ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~   作:杉田モアイ

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2 6人の自キャラたち

 この光景があまりに衝撃的過ぎて頭がすっきりした。と同時に、そのおかげで冷静になれて周りを見渡す余裕も出てきた。

 そしてある程度今起こっていることが把握でき始めてもいた。

 

 そう、周りが見えると今まで解らなかった事のいくつかが見えてきたのだ。

 まず、いま自分の周りには10年以上かけて作ってきた自キャラとNPCたちが集っている。

 これはサービス終了時と同じだ。

 では何が違うのか。

 

 まず自キャラたちが全員動いている、私が操っていないのに。

 

 どうやら自キャラたちはそれぞれ自分の思考を持って行動しているように見える。

 でも、よく観察すると、それぞれ個性はあるようだけど、たぶん基本的な行動パターンや性格は私なんだろうなぁ。

 

 詳しくは話をしてみないと確信を持てないけど、彼らの行動を見るに、想像の範囲内と言うか、私がおかしな状況にあったらこうしそうだと言う色々なパターンを並べて見せられているような、そんな印象を受けるだよ。

 

 次にNPCたちだけど、皆心配そうにこちらを見ている。

 NPCにプレイヤーを心配する機能などないし(そういう台詞はあるが)そもそもNPCは特殊なものやイベント以外では表情を変えることはない。なにより。

 

 「アルフィン”様”って・・・そんな呼び方させる設定、してないよ」

 

 どうも今の設定では私や自キャラたちとNPCたちの関係は君主と家臣と言った感じのようだ。

 その証拠に最初こそ全員が心配そうにしていたけどメルヴァが代表してアルフィンに話しかけた時点では、他のNPCたちは玉座に向かって整列し、ひざをついて傅いている。

 私たちが混乱している間に、地下階層統括のメルヴァが今の状況を見て指示を出したのだろうけど・・・でも、この状況はなんだなぁ、メイド喫茶にはじめて入って感じた感情に近いくて、むず痒くて耐えられないよ。

 メイド喫茶のあの対応、苦手なんだよなぁ。

 うん、とりあえず一息ついたら傅くのだけはやめさせよう。

 

 冷静さを取り戻したところでひとつ、どうしても確認しないといけない事がある。今私はシャイナを操っているけど、これは操れるキャラを自由に変えられるのかと言うこと。

 

 もし自由に変えられないようなら、なぜアルフィンからシャイナに移ったのか、その理由や条件を調べると言う面倒な作業をしなければならなくなる。

 これでもし、感情の変化やランダムで変わるようならかなり厄介な事になるよなぁ。

 

 とりあえずは、未だ混乱して周りをきょろきょろと見渡しているあいしゃで実験してみる事に。

 

 「ねぇ、あいしゃ」

 「っ!?あ、はい」

 

 呼ばれたことで一瞬びくっとした後、こちらを向いたあいしゃと入れ替わろうと思った瞬間に私の意識はあいしゃに乗り移っていた。

 この結果からすると、どうやらゲームの時と同じ様に自分の意思で操るキャラを自由に変えられるらしい。

 

 「あ、でも結論付ける前に念のため」

 

 私は声をかけず、私や周りの自キャラたちをまったく見ないで自分の体をぺたぺた触っているあやめに意識をむけ、入れ替わろうと試みる。

 

 成功!

 

 入れ替わろうと思った瞬間に意識はあやめに乗り移っていた。

 

 「ひゃんっ!・・・」

 

 ただ、かなり微妙な場所を確認しようとしていたらしく、自分の指で、男の自分では経験した事がない思わず声が出てしまうような(いや、実際出たか)感じを受けてしまったのと、いままであやめが感じていたであろう背徳感が一気になだれ込んできたのはちょっと予想外ではあったが。

 

 何と言うか・・・入れ替わる時は、前もって声をかけるようにしよう。

 

 「(お願いだからそうしてよ!)」

 「んっ?」

 

 気のせいかな?あやめの涙声が頭に響いたような?

 もしかしたらまた聞こえるかもと思いしばらく黙ってみる・・・が特になのも聞こえない。

 背徳感から来る幻聴だったかな?

