ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~ 作:杉田モアイ
再び静けさを取り戻した林の縁にあるほんの少し開けた、木漏れ日が差し込むその場所では先ほどまで瀕死だった騎士風の男がルリの回復魔法によって治療され、今は白い厚手の布の上で正座をさせられていた
彼はシルフィーのドロップキックで吹き飛ばされた後、頭から血を流して生死の境をさまよったのだが、その彼の命をすんでの所で救ったのは彼によってもろもろの被害にあったシャイナだった
恥ずかしさの余り吹き飛ばされた彼の姿を直視出来ていなかったシャイナだったが、幸いな事にその彼が流した血の匂いに気が付いて目を向けた所、血の海に沈むライスターを発見。「いけない! これでは折角助けたのに死んでしまう」と慌てて渋るルリを説得し、何とか宥めて治療してもらえたおかげで彼は一命をとりとめる事ができたのである
「ルリちゃん、きっと彼は寝覚めが物凄く悪いのよ。さっきも私を女神と間違えたくらいだし、今のも寝ぼけての行動で悪気はないと思うからお願い。治療してあげて。ねっ」
「ううっ、シャイナ様にそんな風に頼まれてしまったら断れないじゃないですか」
「こんな男、死んでしまえ!」と思わないでもなかったが被害者であるシャイナに腰をかがめて口の前で両手を合わせ、小首をかしげながら上目遣いで見つめると言う凶悪な方法を使って頼んで来られてしまっては、流石にルリも断る事ができなかったのだ
だからと言って彼が許されたわけではない。シャイナが庇ったのはあくまで彼の命を助ける為だと理解したルリとシルフィーは、回復魔法で傷が治ったのを確認した後、足の防具をはずさせてその場で正座をさせた。そう、所々に木の根が張っている土の上にである
「ルリちゃん、シルフィー、流石にそれは・・・」
「「シャイナ様は御優し過ぎます!」」
流石にこの男のした事を許す気がない二人は、たとえシャイナの言葉とは言えこれだけは譲れないと言う姿勢を見せた。それどころか、「座る場所に小石を敷き詰めましょう!」とまで言い出す始末。しかし、ただでさえ正座はキツイのにそんな事までしたらいくらなんでも可哀想すぎると思うシャイナは時間を掛けて説得、最後は
「被害者の私がいいと言っているんだから許してあげようよ。ねっ」
本日二度目の上目遣い付きのお願い攻撃によって二人は陥落し、何とか土の上での正座だけは許してもらえて今に至っている。いくらシャイナでも、怒り心頭に達している二人からは正座までやめさせる程の譲歩は引き出す事ができなかったのだ
まだ怒っているルリちゃんとシルフィーを両横に置き(シルフィーはいつもの定位置である私の肩にではなく、どこからか取り出した小さなクッションの上に座っている)目の前で小さくなっている騎士風の男の人に声を掛ける。さっきからもぞもぞと動いている所を見ると、正座がかなり効いているみたいね。男の人だから正座なんてした事も無いだろうし、なによりこの世界では椅子に座って生活するのが普通らしいから特にキツイんじゃないかなぁ?
「えっと・・・足は大丈夫? (じゃないよねぇ)」
じろり
私の言葉に反応してルリちゃんとシルフィーが騎士風の男の人を睨んでるのが解る。もぉ、そんな顔をしたらさぁ
「だっ大丈夫です」
だよね。そう答えるしかないよね。でも窘める訳にも行かないんだよなぁ。何せ二人は私の為に怒ってくれているのだから
「当たり前です。むしろこの程度の済ます、シャイナ様の慈悲深い御心に感謝すべきです」
「ルリさんの言う通りです。シャイナ様にあんな事をしておいてまだ生きていられる事を感謝してほしいくらいですよ」
なんか物凄く物騒な事を言ってるけど、そこに突っ込みを入れると事態が悪化しそうだから触れないようにしよう。とにかく彼には聞かなければいけない事があるからね
「とっとりあえず最初に聞くべきだろうと思うから聞くけど、あなた、どこのどなたなんですか?」
さっきの痴漢行為はともかく、とりあえずは名前だけでも聞いてみる事にする。もしかすると助けてもらったとは言え初対面の相手だし、自業自得とは言え先ほどは死にかける程の事をされたので警戒して名乗るのを躊躇するなんて事も、もしかしてあるかも? なんて考えもしたけど、そんな心配は杞憂だったようで騎士風の男の人は落ち着いた口調で答えてくれた
もぞもぞ
「すみません、申し遅れました。私は衛星都市イーノックカウ駐留部隊所属で小隊を任されている、バハルス帝国騎士のフリッツ・ゲルト・ライスターと申します。この度は危ない所を救って頂き、誠にありがとうございました。あなた方に出会わなければ、私はこの林の中で息絶えていたでしょう」
フリッツ・ゲルト・ライスターさん、か。なら呼び方はライスターさんでいいかなかな?
