ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~   作:杉田モアイ

52 / 154
第7章 領主の館訪問編
51 不思議な晴れ間


 エント及びボウドア周辺を収める領主であるカロッサ子爵の館。その横には彼に仕える騎士と騎士見習い、メイドや使用人が住む館が建てられていた。そしてこの日、3階建てのその館の最上階に位置する客間には本来その場所にいるはずの無い者の姿があった。

 

 「隊長、いいのですか? 駐留軍部隊に帰還しなくても」

 「何を言うか。数日の内に命の恩人がこの館を訪れるのだぞ。時間が無かったとは言え十分なお礼を申し上げる前に別れてしまった以上、せめての礼儀としてきちっと子爵に伝言を伝えた事を確認してもらう為に出迎えるのは当然ではないか」

 

 そこにいたのは衛星都市イーノックカウの駐留軍の騎士、フリッツ・ゲルト・ライスターである。彼は任務であった野盗のアジト制圧を完了して捉えられていた女性たちを救出した後、部下の殆どを制圧任務完了の報告のために町へ帰したが、自分は副隊長のヨアキムと共にカロッサ子爵の館にとどまっていた。

 

 ヨアキムはライスターの言葉にあきれ顔を浮かべてから、視線を一度外す為に昨日から降り続ける雨が当たる窓の方に顔を向ける。そしてそこから見える厚い雲に顔を軽くしかめた後、「やれやれ雨雲だけでも鬱陶しいのに。まだこんな事を言うか、この人は」とでも言いたそうに首を振りながら彼の方に向き直ってため息をついた。

 

 「はぁ、そういう言い訳はいいですから」

 「言い訳とはなんだ、言い訳とは」

 

 苦笑したような顔でそう言い放つヨアキムに、ライスターは少々むっとして睨む。しかしそんなライスターに対してヨアキムはまるで動じる事は無く、飄々とした態度で指摘をする。

 

 「隊長はお礼がしたいのではなく、もう一度愛しのシャイナ様と御会いしたいだけなんでしょ?」

 「いとっ、なっ、おまっ、何を言っているんだ、お前は!」

 

 ヨアキムの言葉に図星を突かれた為か、ライスターは目を白黒させて大声を出す。そんな姿の隊長を見てヨアキムは「ばれてないと思っている所がなんとも」などと考えながら笑いをかみ殺した。まったく、普段は厳格で頼りになる立派な隊長なんだがなぁ、などと考えながら。

 

 「大体、本当にいるんですか? そのシャイナって人。隊長が毒にやられて見た幻覚じゃ無いでしょうねぇ」

 「馬鹿を言うな、もしあの方がいなければ俺は死んでいたんだぞ。俺が今ここにこうして五体満足の姿でお前といる事が、あの方が存在すると言う何よりの証拠だろうが!」

 

 まぁ確かにその通りではある。しかし隊長の言葉を聞くと、どうしても本当にいるのか疑わしくなってしまうんだよなぁ。

 

 隊長が語るシャイナと言う女性は女神と見紛うほどの美貌を持ち、その髪は黄金で作られた絹糸のように美しく、また素肌は褐色ではあるものの幼子のように肌理が細かい。その上胸も大きいのに太っているのではなく、腰はしっかりとくびれたすばらしい体型と来たら外見的には文句のつけようが無いパーフェクトな女性だ。もしそんな女性が本当にいたとしたら周りの男たちが放って置く訳がない。きっと気を引く為にあの手この手を使ってちやほやする事だろう。そしてそのような状況に置かれたら元の性格がどうかはともかく、殆どの場合その女性は傲慢な自惚れ屋になってしまうのではないだろうか?

