ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~ 作:杉田モアイ
20 女の子化
「それじゃあ、ユーリアちゃん、エルマちゃん、またね」
「うん! またね」
「またねぇ~」
まるんがユーリアちゃんたちと別れの挨拶をしているほほえましい光景を横目で見ながら、馬車の後ろに横4列縦5列で整列させられている19人の野盗たちの様子を窺う
あっ、リーダーだけは馬車のすぐ後ろにつながれているんだよね。他のメンバーと一緒にして何か悪巧みをされても困るから
因みに出発後は野盗のリーダーの後ろ、野盗たちの前にセルニアがアイアン・ホースに乗ってついて来る事になってる。それなら、何かリーダーが不審な行動をとってもすぐに解るからね
しかし縄でつながれているとはいえ、少しは抵抗するかと思ったんだけどなぁ
意外な事に誰も騒いだりする事も無く、全員おとなしく出発の時を待っている
「ねぇ、まるんから野盗たちは心が折られているらしいと話は聞いてるけど、あそこまで従順になるものだと思う?」
「う~ん、何とか逃げ出そうと考えているのもいるだろうけど」
そう言うとシャイナは野盗の後ろでニコニコしているセルニアに目を向けた
「店長が後ろから見てるからね。 アイアンゴーレムの頭を踏み潰した瞬間、野盗たち全員の顔が真っ青になっていたし、そんなのが常に見張っている状況で逃げ出そうとは考えないのかもね。 それに」
今度は野盗たちの左右にいる者に目を向けた
「店長と同じメイド服を着たヨウコとサチコがいるのも野党たちがおとなしい理由の一つなんじゃないかな?」
そう、出発前の野盗たちを見張っているのはセルニアだけじゃなく、右にヨウコ、左にサチコをそれぞれ配置して監視させている
別に拘束の魔法を使っているわけではないし、たとえ繋いであると言っても盗賊のスキルを持っているものなら縄なんか簡単に抜けてしまうかもしれないから念のための措置だ
「実力は店長とは比べ物にならないくらい弱いけど、服装だけ見ると同じだからね。 おまけに外見上は店長よりヨウコたちのほうが強そうだし」
「クスッ、なるほどねぇ」
シャイナの言葉に思わず、うなずいて笑ってしまった
比べるまでもない話ではあるけど、背が高くて凛々しい雰囲気のヨウコたちに比べて、店長は背も低く、顔も保護欲をかき立てられるような可愛らしい顔をしている
ヨウコたち二人より店長一人のほうが強いなんて、外見からは誰も想像すらできないんじゃないかなぁ?
店長が二人に外見上で勝っている所があるとしたら胸の大きさくらいだ
「確かにこの状況では逃げようが無いと考えてもおかしくないか」
「少なくとも監視がある状況では逃げ出そうとはしないだろうね。逃げるつもりならこちらが安心した後だと思うよ」
と言うことは逃げるにしても収監場所についてから隙を見てとか考えているのかな?
でもねぇ
「もし城についてから隙を見てなんて考えていたら、がっかりするんじゃないかなぁ?」
「何? そんなに凄い事になってるの?」
うふふ
つい思い出し笑いが出てしまう
「今までユグドラシルでも現実世界でも色々な建物の設計をしてきたけど、収容所の設計なんて初めてだったし、この世界の盗賊は鍵開けや垂直な壁を登る位はできるスキルを持っているだろうから、どうしたらいいか考えたのよ」
「なに? マスター、何か仕掛けでも考えた?」
う~ん仕掛けとか罠じゃないんだよなぁ
「私は盗賊じゃないから仕掛けとか罠を考えるのとかは苦手なのよ。だから他の手を考えたわ」
「それを見たら野盗たちは絶望するの?」
絶望はちょっと言いすぎじゃないかな?
でもこの野盗たちではどうしようもないのは確かよねぇ
「流石に絶望はしないよ。でも、逃げるのをあきらめるくらいのショックは受けるんじゃないかなぁ」
「なるほどね。まぁ、ネタばらしをしてもらったら楽しみが減ってしまうし、何を考えたのかは後の楽しみに取っておくかな」
期待されるほどの事はやってないんだけどなぁ
確かに多少大掛かりではあるけど、少なくともユグドラシルの常識を持っているシャイナでは驚くことは無いんじゃないかな?
「ところでマスター、ちょっと前から思っていたんだけど」
「ん? なに? どうかしたの?」
長身のシャイナが私と身長を合わせる為に少し身をかがめ、内緒話でもするかのように口に手を当てて顔を近づけてきた。察する所、どうやら何か周りに聞こえてはまずい話をしたいらしいので、私も耳をシャイナのほうに向けて聞く体勢をとる
するとシャイナは耳元でこう呟いた
「マスターって、リアル世界では男性なんだよね」
「そうよ」
何を今更解りきった事を聞いてくるんだろう? リアルの私の性別は、シャイナもプレイヤーキャラクターなのだから聞くまでも無く当然知っている事だと思うのだけど
「今のマスター、どこからどう見ても女性に見えるんだけど」
「当たり前じゃない、アルフィンの体を使っているんだから」
何を当たり前の事を言っているのだろうか?