やっぱりこの国の騎士だったのね。衛星都市イーノックカウ駐留部隊所属で小隊を任されているって事はボウドアの村で聞いた、ここから少し離れた場所にあるって言う町の小隊長さんて事かな? うんなるほど、この土地の領主子飼いの騎士じゃなくて別の場所の騎士なのね
んっ? って事はもしかして・・・何かの作戦中!? だとしたら大変なんじゃないの。だってこの人を助けてからすでに1時間以上経っているし、もしこの人の役目が救援を呼びに行く事だったとしたらこんな話をしている場合ではないのだから
「ライスターさん、あなた、どこであんな毒を受けるような目にあったの? まさか、どこかで仲間の騎士さんたちがまだ戦っていて実は助けを呼びに行く途中で力尽きて倒れていたなんて事は無いわよね?」
死にかけて混乱したままだから忘れているなんて事は無いだろうけど、それでも聞いておかない訳には行かなかった。だってもしそんな事になっているとしたら一刻も早く助けに向かわなければいけないし、先ほどまでのこの人の状態からすると、まだ戦闘が続いているのならかなり危険な状況だと思うから
でも、そんな私の心配は杞憂に終わる
もぞもぞ
「ああ、それは大丈夫です。作戦はすでに完了していますから。実は私はこの土地の領主の要請を受けて野盗退治に来たのですが、どうやらそのボスが持っていた短剣に毒が塗られていたようで。倒すのには余り苦労しなかったのですが、その時に腕にかすり傷程度の怪我を負ってしまったのです。その後、迂闊にも武器に毒が縫ってあった可能性をまったく考慮に入れずに領主の元へと向かった為、皆さんにお恥ずかしい姿を見せる事になってしまいました」
そう恥ずかしそうに話すライスターさん。そうか、だからあんな所で倒れていたのね
「ですから仲間については大丈夫です。戦闘はすでに終結して、私は保護したご婦人たちを輸送する馬車を領主に借りに行く途中で毒が回って倒れてしまっただけですから」
「そうなの、それならば良かったわ」
ああよかった、それなら心配しなくても大丈夫みたいね。他に怪我人がいる訳ではないようなので一安心。もし他に死にそうな人がいるのなら助けなければいけないし、何より野盗がまだいるようならそれも排除しなければいけなかったからね
もぞもぞ
「ところで皆さんこそ、どちらの御方なのでしょうか? この辺りでは見かけないお姿ですが」
ああ、そうか。私もまだしていなかったっけ。と言う訳で居住まいを正し、ライスターさんに対して自己紹介をする
「そう言えば自己紹介がまだでしたね。私は都市国家イングウェンザーの者で、名前はシャイナと言います」
「シャイナ様はとっても偉い方なのよ。そんな方に対してあんな無礼なまねをして! 普通なら不敬罪で即刻死刑にする所ですよ」
「ルリさんの言う通り! シャイナ様は御優しいから許してくださるけど、普通ならぐっちょんぐっちょんのけっちょんけっちょんにしてる所なんだから!」
いやいや、流石に痴漢行為で死刑は重すぎるよ。でもまぁ、メルヴァ辺りが同行していたら本当にそうなっていたかもしれないけどね。でも、いくら本当の事だからと言ってもこれは言いすぎ。ここは諌めなければいけないだろう
「ルリちゃん、シルフィー、やめなさい。その話は先ほどすんだでしょ」
「「はい、すみませんシャイナ様」」
基本は聞き分けのいい子達だけに、私が諌めるとすぐに矛を収めてくれた。それに満足した私は二人に笑いかけてからライスターさんに向き直る
「私の従者が少しお恥ずかしい所をお見せしましたね。この二人は、神官服を着ている方がルリ・リューブラント。そしてこの風のせ・・・風の妖精がシルフィーです。この二人は私の部下ではないのですが、この旅に同行してもらっています」
この世界の精霊がどんなものか解らないし、どうやら妖精と勘違いしているようなのとりあえず妖精と説明しておく。もし人類と精霊が戦争をしている世界だったら困るからね。その点、見た後に安心して眠ってしまったくらいだから妖精なら問題はないだろう
もぞもぞ
「シャイナさん、いや、シャイナ様ですか。このお二人のお話からすると、あなたの国の貴族なのですか?」
う~ん、確かギャリソンからは身分を聞かれたら上級貴族のような存在だと説明するようにって言われていたよなぁ。そんな事を考えて返答をしようかと思ったんだけど、その前にルリちゃんが答えてしまった
「そんな程度じゃないわよ。シャイナ様はイングウェンザーに御座します6人の至高の方々の御一人ですもの。我々を支配なされている偉大なる方々の御一人なのよ!」
「そうそう、シャイナ様は私をこの世界に御呼びになって下さったあやめ様と同等の存在。神にも等しい御方なんだから!」
う~ん、間違ってはいないのだろうけどこの発言はどうなんだろう? あと、よくよく考えたら私たちがイングウェンザーの上級貴族だと名乗るという話自体、会議で話し合っただけで城のみんなに周知させた事じゃなかったっけ。これは迂闊だったかな?
