ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~   作:杉田モアイ

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55 再会と喜び

 え? 知り合いなの?

 カルロッテさんの問い掛けに驚いた顔で答える騎士さん。お互い、予想外の所での再会だからか、二人とも固まってしまっている。えっと、確かライスターさんだっけ? こんな事もあるのね。

 

 「どうしてこんな所に? と言うより、なぜ都市国家イングウェンザーの方々と御一緒なされているのですか?」

 「実は今、アルフィン様のご好意で書記官の仕事をさせてもらっていまして、今日はその仕事で御一緒させて頂いているんですよ」

 

 久しぶりの対面だったのだろう、今の状況が解らず質問してくるライスターという騎士にカルロッテさんが状況説明をしている。でも、この流れだと・・・、

 

 「そうなのですか。ではご主人は? やはり同じ様にアルフィン様のところでご厄介に?」

 「あっえっと、その・・・」

 

 やっぱり。この流れだと当然そういう話になるよね。

 ライスターの言葉に苦笑いしながらも、どう答えて良いか解らず言い淀んでしまうカルロッテさん。流石に本当の事を話す訳にも行かないだろうし、それが昔の知り合いならなおの事返答に窮する事だろう。うん、ここは私が助け舟を出すべきだね。

 

 「いいわよ、カルロッテさん。ここは私が説明するわ」

 「えっ!? アルフィン様」

 

 私の言葉に慌てたような表情をするカルロッテさん。そんな彼女に「大丈夫、任せてね」と言うかのように微笑んで口を封じ、ライスターの方に向き直る。

 

 「ごめんなさいね、エ・・・ボルティモさんは今、我が国のある事業に携わってもらっているからカルロッテさんは喋って良いかどうか迷ってしまったのよ。ある意味機密と言ってもいい事だからね」

 「機密、ですか?」

 

 私の言葉に不味い事を聞いてしまったのかと言う顔をするライスターという騎士。まぁ、この人は私たちの出迎えをする役割なのに、そこで相手国の機密にかかわるような話を聞こうとしたとなると不味いと考えるのは当たり前といえば当たり前なのだろう。でもまぁ、でっち上げの言い訳なのだから、私としてたいした問題ではないんだけどね。と言う訳で、相手の誤解を解く事にする。

 

 「ああ、機密と言ってもそれはそのプロジェクト全体の内容の話で、ボルティモさんが何をしているかは口外してもそれほど問題の無いのよ。でも、それをカルロッテさんに言ってなかったから、突然聞かれて話していいかどうか迷ってしまったのね。ごめんなさい、まさかあなたの知り合いにこんな所で会うとは思わなかったから」

 「とっとんでもございません! アルフィン様」

 

 そう言ってカルロッテさんに微笑みかけると、彼女は慌てて頭を下げた。でも、このような状況は現地の人である彼女を雇用する以上予め想定しておくべきだったし、いくら予想外に速い遭遇だと言っても今この状況に至っているのはそれを怠った私の責任なのだ。だからここはちゃんとカルロッテさんは悪くないという事を、私が示しておく必要があったのよね。

 

 「ライスターさんだったかしら? ここまで話したのだから説明しておくけどボルティモさんは今、私たちが築いた城で農業試験を手伝ってもらっているのよ」

 「農業試験?」

 

 どうやら聞いた事がない言葉だったらしく、怪訝そうな顔をして聞き返すライスターさん。そうか、この世界は農業試験とか品種改良とかしていなさそうだものね。そこから説明する必要があるか。

 

 「あら、この国では行っていないのかしら? 気候による農作物の発育の変化や土壌環境を調べ、その土地に合うよう品種改良を施して収穫量を増やしたり、より美味しいものを作る事が出来るようになるよう研究と開発をする仕事なのだけど。ところであなた、ボウドアの村を元冒険者が襲ったのをシャイナが救い、その者たちを捕らえたと言う話は聞いている?」

 「はい、その話なら報告を受けています。元冒険者の一団が村を蹂躙しようとした所を偶然通りかかったシャイナ様がお救いになられたと。しかし、その者たちがどうかしたのですか?」

 

 この話の流れからか、緊張した面持ちになるカルロッテさん。大丈夫だって、悪いようにしないから。

 

 「その時捕らえた野盗たちを城の外にある施設に収監して、その者たちにその場所の開墾及び土壌改良、そして農作物の色々な研究をする為の労働を罪の償いとして強制的にさせているのだけれど、その監視と監督をボルティモさんにやってもらっているのよ」

