ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~ 作:杉田モアイ
「マスター、そっちは村長の家だよ。野盗の所に行くんじゃないの?」
集会所を離れて、立ち並ぶ家々を横目に道を進んだ先にある別れ道
先ほどの話では野盗の処置をするとのことだったので、当然彼らを拘束している広場のほうに向かうと思っていたのにマスターは中央へ向かう道へは進まず、村長の家のある東に向かう道のほうへ曲がった
「野盗の処置をしに行くのは確かだけど、もうすでに捕まえている野盗の所に行っても仕方がないでしょ」
「あっそうだね」
なるほど、言われてみればそうだよね
今から野盗の所に行ったところで、尋問くらいしかやる事はないか。確かにそれは処置するとは言わないよね
「彼らの処遇とかを決めるのに、村の代表と話さない事にはどうにもならないでしょ?たぶんギャリソンがある程度話を進めてはくれていると思うけど、最終決定は私が行かないといけないと思うからね」
「なるほどぉ」
野盗たちを連行するにしても、まずは村長と話をしないとと言うことか
とりあえずの脅威は去ったため、怪我をしていない村人たちが片付けや簡単な修理をしている姿を横目に見ながら村の東側に位置する村長の家に向かう
なぜ村長の家が中心部ではなく東側にあるのかと、ふと疑問に思ったのでマスターが来るまでの暇な時間にユーリアちゃんに聞いたんだけど、この村の正式の入り口は首都のある西側なのでそこから一番遠い場所が村長の家になっているんだって
では、村長が変わった時はどうするの? と聞いたら
「わかんない」
だって
そこで、横で話をニコニコしながら聞いていたユーリアちゃんのお母さんが変わりに答えてくれた
村長の家は基本世襲なんだけど、もし誰も継がない場合はその次の村長と家を取り替える取り決めらしい
これは村長の家が変わると年に一度来る徴税官が戸惑うからその配慮らしいんだけど、その程度で戸惑う徴税官ってどうなんだろう?
でもまぁ、それは言わぬが花なのかな?
そんな話や友達になったユーリアちゃんたちの話をマスターとしながら歩いていたら、そこは狭い村だけあってあっと言う間に村長の家についてしまった
う~ん、もうちょっとマスターを独り占めにしたかったけど仕方がないよね
たどり着いた村長の家だけど、その家の扉の前には背の高いメイドが二人、佇んでいた
この二人だけど、こんな辺境の村の村長がメイドを、それも二人同時になんて雇える財力がある訳も無く、当然あるさんがイングウェンザー城からつれてきたうちのメイドたちだ
優しげな笑みと凛とした瞳が特徴のショートボブの子がヨウコちゃんで、気の強そうな顔と日本人形のような艶やかなロングのストレートヘアーが特徴の子がサチコちゃん
ともに背が高く、黒髪でとても凛々しい雰囲気の子達だ
この二人はイングウェンザー城地上階層の前衛系メイド部隊である「聖☆メイド騎士団」の一部隊、紅薔薇隊と呼ばれる4人編成の部隊の子たちなんだけど、その優雅な佇まいや仕草はうちのメイドたちの中でもかなりのもので、ギャリソンが「アルフィン様が外出なされる時はこの二人を連れて行くのが好ましい」とわざわざ選んだほどなんだよね
因みに紅薔薇隊のあとの二人は野盗の監視に残してある二人ね
「ギャリソン様からアルフィン様が御着きになられたら御通しするように仰せつかっております」
「ご苦労様、ありがとうね」
マスターはそう答えると二人に案内されて、颯爽とした姿で中に入っていく
当然私も後からトテトテとついて行ったんだけどね
中に入るとギャリソンが席を立ってマスターに一礼、それを見た村長があわてて席を立って追随した
こんな辺鄙な村の村長だしなぁ、偉い人と対峙した事なんてほとんど無いだろうから仕方がないんだろうけど、あの慌て振りは流石にどうかと思う
さっきの私との会話の時も思ったけど、村長に向いてないんじゃないかなぁ
こんな村の長でも領主とくらいは面会する事もあると思うんだけど、あんなんで大丈夫なんだろうかと心配になるくらいだよ
「このたびはシャイナ様とまるん様に村を救っていただき、ありがとうございました」
「どういたしまして。あっ、そんなに畏まらなくてもいいですよ、小さな都市国家の女王をしているとはいえ、かなり遠くの国です。この国では特に影響力は無いですし、それほど意味はない話ですから」