 

 それなのに隊長の言葉からすると彼女は性格も優しく、毒で傷ついた自分を癒してくれたうえに嫌な顔一つせずに看病までしてくれて、なおかつ事故とは言えセクハラ紛いの失礼な事を色々としたにもかかわらずそれを全て優しい笑顔で許してくれたという話だ。なんだその完璧超人は? 実在するとしたら間違いなく本当の女神だろう。そんな女性がこの世に存在するなどと、ヨアキムには正直信じられなかった。

 

 「大体話がおかしいんですよ。セクハラまがいの事をしたにもかかわらず全て許してくれたんでしょ。それがもしそのような事になれた大人の女性ならまだ解りますが、隊長の話ではその女性はされた行為に対してまるで少女のように、震えるほど怯えて涙まで流したというんですよね。それなのに隊長の行為を全て優しく許してくれるなんてどこの聖女様ですか」

 「確かにその通りなのだが・・・仕方がないだろう、事実なのだから」

 

 その他にも、小人のような妖精が金属鎧を着た隊長を飛び蹴りで吹き飛ばしたとか、同行していた司祭らしき女性が武器を振るい、シャイナさんに失礼な事をした隊長を一撃で昏倒させたとか。おまけにその話に驚いて「そんなゴリラみたいな司祭の女、いるのですか?」と聞いたら「ゴリラ? いやいや、その子は小柄で可愛い少女だったぞ」と来たもんだ。聞いたとおり信じろと言う方が無理だろう。

 

 大体、元銀の冒険者である俺でさえ隊長には訓練でも勝った事がないんだぞ。その隊長相手にそんな事が本当に出来る"小柄で可愛い少女"がこの世にいるか? 正直何度聞いても信じられない事ばかりだ。まぁその辺りは毒で弱っていた事もあるし、セクハラ紛いの行為で後ろめたさがあったから無防備で受けてそうなったと考えられない事はないが。

 

 でも、シャイナと言う女性に関しては無しだ。そんな聖女で女神な女性がいるわけがない。きっと毒で弱った所でそのように優しくされた為に、つい惚れてしまって目が曇ったといった所だろう。そう、吊橋効果とか言う奴だ。

 

 「隊長も男ですからねぇ。惚れた女の姿が2割り増し3割り増しで見えたとしても仕方がないですね」

 「失礼な事を平気で言う奴だなぁ、お前は」

 

 ライスターからしても、自分の言っている事がそのまま受け入れられるとは思っていなかった。実際あのような人がこの世に存在していること自体、目の当たりにした自分でさえ信じられない時があるのだから。しかし事実は事実。実際に目にすればヨアキムも納得することだろうと考えていた。

 

 「痘痕も笑窪と言いますからね。妄想の中で美化しすぎて、次にお会いした時にがっかりしないでくださいよ。いや、例えしたとしても相手は領主の元に訪れる貴族なんですから絶対に顔には出さないようにしてください」

 「あのなぁ。お前こそシャイナ様を実際にその目で見て、思わず見蕩れてへまをするなよ」

 

 売り言葉に買い言葉。お互いの言葉に思わずにらみ合った二人に、窓から突然強烈な日の光が差し込んだ。

 

 「ん? なんだ?」

 「厚い雲に出来た切れ間に、偶然太陽が差し掛かったのでしょうか?」

 

 突然の陽光に怒気を抜かれた二人は、何事かと思い窓の方に目を向ける。するとそこには信じられない光景が広がっていた。

 

 「ヨアキム、俺の目はどうかしてしまったのか? あれほど厚かった雨雲が綺麗さっぱり無くなっている様に見えるのだが」

 「いえ、私にもそう見えるので、隊長の目がおかしくなったわけではないと思いますよ。それにほら」

 

 ヨアキムはそう言うと日の光を浴びて輝く、庭の草花を指差す。

 

 「見ての通り世の中は雨露に濡れたままです。気付かぬうちに雨がやんだのではなく、つい先ほどまで雨が降り続いていた事は間違いないようですね」

 「そうだな。不思議な事もあるものだがイーノックカウでは出会った事が無い現象であるものの、この地域ではよくある事なのかもしれない。天気と言うのは地方によってかなり違うという話を冒険者時代に聞いた事があるからな」

 

 いや、いくらなんでもここまで劇的な変化は無いだろうとは思うものの、目の前で現実に起こったものを否定する事もできず、ヨアキムはライスターの言葉に曖昧ながらもとりあえず頷いた。そしてもう少し詳しく見るかと窓に近づいて窓を開け、外に顔を出して周りを見渡すと少し離れた空はまだ黒く厚い雨雲の覆われており、どうやら青空なのはこの地域だけのようだ。

 

 「隊長。どうやら雨雲が去ったのはこの辺りだけのようです。不思議な現象ですが都市を覆うくらいの範囲の雲の切れ間が出来ているようで、それがつい先ほどこの辺りに差し掛かって日の光が差し込んだようです」