 「ああなるほど。ボルティモさんは金の冒険者ですからね。あの人なら元鉄や銅の冒険者崩れたちを相手にしても後れを取る事は無いでしょうし、確かに適任だと思います」

 

 私の話を聞いて納得をするライスターさん。そう言えばエルシモさん、自分は元金の冒険者だとか言っていたわね。ある程度地位のある冒険者は信用もあると言っていたし、この話に信憑性が増すいい材料になりそうね。と言う訳で早速それに乗っかる事にする。

 

 「ええ。ボルティモさんはこの国では信用の置ける冒険者だったと言う話は聞いているわ。彼、実はその村を襲った野盗たちがまだ冒険者だった頃に交流があったらしいのだけど、彼らがシャイナ達に捕まった事によってその家族たちが生活に困って新たな犯罪に走らざるを得なくなるのを心配して、そんな事が起こらない様にカルロッテさんたちと一緒にその家族たちも私が養うと言う条件で冒険者を引退して今の仕事に着いてもらったと言う訳なの。そうよね、カルロッテさん」

 「はっはい、アルフィン様。そうなのです。私たちは今、ボウドアにあるアルフィン様のお屋敷の別館に住まわせていただいています。おまけに私は書記官なんて身に余る仕事まで頂いて、大変御世話になっているのですよ」

 

 流石に野盗たちの家族のリーダーになるだけの事はあって、頭の回転が速いわね。ちゃんと私の言葉の意図を汲み取ってすかさず話をあわせてくれて助かったわ。これでぽか~んとした顔でもされたら困ったもの。でも、これでライスターさんは完全に信じてくれたようで、

 

 「そうなんですか。ボルティモさんも元気でがんばっているんですね。久しぶりに会いたいなぁ」

 

 なんて何かを思い出すような顔をして話す。しかしここで顔が引きつったのがカルロッテさんだ。今までの話はともかく、現実のエルシモさんは現在絶賛投獄中で当然簡単に会える訳がない。でも、先ほどまでの話ではただ監督をしているだけで会うのに支障があるとは思えないのよね。でも大丈夫よ、その為の前振りだったのだから。

 

 「ごめんなさいね。それはできないのよ」

 「えっ? それはなぜです?」

 

 私の言葉に疑問を投げかけるライスターさん。だって最初に言ったじゃない。

 

 「彼がしているのは農業試験の監督です。しかし最初に話した通り彼の仕事内容は国家プロジェクトに関係していて、その場所で行われている試験の方法は機密にあたります。それだけに家族以外との接触は出来ない事になっているの。それほど厳しい環境でなければ、いくら金の冒険者を雇い入れる条件とは言え流石に犯罪を犯した者たちの家族まで養う事はないと思いませんか?」

 「なるほど、確かにそうですね。国家機密に携わる者を簡単に他国の者と接触させる事ができないというのは解ります」

 

 私の説明を聞いて納得するライスターさん。うんうん、物分りが良くて宜しい。ちょっとチョロすぎる気もするけどね。

 

 「契約期間としてあと7年くらいありますが、その頃には普通に会える様になっていると思います。ですが、それまでの間は会う事は出来ないと思ってください」

 「解りました」

 

 うん、これでカルロッテさんを連れまわしても大丈夫そうね。出回っている情報の中にもしエルシモさんが野盗を率いていたと言うものが含まれていたらカルロッテさんを連れまわしているのが疑惑の芽になるかもしれなかったけど、予め彼は監督として雇われていると言う情報を私の口から流しておけば囚人たちと一緒にいるという情報が間違った形で伝わったと誤魔化せるからね。でもこの方法、考え付いたもののどうやってこの国の人に流そうかなぁ? なんて悩んでいたんだけど、思わぬ所で話すチャンスが出来て私としても助かったわ。ところで、

 

 「ギャリソン、そんな顔をするものではないわよ」

 「しかしアルフィン様、我々は国を代表してここを訪れております。それなのにこの状況は流石にどうかと私は愚考いたします」

 

 後ろで渋い顔をしていたギャリソンをたしなめる。彼の性格ならそう考えるのも解らないでは無いし、エルシモさんの時は殺気をぶつけて威圧までしたのが苦言で済んでいるだけ今回はマシかな? まぁ、ギャリソンも流石に他国の騎士相手にあの対応は流石に不味いとでも考えたのだろうけど。

 

 でもこちらにもいい機会だったから利用させてもらったんだし、少しくらいは大目に見てもいいじゃないの? なんて私は考えたんだけど、

 

 「あっ、しっ失礼しました! 一国の支配者で在らせられますアルフィン様にこのような。まことに申し訳ございません」

 

