ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~   作:杉田モアイ

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43 ラッキー(?)な目覚め

 何が起こったのか一瞬解らなかった

 さっきまで毒で苦しんでいた騎士風の男の人はルリちゃんの魔法が効いたらしく苦しそうだった息も静かなものになり、顔色も戻ったのでもう一安心とほっと胸をなでおろした時に彼は目を開け、私を見て何かを言った

 

 「いっ今、何を言われたの?」

 

 余りの事に頭が着いてこない。確か今、

 

 「めっ女神様って・・・」

 

 女神様って・・・女神様って私の事っ!? えっ? えっ? 何が起こってるの? どどどっどういう事なの?

 女神様と言う言葉の意味をはっきりと認識した瞬間に顔が一気に熱くなり、頭はより一層混乱する

 

 「そうですね。シャイナ様は確かに女神様のように御綺麗ですよぉ」

 「シルフィーさんもたまにはいい事を言いますね。確かにシャイナ様は御優しく、慈悲深く、至高であり女神様のように御美しい御方です」

 

 私が混乱している間にルリちゃんとシルフィーが騎士風の男の人の意見に賛同する発言をしてきた。ちょっと待ってよ、私が美しいって!? だって、私よ? 肌も浅黒いし、背も高い。髪だってアルフィンの艶のあるプラチナブロンドのように繊細でもなければ綺麗でもないし・・・第一、女神様って普通色が白くて華奢で綺麗な髪をしていて神々しくて・・・それにそれに、もっとこう優しい微笑の似合う存在じゃないの?

 

 「ななななっ何を言っているの? 女神様ってアルフィンみたいに肌が透けるように白くてさらさらの髪で優しい微笑みが似合う人でしょ。ゴツくて大きくて褐色の肌の私が女神って!?」

 「シャイナ様、シャイナ様。シャイナ様は別にゴツくないですよ。前衛職とはとても思えないほど女らしい柔らかな印象を与える御姿です。それにとても御優しいです。先ほども自分の事より、私たちの心配を先になされましたし」

 「そうですよ。アルフィン様のように透けるような白い肌ではありませんが艶やかさ、キメの細かさでは負けておりませんし、私どもにいつも向けてくださる微笑は慈愛に溢れ、その御姿はとても神々しくていらっしゃいます。(小声で)それにとてもいい匂いがします。私から見ても女神様に見えますよ」

 

 私がいくら否定しても、この二人からは女神と言う表現を肯定する意見しか出てこない

 

 そっそうか、この二人は誓いの金槌所属だけにプレイヤーキャラクターである私の事を必要以上に美化しているに違いない。特にルリちゃんはマスターに作られたNPCなのだから余計にその傾向が強いはずよね! うん、ならば第三者の目で冷静に見てもらおう。そうすればはっきりするはずだ

 

 そう思い、私の腕に抱かれたまま先ほどから一言も発しない騎士風の男の人に声を掛けた

 

 「ねえあなた、さっきの言葉ってどういう意味なの? めっ女神様って・・・毒っ! そう、先ほどまで犯されていた毒で目がかすんで見間違えたのよね! 思わず言ってしまったのよね!」

 

 ・・・返事がない、ただの屍のようだ・・・じゃなくて、女神発言で気が動転していたからなのか彼に声をかけて初めて気が付いたのだけど、この人、眠ってしまっているみたいね

 

 「あっシャイナ様、<ヒール/大治癒>が使えれば状態をすべて回復させる事が出来るのですが、私では使えません。私の魔法では残念ながら毒を消すのとその毒によって傷ついた体を直す事、そして少しの体力を回復させる事しか出来ませんでした。その人は先ほどまであと少しで死ぬほど弱っていましたし、そのせいだと思うのですがとてもお疲れのようでした。あくまで私見ですが、多分傷が癒えた事により体の不調や傷の痛み、息が苦しいなどの苦しみなどから解放されたのでその安心感から体力回復の為にお休みになられたのではないでしょうか?」 