 「そうか。いやはや、自然と言うのは時に不思議な現象を起すものだな」

 

 突然の現象で面は喰らったものの、状況が解れば納得はいく。これほど大規模なものは珍しいが、雨雲の間に切れ間が出来て青空がのぞくと言うのは何度か目にした事があるから、こういう事が起こったとしてもおかしくは無いのだろう。

 

 「おや?」

 「どうした? ヨアキム」

 

 そんな珍しい気象現象に驚いていたヨアキムは、館の門に向かって遠くから1頭の軍馬と思われるものに乗る白いフルプレート・アーマーを着た者が近づいてきている事に気が付いた。そこで、腰のポシェットから偵察用の遠眼鏡を取り出し確認する。

 

 「はい、まだ遠いのではっきりとは言えませんが見た事の無い紋章が刻まれた鎧を着た者がこの館に近づいてくるようです。それにあの馬、全身を鎧に・・・」

 「何!?」

 

 ヨアキムが見た物をそのまま伝えていた所、馬が鎧を着ていると聞いてライスターが慌てて窓に取り付き、同じくポシェットから遠眼鏡を出して視線を館の入り口の先に向けた。そこには確かにすらりとした細身の、白いフルプレート・アーマーを着た何者かが同じく白い鎧を全身に纏った軍馬にまたがってゆっくりとこちらに向かってくる姿が見て取れた。

 

 「馬の鎧は・・・白か。しかしあの馬の鎧、シャイナ様が乗っておられた馬と同じデザインのようだな。と言う事はあの者はイングウェンザーの使者だろう。ヨアキム。領主殿に使者が到着したようだと至急伝えてくれ。俺は使者を出迎えるとする」

 「解りました。ところで隊長が慌てて出迎えると言う事は、使者殿は噂のシャイナ様ですか?」

 

 そう言うと、ヨアキムはからかうようにライスターに笑いかける。しかし、

 

 「いや、シャイナ様はもう少し長身だし、何よりあの方の騎乗される馬の鎧は真紅だ。かの方の供をしていた司祭も白い鎧の軍馬に乗っていた所を見ると配下の者が乗る馬の鎧の色が白なのだろう」

 「そうなのですか。残念、うわさのシャイナ様のお顔を拝見できると思ったんですけどね」

 

 そう言うとヨアキムは笑いながら部屋を後にする。そしてそれを見送った後、ライスターは帝国の紋章の入った楯と使い慣れた剣を装備してから部屋を出て、使者を出迎える為に門の方へと歩を進めるのだった。

 

 

 ■

 

 

 話は少し遡る。

 

 「巡回騎士とは言え誰かが一度この城を見に来た以上、もう冒険者を雇って偵察するとかはなさそうね」

 「はい。こちらに攻撃を加えるつもりがあるのならともかく、そうでないのならこれ以上詳しい偵察の為にわざわざ冒険者を雇う事は無いでしょう」

 

 巡回のついでに城を見に来たという騎士の話を聞いて、アルフィンは決断を下す。

 

 「それならもう待つ意味も無いかな。うん、これ以上先延ばしにしても仕方が無いし、領主の館を訪れる事にします。ギャリソン、日程の調整をお願い。それと何時何時訪れるという連絡をする使者の選定も。その子には訪れる当日、先触れの役もやってもらうからお願いね。あと、領主の館を訪れる前日にボウドアの村の館に1泊、訪れたその日にもう一泊するから」

 「はい。ではそのように手配致します」

 

 アルフィンの言葉にギャリソンは恭しく礼をして答え、早速行動に移ろうとする。しかしそこで待ったが掛かった。アルフィンの横に座っていたシャイナからである。

 

 「あっギャリソン、当日は私も行くから。アルフィンの護衛と言う事もあるし、この間あった町の騎士さんにもそう伝えてあるからね」

 「シャイナ様もご同行なされるのですか? 解りました、ではそのように手配致します」

 

 ギャリソンはそう答えると一礼をして今度こそ城のほうに下がって行った。

 

 「さて、それじゃあお土産とかも用意しないといけないわね」

 

 そう言うとアルフィンは給仕をしていたメイドたちに声をかける。

 