 青くなりながら跪くライスターさん。ほら、萎縮しちゃったじゃないの。別に雑談くらいいいと思うんだけど、ギャリソンたら硬いんだから。

 

 「いいのよ、私の方から話しかけたんだから」

 「いえ、そういう訳には・・・」

 

 この人、シャイナとも繋がりがあるし、私としては個人的な繋がりを作りたいんだけどなぁ。

 私たちに繋がりがあるこの世界の人ってボウドアの村の人たちとか野盗の家族みたいにかなり狭い範囲で生きている人ばかりなのよね。今日はここの領主とつながりを持てるように話を持って行こうとは思っていたけど、それでも影響がある範囲はそれほど広くないと思う。その点この騎士さんは町の駐屯部隊所属で野盗のアジト壊滅任務を受けて派遣されたところを見ると、その町を含めかなりの範囲に影響があるんじゃないかな? それだけにこんな使い勝手のよさそうな人材と繋がりを持つチャンスを逃すのはやはり惜しいのよね。

 

 でも見たところ、今は無理っぽい。ギャリソンの言葉に萎縮しちゃってるみたいだからなぁ。まぁ後で落ち着いた頃にでも、もう一度声をかける事としよう。

 

 「まぁいいわ。ところで先ほど領主らしき方が錯乱されていたようですけど、大丈夫なの?」

 「はい。この領地の筆頭騎士であるリュハネン殿が館にお連れしましたから、直に落ち着きを取り戻すと思います」

 

 そういう意味で言った訳じゃないけど、よく考えたらこの館の住人でないこの人に錯乱の原因や今日の会談をこのまま予定通り続ける事ができるかどうかなんて話を聞いても答えが返ってくる訳がなかったわね。領主の持病とかかもしれないし、もしそうだとしたら違う町の騎士であるライスターさんが知っているとも限らないのだから。

 

 「そう。なら安心ね」

 

 とりあえずそう言って笑顔を作り、話を終わらせる。深く追求しても結論が出ない不毛な会話になるのなら、さっさと切り上げるのが賢いというものだろう。

 

 「ところで、何時までも傅いていて貰っていても困るし、そろそろ立ち上がって館に案内してもらえないかしら?」

 「失礼しました。どうぞこちらです」

 

 そう言うとライスターさんは立ち上がり、私たちを館の方へと案内し始める。歩く順番は露払いのようにヨウコとサチコが先頭で警備をかねて歩き、その後ろにギャリソン、そして私とシャイナが続いてその後ろにカルロッテさんが付き、最後を紅薔薇隊の残り二人、ユミとトウコが歩くと言う順番だ。

 

 因みに御者台と馬車の中にいた二人のメイドには馬車の所で待機してもらっている。これは今回の使節団の中にゲートの魔法が使えるものが私しかいないから、もし何かがあった時は馬車がなければ私が魔法を使わなければならなくなる。でも、その事態はなるべく避けたいのよね。周りは強力でも私自身は無力な統治者。そういう立場の方が相手も気を許しやすくなりそうだからね。無駄な警戒心は持たれない方が交渉をするのも楽だろう。

 

 と言う訳で、馬車は頼んだわよ。セルニア、ミシェル。

 

 こうして館のすぐそばまで進むとそれを待ち受けていたかのように館の扉が開き、中から先ほどライスターさんと共に私たちの出迎えをしていた騎士とメイドさんが出てきた。ライスターさんはそれを確認すると小走りでその騎士に近づき、一言二言会話を交わした後、こちらに戻ってくる。ああ、なるほど。領主が突然あんな風になってしまったから当初の予定通り案内する事ができないから、横に居た騎士を先に館にやって受け入れ準備をさせていたわけね。と言う事は、

 

 「もしかしてさっきまでの会話も、わざと引き伸ばして時間を稼いでいたの?」

 

 周りに聞こえないよう、一人小声で呟く。もしそうならこの人、とんだ食わせ者なのかもしれないわね。

 

 「アルフィン様、館の受け入れ準備は出来ているそうなのですが、領主の体調がまだ優れないとの事です。お待たせする事になって大変恐縮なのですが、別室で少々お待ちいただいても宜しいでしょうか?」

 「先ほどの様子ではすぐに会談に移ると言う訳にはいかなさそうでしたもの。調子が悪い状態のまま無理に場を作って貰ったとしても、まともなお話は出来ないでしょう。別に何か急ぎの用事がある訳でもなし。落ち着かれるまで待たせてもらう事にするわ」

