ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~   作:杉田モアイ

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137 レストラン創造

 

 見せ掛けの工事が始まってから半月ほどたった頃、私はイーノックカウの店舗にする予定の館を訪れた。

 

「なに、あれ?」

 

 するとそこには確かに私が指示を出した通り、庭の一角には大きな白い布で作られた目隠しが作られていた。

 そう、作られてはいたんだけど、でも何故かそこには現地の言葉で大きくなにやら文章らしきものが書かれてたんだよね。

 と言う訳で無言でユミちゃんの方に目を向けると、彼女はそう言えば説明してませんでしたと済まなそうな顔をしてから、私にこう説明してくれたんだ。

 

「あれはですね、この国の言葉で消音の魔道具使用中って書かれているんですよ」

 

 ユミちゃんが言うには工事が始まったすぐの頃、館の改装現場から工事の音が聞こえてくるのに白い目隠し布の中からは音が聞こえてこないから、まだ工事は始まらないんですか? って何度も近所の人から聞かれたんだって。

 

「そこで改装と違ってレストランのの建築は大きな音が出るので、近所への迷惑を考えて消音の魔道具を使用して音を消しているんですと説明したんです。実際に消音の魔道具は入り口付近にも使用してますから、そこへ連れて行ってこれの大掛かりなものなんですよって話せば皆さん納得してくださいました。ただこのように質問をする人がこれからも出てくるのならその度にいちいち説明していては大変と言う事で、白い目隠し布に解りやすいよう、あのように文字を書かせたと言うわけです」

 

 なるほどねぇ。

 説明を受けて納得した私は、ユミちゃんを伴って白い目隠し布の中へ。

 するとそこには大量の資材が積み上げられていた。

 今日、私がここに来た理由はまさにこれで、この資材をエントの村へ運ぶ為のゲートを開く為なんだよね。

 

 うちの城には私を含めてゲートを開ける者は結構いるんだけど、この館とエントの村の両方に行った事があるのは私以外居ないらしいのよ。

 まぁ言われてみれば納得で、まるんはこの館に来た事があるけどエントの村に行った事がないし、あいしゃはエントに行った事があるけどこの館に来た事がないのよねぇ。

 私以外で両方に行った事があるといえばシャイナだけど、前衛職の彼女はそもそもゲートが使えないから意味なし。

 

 と言う訳で、私が来るしか無かったってわけなのよね。

 

 因みにエントの村には今、メルヴァと店長を含むゲートを使えるNPCが数人待機していて、彼女たちは私が今から開くゲートでこの館に来る事になっているんだ。

 そうすればこれからは彼女たちもここにゲートを開く事ができるようになるから、私が毎回出向く必要が無くなるからね。

 

「さてと。それじゃあ、さっさと開くかな。<ゲート/転移門>」

 

 呪文を唱えると目の前に黒い渦のようなものが形成される。

 よしこれで、ここを通ればエントの村へといけるはずだ。

 

 と言う訳でさっさとゲートを抜けると、そこにはメルヴァをはじめとした城のNPCたちが一列に並び、頭を下げた姿勢で私を出迎えてくれた。

 

「あら、別に全員で待っていてくれなくても良かったのに」

 

「そうは行きません。アルフィン様自らが魔法を行使されるのですから、配下である我々が全員で出迎えるのは当然です」

 

 相変わらずこの手の事になるとメルヴァは堅いなぁ。

 まぁ立場上仕方がない部分もあるし、何よりこの話は私が何を言ってもやめる事はないだろうからここで切り上げた方がいいよね。

 と言う訳で。

 

「まぁみんなそろっている事だし、さっさとイーノックカウへ向かうわよ。<ゲート/転移門>」

 

 先ほどと同じ様に目の前に黒い渦のようなものが構築されたので、私は先陣を切ってその渦をくぐる。

 するとそこは先ほどと同じ白い目隠し布の中で、そにはユミちゃんが先ほどと同じ位置に立って私たちを出迎えてくれた。

 

「お帰りなさいませ、アルフィン様」

 

