ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~ 作:杉田モアイ
先ほどのエルマショックを気取られないように、シャイナが表情と態度を取り繕う時間を稼ぐようにアルフィンはゆっくりと歩く。自分自身もまだ完全には心の動揺を鎮め切れていない事を理解しながら。それはそうだろう、今から向かう先には先ほどとんでもない衝撃を与えた張本人が、かわいらしい笑顔を浮かべて姉の服のすそを掴みながら自分たちが近くに来るのを待っているのだから
「(いけない、ちゃんとしないと。こんな状態では変な人だと思われてしまうわね)」
再度心を安定させる為に後ろを歩くヨウコに声を掛ける振りをして小さく深呼吸をし、シャイナがちゃんとした態度を取れるまで回復したのを確認してから前を向く。そしてその私の目に入ってきたのが
「(マスター、シャイナならともかくマスターまでそんなんじゃダメじゃないですかぁ)」
と言うまるんの苦笑いを含んだ困り顔だ
はうっ!
思わず怯みそうになるも、そこは気力で何とか踏み留まり改めてにっこり笑う。ここで表情に出してしまったら何もかも”おしまい”になりそうだしね。心の中だけで半泣きになりながら、ユーリアちゃん達の前まで歩を進め、そして腰をかがめて目線を合わせてから声を掛ける
「こんにちわ、ユーリアちゃん、エルマちゃん。お久しぶりですね。私の事は覚えていてくれたかしら?」
「はい、アルフィンさま。お久しぶりです。今日はおまねき、ありがとうございます」
「あるふぃんさま、ありがとぉございます!」
そう私が挨拶するとまずユーリアちゃんが、そして少し遅れてエルマちゃんがぺこりと頭を下げて挨拶を返してくれた
うわぁ~、やっぱり可愛いなぁ
っ! いけない、少しでも気を緩めたら顔がだらしなく緩んでしまうわ
うんっ! これはレイドボスとの戦闘並に気を引き締めて掛からないとダメみたいね。この二人は危険すぎる。少しでも油断したら、あっと言う間にやられてしまいかねないわ。その証拠に後ろからはすでに陥落してしまい、デレデレになってしまったシャイナの気配が伝わって来るもの
とりあえず体勢を立て直すために一度ユーリアちゃん達から目線をはずし、後ろで控えているヨウコに声を掛ける
「ヨウコ、私たちの席とお茶の用意をお願いね」
「畏まりました、アルフィン様。あと後ほどの待合会場での立食で御出しするお菓子と果実水のサンプルも御用意致しましょうか?」
ヨウコの言葉にゆっくりと頷き肯定する。流石ギャリソン付きのメイドね。気が利くわ
ヨウコは私の表情を確認して何もない空間に手を伸ばし、そこに開いたアイテムボックスから椅子と机、パラソルを取り出してセッティングする。続けて近くのメイドにお菓子のサンプルを厨房から取ってくるように指示を出して、これまたアイテムボックスからティーカップとソーサーを人数分取り出して並べてから白いポットを取り出し、紅茶を注いだ
いつもならその場で一から入れる事が多い紅茶だけど、それだといつもお茶が入るまで私達はおしゃべりを始める事が無い。でも今日はユーリアちゃん達が居るので、そのような会話のエア・ポケットができないよう気を使ってあらかじめ用意しておいてくれたみたいね
それを見てシャイナなどは良くやった! とでも言いたそうな表情をしているし、これはヨウコのファインプレイだろう。各言う私も、早くユーリアちゃん達とお話がしたいからこの心配りはとても嬉しい
私とシャイナ、メルヴァの前にそれぞれ紅茶が用意され、その後ヨウコが私の後ろに控えた所でやっとおしゃべり開始。と言っても、私は猫をかぶっているので主にしゃべっているのはシャイナだけどね。彼女、一度表情が崩れてしまったのを見られたからか、もう体面など御構いなしでデレデレの表情全開で二人と身振り手振りを交えながら話している。ああいうのを見ると私も取り繕うのをやめればよかったかなぁなんて思うけど、横に座るメルヴァが小さく首を横に振っている所を見るとその行為は許してはもらえないようだ。ああ、自分の立場が恨めしい
「そう言えばあるさん、ドレスがいつものとは違うね」
「あらまるん、当たり前じゃないの。儀式魔法をみんなが見に来るのでしょ。それなら少しでも楽しんでもらえた方がいいと思ってセルニアに選んでもらったのよ」
「へぇ~、セルニアに選んでもらったんだぁ。なら大変だったでしょ」