 「ありがとうございます」

 

 礼を言うとライスターさんは近くに控えていたメイドに指示を出し、その案内でアルフィンたちは館の中にある来客控えの間へと通されて行った。

 

 

 ■

 

 

 「まさかこんな所でカルロッテさんに出会うことになるとは」

 

 アルフィンたちを見送った後、ライスターは一人呟く。実は、ボウドアの村を襲撃した野盗集団の中に元金の冒険者であるエルシモ・アルシ・ボルティモと見られる者が含まれていたと彼は部下から報告を受けていた。その話を聞いた時「まさかあの人が!?」とライスターは自分の耳を疑った。彼を思い浮かべた時、今まで倒してきた野盗たちとその姿がどうしても重ならなかったからだ。

 

 少なくとも自分の知るボルティモという男は、確かに少し調子に乗りやすいところはあったが誰にでも優しく、いくら自分が苦しいからと言っても人を殺してまでして自らの糧を得ようなどと考えるような男ではなかったからだ。

 

 「だがよかった。あの報告はやはり何かの間違いだったんだな」

 

 アルフィン様はボルティモさんはそのボウドアを襲った野盗たちの監視及び自国の機密扱いになっている農作物の研究の仕事を手伝っていると言っていた。先ほどの話からすると彼は監督と言う名目で雇われたらしいな。

 

 確か前にボルティモさんから聞いた話では、彼も元は貧乏な村出身らしいので作物を育てる事においてまったくの素人ではないだろう。しかしそれは同時に所詮その程度でしかないとも言えるから、実際に農作物の研究をしているのはイングウェンザーの研究員だろうし、彼の実務は元冒険者の監視と言うのが主な仕事なのだと容易に推察できる。

 

 ふむ、カルロッテさんが久しぶりに会った知り合いに自慢できるよう、かなり良く話したといったところか。そんな事を考えていると、そこにヨアキムが返ってきた。

 

 「アルフィン様方を無事、館の控えの間にご案内してきました」

 「ご苦労」

 「はい。ところでどうしたんですか? 隊長、そんな嬉しそうな顔をして」

 

 先ほどの話を聞いて頬が緩んでいたのだろう、ヨアキムは俺の顔を見てそんな質問をする。

 ん? 待てよ、そう言えばボウドアの村を襲撃した野盗たちの中にボルティモさんらしき人物が含まれていると報告したのはこいつじゃなかったか?

 

 「ヨアキム、確か前にボウドアの村の襲撃犯の中にエルシモ・アルシ・ボルティモが含まれていたという報告をしたよな?」

 「エルシモ? ああ、隊長が昔世話になったという元金の冒険者ですね。はい、そうではないかと言う未確認情報ではありますが、そう報告を受けています。それがどうかしましたか?」

 「その話、誤報らしいぞ」

 

 その話を聞いて驚きの表情をするヨアキム。未確認とは言ったものの、ある程度信憑性のある情報だったのだろう。でなければ上官である俺にそんな報告をするわけがないのだから。

 

 「誤報とは・・・それはどこからの情報ですか?」

 「アルフィン様からだ。先ほど聞かされた」

 「アルフィン姫ですか。それは本当のことなのでしょうか? 何か意図があっての嘘と言う事は?」

 

 確かにこの話だけ聞いたとすれば俺も疑っていただろう。いくら自分に都合がいい話だとは言え部隊の報告として上がってきた情報だし、そのまま鵜呑みにするなんて事はなかっただろう。だがな、

 

 「うむ、ただその話だけをアルフィン様から聞かされたのなら信用はしなかっただろうな。彼は金の冒険者だし、この国ではある程度の信用も得ている。そんな彼だけに使い道は多く、またかの国にはもしかしたらこの国には無い、我々も知らない洗脳を施す技術や魔法もあるかもしれないから、それを使って手駒にしようと考えている可能性もあるからな」

 

 実際今すぐに会わせる事は出来ないし、会えるようになるとしたら7年後だろうなんて話を聞いたのだから、確証がなければむしろそちらを疑っていただろう。

 

 「では隊長はアルフィン姫の話は虚偽であると考えたのですか?」

 「いや先ほども言っただろう、あれは誤報だったと。俺はアルフィン様が仰った事は真実だと考えている」

 

 俺の断言を聞いて疑問を顔に浮かべながらも、何か証拠があって確信を持っているのだろうとヨアキムはそのまま黙って俺の話の続きを待っていた。

 