その時
「支配者であり至高、それに小さな体で俺を吹き飛ばす力を持った妖精を呼び出す事が出来るほどの神の如き力を持った者と同格の御方。そしてこの神々しいまでの美しさを持つと言う事はやはり女神様・・・」
余りに衝撃的だったのか、足の痛みでもぞもぞしていた動きさえ止めてライスターさんがそんな事を呟いた
なななっ、何を言ってっ!?
「ちっ違います! 物の例え、そう! 物の例えですっ! 私は確かにイングウェンザーの支配者の一人ですが、他の国で言うと上級貴族のようなもので、私の上にはアルフィンと言う上位者、他の国で言う所の女王様のような方がいるんです。それにシルフィーが言う神の如きと言うのは、このシルフィーを呼び出した私たち6人の中の一人であるエルフのあやめと言う子の事を彼女が神様のように思っているから出た言葉なんです! けして私が女神様だとか、そんな事は・・・ないです・・・」
最初こそ一気にまくし立てるような勢いだったけど、話しているうちに先ほど女神様と言われた恥ずかしさが甦って来て最後の方は小声になってしまった。そう言えばこの人、さっき私のことを女神様って呼んだのよね。あれってどう言う事なんだろう? あれは寝ぼけて勘違いしただけよね? ならなぜまた?
まさか本当に勘違いした訳じゃない・・・よね?
聞いてみたいけど、恥ずかしくてとても聞けないなんて思っていると
「シャイナ様、シャイナ様。私は本当にシャイナ様を神の如き力と美しさを併せ持つ御方と思っていますよ。とても慈悲深く御優しい。こんな痴漢野郎でさえ御許しになられる、まさに女神様のような御方です」
「シルフィーさんの言うとおりです。シャイア様は偉大な御方です。その偉大でとても御綺麗な御姿は女神様と言っても過言ではありません」
ルリちゃんとシルフィーがまた暴走を始めた。だ・か・らぁ! 私はそんなに綺麗じゃないし、女神様みたいと言うのはアルフィンやメルヴァみたいな子の事を言うんだって!
そう思い、この二人を諌めようとしたんだけど
「確かにお美しい・・・。最初に女神様と名乗られていたら私は間違いなく信じていましたよ。少なくとも私の住む町では、いや、帝都アーウィンタールでもこれほどの美しさを誇る女性は見た事がありません」
っ!?
「そうでしょう、そうでしょう。シャイナ様はアルフィン様やあやめ様に比べて御自分は劣っているかのように御考えですが、私たちからすれば比べようも無いほどどなたも御美しいのです。シャイナ様もその御自覚を持っていただけると私共も助かるんですけどねぇ」
「やっぱりそうでしょ! シャイナ様が否定なされるから私たちと人の美的感覚が違うのかと思って心配になってたんだよ。あぁ~良かった。ルリさん、ルリさん。やっぱりシャイナ様は誰が見ても御綺麗だったんですね!」
顔が熱い。何これ、何かの罰ゲーム? なぜ私はこんな目にあってるの? だって、私は今まで誰からも綺麗だなんて言われた事ないのよ。なのにこの綺麗と美しいの大合唱って。恥ずかしい、恥ずかしすぎる!
ルリちゃんたちの言葉に身もだえしそうになり、恥ずかしさのあまり逃げ出したくなる私。でもそんな私にこの後、さらに恥ずかしさが増す追い討ちがかかる事になる
■
「そうですよね、シャイナ様はあなた方女性の皆さんから見てもお美しいですよね!」
目の前の女性陣の同意を得て、ライスターは興奮の余り立ち上がろうとした
さて、想像してみよう。人生で初めて正座をした者がいるとする。そしてその者が不意に立ち上がろうとしたならばどうなるか?