 

 さて、ここまでで解った事を整理、考察すると、現在自分自身にはまるでアニメかゲームで起こるような事が起こっているのであろうと言うことが想像できる

 信じられない事ではあるのだけど、自分がゲームの世界、またはまったく別の世界にゲームの設定のまま入ってしまったと推測されるんだよね。

 

 ただ、リアルな自分ではなくキャラクターの中に入っているのと、複アカであるにもかかわらず、全部のキャラが動いていることを考えると・・・これはあくまで私の推論だけど、本当の私はこの世界に来てはいないのではないだろうか?

 すなわち、今の私は本人ではなく、本人から切り離された精神の一部ではないかと言うこと。

 

 この推論を立てた理由は自分の精神が同じ男であるアルフィスではなく、最後にプレイしていたアルフィンに最初入っていたこと。

 そしてもし自分が自分のままこの世界に転移したのであれば複数の自キャラは自分ではなくNPCになっていたのではないかと考えられるからだ。

 

 普通肉体と精神はひとつのものに紐付けされる。

 にもかかわらずそれが複数に分かれていて、それぞれ思考している。

 これだけなら他のNPCたちと変わらないのだけれど、それぞれに自由に入れ替われると言うのなら話は別だ。

 

 それぞれが私自身と言う事になるし、そうなると魂が6つ(正確には7つだが)に分割されている状況と言うことになってしまう。

 

 ではそうなった場合、一人の人格が6つに分かれてそのままでいられるであろうか?

 私の考えではノーだ・・・と思う。

 では私の精神は変調をきたしているか?

 これもたぶんノーだ。

 

 かなり深い部分で自分を探れる医学的知識があるのならもっとよく解るんだろうけど、それがなかったとしても6つに分かれるほどの大きな変調をきたしたのならさすがに解るはずだよね。

 と言うわけで、今ここにいる私の精神は本当の自分とは違うものであると私は考える。

 

 と、まぁ、ここまで考えて出た結論だけど、今の自分は本当の自分ではないのだから元の世界には帰れない、帰る方法はないだろうと言う事。

 もしかしたらその推論は間違っているかもしれないけど、そう考えておいたほうが間違いないだろうし、もし帰れたとしても6つに分かれたものが元に戻った場合を考えてたら、ちょっと頭の痛い事になりそうだしね。

 ゲームの世界、または異世界の常識に染まった6重人格者なんて流石に笑えない。

 

 さて、そこまで考えたところでふと視線に気がついた。

メルヴァである。

 

 さっきはアルフィンを心配そうに見ていたが、今はあやめにその視線を送っている。

 ・・・もしかして中に私が入っているキャラがNPCにはわかってる?。

 

 「あのぉ、あやめ様、アルフィン様が今問題が起こっているからあやめ様に指示を仰げと言われたのですが、御顔を見るに、やはりかなりの問題が起こっているのでしょうか?」

 

 あ、違った。

 

 アルフィンは分身系アニメでよくあるように自分の意思があるとは言っても自分がサブ人格であると認識し、メイン人格が今どこにいるか解っていると言ったところなのかな?

 で、勝手に判断は出来ないから今私が入っているあやめに押し付けたといったところか。

 

 でも、これでNPCは6キャラ全員を別の存在だと認識している事がわかった。

 これは何かあったときに問題が発生するかもしれないから覚えておかないとな。

 

 「あの、あやめ様?」

 「あ、ごめんなさい。ちょっと考え込んでしまった」

 「めっ滅相もありません、至高の御方の御考えを中断させてしまい申し訳ありませんでした」

 

 表情を変え、あわてて謝罪をするメルヴァを見てまた困惑する。いや、そこまでのモンでもないんだけど。

 

 「いやいや、そこまで誤らなくても。あと、アルフィンがギルド長なのだから最終決定はアルフィンがすべきだし、今からちょっと話すから終わったら彼女からちゃんと話があると思うよ。あと、他の人たちもいつまでもあの格好では大変だろうから、一度各自の持ち場に戻ってもらって」

 「はい、解りました。それでは他の者たちにそう伝え、私は控えております」

 

