ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~   作:杉田モアイ

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54 タレント

 美しい、そしてあの優しそうな容姿と褐色の肌。そうか、この人が隊長の思い人であるシャイナ様か。

 

 ヨアキムは馬車から降りてきたその女性のあまりの美しさに釘付けになっていた。気品溢れる紳士にエスコートされて馬車を降りるその姿は神々しいまでの美しさを放っており、しかしその中にも少女のような可愛らしさを併せ持っていた。使者として訪れたサチコ・アイランドという女性。彼女も美しかったが、シャイナ様に比べるとどうしても見劣りしてしまう。それほどのこの女性は最上の美しさと最高の魅力を周りに振りまいていた。

 

 もし、あえて欠点らしいものを探し出して挙げるとするならば普通の女性に比べて背が高いと言う事くらいだが、それすらもバランスの取れたスタイルにより彼女の魅力の一つになってしまっている。ようは私の目から見て、欠点を探すのは無理だという事なのだろう。

 

 なるほどな。こんな女性に優しく介抱されればどんな男でもイチコロだろう。隊長が惚れるのも無理は無い。それに隊長から聞いた性格が本当だとしたら・・・。

 

 「(隊長、高嶺の花にも程がありますよ、これは)」

 

 そう思って横目でライスターのほうを見てみる。するとそこには必死に隠そうとしているものの、どうやっても隠しきれないほどの感情があふれ出してしまい、シャイナ様からもう目が離せなくなってしまっている情けない上司の姿があった。

 

 困ったもんだ。だがまぁそれも仕方が無いか、なにせ久し振りに愛しのシャイナ様のお姿をその目にしたのだから。ここは私が隊長の分までがんばるとしよう。そう思い、苦笑いしながらも視線を再度馬車に向ける。

 

 先ほどの執事らしき紳士はシャイナ様をエスコートしてメイドに預けた後、再度馬車に足を向けて先ほどと同じ様に手を差し伸べた。その手に添えられる白く美しい指先。そして・・・、

 

 ヨアキムはその瞬間、まるで雷がその身に落ちたかのごとく全身に電撃が走った。

 美しい、可憐、可愛い等々、どのような言葉で言い表したら良いのか解らないような存在がそこの視線の先に現れたのだ。

 

 陽光を反射して銀色に輝く美しいプラチナブロンドの髪、透けるような白い肌。憂いに満ちた紅いルビーのような美しい瞳。少々小柄で幼さの残るその顔は保護欲を刺激し、同時に気品溢れる物腰により女としての魅力も併せ持つ完璧な女性がそこに居た。

 

 その姿を目にした衝撃に、ヨアキムは見惚れるを通り越してつい少しだけよろめいてしまった。そして自分がよろめいたせいで視線が通ったのだろう。待っていたこの館の者たちの息を呑む声が後ろから聞こえた。

 

 と、その時である。

 

 「な、な、なぁっ!!?」

 

 突然、その者たちの方から声にならない絶叫が発せられたのだ。

 

 

 ■

 

 

 エルンスト・ケヴィン・ランベ・カロッサ子爵。

 

 彼にはあるタレントがあった。

 彼はその力を自覚した頃、それはどうやらその人の信仰とそれに対して神が与えたもうた力が後光となって見える力のようであると考えていた。幼少の頃、その力によって近くの町の神官たちが光り輝いているように見え、子供ながらに神の使徒と呼ばれる人たちは神に愛され、そしてその身に神の力を宿すから光をその体から放っているのだろうと思っていたのだが、同時にその光は司祭の地位とは関係なく輝きの強さが変わる為に漠然と偉い司祭だからと言ってより深く神に愛されているわけではないのだろうとも子供の頃は考えていた。

 

 そして今この年になって彼はその力がどのような物かをより深く理解する事により、自分のタレントは神の愛が見えるものではなく信仰系魔法の使い手の魔力の強さが見えるものなのだろうと言う結論に達していた。事実、高位の治癒魔法を使える者は強い光を放ち、地位が高くても高位の魔法が使えないものは光が弱かったからである。しかし、まれにだが魔法が使えない者の中に強い光を感じる事があった為、同時にその認識が本当に合っているのかどうか疑っても居た。

 

 実は彼は知らない事なのだが、カロッサ子爵のタレントは相手がどれだけの信仰系魔法への素養があるかを見る力であり、魔法が使えないにもかかわらず強い光を放っていた者たちは魔法を覚える事のできる環境になかったが、もし覚える機会さえ与えられていれば最低でも2位階、努力次第では3位階に到達するほどの素養を持っていた者たちだったのである。