 

 ああ、なるほど。確かに傷は治っただろうけど体力は戻った訳ではないから、寝てしまったのも仕方がないか

 

 「そう言えば『自分は死んだのか』なんて言ってたわよね。なるほど、だから私の事を女神だなんて・・・あんな可笑しな事を言ってしまったのね」

 

 冷静になって思い出すとそんな事を言っていたような? そうか! 自分が死んだと思ったのなら目の前にいる人が女神様だと勘違いしても仕方がないよね。なるほど、これで納得したわ。そうで無ければ私を見て女神様と勘違いするなんて事はないはずだもの

 

 でもどうしよう? ずっと抱いている訳には行かないし・・・

 うん、そうね。仕方がないか

 

 

 

 シャイナは騎士風の男を起さないよう慎重に自分の体の位置を動かし、男の背の方に移る。そして正座をすると防具である腰だれをはずして頭が膝の少し上くらいの位置に来るよう、ゆっくりと下ろした。ようは膝枕である。元の位置のままでも良かったのだが、病み上がりの体では横向きより仰向けの方が寝やすいだろうし、そうなると太腿の上に頭を乗せたのでは高くなりすぎて息が詰まってしまうだろう。その為の配慮でこのような体勢を取る事にしたのだ

 

 ところがこれに対してルリが慌てる。それはそうだろう。シャイナはルリからすれば至高の存在。そんな御方が誰とも解らない男に膝枕をしてあげているのだから

 

 「しゃっシャイナ様。いけません! そんな事は私がしますから御変わりください」

 「シャイナ様、シャイナ様。御優しいのは解りますが、シャイナ様がそこまでする事はないんじゃないですかぁ?」

 

 慌てる二人を見てシャイナは思わずクスクスと笑ってしまう。「パンツタイプの下穿きで素足じゃないし別にいいじゃない、膝枕くらい」そう思っているシャイナからすれば、この二人の姿はとてもおかしく思えたのだ

 

 「大丈夫よこれくらい、別に変わってもらわなくてもいいわ。でもシルフィー、長時間この体勢で居るのは大変かもしれないから重さ軽減の魔法をかけてもらえるとうれしいかな? 後ルリちゃんも、上鎧をはずすのを手伝ってもらえると嬉しいなぁ。一人ではずせない事はないけど、この人を起してしまいそうだからね」

 

 そう言うと、シャイナは二人に向かって微笑みかけた

 

 

 ■

 

 

 シャイナ様はご自分がどれ程尊く、御美しいか御解りになっておられない

 ルリが目を向けるとその先ではシャイナが男の髪をなでながらクスクス笑っており、その横ではシルフィーが体力回復の効果があるという魔法の風を送っている姿が見て取れた

 

 「あの男がシャイナ様を見て女神様と間違えたのも、シャイナ様は意識が朦朧としていて見間違えたのだと思われているようだし・・・」

 

 そんな事はない。目を覚ました瞬間、あの男の瞳はしっかりとシャイナ様の御姿を捕らえていた。たぶん、目を覚ました瞬間、危険が迫っていてもすぐに対処できるよう訓練されているのだろう。その後すぐに眠ってしまったのは自分の身の安全が確認できて安心したからに違いない。私の記憶にあるあの瞳の輝きを思い出す限り間違いない。彼は本当にシャイナ様を見て女神様と見間違えたのだ

 

 「どうしてシャイナ様は御自分が女神と見間違うほど美しいと御認めにならないのだろう?」

 

 至高の御方であるという部分を除いてもシャイナ様は御美しいと女の身であるルリの目から見ても思う。しかし、先ほどのシャイナ様の御言葉からするとアルフィン様から比べると御自分はかなり劣ると思われている節がある

 

 「確かにアルフィン様は御綺麗です。でもシャイナ様もそれに劣らず御美しいと思うのだけど」

 