「ただいま。とは言っても、まだ出かけてから数分も経ってないけどね」

 

 そんな冗談のような挨拶をしているうちに、私が開いたゲートを通ってエントの村にいた子たちがこの館へ続々とやって来る。

 これからは魔女っ子メイド隊から選抜されたこの子たちがこの館に常駐し、交代でこの目隠し布の中に運び込まれる資材をゲートを使ってエントの村に運ぶ手筈になっているんだ。

 

「へ~、ここがアルフィン様が作られるレストラン予定地ですか。まだ何にもないんですねぇ」

 

「何を言っているのですか、セルニアさん。そんなのは当たり前でしょう。ここに建つレストランはアルフィン様が魔法で創造なされるのですから、何かあったら邪魔になってしまいますわ。ですから、予め整地するのは当然です」

 

「ああそっか。メルヴァさんの言うとおりです!」

 

 そしてそんな子達といっしょに来たメルヴァと店長はと言うと、周りの景色を眺めながらこんな漫才みたいな事を話してたりするのよね。

 まぁ店長がそんな感想を持つのも解らないでも無いけどね。

 だってこの場所はちょっと前までは庭だったのに、レストランを魔法で建てる為にと今では何もないただの平地になっているんですもの。

 でもまぁ、この平地の風景も今日で見納めなんだけどね。

 

「それじゃあ取り合えず今現在搬入されている分を運び出して頂戴。これだけの資材があれば外装くらいまでなら出来上がってもおかしくないだろうから、資材を運び終わり次第、館を創造しちゃうからね」

 

「解りました、アルフィン様。では皆さん、手分けをして運び出してください」

 

 私とメルヴァの号令の元、資材の運び出しが始まった。

 そんな光景を見ながら、私はこれから立てるレストランの図面の最終確認をする。

 ユグドラシル時代はこの様なアレンジタイプの館を作る時はエディターで設計したものを使ってたけど、ここにはそんなものは当然無いから自分の頭の中にしっかりと叩き込む必要がある。

 とは言ってもここ数日、ずっとこの図面とにらめっこをしていたんだからもうほぼ完璧に頭に入ってるんだけどね。

 

 ただ今回は魔法だけでは作れないものがあるから、それを後で取り付ける部分の規格を間違えないように最終確認をしているって訳なのよ。

 

「アルフィン様。資材の運びだし、終了いたしました」

 

「ご苦労様。じゃあ早速始めるわね」

 

 私は予め決められているレストラン建築場所の前に立ち、頭の中で図面を立体的にイメージする。

 そして、

 

「<クリエイト・パレス/館創造>」

 

 力ある言葉をつむぐと、私のイメージ通りの幻の建物が目の前に構築されて行く。

 やがてそれが完全な形になると、その建物は現実のものとなり我々の前に姿を現した。

 

「えっと、エレベーターを付ける場所はっと・・・うん、大丈夫みたいね」

 

 館が無事出来上がったのを目にした私は、すぐに裏手の広場に回って後々取り付けることになっているケーブルカー式エレベータの設置場所である壁とその入り口となる3階の隅を確認してホッとため息をつく。

 今までも色々な家をゲームの中で作ったけど、流石に3階に入り口がある家やケーブルカー用の土台なんて作るのはこれが初めてだからなぁ。

 特に今回はエディターじゃなく自分の頭の中で構築されるものだから、実際に出来上がったものを見てみない事に安心できなかったのよ。

 

「これで建物はよしっと。それじゃあここもやっちゃいますか。<クリエイトガーデン/庭創造>」

 

 建物を確認して、これなら作り直す心配はなさそうだと思った私は、レストラン裏手の小さな広場を庭に作り直した。

 だってこちら側に貴族用の門を作るつもりなんだかr、平地のままってわけには行かないからね。

 と言う訳で、私のここでの魔法作業は全て終了、後の細かい事は作業している子たちに任せておけばうまくやってくれるよね。

 そう思った私は、一仕事終えてホッと一息ついた。

 