 

 この日、彼は館を訪れるアルフィン姫がどれほどの力を持った信仰系魔法の使い手なのか少々楽しみにしていた。

 

 自分のタレントは探知魔法と違い、探っている事を相手に悟られる事はなかった。これは見る見ないを自分で制御できるものでは無く常に光が見えているからであり、また隠蔽しているものを見破るタイプのタレントでもないからなのだろう。実際、看破系のタレントを持つ者はいらぬ災いを招かぬ為、その瞳を眼帯などで覆い隠す者もいる言う話を他の貴族から聞いた事があるが、彼はこれまでその視線を向けた事によって光を放つ者たちから何か言われるどころか、怪訝そうな視線を向けられた事すらない。

 

 その事から考えて、この目でアルフィン姫の光の強さを見れば彼女に悟られる事なくリュハネンからの報告通り、かの方が帝都で見た神官長たちと同じくらいの力を持つのかどうか解るであろう。そしてそう期待するカロッサ子爵は、ヨアキムによって隠されていたその姿を彼がよろめいたおかげで何の心の準備もなくその目に映す事となる。

 

 「な、な、なぁっ!!?」

 

 ・・・そこにあったのは暴力的なまでの光の奔流。眩く七色に光輝くそれは、まさに天上の神の発する後光の如き強烈な輝きだった。

 

 帝都の大神官たちと比べるだと? 小さな蝋燭の灯火と天に輝く太陽、その光をどう比べればいいというのだ? それほどまでに彼女の、アルフィン姫の光は強く、眩しく、そして神々しかった。

 

 「ああ、神よ・・・」

 

 間違いない。目の前にいる女性は神、そう真の女神様に相違ない。でなければ彼女から放たれるこの目も眩むような強烈な聖なる光の、帝都の大神官たちでさえ足元にも及ばない程の神々しい鮮烈な光をこの御方が放つ理由に説明付かないからだ。そして彼は確信する。

 

 これで解った、やはり私の持つタレントは信仰系魔法の強さが見えるものではなく、神の愛をその身に宿す強さを見ることができるものだったのだ。それならば今まで魔法が使えないにもかかわらず神官並みに強い光を発していた者が居たのにも頷ける。そしてこのタレントはこの地上に光臨なされた女神様と私を御引き合わせて下さる為に神が与えたもうたものだったのだ。

 

 「神よ、あなたに感謝します」

 

 

 

 涙を流しながら地に伏せ、神に感謝の祈りをささげる子爵。それを見て慌てたのは隣に居たリュハネンである。何せ目の前には他国の姫一行が到着している。それなのにそれを出迎えるはずの子爵が隣でひざまずき、その到着した姫をまるで神であるかのごとく崇め、祈りを捧げだしたのだから。

 

 「子爵、どうなされたのです」

 「アンドレアスよ、解らんのか!? あの方こそ、この地上に光臨なされた女神様だぞ」

 

 一体何を言い出したのだ?

 カロッサ子爵のタレントを知らないリュハネンはまったくもって意味不明だった。しかし、子爵のその目は狂人のそれでも錯乱した者のそれでもなく、確信を持った者の目だった。と言う事は彼は自信と確信を持って自分に彼女こそ女神だと訴えているという事になる。

 

 「一体何が起こっているんだ」

 

 あまりの事に判断を付けかね、途方にくれるリュハネンだった。

 

 

 ■

 

 

 えっ? なに? なに?

 私がギャリソンにエスコートされて馬車から降りると、いきなり館の方から驚愕の絶叫なのか、意味の解らない声が発せられた。その声に反応して慌てて守るように私の前に出るギャリソン。ヨウコたち紅薔薇隊も楯になるようにシャイナの前に立った。それを見て慌てて私も、いつでも支援魔法を展開できるよう心の準備をする。

 

 「あっあの、アルフィン様。何かあったのですか?」

 

 するとその時、馬車の方から恐る恐るといった感じで女性が私に問い掛けてきた。

 不安そうなその声に振り返る。すると私が降りた後、最後にメイドと共に馬車から降りる予定になっていたカルロッテさんがおどおどとした態度で馬車から顔をのぞかせていた。

 