 優しく笑うシャイナを見ながら、あの聖母の如き優しさに溢れた美しさをどうお伝えすれば解って頂けるのだろうかとルリは頭を捻るのだった

 

 

 ■

 

 

 騎士風の男の人の髪をなでながら横目でルリの顔を窺う

 

 「あの感じからすると、まだ私が本当に女神様ほど美しいのにとか思ってそうだなぁ」

 

 そんな訳ないのに

 

 

 シャイナは本当に自分の事をそれほど美しいとは思っていなかった。なぜなら彼女の周りには本当に美しい人ばかりがいるのだから

 

 さらさらのプラチナブロンドをなびかせ、透き通るような肌とルビーのような真紅の瞳を持つアルフィン。自分と同じ様に背が高いのにとても女らしく、アルフィン同様透けるように白い肌と慈愛に満ちた微笑を常に回りに向けるメルヴァ。まだ子供ながら、小悪魔的な微笑とエルフ特有の神秘的な雰囲気を併せ持つあやめ。こんな存在に囲まれていては、背が高く、肌も褐色で体つきも前衛職なのだからきっと周りからは筋肉の塊のように見えているのだろうと思い込んでいる(注釈:キャラクタークリエイトで作られたのだから、実際は筋肉などまるでない、女らしい柔らかな体型です)シャイナにとって自分が美しいなんてとても思えないのだ

 

 「大体私の事を綺麗だなんて、今まで誰からも言われた事無いんだから、この人が寝ぼけて言ったに決まってるじゃない」

 

 シャイナは自分の膝の上で寝息を立てる騎士風の男の寝顔を見ながらそう考える。しかしそれは根本から間違った考えだ

 

 誰からも美しいと言われた事が無い? それはそうだ。何せイングウェンザーは主人公が作ったNPCしかいないのだからほとんどが女性キャラなのだから。いや、もし男性キャラが多かったとしても至高の存在である6人に対して軽々しく美しいとか言う者はいないだろう。そんな環境なのだから、シャイナが美しいと思っている3人も他の者から美しいなんて言われた事は当然ほとんど無い。いや、もしかしたら村に出向いた事があるシャイナの方が言われた事が多いのではないだろうか? まぁ、本人はその時の事も心の底からの言葉ではなく、自分たちを救ってくれた人に対するお世辞で出た言葉なのだろうと思っているようだが

 

 「でも大丈夫、この人が起きればルリちゃんもきっと解ってくれるよね」

 

 解らされるのはシャイナの方である。シャイナはまだ知らない。自分がこの世界の者からしたら本当に女神様と見紛う程の美しさを持っていると言う事を

 

 

 ■

 

 

 シャイナ様って綺麗だよね? でも、シャイナ様はそうじゃないって言うし。人間の美的センスは私たちと精霊と同じじゃないのかなぁ? でもルリさんは御美しいって言ってるよね?

 

 シルフィーはなぜシャイナが頑なに自分が綺麗であるという事を認めないのかが解らない。精霊は美しいものは美しい、醜いものは醜いとはっきり区別する。その精霊であるシルフィーは、自分の瞳に映るシャイナの姿が美しいとしか表現出来ない存在であると感じられていた

 

 今、目の前で見知らぬ人間の髪をなでながら微笑んでいる姿を見て、美しいと感じない人がこの世に居るのかなぁ? と疑問にさえ思ってしまう。それほどシルフィーにとってシャイナと言う存在は美しく感じられていた

 

 「私はこの世界に生まれたばかりだから知らないだけなのかなぁ?」

 

 確かに先日あやめ様に連れられて御会いしたアルフィン様は美しかったけどシャイナ様も負けず劣らず綺麗だと思うし、今の御姿は女神と言っても誰も否定しないくらい慈愛にあふれてると思うけど・・・

 

 自分がシャイナやルリとは違う存在であるとシルフィーは自覚している。それだけにシャイナが言っている事とルリが言っている事、そのどちらかが本当に正しいのかが解らない。自分の美的感覚からするとルリが正しいと思うのだけど、シャイナ様は至高の御方でその御言葉は常に正しいはず。ならばシャイナ様が言うようにそれほど美しくはない? でも、どう考えても御綺麗よねぇ