 「あなた、すまないけど料理長に先日「どのような物がいいか考えておいてほしい」と頼んでおいたお土産用のお菓子を用意するように頼んできてもらえるかしら? 後、あなたは衣裳部屋まで行って後ほど当日着る服選びの為にメルヴァと訪れるから準備をしておいてと声をかけて置いてね」

 「「畏まりました」」

 

 こうしてアルフィンたちは領主の館を訪れる準備を本格的に開始したのである。

 

 

 ■

 

 

 ライスターが門の近くまで行くと、そこには門番として配置されている騎士見習い立っていた。

 

 「えっと、君は確かモーリッツ君だったかな?」

 「はい、ライスター様」

 

 騎士見習いの彼は衛星都市の、それも小隊を預かる隊長であるライスターを前に少々緊張した面持ちで姿勢を正し、返事をする。そんな彼の態度に「自分は直属の上司ではないのだからそんなに緊張しなくてもいいのに」などと考えながらも、指摘をする事によってより一層緊張させるのを避ける為に特にそれには触れずに要件だけを告げる。

 

 「領主殿には私の部下から連絡が行っているが、今こちらに都市国家イングウェンザーの使者と思われる方が向かっているのが客間の窓から見えた。あの感じからすると、もうまもなく到着なさるだろうから粗相の無いよう、心して出迎えてもらえるとありがたい」

 「はい、解りました!」

 

 そう言うとモーリッツは背筋を伸ばし、緊張の面持ちで門の横に立った。すると後ろの方からばたばたと騒がしい音が聞こえてくる。その音に何事がおきたのかと驚いて目を向けると、そこにはいつもの落ち着いた物腰からは考えられないほど慌てた様子のリュハネンがこちらに走ってくる姿があった。

 

 何をそんなに慌てているのだ?

 

 その様子によほどの事が起こったのかとその場に一瞬緊張が走ったが、息を切らしながら門にたどり着いたリュハネンの言葉を聞き、ライスターは拍子抜けする事になる。

 

 「はぁはぁ、ライスター殿、イングウェンザーの、都市国家イングウェンザーの使者がこちらに向かっているというのは本当ですか? そしてその方はもう到着を?」

 「いえ、私たちが3階の窓から見た感じではまだ結構な距離がありました。それほど急いで来られなくとも十分に間に合うだけの時間的余裕はあると思いますよ」

 

 ライスターのその言葉を聞いてほっと胸をなでおろすリュハネン。そんな姿を少々訝しく思うものの、彼は仮にもこの国の貴族であるカロッサ子爵の騎士だ。他国との初の接触になるこの時に間違いがあってはこの後にどのような禍根を残すかもしれないと少々ナーバスになっても仕方がないかと考えを改めた。

 

 「とにかく、そのように息を切らしていては相手に失礼に当たります。とりあえず門の横にある詰め所で休憩されてはどうでしょう。使者の方がこちらから確認できましたらお声をかけますから」

 「そう言ってもらえるとありがたい。ではお言葉に甘えて少し休ませていただくとします」

 

 そう言うとリュハネンはライスターに対して軽く頭を下げ、その後門番の詰め所として作られた小屋の中に入っていった。

 

 「あのようなリュハネン様は始めて見ました」

 「ああ。例え相手が小国、都市国家とは言え国と国との初接触だからな。立場上リュハネン殿に掛かる重圧は我々には窺い知る事は出来ないものなのだろう」

 

 モーリッツと話しながら詰め所に目を向け、「貴族付きと言うのは地位に比例して大変なんだなぁ」などと考えるライスターだった。

 

 

 

 それから20分ほどたった頃、視界にはっきりとその姿を捉える事ができるほど使者が館に近づいてきた。そこでリュハネンに使者の到着を知らせるようにとモーリッツに指示を出し、ライスターは近づいてくる使者の様子を注意深く観察する。すると彼はある一つの事に気が付き、眉をひそめた。

 

 濡れていない?