 なぜ彼女が私たちと一緒に馬車に乗っているのかと言うと、私たちは鑑定スキルやマジックアイテムでこの世界の文字を読む事はできるけど、書く方はと言うと未だにカルロッテさんに教えてもらって何とかマスターした自分の名前くらいしか書く事が出来ない状況なのよ。でも領主の館を訪ねるとなると何らかの理由で文字を書かなければいけなくなるかもしれないと思った私は、その代筆要員の書記官として彼女に同行してもらったと言う訳。

 

 そんな彼女だけど、元鉄の冒険者とは言えそれは遥か昔の話。荒事とはずいぶんと離れた穏やかな生活をしていただけに、このような場面ではおろおろするしか出来ないみたいね。何が起こっているのかは解らないけど、そんな彼女をこのような状況で外に出す訳にはいかない。

 

 「よく解らないけど、館の方で何かあったみたいだから馬車から出ないで。そこなら安全だから」

 「はい、解りました。アルフィン様」

 

 一見すると木製の普通の馬車に見えるけど、この馬車もあやめたちや城の職人たちのスキルで作った物だけに装備同様魔法の付加がされている。物理防御力にしても対魔法防御力にしてもかなりのものに仕上げてあるので、この世界の者たちはもちろん例えユグドラシルプレイヤー相手だとしてもある程度の攻撃までなら耐えられる程の性能を持っているのよね。だからとりあえずこの中にさえ居てくれたら、カルロッテさんは多分大丈夫。彼女にもしかすり傷でもつけたりしたらエルシモさんに申し訳ないし、戦いになるにしても逃げる事になるとしても状況がはっきりするまでは安全な所に引っ込んでいてもらうのが一番だ。

 

 さて、後顧の憂いも絶ったし現在の状況確認をしないとね。そう思って館の方を窺ってみたんだけど・・・あれ? なんか偉そうな人が跪いてこちらに祈りを捧げているように見えるんだけど。

 

 「ああ、神よ・・・」

 

 えっ? なに? 神様が光臨したの? そう思いながら後ろを・・・なんてべたな事をする訳もなく、しかし何かおかしな事が起こっているのは確かみたいだから、どんなことが起こっても対処できるようにしないと・・・、

 

 「なになに? 神様が光臨したの? どこに?」

 

 ねって!? シャイナぁ~。

 

 しっかりべたな反応をしてきょろきょろするシャイナ。その行動に、さっきまでの緊迫した空気が急速に霧散していく。まったく。そんな訳ないじゃないの、ゲームのイベントじゃあるまいし。そんな光景に紅薔薇隊も苦笑いしているんだけど、立場上注意する事ができなくて困っているみたい。と言う訳で私がたしなめる事にする。

 

 ゆっくりと、慌てた様子を周りに悟られないように注意を払ってシャイナに近づき、ついいつもの様にチョップで突っ込みを入れそうになるのを何とか意志の力で封じ込めて肩に手を置き、言葉を掛ける。

 

 「シャイナ、そんな訳ないじゃないの。どうやらあの人、何かを見て神様か何かと勘違いしているみたいね」

 「えっそうなの? でも神様と間違えるようなもの、このあたりにいる気配はないように思えるけど」

 

 確かにその通りなのよね。私も先ほどから気探知で回りを探っているけど、こちらの方には私たちしかいない。と言う事はよ。

 

 「あの人には私たちの誰かが神様に見えているわけだ。そう言えばシャイナ、あなたここの国の騎士さんに女神様と間違えられたって言っていたわよね。まさか、未だに女神様と思われているんじゃ?」

 「ああ、そんな事もあったね。でもそれはあの人じゃないよ。ほら、あの門の所にこちらを見ている騎士がいるでしょ。確か名前はライスターさんだったかな? あの人が私を女神様と見間違えた人だよ。それにあれはあくまで意識が朦朧としている時の話で、本当に女神様と間違えたなんて事、ある訳がないじゃないの」

 

 そんなシャイナの言い訳を聞いて門の方に目を向けると、確かにこちらを見ている騎士らしき人物がいる。しかしあの人、こんな騒ぎが起こっているのに騒ぎの元ではなくずっとこちらを、いやシャイナの方を見ているのよね。これはかなり気に入られたっぽいかな? まぁ、いくら気に入られてもあげないけどね。

 

 「アルフィン様、どうやら錯乱した者があちらに出たようですが、特に危険はないようです」

 「ええ、あの様子からすると錯乱したのは領主みたいだけど、何があったのかしら?」

 

 最初はあまりの事に驚いたけど、冷静になって観察すれば跪いている人以外は皆鎧を着ているし、その人たちの態度からするとあの人が領主で間違いないだろう。でも、なぜああなったかがよく解らない。