 

 「う~ん、よく解んないや。帰ったらあやめ様に聞いてみよっ」

 

 いくら悩んでも答えは出ないとあきらめてこの問題は棚に放り上げ、今は目の前の大好きなシャイナ様を見つめる作業に戻るシルフィーだった

 

 

 ■

 

 

 眠ってしまってからどれほどの時間が経っただろうか

 

 「んっ・・・」

 

 ライスターは心地よい風に吹かれ、頭の後ろに柔らかな感触を感じながら意識を取り戻した

 

 眠ってしまった時と同じ様にかぐわし香りに包まれ、穏やかな気持ちのまま目を開ける。そしてその瞳に映ったのは・・・

 

 なんだろう、これは?

 

 自分は死んでしまったものと思い込み、すべての警戒を解いてしまったいるライスターはいつもとは違い、目が覚めても気が抜けたままだ。その為、まだまどろみの中にいるままの少し呆けた頭で目の前の物体が何なのだろうかと考える。布と鎧に使われるような皮でできたでっぱりが顔の前にある。呆けている頭ではそれが何か解らず、彼はつい軽い気持ちで右手を上げてそれが何か確かめてみた

 

 むぎゅっ

 

 とてもやわらかく適度な弾力を持ったその感触と

 

 「きゃあーっ!」

 

 と言う女性の声。そして自分の手を払いのけ、その触った柔らかな物体を包み隠すように抱きしめた両手を見て始めてそれが女性の胸だとライスターは気付く

 

 「なっ!?」

 

 その瞬間、ライスターの頭は完全に覚醒した。と、同時にとんでもない事をしてしまったと思って謝る為に慌てて身を起・・・こうそうとして失敗を重ねてしまう事となる

 

 ぼよんっ

 

 目の前にあった胸が大きすぎて、起した頭がそのままその女性の胸に当たり、跳ね返されてしまったのだ。これにはライスターも何が起こったのか解らない。いや、女性の胸に頭が当たったのは解る。でも、自分は仮にも鍛え上げた元冒険者の男だ。その自分が跳ね起きたのにそれを跳ね返すなんて・・・

 

 女性の胸と言うのはこれほどの弾力を持つものなのか!?

 (注釈:すべての女性がそうではありません)

 

 と同時に跳ね返されて戻った頭に感じる柔らかな感触

 

 「こっ!? これは!」

 

 混乱しながらもライスターは確信する。これはとても胸の豊かな女性が膝枕をしてくれているのだと。そして、それと同時に彼は期待する、この女性はもしかすると先ほど眠ってしまう前に見た女神様なのではないかと

 

 そう思った瞬間にライスターは先ほどの女神様の香りと先ほど目覚めたときに感じた香りが同じだという事を思い出し、つい胸いっぱいに息を吸い込もうとして

 

 「このスケベで大馬鹿者の無礼者がぁ~~~~~~~!」

 

 真横から強烈な妖精のドロップキックを頬に喰らってまた気を失う事になってしまった

 

 彼は知らない。ここで気を失った事が彼にとって一番の幸いだったという事を。なぜなら顔を真っ赤にして悲鳴をあげたシャイナを見て怒りに燃えたルリがどこからともなくモーニングスターを取り出して構え、先ほどドロップキックをかましたシルフィーも両手に風をまとって自分が使える最大の攻撃魔法を放とうとしていたのだから

 

 この後、それを見たシャイナが慌ててとりなさなければ、彼は二度と目覚める事はなかっただろう

 

 

 ■

 

 

 騎士風の男が眠ってしまってから約1時間

 

 はじめの内は癒しの風を送っていたシルフィーも男が十分に体力を回復したであろうと感じる程度の時間が経過した後はいつものようにシャイナの肩に座って、アイアンホース・ゴーレムの背負わせたマジックバックから取り出したシートを広げてお茶の用意をしたルリと漫才を再開し、シャイナもお茶を楽しみながらその二人を見てクスクスと笑っていた

