛けてるのかな?

 

 ユミちゃんの言葉からそう私は考えた。

 だってまるんが直接手を出せる状況なら冒険者なんかに頼る必要は無い。

 でも、まるんに直接危害が及んでいるのならともかく、この国に対して、またはこの町に対して何かがあったというのならまるんが自分の判断で手を出すわけにはいかないもの。

 

 アルフィンやシャイナのように大人が力を行使するのならともかく、子供が大きな力を振るうのはやはり不自然だから悪目立ちするし、そうなれば我々誓いの金槌に災いを持ち込む事にもなりかねない。

 そうまるんは判断して私に助けを求めたのかもしれないわね。

 

 ん? だとしたらなぜシャイナまで?

 

 「冒険者かぁ、と言う事は私を呼んだのは威嚇行動を取らせる為かな?」

 

 「威嚇行動? ああ、なるほど」

 

 敵勢力がユグドラシルプレイヤーじゃ無く、この世界の勢力だけならわざわざシャイナが出るまでの事は無い。

 ギャリソンやユミちゃんだけでどうにかできるからね。

 

 でも、そのバックにプレイヤーがついているとしたら?

 その場合にはこちらにもそれ相応の組織が、戦力がついているというのを知らしめるべきだろう。

 

 自分たちが一方的に蹂躙できる相手だと思って行動を起していたとする。

 でも実は相応の力を持った者が相手勢力の後ろにもいると知れば慎重になると言うものだ。

 強大な力は破滅を呼び寄せる事もあるけど、同時に抑止力にもなるものね。

 

 シャイナは攻撃特化キャラだから、戦闘の事となると私よりも頭が回るようになる。

 この考えは私には思いつかなかったけど、同じく戦闘特化キャラのまるんは同じ事を思いついたのかもね。

 

 そんな事を考えながらシャイナと話していたんだけど、私の後ろに控えていたサチコからのこんな言葉でその話は中断してしまう。

 

 「その表情・・・ユミ、あなた、何か隠し事をているのではなくて?」

 

 「あっ、いえ、その、サチコ様・・・」

 

 「はっきり仰い!」

 

 わぁ、サチコがユミちゃんを叱ってるよ。

 この二人は同じ紅薔薇隊で立場はサチコの方がユミちゃんより上だし、フレイバーテキストでもサチコがユミちゃんを直接指導しているという事になっているから、私たちが見ていないところでもこんな風な会話がなされているんだろうなぁ。

 

 ん? あれ? なんか今、聞き逃してはいけない単語が混ざっていたような。

 

 「ちょっとサチコ、どうかしたの? それにユミちゃん、隠し事って?」

 

 「あっ、はい。えっと・・・」

 

 私が小首をかしげながら聞くと、ユミちゃんは急に挙動不審になった。

 ははぁ~ん、さてはこれ、

 

 「うん、解った。ユミちゃん、あなたは何も悪くない」

 

 「えっ? アルフィン様、ユミが悪く無いというのはどういう意味でしょうか?」

 

 私の言葉に今度はサチコが慌てだす。

 それはそうだよね、さっきまで叱っていた相手の事を仕えている私が悪くないと言ってしまったのだから。

 だからこちらもちゃんとフォローっと。

 

 「ああ、隠し事をしているのは事実みたいよ。ユミちゃんはホントすぐに顔に出るからね。私にも解っちゃう位簡単に隠し事がばれる。でもねぇ、私にその隠し事が何かを聞かれて即答しないような子でも無いのよ。なのに言いよどんだと言う事は」

 

 「なるほど! まるんの言いつけなのか。それじゃあ、ユミちゃんを叱るのは可哀想だね」

 

 そう、多分シャイナが言っている事が正解。

 まるんが口止めをしているのなら、私が聞いてもそうそう答えるわけにも行かないものね。

 

 「と言う訳だからサチコ、ユミちゃんを許してあげてね」

 

 「アルフィン様がそう仰るのなら」

 

 よし、これで仲直りっと。

 さて、そうなると今までの想定は全て白紙に戻さないといけないわね。

 

 「うふふ、全てまるんちゃんが企んだ事なら、壮大ないたずらという可能性もあるわね」

 

 「そうだね。頭のいいまるんの事だから、アルフィンや私の用事がこれくらいの時期には終わってる事があの子には解っているだろうし」

 

 「あっ、いえ、いたずらと言う訳では」

 

 あら。

 ユミちゃんがそう言うのならいたずらでは無いみたいね。

 ならなんなのだろう?