「えっ?」
ライスターは初めての感覚を味わう事となった。足の感覚が、膝から下の感覚がまったく無いのだ。いや、無い訳じゃない。正座をしていた為にしびれて麻痺しているだけなのだが、今まで正座と言うものをした事が無いライスターは当然この足がしびれて感覚が無くなると言う経験をした事が無かった。そして・・・
「わぁ!」
「きゃっ!」
ぱふっ
そんな状況で立ち上がろうとしたのだからうまく立ち上がる事ができる訳もなく、ライスターは大きくバランスを崩して体が前に投げ出されるように倒れこんでしまった
むぎゅっ
「っ!?」
顔を挟むように両頬に伝わる柔らかな感触と、慌てて立ち上がろうとして突いた掌に伝わる柔らかな、つい先ほど味わったのと同じ最高の感触。そう、ライスターが倒れこんだ先にはシャイナが座っており、彼は倒れこんだ時にシャイナの胸に飛び込むような体勢で彼女を押し倒してしまった。そしてその豊かな胸に顔をうずめる体勢のまま、彼は慌てて手を突いて起き上がろうとした為にまたも彼女の胸を鷲掴みにしてしまったのだ
自分が今味わっている至福の感触から離れたくないという男なら誰でも理解できる感情を何とか振りほどき、ライスターはその柔らかなものから顔を離してそっと目をあげる
ふるふる
するとそこには顔を真っ赤にして目に涙を溜め、口をアワアワと動かしながら”ふるふる”と震えるシャイナの顔があった
あっ、可愛い・・・じゃない! とととっとんでもない事をしてしまったぁ~~!
その表情を見て慌てるライスターはつい右手に力を入れてしまう。するとどうなるかをまるで考えずに
むぎゅっ
「やっ・・・だれか・・・」
それに反応してシャイナの目からは大粒の涙が流れ落ちた
「この不埒者がぁ~! 一度ならず二度までも!」
グラグワゴキ~~~ン!
こうしてライスターはこの日3度目の気絶に追い込まれたのである
■
「わぁ!」
「きゃっ!」
ぱふっ
いたたたたっ
いけない、いけない。恥ずかしさの余り、反応が遅れてしまったわ。どうやらライスターさんは正座に慣れていなかったみたいで、それなのに慌てて立ち上がろうとしたからバランスを崩したみたいね
体の上に誰かが覆いかぶさっているような重みを感じながら、自分の迂闊さについ照れ笑いを浮かべてしまう。仮にも前衛職なのだから、この程度は軽くよけなければいけないのにね。そんな事を考えていたんだけど、私の浮かべていた照れ笑いはすぐに引きつったものに変わってしまった
もぞっ
何かが自分の胸の谷間で動いたの。そして
むぎゅっ
ヒィッ!
つい先ほど味わったばかりの嫌な感覚が全身を襲う。そして恐る恐る目線を下に向けると・・・信じられる? ライスターさんが私の胸に顔をうずめていて、なおかつその右腕でまたも私の胸を、今度は左胸を鷲掴みにしていたのよ
「っ!?」
そもそも、彼が目を覚ますまでに時間が掛かるだろうからと休憩の為に上鎧をはずしておいたのが悪かった。まさかこんな事になるなんて思わなかった私は今、布とソフトレザーで出来た鎧下姿になっていたのよ。もし元の装備のままだったら彼の顔は鎧に阻まれてこんな事にはならなかったし、何より胸を鷲掴みにする事などできないのだから先ほどの騒ぎも起こってはいなかっただろう。しかし、今更言った所でそれは後の祭りでしかない
この状況を直視する事によって、さっきまでの恥ずかしさなんてなんて事は無かったのだと思い知らされた。今私は男の人に押し倒されて胸に顔をうずめられているのだと思ったら恥ずかしいを通り越して怖くて何も考えられない。正直声も出ないし、目には涙が溜まっていく
いや解ってるのよ、この人に悪気はないと言う事は。今のこの状況は正座による足のしびれによって引き起こされた偶然だし、別にライスターさんは私を押し倒したくて押し倒したのではないという事くらいはね。でも
ふるふる
そっと顔を上げたライスターさんと目が合った時には、余りの恥ずかしさについつい体が反応して”ふるふる”と震えてしまった。そしてそんな私を見たライスターさんは
むぎゅっ
事もあろうに、鷲掴みにした左腕に力を入れて掴んできたのよ。これにはもう大パニックで
「やっ・・・だれか・・・」
つい、目から涙をこぼして横に居たルリちゃんに助けを求めた。そう助けを求めちゃったのよ、何も考えずにね。さっきの事があったばかりだというのに
私が助けを求めるまではルリちゃんも余りの展開に固まっていたんだけど、私の涙声を聴いた瞬間、その硬直は一気に解けて行動を開始したの。彼女は先ほどと同じく目に赤く怪しげな光をともしながら、どこからともなく取り出したモーニングスターを野球のバットのように振りかぶり、全力でフルスイング!