そう言うとまるんはニパッ! と笑う。そんな事を言う所を見ると、衣装をセルニアに選ばせると物凄く大変な目にあうと言う事をまるんは知っていたみたいね。それならばあらかじめ教えてくれていたら良かったのに。まぁ、今更言った所で後の祭りだけど
「確かに大変だったわ。でもその甲斐はあると思うわよ」
「ユーリアちゃん、エルマちゃん。あるさんがそう言うくらいだから、きっととっても綺麗だと思うよ! 楽しみだね」
「「うん!」」
まるんの言葉から期待感が高まったのか、とても楽しみだと此方に伝わってくる最高の笑顔で答える二人。フフフッ、この二人の表情を見るだけで先ほどの苦労は無駄ではなかったと思えるわね。それに妥協したとは言えセルニアが選んだドレスは私から見てもこの儀式魔法(偽)ショーにぴったりな外見と性能を持ったドレスだと思う。このドレスと想定されている演出があれば、きっと誰が見ても満足してもらえる光のショーになると思うわ
ただ、それだけに少し惜しいなぁと思うの。それはなぜかと言うと、これはショーではなくて表向き儀式魔法(偽)なので音楽が使えないのよね。これに音楽がつけば本当に感動的なショーになると思うのになぁ。だけどメルヴァから
「アルフィン様、悪乗りのしすぎは後々苦労する元になるかと存じます」
と釘を刺されてしまったのよね。まぁ、確かに魔法に音楽は要らない。と言うより、あったら流石に誰が見ても変だと思うわ。と言う事で今回は断念したという訳。う~、だけど、やっぱりこの楽しみにしてくれている笑顔を見ると多少おかしいと思われたとしても音楽を入れた方が良かったんじゃないかとも思うのよ
でも私はこれですべてをあきらめた訳じゃないわ。今回の事で思いついたんだけど、200年近く前に作られた魔法使いの弟子に扮した擬人化ねずみが音楽に合わせて魔法を操る伝説のアニメのような魔法ショーをいつか作り上げたいと思う。そしてそれを子供たちに披露して人気者になるんだ! 今回はそのテストケースとして映像を記録するようにとメルヴァに言いつけてあるし、それを後日見ながら研究する事にしよう
この後、メイドたちが持ってきたお菓子(立食形式にする為にケーキやアイスクリームなど服にこぼした場合汚れるようなものは一つも無く、用意されたお皿の上にはクッキーやガレット・ブルトンヌ、マドレーヌやフィナンシェと言った焼き菓子が並んでいた)を確認し、ユーリアちゃん達に実際に食べてもらって意見を聞いてから、儀式魔法の準備のため席を立った。因みにユーリアちゃん達の反応はと言うと
「美味しすぎて何がなんだかわかりません」
「おいしいです、あるふぃんさま」
だそうだ。フフフっ、これならきっと招待した子供たちも喜んでくれるに違いないよね
■
ここはボウドアの館本館の2階正面側に位置する一室。普段は広間のような使われ方をする場所にソファーや机を持ち込んで私の控え室として急遽あつらえた部屋で、その窓からは庭を見渡す事ができる。夕暮れが近づく庭にはボウドアの村からユーリアちゃんのお母さんが連れてきた子供たちと、カルロッテさんが連れてきた別館の子供たちが仲良くお菓子や果実水を楽しみ、その美味しさに歓声を上げていた
私はそんな子供たちの声に喜びを感じ、その風景を窓越しに眺めてほほを緩ませる。外からこの部屋を窺う者は、当然誰も居ないので先ほどのように緊張をして表情を取り繕う必要は何もなく、私はすっかり気を抜いていた
客観的に見て、今の私の姿は自分で言うのもなんだけど傍から見たらデレデレと表現するのがぴったりのとてもだらしないものだろう。そんな風に自分でさえ自覚できる程情けないものなので、正直シャイナあたりにこの表情を見られたとしたらきっと「私の事をとやかく言える表情ではないよね」と言われてしまう事だろうね
「でも仕方ないじゃない、さっきはメルヴァの目が逢ったから自重しなくてはいけなかったんだから」
そう自分に言い訳をして、庭で喜んでいる子供達を眺めながら相貌を崩す。・・・なんて格好いい言い回しで表現をしているけど、ようはデレデレ顔で子供達を見ているだけだったりする。だって、そうでもしないと今の姿を自覚しちゃったから流石に自分でも情けなくなっちゃうでしょ
そんな私の後ではココミがソファー前のテーブルの上に用意されたにもかかわらず、窓の外の風景に夢中の私に放置されて少し冷めてしまった紅茶をわざわざ入れなおしてくれてくれていた。その事に気付いて少しだけ罰が悪くなった私は、窓から離れてデレデレだった顔を意志の力で何とか修正し、すまし顔を作ってソファーに座わる