 

 「まぁ、ここで立ち話をしていても仕方が無いか。ユミちゃん、まるんのところまでの案内、よろしくね」

 

 「はい、畏まりました」

 

 こうして私たちは馬車に乗ってイーノックカウにある、まるんたちが宿泊しているという高級宿へと向かった。

 

 

 

 「あるさん、シャイナ、ようこそイーノックカウへ」

 

 「まるん、一体何があったの? いつものいたずらかと思ったけど、ユミちゃんの話からするとどうやら違うみたいだし」

 

 「アルフィンだけじゃなく私まで同行して欲しいって、どういう事なの? この平和そのものに見える町並みからすると、どう考えても私の出番はなさそうに見えるんだけど?」

 

 私たちの質問に、うっ! と一瞬後ずさるまるん。

 あ~、これはあれだな。

 

 「あら、どうしたの? まるんちゃん。どこかの貴族との会食でも決まったような顔して」

 

 「(ビクッ!)」

 

 どうやって切り出そうかと考えていたのに、いきなり図星を突かれて驚いたって顔してるね。

 まぁ、カロッサさんを頼った時点でこの都市を治める貴族との会談や会食くらいはあるだろうなぁと思っていたし、もしそうなったらまるんは多分私に泣きついてくるだろうなぁとも思っていたから想定内ではあるんだけどね。

 

 「で、相手はどんな・・・」

 

 「あっ、アルフィン様。もう御着きになっていらしたんですね」

 

 へっ?

 

 私が会う相手はどこの誰かをまるんから聞き出そうとしていた所にいきなり声をかけられ、そしてその主を見て私は大層驚く事となった。

 だって、そこにいたのはイングウェンザー城にいるはずのセルニアと”洋服部屋”のメイドたちだったのだから。

 

 たらり。

 

 額に冷たい汗が落ちる。

 頭に浮かぶ、あのボウドアの水場小屋創造イベントの時の着せ替え人形状態。

 何時終わるとも知れぬ、あれがまたここで繰り返されるかもしれないという恐怖が私の身を竦ませる。

 

 前回は後の予定が決まっていたから3時間ちょっとで逃げられたけど、今回は?

 貴族との会談が今日ならいいけど、もし明日以降ならこれから何時間私は着せ替え人形状態にされるのだろうか?

 

 ぐらり。

 

 思考が悪い方へ悪い方へと進み、私はめまいを覚えて、その場に崩れ落ちてしまった。

 

 

 

 「そう、よかったわ。今回はもう衣装は決まっているのね」

 

 「はい、まるん様のご要望で予め選ばれた3着のドレスと各種アクセサリーの中からお好きなものをお選びいただくだけになっています」

 

 どうやら衣裳部屋のメイドたちはドレスを運び込むためだけに来ていたようで、すでにセルニアが開いた<ゲート>によって城に帰っている。

 本来ならセルニアもその時一緒に帰るはずだったらしいんだけど、折角来たのだし私も自分のコーディネートにそれ程自信が無いから、貴族と会談するであろうその時の衣装選びを手伝ってもらう為にここに残ってもらう事にしたの。

 

 「さて、それじゃまるんちゃん。私をここに呼んだ本当の理由を教えて頂戴。私が会う相手はどこの誰なの? やっぱりこの都市の領主さん?」

 

 「それがぁ・・・」

 

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

 

 えっ? えぇぇぇぇぇぇ!?

 

 「こっ皇帝の愛妾? 愛妾って、あの愛妾よね。筆頭お妾さん。確かこの国の皇帝は独身だと言う話だから、ほぼお后様的ポジションにいるお妃様じゃない。なぜそんな人と?」

 

 「それが・・・」

 

 まるんが申し訳なさそうにこれまでの経緯を語ってくれた。

 

 なるほど、元々は私のポカで渡したルビーが発端なのか。

 まぁ、その後のまるんが売った宝石や希少金属が最終的な引き金になったのは事実だけど、これは私にも責任がありそうな話だし、気が重いけどしょうがないか。

 

 それにねぇ。

 

 「今回のまるんの判断は正しいわ。そんな大物相手なら私が直接会わないといけないもの。それにシャイナは花として呼んだんでしょ。私は背が低くてどうしても華やかさにかけるし、女の戦いの場と言う事なら着飾ったシャイナのゴージャス感は立派な武器になるものね」

 

 「そっそうだよね! あ~よかったぁ」

 

 なんか心底ほっとした顔してるけど・・・もしかしてまるん、私が逃げるとでも思っていたのかしら?

 まぁ、そう思われても仕方ない所はあるけど、流石にこんな場面でまるんに全て押し付けて逃げるほど無責任では無いつもり・・・ダメだ、私自身が考えても逃げ出す姿が思い浮かんでしまう。

 私、基本的に怠惰で根性無しだからなぁ。

 

 それはともかく、決まった以上万全を期さないと。

 

 「まるん、それでその愛妾さんというのはどんな人なの?」

 

 「ああちょっと待って、今ギャリソンに調べに行ってもらっているから」

 

 ああ、さっきユミちゃんが言っていた冒険者ギルドへのお使いと言うのはそれか。

 それならば仕方が無い。

 

 私たちは高級宿のラウンジに移動し、お茶を注文してソファーで寛ぎながらギャリソンの帰りを待つのだった。

 

 




 アルフィンはまるんの事をちゃん付けで呼ぶけど、主人公は猫なで声で何か思惑を含んだような声のかけ方をする時や、他の子供たち同様膝の上において可愛がる時にちゃん付けで呼びます。
 と言う訳で本文での呼び方がころころと変わっていますが、間違いではないので念のため。

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