 

 そう、こちらに向かってくる使者がまるで濡れていないように見えるのだ。白く光る鎧も騎乗している馬の鎧も磨き上げられたように一点の曇りも無く輝いている。もし一度でも雨に打たれたのであれば、たとえ出発時に磨き上げていたとしてもあれほどの美しさを保つ事はできないだろう。いや、鎧だけならば雨がやんだ後、失礼の無いようにと領主の館に到着する前にもう一度磨き上げたと考えられない事は無い。しかし、どう見ても鎧のつなぎ部分や手甲の布の部分、そして皮で作られていると思われる鞍も濡れた様子がまるで無い。特に皮は一度水を吸ってしまったら、あのように乾くまでにはかなりの時間が掛かるはずなのだ。雨がやんだのが大体30分ほど前なのだから、この短時間で乾いたとはとても考えられない。

 

 まさか、この使者は青空と一緒にやってきたなどとは言わないだろうな?

 

 シャイナ様が妖精を連れてはいたが、いくら妖精でもそんな奇跡を起せるとは思えない。ではどのような方法で? そんな疑問を抱きながらも、その答えを彼が使者から聞くことは出来なかった。なぜなら使者が到着する前にリュハネンが門に戻り、使者の出迎えの準備をはじめからである。

 

 相手はこの館の主人に対する使者なのだ。いくら疑問に思ったとしても、それを忘れて不躾に問いただす訳にはいかなかったからだ。

 

 「モーリッツ、ライスター殿、そしてヨアキム殿も使者の方を最高の礼儀を尽くしてお迎えするよう、お願いします」

 「解っております」

 

 いつの間にか居たヨアキムに驚きながらも、それをおくびにも出さずにライスターはリュハネンに返事をする。そして、とうとう使者が門の前に到着した。そしてその使者は馬から颯爽と言う言葉が似合うほど美しく降り、一番前で出迎えているリュハネンの前まで進み礼をする。

 

 「お出迎えありがとうございます。私は都市国家イングウェンザーからの使者です。われらが支配者、アルフィン様がこの館の主の元へ訪問される旨を伝える為に使わされました」

 

 その使者の鈴が鳴るような美しい声を聞き、一同は驚きを表した。

 

 使者殿は女性なのか。

 

 出迎えた一同がまず最初に感じ、驚いたのはそこである。確かに改めて見てみると、その線の細さは男のそれではなく、やわらかいイメージを覚える。なのに誰もそれを想像していなかったのは通常使者と言うのは男が勤めるものを言う先入観があったからだ。しかし、姫の通る道の見回りをしていたシャイナが女性であるのだから、もしかするとアルフィン姫の直属の騎士は女性ばかりなのかも知れず、そう考えると使者が女性でもおかしくは無いのかも知れない。

 

 突然の驚きに一瞬あっけに取られたものの、何とか建て直してリュハネンは使者に向かって自己紹介をする。

 

 「ばっバハルス帝国貴族であり、この周辺地域の領主でもあるエルンスト・ケヴィン・ランベ・カロッサ子爵の騎士、アンドレアス・ミラ・リュハネンです。使者殿、お名前を窺っても宜しいでしょうか?」

 「ああすみません、そうですね。兜も取らず失礼をしました」

 

 そう言うと使者はかぶっていた白く輝くフルフェイスの兜に手をかけ、横に付いた留め金を外すと前後にパカット開いて頭から外し、中から解き放たれた長い髪を解くように首を左右に振ると、それを小脇に抱えた。

 

 その姿に一同が息を呑む。

 

 それも無理の無い事だろう。あの小さな兜にどのように収まっていたのかと不思議に思うほどの長く美しい黒髪が一瞬広がり、その後まるでたった今櫛を入れたかのようにまっすぐ背中に沿って綺麗に纏まってゆれる。そして少しつり目がちで気の強そうな、しかし気品に溢れた顔と透けるような白い肌の美女がその兜の下から姿を現したのだから。

 

 「私は都市国家イングウェンザーの騎士、紅薔薇隊のサチコ・アイランドと申します。以後お見知りおきを」

 

 そう言うと、サチコと名乗るその騎士は大輪の花が開いたかのごとき華やかな笑顔をリュハネンたちに向けるのだった。

 

 




 やっと領主の館訪問編に突入です。

 ライスター君の中のシャイナは少々美化されています。まぁ外見的にはその通りなのですが、ライスター君のセクハラを全て無条件に許したのはそうしないと従者二人にライスター君が殺される勢いだったからです。でもそれを知らないライスター君の中では、シャイナは性格まで聖女な完璧な女性と言う事になっている事でしょうw

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。