そのままの姿勢でココミが紅茶を入れ終えるのを待ち、後ろに控えたのを確認してからその紅茶に一口、口を付けて満足げにほぅと息を漏らす。そして、落ち着いた雰囲気を演出してから窓の方を眺めて外の喧騒に満足したような表情を作って、ココミに声を掛けた
「みんな喜んでくれたみたいね」
「はい、シャイナ様の御選びになられた御菓子は子供たちに好評な様子で、私もほっと胸をなでおろし通ります。ただ」
遠くに子供たちの声を聞き、私に倣って窓の方に視線を送って微笑みながら私の意見を肯定するココミ。しかし、最後に少し気になる事があるような態度を見せた。何か問題点でもあるのかしら? もしあるのなら、今の内に対処をしておかないといけない
「ただって? 何か問題が生じてるの?」
「あっ・・・いえ、問題が生じている訳ではございません。ただ、あまりに好評の為にかなりのペースでお菓子が消費されていまして」
ああ、もしかして
「用意したお菓子が足りなくなってきたの?」
「いえ、幸い御菓子のストックはこの館が城と直接繋がっているおかげで不足を心配する必要はまったくございません。人数がこの10倍になったとしても十分賄えると思われます。ただ、御菓子が好評すぎる為にこのペースで食べ続けますと、折角シャイナ様が御自ら吟味なされました御夕食を皆さん、食べられなくなるのではないかと心配でして」
ああ、なるほどね。ココミが心配しているのはシャイナが自ら選んだ夕食メニューを前に、子供たちがそれに誰も手をつけなくてがっかりするのではないかと考えている訳だ
「大丈夫よココミ、もし心配なら窓から外を御覧なさい。そうすればシャイナがまるんと一緒に子供たちに囲まれて嬉しそうな顔をしている姿を見る事ができるわ。あの状況なら後の事を考えてお菓子を控えなさいと子供達に注意して夕食を食べてもらうよりも、たとえ夕食が食べられなくなったとしても子供たちが笑顔でお菓子を食べ続けてくれる姿を見続ける方が彼女にとっては幸せなのだと誰が見ても考えると思うわよ」
「そうですね、あの御様子なら・・・。はい、今まで通り無くなった皿に随時御菓子を供給するようにと指示する事に致します」
窓から外の様子を確認し、私の言葉が正しいと確認したココミは微笑みながらそう言うとドアに近づき、少しだけ開けて外にいるメイドに私の指示を伝えた。そしてココミが再度私の元まで戻ってきたところで扉をノックする音が部屋に響く
「どうぞ」
私がそう返事をすると「失礼します」と頭を下げ、メルヴァとセルニアがドアを開けて入ってきた。因みにメルヴァは先ほどまでと同じ黒いドレスだがセルニアはメイド姿ではなく、なぜか白に紺のリボンのついたドレスに着替えていた。それに髪型も先ほどまでの目立たぬように結い上げていたものからは打って変わって、ドレスとあわせた白と紺のリボンによっていつもの見慣れたツインテール姿になっている
「あれ? セルニア、今日はメイド服でいるんじゃなかったの?」
「そのつもりでしたのですが、子供たちの人数が思いのほか増えてしまったのでセルニアさんもホスト役の一人として参加してもらう事に致しました」
私がセルニアに掛けた言葉をメルヴァが換わりに答えてくれた。ああ、なるほど。確かに進行や世話役はメイドたちだけで出来るけど、迎え入れるホスト役は子供たちと一緒に遊んでいるまるんは役に立たない以上私とシャイナ、メルヴァの3人しか居ない。それなのに私は儀式魔法の為に指定の場所から動く事ができないのだから実質二人でまわさないといけなくなるのか。それでは大変だからと、急遽セルニアがホスト役に回されたのね
「私としてはコンセプトパーティーホール責任者として、アルフィン様のショーの進行が滞りなく進むよう裏方に徹したかったのですが、メルヴァさんが・・・」
「セルニアさん! そうやってアルフィン様を味方につけて逃げようとしてもダメです。ギャリソンさんが参加していない以上、あなたにもホスト役として責任を持った立場として行動してもらわないといけないのですから。解っていますね」
「はい・・・」
何とか逃げられないですか? と小動物のような目でセルニアが私の方を見つめてくるけど、メルヴァがあの調子では私が何を言っても無駄だろう。たとえば「ショーに少し不安があるからセルニアを裏方に戻してもらえないかな?」なんて言ったとしても、統括モードに入っているメルヴァ相手では「アルフィン様、そうやってセルニアさんを甘やかしてもらっては困ります」とまったく目が笑っていない満面の笑みで説教されるのがオチである。あれ・・・怖いのよ、ホント。なのでセルニアには悪いけど、今回はホスト役としてがんばってもらおう