 

 たとえば探知魔法か何かを使えて、私を調べたら凄い力を持ってましたとか言うのならまぁ解らないでもない。流石に一国を代表してきた者に対して不躾に探知魔法を使って来る者がいる訳もないだろうと思って探知阻害の指輪はつけていないからね。でも、もし探知系の魔法を向けられたとしたら気付かない訳がないのよ。

 

 これがこの世界の魔法が私たちとまったく違うものだったとしたらありえたけど、エルシモさんやカルロッテさんからの話やギャリソン達が調べた事によると、どうやらこの世界の魔法と私たちの魔法は同じものみたいだから、こちらに気付かれずに探知するなんて事は出来るはずがないのよね。とにかく、あちらが落ち着くまでは此方としてもどう動くか決められないし、しばらくは静観するべきかな。

 

 いまだ慌てている館の人たちを眺めながら「椅子でも用意してもらおうかしら?」なんて考えるアルフィンだった。

 

 

 ■

 

 

 「隊長。気持ちは解りますが、そろそろシャイナ様に見惚れるのはやめてもらえますか? かなり面倒な事になってるようですから」

 「ん? ああ、なんだ? なにかあったのか?」

 

 おいおい、本気か? この人は。

 

 「はぁ」

 

 これだけの騒ぎになっているにもかかわらず本当に気が付いていなかったらしい隊長を見てヨアキムは小さくため息をつく。まぁ、これが殺意を伴った敵襲とかならこの隊長が呆けたままなんて事は無いのだろうけど、ただ領主が錯乱したというだけの事ではこの人にとってはたいした事ではないと言う認識なのだろう。

 

 しかし、いくら大した事が無い話と感じるかもしれないと言っても、実際は大事である。何せ出迎える側の領主が錯乱したのだから。そしてこの事態に一番動くべきリュハネン殿はその領主の対処におわれてこちらまで手が回らない状態だ。だからこそ、この状況を打破する為に隊長にはしっかりとして貰わなければいけない。何せ、彼だけが実際にイングウェンザーの方々と面識があるのだから。

 

 「隊長、しっかりしてください。なぜかいきなり子爵様が錯乱なされて今大変な状況なんですから」

 「なに!?」

 

 ヨアキムの言葉を聞くと、ライスターは慌てて後ろを振り向く。すると地に跪き、涙を流しながら神に祈るカロッサ子爵の姿が見えた。

 

 「おいヨアキムよ、一体何があったんだ?」

 「私にもよく解りません。ただ、私がよろめいて後ろの視線がイングウェンザーの方々に通った瞬間に子爵様が錯乱なされたようです」

 

 それを聞いて、周りを視界に入れながらなにやら考えている様子のライスター。

 まさか隊長、子爵様まで自分がシャイナ様と初めて逢った時同様、アルフィン姫に一目ぼれしてこうなったなんて考えてないだろうなぁ? 林での遭遇ならともかく、今回は予め訪れる事が解っている方が相手なのだからそんな事はありえないのに。

 

 そんなヨアキムの考えはまったくの杞憂だった。なぜならライスターはこの時しっかりと冷静になっており、冒険者時代に習得した少しだけ顔を動かしながら一点だけ注視するのではなく周りの様子全てを視界に入れるというテクニックを使って観察し、状況把握をしていたのだ。そしてその状況から自分たちが行うべき事を判断し、ヨアキムに指示を出した。

 

 「ヨアキム、今までの状況から考えて子爵たちはどうやら私たちが知らない何かを知っていたのだろう。そしてこの状況はその何かに確信を持った事による錯乱であると考えられる。だが今この場でその何かを説明してもらう暇はないだろうから、お前はリュハネン殿の元へ行き、子爵を一度お屋敷にお連れして冷静さを取り戻してもらえ」

 「解りました。では隊長は?」

 「ああ、俺はイングウェンザーの方々の元へ行き、本来の役目である出迎えをしてくる。あっそれと、あの方々をご案内する部屋の準備とその部屋まで案内するメイドを一人此方に寄越すように言って来てくれ。当初の予定どおり進める訳には行かないみたいだからな。」

 「了解しました」

 

 そう言うと、ヨアキムは帝国式敬礼をして領主たちの方へ走って行く。

 

 「流石隊長、呆けているようでも決める時はちゃんと決めてくれるな」

 