「そんな、恐れ多い・・・」
優雅に微笑むマスターと、その微笑を見てより一層萎縮する村長
なんかかわいそうになってくる光景だなぁ
「アルフィン様、野盗たちは我々が引き取り、拘留するという話にまとまっております」
「解りました。ご苦労さま」
マスターの予想通り、ギャリソンが野盗たちの処遇についての話を滞りなく済ませておいてくれたようだね
さて、これでこの村でやる事はすべて終わりかな? なんて思ってほっと一安心していたら次の瞬間、マスターが予想もしていなかったとんでもない爆弾を落としてくれた
「それでは村長さん、シャイナたちの働きと、野盗たちの拘留を私たちに任せる事に対する報酬の話に移らせてもらってもいいかしら?」
「えっ、マス・・・あるさん、お金取るつもり!?」
まさかこんなことを言い出すとは思わなかったから凄くびっくりした
だって、お金が払えないからと言って、治療のためにわざわざ怪我をしてもいないシャイナたちを呼び出してまで範囲魔法を使ったくらいなんだよ
そんな驚いている私に、マスターは微笑みを浮かべたまま「何を当たり前のことを聞くの?」とばかりに小首をかしげて答える
「あら、当たり前じゃないの。命にかかわるような内容である魔法による治療でさえもお金を貰わないと神殿との間で問題が起こると言う規則なんでしょ? それならば野盗退治も当然報酬を貰わずに終わらせてしまっては冒険者組合との間で何か不都合があるのではないかしら?」
「それはそうだけど・・・」
ポーションどころか薬草さえ置いてないこの村じゃあ、野盗退治の報酬なんてとても払えるわけが無い
おまけにいくつかの家は壊されたり燃えたりしてるんだよ
近くに森も無いこの村では資材は買わないといけないだろうから、村の復興のために余計にお金が必要なのはマスターだって解ってるはずだよね?
「確かに、村を救っていただいた上に野盗たちの処分までお任せするのですから、報酬をお支払いするのは当たり前の事だと思います」
「そうですよね」
うなだれ、どんどん声が小さくなっていく村長と優雅に笑うマスター
ちょっとかわいそうな構図だ
ちらりと村長が私のほうに助けを求めるような目を向ける
助けてあげたいのは山々だけど、マスターが決めた事なんだから私を含め誰も異論を唱える事ができないんだよ
あくまでは私たちはマスターに仕える立場なんだから
でも、村が苦しくなって食べるのにも困ってしまったらユーリアちゃんたちも困るよね
うん、そうだよ! 私たちのマスターなら、ちゃんと説明さえすれば解ってくれるはずだ
そう思って何とか許して貰おうと口を挟もうとした瞬間に
「(小声で)まるん様、あれはアルフィン様の御考えがあっての御言葉ですから、しばらくはそのまま御聞きください」
「へっ?」
ギャリソンに止められてしまった
そりゃあマスターが何の考えもなしに村長を苛めるなんて私も思わないけど・・・
そんな事をしている間に村長が口を開く
「しかし、我々の村は見ての通りそれほど裕福ではありません。それに壊された村の再建をせねばならないので冒険者に討伐を頼むような正規の報酬をお支払いするほどの余裕はとても・・・」
「はい、解っていますよ」
悲壮な形相で訴える村長に、より一層慈愛の微笑を濃くして答えるマスター
でもでも、あれはそんな優しい微笑ではないよね
うん、そうだ! 私は知ってる、あれはマスターがいたずらが成功したと思ってほくそ笑んでいる時の顔だ
よかった。と言う事は、本当に考えがあっての言葉だったんだ
「ではこちらから報酬額の提示をさせていただきますね」
「はい」
どんな要求を突きつけられるのだろうと緊張気味な村長に、マスターは笑みを絶やさずにこう告げる
「まずは野盗の所持品について。普通なら野盗が壊したものを弁償させるために捕らえた野盗の所持品をそこに当てるのでしょうけど、これは私たちがすべて没収させてもらいます。あっ、この村から奪ったものは当然これに含みませんよ」
「はい、捕らえたのはシャイナ様方なので、此方も初めからそのつもりでおります」
これに関しては異論を挟みようが無いので村長もすんなりと了承する
まぁ、村長が言うとおり、初めから村のものだと主張すると言う考えさえ無かったと思うよ
実際、冒険者を雇って退治した場合も野盗の持ち物は退治した冒険者のものになるんじゃないかなぁ?