「それではアルフィン様、あと1時間ほどで日が暮れますのでショーの段取りの最終確認を。その後速やかに指定の位置まで移動していただくことになりますが、私たちはホストを務めなくてはならないので残念ながらご一緒できません。ですが代わりにヨウコが後ほどここに参ります。彼女はショーの責任者としてすべての段取りを頭に入れているので、恐れ入りますが彼女の指示に従ってください」
「解ったわ」
いよいよね。人前でショーをやるのはユグドラシル時代以来。それもここ2~3年ほどはお客さんもほとんど来なくなっていたから本当に久しぶりでちょっと緊張するわね。でも大丈夫、あの頃のようにすべてを自分ひとりでやる訳ではないんだから。今は自キャラたちが居るし、プログラムではなく本当の意味で手助けしてくれるNPC達も居る。何も心配しなくてもきっと成功するはずだ
■
「皆さん、もうまもなく儀式魔法を始めようと思います。安全な魔法ではありますが術者達の集中を乱さない為、観覧エリアから出る事の無いようにお願いします。あ~、でも席を立ち上がったり声を上げたりしてもアルフィンなら大丈夫だから、綺麗だったり驚いたりしたら声を上げてもいいからね」
最初の内は書かれていたものをただ読んでいただけだったシャイナだけど、その言葉に子供達が緊張しだしたのかな? 急にざっくばらんなしゃべり方になったわね。その後もやれ「見たことも無いような綺麗な魔法だよ」とか「アルフィン、とっても綺麗だから見とれちゃダメだよ」なんて言いながら会場を盛り上げている。そして
「うん、完全に日が暮れたね。それじゃあ、魔法の明かりを消します。月明かりはあるけど、明るいライトの光に目が慣れているだろうから真っ暗になったような錯覚を覚えるかもしれないから気をつけて。でも大丈夫、こちらに向かって手を振ってくれている6人のお姉さん達が見えるよね、あのお姉さん達が魔法陣に光を灯してくれるからすぐに真っ暗じゃなくなるよ。だからぜんぜん怖くないから安心してね。それじゃあ始めるね。3・・・2・・・1・・・光よ、消えろ!」
そうシャイナが唱えるとテントに設置されていた魔法の明かりが一斉に消える。それと同時に注意喚起されていたにもかかわらず小さな子供達を中心に不安感が広がって行った。しかし、その不安も一瞬で消え去る事になる
「うわ~!」
「きれぇ~」
六芒星の頂点に立つ様に位置していた白いローブに身を包んだ魔女っ子メイド隊の子達があらかじめ足元に書いておい魔法陣に一斉に魔力を注ぎ込む。するとそれぞれが赤、青、黄、緑、橙、紫の色を基調とした白っぽい神秘的な光を放ちだす。そしてその6色の光はやがて白い光の粒子となって六芒星の中心に集まり、もう一つの薄桃色をした白い光をたたえる大きな魔法陣を浮かび上がらせた
「アルフィン様、準備完了です」
「うん、行って来るね」
ヨウコの合図と共に私はフライの魔法で宙に舞い、魔法陣の30メートルほど上空に移動してからゆっくりと降下し、その中心へふわりと降り立つ
私の今着ているドレスは薄桃色を基調にしていて、その飾りとして肩や襟、胸元に少し大き目の純白のレースのフリルが付けられている。そしてそのフリルたちと三重構造になっているスカート(此方にも当然フリルが飾りとして付けられている)の一番外側が、私が魔法で重力などまるで感じさせない姿でふわりと降り立ったにもかかわらず、その小さな衝撃に反応して再度ふわりと舞い上がり、まるで上質な羽毛のようにゆっくりと舞い降りた
「すごい! すごい!」
「ふわっとなった! ふわっとなったよ!」
私が心に描いた通りの光景がそこには無事展開されたようで一安心。私のこの登場コンセプトはアニメなどで魔法少女が降り立った時に重力から解き放たれたかのように服のフリルがふわりと舞う姿なのよね。因みに、このドレスはそれを可能にするようにとユグドラシル時代にかなり苦労して開発したものなの