 そう言うとメルヴァは他のNPCたちと同じ位置まで下がり、指示を与えたあとその場で傅いてしまった。

 ・・・だから、その格好は気恥ずかしいんだって。

 

 まぁ、その件は後回し。全自キャラを集めて話し合いをはじめる。

 

 で、話し合った結果解ったのはやはり中身の基本フォーマットは私だと言う事。

 ただ、各キャラクターごとに作ってあった設定がその性格に反映されていると言う事も同時に解った。

 

 たとえばシャイナは立ち振る舞いは男前だけど、実はぬいぐるみなどが好きな乙女だとか、あやめはおしとやかそうな外見なのに、実は好奇心旺盛だとか。

 要は私が自分で作った設定どおりロールプレイして完璧にこなしたらこうなると言うキャラな訳だ。

 

 と言うわけで、一番素に近いアルフィンに普段は入っている事にして(アルフィスは男だけど、どちらかと言うと自分の理想のキザなしぐさが嫌味にならない男前設定なのである意味一番性格が離れている)必要な時だけ入れ替わる事にして自分会議を終わらせる。

 

 「メルヴァ、話し合い終わったから来てくれる?」

 「はい、アルフィン様。直ちに!」

 

 そう答えるとメルヴァは私の元までゆっくりと歩いてきて足元に傅いた。

 

 「イングウェンザー城地下階層統括、メルヴァ・リリー・バルゴ、御身の前に参上しました」

 「あ、いや、そんな畏まるの、やめない?もっと気楽でいいからさ」

 「至高の方々を前にそのような事、いたしかねます」

 

 困った。私は王様でもなければ貴族様でもないから、こんな態度取られても困るんだよなぁ。

 

 「う~ん、なら命令と言う形式でもだめかな?敬語を使うのはかまわないけど、もっと気楽に話す事」

 「しかしそれでは不敬では!」

 「いや、不敬ではないよ。と言うか、そんな傅かれると照れる。だからもう少し普通に接してほしいなぁ。とりあえず傅くのだけはやめようよ。やはり目を見て話したいし。」

 「アルフィン様の目を見て話など・・・はずかしくてできません(ぽっ)」

 「えっ?」

 

 ここまで話して私はあることを思い出した。

 確かメルヴァの設定を詳しく作った時って百合アニメにはまってた時で・・・やばい、こいつ百合だ!それもガチの。

 

 「でも、どうしてもと仰るのなら私は常にアルフィン様に付き従い吐息のかかる距離でお話させていただきたく思います」

 

 そう言うと立ち上がり、軽くひざを曲げて胸に顔をうずめるように軽く抱きつき、そのあとゆっくりと上目遣いでこちらを見つめてくる。

 

 うわぁぁぁぁ、大失敗だぁぁぁぁぁ、ガチ百合設定のキャラに口実を与えてしまったぁぁぁぁぁ。

 

 でもいまさら目を見て話すなんてだめとも言えず。

 

 「いや、普通に話をしような。そ、そんなに近づかなくてもいいから」

 「ああ、アルフィン様の御身、温かい」

 

 やばい、こいつ聞こえてないしリミッターが入ってない。

 てかこんな設定だったか?

 まぁ、確かにあの頃の百合アニメはこんなのだった気もするけど。

 

 「おい、みんな助けて・・・」

 「だ~め、人のコイのじゃまはできないよぉ~」あいしゃ

 「あるさん、うらやましいですね(にぱっ!)」まるん

 「このまま放置したらどうなるか、楽しみですねぇ(ふふふっ)」あやめ

 

 ・・・こいつらぁぁぁぁ、って私ならこう言う反応するだろうなぁ。ああ、自分の性格が恨めしい。

 




第2話アップです。
にもかかわらず、話は遅々として進みません。
まぁ、私の場合、いつもこんな感じなのでお許しを。

今回も先行してして1話分、第4話を私のHPにアップしていますが、いつも通り、ここにアップする時には色々と変わっている可能性があるので読まれる方はその点、ご容赦を。

投稿後、字が間違っている場所があったので修正。
他にないよなぁ・・・。

H28・1/16
 表現その他を少し修正。

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