「次にですが」
「はい」
いよいよ、村に対する本格的な請求が行われると思った村長に、マスターから意外な言葉が告げられた
「この村の北側に丘がありますよね、あそこの周りはこの村では畑などに使っていないようなので私たちが貰って館を建てさせていただきます」
「へっ?」
意表を突かれたのか、間抜けな表情で、間抜けな返事を返す村長さん
それはそうだ。金銭的な話が出てくると思ったのに村とは関係ない土地の話を持ち出したのだから
あの場所は村の中ではないので、当然わざわざ村長に許可をとる必要はない
どうしても許可を取らないといけない相手がいるとしたらこの地を統べる領主に対してくらいだろうけど、領主と言えども税が発生する新たな農地開墾や牧場を開くと言うならともかく、わざわざ村のすぐそばの、それも荒地に新たに家を建てるからと言って許可を取りにこられても無駄な時間を取られるだけでかえって迷惑なだけだろう
「まるんが此方の村の子供たちと友達になったそうですね。でも、遊びに来たのにわざわざ30キロ以上はなれた我が城に帰るのも大変でしょう。なので報酬として土地を譲渡してもらって滞在できる館を作ると言う話なのですが、村を救った報酬としては高すぎますか?」
「いえ、そんな事はありません。そもそも、あそこは私たちの村の中ではないのですから、了解を得る必要さえありません」
「あら、そうなのですか」
マスターは、あらあら困ったわと言った顔をわざわざ作ってこう続ける
「それでは別に報酬を頂かなければならなくなるのですが・・・もう一度聞きますよ。”村の一部である丘の辺りの土地を”、野盗退治の報酬として私たちに譲渡してくれますね?」
ここまで言われれば村長もマスターが何か言いたいのか理解したようで
「もっもちろんです。大変お世話になったので私たちの村の一部である丘周辺の土地を報酬として譲渡いたします」
「はい、ありがとう」
そう言うとマスターは満足したように笑い、振り向いて私の横に立っているギャリソンに問いかける
「ギャリソン、野盗討伐と拘留の報酬としてはこれくらい貰えばもう十分よね」
「はい、アルフィン様の仰せの通りにございます」
マスターの問いかけにギャリソンは恭しく一礼をして、まるで前もって打ち合わせでもしていたかのようによどみなくそう答えた
そしてマスターはそんなギャリソンの同意を満足そうに頷きながら確認をして、村長に向き直る
「それでは村長さん、報酬は確かにいただきました」
「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」
お礼のため、何度も頭を下げる村長にマスターは
「ふふふ、正当な報酬を頂いたのですから、それほど感謝して頂かなくてもいいですよ」
と、今度こそ本当の慈愛の微笑みを浮かべて声をかけてから席を立ち、こちらへ振り返って私たちに指示を出した
「ギャリソン、これで話はすべて終わりましたから城に帰る準備を。まるんはシャイナとセルニアに野盗たちを護送するから全員縄につないでと指示を出してきてね」
「あるさんはこれからどうするの?」
私の言葉を聞いたマスターは、待っていましたとばかりに今までの優雅な微笑から年相応とも言える笑顔に変わってこう言い放つ
「帰る準備が終わるまでユーリアちゃん、エルマちゃんの二人と遊ぶに決まってるじゃない!」
「あっマスター、ずるい!」
口に右手の甲をあて、斜め上を向いてオォ~ホホホホホッっとテンプレ悪女風の高笑いするマスターに
「シャイナたちに命令を伝えたら私も合流するからね!」
と言って、私は急いで広場のほうに駆け出した
後ろから聞こえるギャリソンの
「マスター?」
と言うつぶやきにちょっとだけ「しまったっ!」と思いながら
普通なら主人公が操っているアルフィンが出た時点で一人称はアルフィンに移るべきなのかもしれませんが、ボウドアの村のエピソードはシャイナとまるんが主役と言うことになっているので今回の話まではまるん視点で書かせてもらいました
さて、今回の話で完結と言うわけではないですが、とりあえず一区切りです
一応次の話でもまだボウドアの村には居ますが、この村のエピソードはこれで終わりです。今回の話が普通の小説で言う所の第1巻の締めの話と言ったところでしょうか
この村の話ではカルネ村での出来事を中心にパロにして入れてきたのですが(どこがパロなのかはうちのHPのこの話のあとがきである程度書いています)数話の幕間的な話を挟んで始まる次のエピソードからはオリジナル色が強くなるのでこれまでのようなパロは入れ辛くなります
ですが、何とか入れて行こうと思っているのでお暇な方は探してみてください
ではまた次の話でお会いできる事を祈っています