このドレス、魔法の装備なんだけど防御力は普通の布の服とほぼ同等、いや、もしかしたら普通の布の服より弱いかもしれない。ではこの服にはどんな魔法がかけられているかと言うと、それは重量軽減の魔法なのよね。普通この魔法はフルプレートなどのような重鎧を軽くする為に掛けられるもので、通常スピードが求められる戦闘ではこの重さを軽くすると言うのはかなり重要な要素でもあるから普通に防御力を上げる魔法付加よりもお金が掛かるものなの。なのに私はその魔法を服についているレースのフリルとスカートにその重さ軽減魔法を付加してこのドレスを完成させた。まさに採算度外視って感じでね。でもそのおかげで、元々ほとんど重さの無いレースのフリルは重さがほぼ0になって動くだけで舞い上がるようになり、三重構造のスカートも一番外側を一番軽くし、2番目3番目にもそれぞれ重さが変わるように重さ軽減魔法を付加した。それによってこのような演出が出来る装備が出来上がったわけだ
あ、因みにこれは5色の同コンセプトのドレスが作ってあって、本当は女児向け魔女っ子ヒーロー的なショーをやろうと思ったんだけど、NPCでは行動パターンをどうプログラムしてもうまく行かなかったので、お金が掛かった割にはお蔵入りなってしまったドレスでもあったりする
「(さて、ショーはここからが本番よ)」
私は、ゆっくりと立ち上がると手に持ったスティックを観客席の方を正面にして正眼に構える。それを合図にしてあらかじめ担当を決められていた子が弱い竜巻のような風を私の周りに作り出した。そしてその風に乗って渦を巻くように舞うよう他の子達が実体を持った光の粒子を作り出す
幻想的な光の渦の中、私は右の袖口のギミックのスイッチを入れた。すると上昇気流によって3枚のスカートが広がる。一番外側は70度ほどに、真ん中のスカートは45度ほどまで、そして一番中のスカートは裾の部分だけがほんの少しだけ広がる。これ、実は傘と同じ様な構造で、そのままでは軽すぎでチューリップみたいになってしまうのを防ぐように広がる高さを調節させるギミックになっているのね。そしてこのスカートのギミックはこれで終わりではない
今度は左の袖のギミックのスイッチを入れると一番上と真ん中のスカートがゆっくりと回りだした。これは意外と単純な構造で、まず大元となる一番下のスカートを作り、その上にレールを付けて回るようにしたスカートを二つ付けてあるだけなのよね。そしてそのレールの負荷を変える事によって外側は少し早く回り、内側はゆっくり回るようにする事によってより綺麗な姿になるように調整してあるの
回ると言っても、緩やかな風によって回るだけだからその回転速度は結構遅い。でも素材そのものを重さ軽減魔法で軽くしてあるので、その回るスカートはふわふわと舞う光の粒子と一緒になってゆらめいている。その上飾りとして付けられているレースの端は原材料に金糸や銀糸を使っているからレースそのものも光を反射してキラキラ光って幻想的な姿を見せるようにしてあるのよね。その効果は覿面で、その光景に子供達は見蕩れてもう声も出ないようで、ただひたすら目をキラキラさせてこちら見つめるばかりだ
「(さぁ、仕上げよ)<クリエイト・シャアク/小屋創造>」
周りの子達への合図としてステッキを振り上げてから一瞬の間を置いて魔法を唱え、周りの子達はその私のしぐさを合図に各自が制御を担当している光の粒子を空に巻き上げて一瞬目隠しの壁を作り出す。そして、その光の壁が消えた先には
「家だ! 家ができてるぅ!」
「すっごぉ~い」
私の魔法によって少し大きめな小屋、タイルで覆われた洗濯場と管理部屋だけしかない簡素な、しかししっかりとした造りの小屋が出来上がっていた。そしてその小屋を照らすように魔法の明かりがつけられ、その光に子供たちの目がなれた頃に各天幕に取り付けられた魔法の明かりが点灯して、子供達の興奮と大声援に包まれたこの儀式魔法(偽)ショーは閉幕した
すべての工程が終了して私は魔法陣からメルヴァたちの待つ天幕に向かって歩き出す。ああ、色々と大変だったけど本当にやってよかった
緊張から解き放たれたのと子供達の声援を受けた喜びで満面の笑みを浮かべながら観客席に向かって手を振り、子供達の笑顔を作る事ができた言う満足感で本当にこのショーを執り行って良かったと心の底から思うアルフィンだった
今回登場するクリエイト魔法ですが、始めはそのままパレス(館)にしようかと思ったのですが、どう考えても小屋と大きな館が同じ魔法ではおかしいと思いシャアク(小屋)しました
でも、あまり多くオリジナル魔法を出すのもおかしいかなぁ? まぁ、弊害が出るようなら後々パレスに修正するかもしれません。でもまぁ多分このままだとは思いますけどね
さぁ、明日はいよいよ10巻の発売だ。楽しみだなぁ