 自分たちの隊長はやはり尊敬できる人物であったと言う喜びと、その人の部下で居られる誇りをかみ締めながら。

 

 

 

 「さて、俺は俺の役割を果さないとな」

 

 ライスターは当初の役割を果たす為、いまだ門の所にいる都市国家イングウェンザーの者たちの元へと歩を進め、全体を守るかのように立つ執事の1メートルほど手前まで近づいた所で足を止める。

 

 なんてこった、この執事も化け物くさいぞ。

 

 力を抜いているようで、その実此方がどのように動こうとも全て防がれそうな雰囲気をかもし出している執事。その姿に舌を巻きながらも、まったくおくびにも出さずにライスターは膝をつき、

 

 「ようこそ御越し下さいました、都市国家イングウェンザーの方々。私は衛星都市イーノックカウ駐留部隊所属、バハルス帝国騎士のフリッツ・ゲルト・ライスターと申します。本日はこの館の主であるバハルス帝国貴族、エルンスト・ケヴィン・ランベ・カロッサ子爵より皆様の御出迎えの大役を任されております」

 

 そう言うとライスターは深々と頭を下げた。

 そのライスターの対応に満足したのか、皆を守るかのように立っていた執事が恭しく脇に控え、主の紹介をする。

 

 「都市国家イングウェンザーの支配者、アルフィン様です」

 

 そしてその執事の言葉を受けて、薄ピンク色のドレスを着た女性が静かに彼の前に出る。

 

 「お出迎え、ありがとう。顔をあげてくださいますか?」

 「はっ」

 

 柔らかな声に従い、ライスターはゆっくりと視線を上げる。そしてその目に映ったその姿。

 

 美しい。

 

 彼にとって美とはシャイナに事だった。だからこそアイランドと言う名の騎士の美しさにも見惚れる事はなかったし、また彼女に匹敵するほど美しい者などこの世にはいないと思っていた。しかしそれは間違いだったようだ。例えるならシャイナは明るく輝く太陽の柔らかな日差しのような美しさなのに対して、この方の美しさは儚くも闇夜を照らして人を導く月の光の美しさ。どちらがすばらしいかなど、比べる事は出来ないだろう。

 

 「都市国家イングウェンザーを支配しているアルフィンです。御出迎えありがとう。わずかな時間の訪問ですが、よろしくお願いしますね。さぁ、お立ちください、そのままでは案内もしていただけないですわ」

 「ありがとうございます」

 

 アルフィンの言葉を受け、ライスターは立ち上がった。と同時に、アルフィンの斜め後ろに立つシャイナに視線を向ける。

 

 「シャイナ様、お久しぶりでございます。その節は我が命を救っていただき、まことにありがとうございました」

 「お久しぶりですね。魔法で治療はしましたけれど、体力までは回復させる事は出来なかったので心配していたのですが、元気な姿が見られて安心しました。今日はよろしくお願いしますね」

 

 そう言ってシャイナは微笑んだ。

 

 ああ、私の事を覚えていて下さった! おまけに心配までして下さっていたとは! 

 社交辞令かも知れない。いや多分そうだろう。でもそれでもいいのだ。ライスターは、そう声をかけてもらえただけで天にも昇るような気持ちになる。なにせ相手は貴族であり、絶世の美女でもある。それに対して自分は一介の騎士であり容姿も老け顔の強面、おまけにあのような格好の悪い姿ばかり見せていたのだから。

 

 そんな訳で、またも呆けモードに入りそうになったライスターだったが、ここで現実に引き戻されることになる。

 

 「あれ? その声はライスターさんじゃないですか?」

 「え?」

 

 シャイナたちの後ろ、メイドたちがいる辺りからいきなり自分の名前を呼ぶ声が聞こえたからだ。そしてそちらに目を向けると、

 

 「カルロッテさん?」

 

 そこには昔世話になった先輩冒険者の奥さんが、居並ぶ者たちと比べても見劣りしない程度に上等な服を着てメイドたちと共に立っていた。

 

 




 女神様認定、その2ですw 実はエルシモとの会談でタレントの話を出さなかったのはこのシーンを書きたかったからだったりします。

 カロッサ子爵のタレントはフールーダやアルシェと似たような物(あくまで似ているだけで正確には違うものです)の信仰系魔法版です。ただ、彼自身には魔法適性がないのでフールーダたちのようにどれだけの位階魔法が使えるかを光の強さで判断できないので、単純に神の力をより強く宿したもの=アルフィン=女神様と思ってしまいました。

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