そう、この瞬間までは私はこう思っていました。 でも
「いや、そうじゃなくて、外見ではなく内面。”マスターの性格が”女性そのものにしか見えないと言う話だよ」
「へ~、性格がねぇ・・・・えっ! ええ~っ!?」
つい大声が出てしまって、周りの視線が何事が起きたのかと私に一気に集中する
ギャリソンなんか何事が起きたのかと、すぐに今やっている城に帰るための準備をメイド二人に任せてこちらに走り出したのだけど、気を利かせたシャイナがたいした事ではないからとあわてて静止してくれたので助かった
よかったぁ~、あのままギャリソンが来ていたら下手な言い訳を考えなくてはいけなかった所だよ。正直今は、あまりの驚きにそんな事を考え付く余裕が無いから助かった
でもでも
「シャイナ、女性化しているって何時頃気が付いたの? て言うか、本当に女性化してるの? 私って」
「気付いたのはこの世界に来て二日目くらいかなぁ? あ、女性化は絶対してるよ。だって私の知っているリアルのマスターは「うふふっ」なんて笑うはずないし」
ガガ~ン! 言われてみれば確かにそうだ
ユグドラシル時代、女性キャラを使っている時の声はゲームの機能にある変声機で今の自キャラたちと同じ声に変えてはいたけど、フレンドやお得意様にはちゃんと中身は男だと話していたからそこまでのロールプレイは必要なかった。だから、当然ユグドラシル時代でもそんな風に笑った事は無い
まさかいつの間にか自分が女性化していたなんて・・・しかもそんな状況なのに今の今まで何の違和感も感じていなかった・・・も、もしかしてこれは、かなり重症なんじゃないか?
「やっぱり気付いてなかったか。あやめなんて「マスターは女性化ではなく、女の子化してると思うよ」なんて言ってる位だから重症は重症だろうね」
「おん・・・女の子化っ!?・」
ここまで言われて思い返してみると、確かに思い当たる節がある
女装をするとどんどん女性っぽくなると聞いたことがあるし、もしかしてアルフィンの体を使っている事によって性格が体に引っ張られているのだろうか?
「と言うことはアルフィンではなくアルフィスに入っていた方がいいのかなぁ?」
「それはやめて。マスターがキザな口調で話し出したり、髪をかき上げてフッと笑いだしたりしたらちょっと引く。あれはアルフィスだから問題ないのであって、マスターには似合わないよ」
確かにそれは言えるけど・・・
「じゃあ、女の子化はいい訳?」
「うん! 大歓迎。 これは私だけじゃなく、6人の総意だからね。 当然アルフィンも含めて」
ここではじめて知ったけど、私がまだ数回しかしていないアルフィン以外のキャラクターでの行動中にこんな話までしていたそうで、これからも私にはアルフィンの体に入っていてほしいと言う話になっているらしい
「アルフィンもか。でも、彼女は自分の体をずっと支配されていて不満は無いの?」
「不満なんかある訳無いじゃない、私だってできたらマスターに常に体を使ってほしいと思っているのに」
「えっ? そうなの?」
自我があるのに、体をのっとられる方がいいっておかしくない? そんなことを考えた私の表情から心の内を読み取ったのか、シャイナは居住まいを正し、真剣な顔を作ってからこう続けた
「マスター、私たちはマスターに体を使ってもらうために生み出されたのを忘れていませんか? マスターが私たちの体を使ってくれている時は私たちが生まれた意味を実感できる時でもあるんです。それどころか幸せまで感じるんですよ。うれしいに決まってるじゃないですか」
「そう言うものなのか」
最後はいつものかっこいい笑顔を見せてそう語るシャイナ。その言葉からは、心の底からそう思っていると言う気持ちが伝わってきて、私の中の疑問と不安を消し去ってくれた。正直、ほとんど表に出ることの無いアルフィンは不満に思っているんじゃないかな? なんて思っていたんだけどなぁ
と、そんな事を考えていたら
「(マスター、そんな事はないですよ)」
頭の中で急に女の子の声が、そう、アルフィンの声が聞こえた
「えっ!? 何、今の?」
あまりのことに驚いてきょろきょろと辺りを見渡していると、シャイナが何かに気が付いたようで”ああ、やっちゃったか”なんて顔をしながら話しかけてきた
「あっ、アルフィンの声、聞こえちゃいました?」
「聞こえたって? えっ、どう言う事なの? いや、待って・・・」
ここにきて思い出した事がある
そう、あれは確かこの世界に転移した日、あやめの中にはじめて入った時の事だ