 

 もぞもぞ

 

 たまに騎士風の男が頭を動かしてむず痒い。しかし体を動かすという事は眠りが浅くなっている証拠。きっと毒によって失われた体力もほぼ回復したのだろう。先ほどからその回数も増えてきたし、この様子ならもうすぐこの人も目が覚めるだろうし、そうしたら何があったか聞く事にしよう

 

 「それに先ほどの女神様発言が寝ぼけて言ってしまったものだとルリちゃんに説明してもらわないといけないしね」

 

 そう言ってそっと目を男の方に向ける

 すると男は不意に寝返りを打ち、無意識なのだろう枕代わりのシャイナの太股をなでた

 

 「ひゃうっ!?」

 

 この不意打ちには流石にシャイナも驚き、つい声を上げてしまう。そしてそれにいきり立ったのが従者の二人で

 

 「こいつ、よりにもよってシャイナ様のおみ足を撫で回すとは!」

 「シャイナ様、シャイナ様。こいつ、消し飛ばしましょう!」

 

 と、二人そろって大騒ぎだ。そんな姿を見てシャイナも嬉しく思い、しかしそのまま黙っている訳にも行かずに、少しだけ朱に染まった頬を緩めながら宥める言葉を口にする

 

 「まぁまぁ、この人も無意識でやった事なんだからそこまで怒らなくてもいいわよ。それとルリちゃん、撫で回すと言う表現はやめなさい。なんかいやらしい事、私がされたみたいじゃないの」

 「はい、すみません、シャイナ様」

 

 もぞもぞ

 

 そんな自分たちの会話がうるさかったのか、男はまた元の仰向けの体勢に戻りすやすやと寝息を立て始めた。しかし、これだけ寝返りが多い所を見ると、思ったより目がさめるのも早いだろう

 

 「ルリちゃん。この人、もうすぐ起きそうだから、その時はこの人の分のお茶もお願いね。少し話を聞きたいから」

 「はい、解りました」

 

 次にシルフィーにも何か言わないといけないかな? なんて思っていると

 

 「んっ・・・」

 

 下の方から声が聞こえてきた。ああ、これは本格的に覚醒が近いんだなぁなんて思っていたんだけど、その時

 

 むぎゅっ

 

 一瞬何が起こったから解らなかった。胸に伝わる嫌な感触。そして恐る恐る視線を下ろすと、信じられない事に男の人の手が自分の右胸を鷲づかみにしていた

 

 「きゃあーっ!」

 

 慌てて手を払いのけて、自分の体を抱きしめる。ちっ痴漢? おおおっ男の人に胸を、胸を触られてしまった!?

 

 エロに対して極端に厳しいユグドラシル出身のシャイナはこんな事をされた事など当然初めてだ。マスターが幅広くラノベや漫画をそろえてくれているおかげでこういうシーンを見た事があるし、シャイナの好きな少女マンガでもまったくこのような場面がないわけではない。でも、それがいざ自分に降りかかった時に何をどうしたらいいか解らず、その上頭が真っ白になってしまって何も考えられなかった

 

 どうしよう、どうしよう、どうしよう!?

 

 頭の中は混乱と恥ずかしさでいっぱいである。そんな状態のシャイナにさらに追い討ちが掛かった

 

 ぼよんっ

 

 先ほど胸を触った男が、今度は事もあろうにその胸に下から顔をうずめてきたのだ

 (注釈:顔をと言うのはあくまでシャイナの主観です。実際は頭でした)

 

 「っ!!!!!」

 

 こうなるともう声も出ない。恥ずかしさの余り手は震え、顔は耳まで真っ赤になった。頭の中はさらに真っ白になり「ああ、痴漢にあった子がなにもしゃべれなくなるって漫画に描いてあったのは本当なんだ」なんて事までぼんやりと考え始める始末