 「実はな、この話はアルフィン姫から切り出されたものではないんだ。ではなぜこんな話が出たかと言うと、イングウェンザーの一行の中に俺の見知った人がいてな。それがなんとボルティモさんの奥さんであるカルロッテさんだった」

 「えっ? 捉えられたと言われているボルティモの奥さんをアルフィン姫が帯同していたのですか?」

 

 そう、これがこの話が真実だろうと考えた根拠だ。

 

 「ああ。話によるとボルティモさんが今の仕事に付いたツテで彼女もアルフィン様の下で仕事を始めたらしい。書記官だそうだ」

 「確かにもしボルティモが犯罪者なら一国の姫がその身内を帯同させるなんて考えられませんが・・・その人が操られていたりしている可能性はないのですか?」

 

 俺も最初それを疑った。だがこれは、そもそも疑う方が馬鹿馬鹿しい話なんだよ。

 

 「何のメリットがあるんだ? 金の冒険者のボルティモさんならともかく、ただの主婦だぞ? カルロッテさんは」

 「あっ確かに」

 

 そう、メリットがないんだ。金の冒険者と言う地位とそれに伴う信用があるボルティモさんならともかく、元冒険者とは言え高々鉄の冒険者で今はただの主婦であるカルロッテさんを洗脳してまで書記官として使う意味はないだろう。あるとしたら雇用する際の費用が掛からない、例え掛かったとしても普通に雇うよりも安いと言うくらいだが、都市国家の支配者がその程度の金をケチらなければいけないとはとても思えない。それにな、

 

 「まぁ念の為少し話をさせてもらったが、あれは洗脳されている者の反応ではなかった。自然そのものだったし、操られている者特有の、なんと言うかな、話す事の全てに対して不自然に確信を持っているような素振りはなく、それどころかこちらの話にどう答えていいか迷う素振りまで見せていた。そしてなにより彼女が操られていないと確信を持たせてくれたのは、アルフィン様の反応だ」

 「姫の反応、ですか?」

 「ああ、あの方はカルロッテさんが俺と知り合いだという事を本当に知らなかった。俺だって多少は人を見る目はあるつもりだ。そしてその俺から見て、カルロッテさんが俺に話しかけた時にちらりと見せたあの驚きの表情が演技だとはとても思えない。もし知らないのであればそんな打ち合わせなどできないだろう」

 

 そして極めつけはこれだ。

 

 「そして何より、ボルティモさんが今どのような状況か探りを入れたのは俺の方なんだ。カルロッテさんも俺が切り出すまでは話す気はまるでなく、それどころか今彼が着いている仕事がイングウェンザーの機密にかかわる話だからと言い淀んだくらいだ。俺はあの顔を見た瞬間、その表情を勘違いしてボルティモさんが本当に犯罪者になったのだと言う確固たる証拠を突きつけられたと絶望しかけたよ」

 「確かにそんな状況では、その後のアルフィン姫の説明がなければ報告の確証が取れたと思うでしょうね」

 

 ああ。あの誰にでも優しく仲間思いだったボルティモさんがまさか本当に!? なんて考えただろうさ。

 

 「だが、アルフィン様はそれを否定され、本来なら国家機密の一部であろう情報まで交えてボルティモさんの近況を教えてくれた。ここまで来て、この話が虚偽だと思えるか?」

 「思えませんね。先ほどの話ではありませんがそこまでして嘘を言うメリットがアルフィン姫にはありませんから」

 

 その通りだ。まぁ、アルフィン姫が何か話そうとするたびにカルロッテさんが緊張したような顔をしたのが気になると言えば気にはなるが、だからと言ってここまで状況がそろっていると言うのにそれだけの理由で嘘と疑うのは流石に無理があるだろう。

 

 よかった、ボルティモさんは無実だった。

 空を見上げ、この空の先でがんばっているであろう先輩冒険者の姿を思い浮かべ、再度笑みを浮かべるライスターだった。

 

 




 今回の話の中でアルフィンがゲートの魔法を使えると言う場所が出て来ます。
 ゲートの魔法はてっきり魔力系しか使えないと思っていたのですが、なんとD&Dでは魔法使いだけでなく僧侶もゲートが使えるんですよ。FF11でも集団転移のテレポは白魔導師の魔法だったし、信仰系で転移が使えるのは意外と普通な事なのかもしれないですね。

 来週の3連休ですが、水木一郎さんの45周年記念ライブがあるので東京へ行き、返ってくるのが10日の夜になってしまいます。ですから来週の更新はいつもの日曜日ではなく、休み明けの火曜日になります。少しだけお待たせしてしまう事になりますが、よろしくお願いします。

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