「初めてあやめに入った時も、あやめの声を聞いた気がする・・・」
「正確には声ではないんですけどね」
どうやらシャイナには思い当たる節があるようだ
「声じゃないってどういう事?」
「えぇ~っと、マスターと私たちが繋がっているのは知ってますよね?」
「私が見聞きした事を、私が話す前からみんなが知っているって話の事?」
すべてが伝わる訳じゃないけど、強く印象に残ったことや重要だと思ったものが伝わるあれの事だよね
「はい。あれなんですが実はマスターの考えている事が伝わっているのではなく、アルフィンから連絡が来て・・・いや、それも正確には違うのかな?」
「???」
どうやら説明がしづらい内容なようで、シャイナは少し考えの整理を始めた
いや違うか。整理と言うか、私の頭の少し後ろを見てテレパシーか何かで会話しているような感じがする。その姿があまりに気になったので、そんなシャイナに思わずたずねてしまった
「もしかして私が体を動かしている時って、アルフィンは守護霊みたいに私の頭の後ろ辺りに浮いてるの?」
「いや、そう言う事はないですよ。ただ、意思の疎通をしようとする時はその辺りにイメージがわくと言いますか・・・」
いつも浮いているわけではなく、意思を伝えようとした時は自キャラたちだけが認識できる姿で私の頭の後ろ辺りに姿が浮かぶそうな。でもそれって背後霊みたいで、ちょっと怖くない? あっでも、私もある意味魂だけの存在なのだから似たようなものなのかな?
そんな事を考えている内にシャイナとアルフィンの相談は終わったようで
「感覚的な事なので私たちもよくは理解していないんですけど、マスターが体を使っている時はその体の持ち主、今で言うとアルフィンですが、実は半分寝ているような状況なんですよ。でも、マスターが見聞きした中で重要な内容や心に強く思った時は入っている体の持ち主であるアルフィンにも強く伝わるんです。そんな時は私たちにも伝えるべきだと漠然と感じるらしくて、アルフィンの声で私たちに伝わると言うか・・・聞こえるんです、今このような事が起こってるよって」
「伝えるかどうかを考えるのではなく、感じた瞬間に伝わるわけか」
なるほど、だから情報が手に入った時の光景みたいな細かい事は伝わらないのか。光景や経緯は重要な内容ではないからね
「じゃあ、さっきアルフィンの声が聞こえたのは何?」
「それはアルフィンが強く思った事です。マスターが体を使っている時は先ほども言いましたけど半分寝ているので普段は声を発したりはしないんですけど、衝撃を受けたり強く感じた事があるとマスターにも伝わるみたいなんですよ。これはあやめやアルフィンに聞いたことなので、私はまだ実感した事はないんですけどね」
なるほど、半分寝ているとはいえ同じ体の中にいるのだから、強く思った時はシャイナたちに伝わるみたいに私にも伝わる訳か
ん? 待てよ
「一つ気になった事があるんだけど・・・」
「なんですか?」
いや、これは聞かない方が・・・でもやっぱり聞いておいた方がいいか
気になってしまったらシャイナだけではなく、全員に伝わってしまいそうだし
「もし、もしもだよ。私の精神が女性化していなくて、お風呂の中とかでアルフィンの、と言うか女性の体に興味を持って・・・エッチな事をしようとしていたら・・・」
「前もって何の話もせずにいきなりそんな事を始めたら、頭の中でサイレンのようにアルフィンの悲鳴が鳴り響いていたでしょうね。私やあやめならともかく、アルフィンは私たちの中でも一番女の子してる子ですから恥ずかしくて死にそうになるだろうし」
その場面を想像してニヤリと意地の悪い笑みを浮かべるシャイナ
その顔を見てあせる私
これが初めて自分が女性化していた事に心から感謝した瞬間だったのは言うまでもない
シャイナたちならと言うのは、先に突っ込みを入れるよと言う事で、この二人がエロキャラと言う訳では無いので念の為
話の中で主人公の女性化の話が出ていますが、本人は勘違いしていますがアンデットの精神に変異したアインズ同様、彼もこの世界に転移した瞬間に入っていたアルフィンの体に合うよう精神が女性に変異しています。なので、本編で彼が言っているようにアルフィスの中に入ったとしてもキザなオカマが出来上がるだけですw
因みに、主人公の一人称である「私」は女性化と関係なく、社会人が会社で自分の事を俺とか僕と言わずに私と言いますよね。そこから来ているのですが、それも女性化していることを気付かなかった要因になっています
流石に自分の一人称が変われば気付くでしょうからね