 

 「こっ!? これは!」

 

 しかしシャイナの受難はこれでは終わらなかった。なんとこの男、自分の太股の感触を味わうかのごとく、頭をもぞもぞと動かし始めたのだ。こうなるとシャイナの頭はより一層パニックに陥り、とうとう体を抱きしめていた腕を解き両の掌で顔を隠してしまった。また胸をまた触られるかもしれないという恐怖よりも、とにかくこの状況から目を背けたいという感情の方が強く現れたのである

 

 そんな姿を見て黙っている従者二人ではない

 

 ジャラッ

 

 紅く怪しい光を目に、ルリが中空からモーニングスターを取り出し構える。そして

 

 「このスケベで大馬鹿者の無礼者がぁ~~~~~~~!」

 

 シルフィーがいつものルリに対して行うものと違い、自分が放てる最高の物理攻撃である全力のドロップキックを騎士風の男の頬にたたきつける!

 

 ドガッゴロゴロゴロガシャァ~ン!

 

 質量その物は小さいものの、仮にも35レベルの召喚モンスターである。もし彼が鉄の冒険者レベルであったならこの一撃で事切れていただろう。また、すべての力を抜いていたのも幸いだったのだろう、すごい勢いで吹き飛ばされたものの死にいたる事はなかった。しかし、彼の意識はこの一撃でまた闇に閉ざされる事となる

 

 「シャイナ様、御下がりを。ただいまこの男をミンチにして御覧にいれて差し上げます!」

 「シャイナ様、シャイナ様。私の風の魔法の威力、とくと御覧ください。このスケベ野郎を細切れにして見せますよぉ」

 

 騎士風の男が吹き飛ばされる音と二人の狂乱の雄たけびに、パニックだったシャイナの頭も一気に冷える。まだ多少恥ずかしさで顔は赤いものの、そんな事を言っている場合ではないらしい。今止めに入らないと、とんでもない事になると言う事くらいはシャイナにも解ったからだ

 

 「ちょっと待って、二人とも!」

 

 片やモーニングスターを振り回し、片や両手に風の魔法を纏ったままシャイナの方を振り返る。その顔に浮かぶ般若の形相に怯みながらも

 

 「とにかく、私は大丈夫だから。いくら痴漢行為をしたからと言っても殺すのは流石にやりすぎよ! マ・・・アルフィンなら絶対に許さないわよ!」

 

 アルフィンの名前を聞いて矛を収める二人

 ここでマスターの名前を出すのは卑怯かもしれないけど、被害者の私がいくら止めてあげてと言ってもこの子達は止まらなかったと思うし、仕方ないだろう。それに彼は先ほども私の事を女神様と見間違えたくらいだし、きっと寝覚めが悪い人なんだと思う。そう考えるとさっきのも寝ぼけての行動かもしれないし、少しは寛大な気持ちで許してあげないとね

 

 そう思い、吹き飛ばされた男の方を見て

 

 「うう、でもやっぱり恥ずかしかったよぉ~」

 

 もう一度耳まで紅く染め、顔を覆うシャイナだった

 

 ・・・早く治療をしないと彼がまた生死をさまよう事になるであろう事にもまだ気付かずに

 

 




 すみません、お酒飲んで寝てしまったのでこんな時間での投稿です(汗)

 さて、読んでもらえたら解ると思いますが今章初登場のライスターさん、ラッキースケベ要員です

 このSSは女性キャラばかりなのでエロ要素がほとんどないんですよね。本当はメルヴァにその役をやってもらおうかとも思っていたのですが、アルフィンが思った以上にポンコツになってしまったので彼女担当のメルヴァは比較的まともにならざろう得ません。そこでシャイナ相手のラッキースケベ要員として登場してもらいました


 次回ですが、来週日曜日は用事があって夜遅くにならないと帰れません。すみませんがいつもは日曜更新の所を次回だけは月曜更新にさせていただきます

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