「この不埒者がぁ~! 一度ならず二度までも!」
グラグワゴキ~~~ン!
ルリちゃんの攻撃はものの見事にライスターさんのブレストプレートにジャストミート! 彼の体は野球のボールのように宙に舞い、近くの木に叩きつけられた
「やったぁ~! ルリさん、見事なホームランですね」
「シルフィー、何を言ってるの! ルリちゃんもいくらなんでもやりすぎです!」
涙も恥ずかしさも一気に吹き飛んでしまい、赤かった顔も一気に青くなるような光景だった。ルリちゃんは回復職だからレベルの割には力が弱いけど、ライスターさんとのレベル差を考えると、当たり所が悪ければ死んでしまってもおかしくないんだから。とりあえずルリちゃんもその辺りの事くらいは判断できる程度に理性が残っていたらしく、ちゃんと鎧部分を狙って殴ったみたいだから大丈夫だろうとは思うけど・・・
「大丈夫です! シャイナ様。峰打ちです(はぁと)」
「やだなぁ~ルリさんたらぁ。モーニングスターに峰打ちは無いですよぉ」
ハハハハハッ
本当に解っていたよね? そんな吹き飛ばされたライスターさんを横目に明るく笑う二人の姿を見ると、ちょっと不安になってしまう。まったくもぉ、そんな冗談を言って笑っている場合じゃないでしょ
「ルリちゃん、冗談を言っている場合じゃないでしょ。早くライスターさんを治しなさい」
「でもシャイナ様。治したらあいつ、またシャイナ様にエッチな事をするかもしれませんよ」
「うっ、でっでも・・・」
ルリちゃんの言葉に一瞬怯む私。そんな私に今度はシルフィーが追い討ちをかける
「そうですよぉ。シャイナ様、シャイナ様。ここまで来ると狙ってやってるとしか思えないし、このまま放置するってのはどうですかぁ? ルリさんもちゃんと鎧を狙って死なないように工夫をしたんだから、このまま放置しても大丈夫ですよ、きっと」
そうか、そうよねぇ・・・ってダメよ、そんな事は! 一瞬心が動いたけど、間違いなく彼には悪気が無かったんだから助けてあげないと
「ダメです。ちゃんと治してあげなさい。彼だってわざとやってる訳ではないのだから。それくらいはルリちゃんも解っているんでしょ?」
「そうなんですが、心情的にちょっと。でも、シャイナ様の御言葉ですから治療を施す事にします」
そう言ってライスターさんに近寄るルリちゃん。そしてそのまま回復魔法をかけるだろうと思って見ていたんだけど、そんなルリちゃんが青い顔をしてこちらを振り向いた
「シャイナ様、まことに申し上げにくい事なのですが・・・少々力を入れすぎたようです。ブレストプレートが大きく破壊されて体に食い込んでいます。このままだと治療してもすぐに傷を負ってしまうのでこの鎧を何とかして頂けないでしょうか?」
「えっ! それって、大変じゃない!」
慌てて近寄ると、先ほどのモーニングスターが当たった所が大きく内側に窪んでいた。悠長に留め金をはずしている時間はなさそうだからと慌てて剣を取り出して鎧を切り裂き、取り除いてから急いでルリちゃんに回復魔法をかけてもらったから命に別状は無かったけど、さっきのシルフィーの言葉に乗っかって放置していたらきっと大変な事になってたわね
「ルリちゃん、流石にこれはやりすぎ」
「はい・・・」
回復し、穏やかな寝息に変わったライスターさんを敷物の上に寝かせ(膝枕をすると延々と同じ事を繰り返すだけからやめてくださいとルリとシルフィーに懇願された為に今回はそのままで)今度はルリを正座させて説教をするシャイナだった
最初に正座と書いてあるのを見て、今回の展開が想像できた方も多いでしょう。その通りの展開ですw
さて、これからもこの章でライスター君は登場しますが、ラッキースケベはこれで終わりです。私はこの手の話を書くことがあまり無いのでそれほど多くのシチュエーションを考え付くことが出来ないし、何より話が進まないので。ただ、別の章ではまたこのような事が起こるでしょうけどね