「おめでとうございます、アルフィン様」

 

 するとそんな私に、メルヴァが駆け寄ってきて祝福をする。

 その顔は本当にいい笑顔で、それを見た私は、ああ、知らないうちに心配をかけてたのかも知れないなぁなんて思ったんだ。

 だから、

 

「ありがとう、メルヴァ」

 

 って彼女の目を見つめながらそう答えたの、心の底からの感謝を込めた笑顔でね。

 

 

 

 さて、とりあえずこれで箱はできたけど、今日の仕事はこれで終わりじゃないんだよなぁ。

 と言う訳で次は中に入っての作業だ。

 

「メルヴァ、アルフィスからちゃんと預かってきてる?」

 

「はい、アルフィン様。きちんとお預かりして、アイテムボックスに入れてあります」

 

「そう、じゃあ行きましょう」

 

 何の事かを口にしなくてもそこは以心伝心、ちゃんと解ってくれていたので私はメルヴァと店長、それにギャリソンを伴って館の中へと歩を進める。

 そして私たちがたどり着いたのは1階の調理場奥の小さな部屋が二つ並んでいる場所だ。

 

「えっと、どっちがどっちだっけ?」

 

「広い方が冷凍庫です。冷蔵庫に関しては各階に作った小部屋用の魔道具や箱型のものを後で運び込む予定ですので」

 

 そう、この二つの部屋はそれぞれ冷凍庫と冷蔵庫にするための部屋だったりする。

 私の考えではその二つに関しては始め、後から魔道具として運び込むだけで済ますつもりだったんだけど、城の料理長が言うにはそれではレストランで使うには小さすぎるし、なにより複数の料理人が同時に使う事ができなくて困るから部屋そのものを魔道具で冷蔵庫と冷凍庫にした方がいいって言われちゃったんだ。

 

 因みに冷蔵庫より冷凍庫の方が大きいのは長期保存用に冷凍したものは一箇所に纏めればいいけど、冷蔵のものは各階で必要になるから別々に用意した方がいいと言う料理長からの助言でこうなったのよね。

 と言う訳で冷凍室を作る魔道具を1個、そして冷蔵室を作る魔道具を3個アルフィスに作ってもらって、メルヴァには運んできてもらったって訳なのよ。

 

「それとですが、アルフィン様。この魔道具とは別に、アルフィス様が冷蔵庫を複数製作しているので、その置き場所を考えておいてほしいとのことです」

 

「冷蔵庫を?」

 

「はい。私にはよく解りませんが、アルフィス様が仰られるにはレストランと喫茶室を作るのであれば必要だろうから、との事です」

 

 ん? 喫茶室の方はわかるけど、レストランには各階に冷蔵室を設置するのに、また別の冷蔵庫を置くの?

 一体何に使うんだろうって私が首を傾げてると、その姿を見たセルニアが教えてくれた。

 

「それはきっとドリンクのビンやデザートをディスプレイしながら冷やす、ガラス扉の冷蔵庫を作られているのだと思いますよ。あれがあるとないとではやっぱり違いますからね」

 

 ああなるほど。

 そう言えばグラスを冷やしてたり、色々なドリンクが並んでたりする冷蔵庫があった方が見栄えはいいわよね。

 ガラス自体はこの世界でもあるんだし、冷蔵庫の魔道具も富裕層にはある程度普及してるんだからそれを組み合わせて店舗用の冷蔵庫を設置するのもありと言えばありね。

 

 そう思い立った私は早速設置場所を考える事にする。

 

「取り合えずレストランの方は中央に作るバーカウンターの中で決まりよね。ライブキッチンにおいても仕方ないし」

 

「でもアルフィン様、お肉とかもディスプレーすると見栄えがしますよ」

 

「ああそっか。確かに食材によっては料理人の後ろに置いて、お客様に見せるのも有りね」

 

 こうして私はセルニアとああでも無いこうでも無いと相談しながら、冷蔵庫の設置場所を決めて行く。

 そしてその場所が大体決まった頃。

 

「アルフィン様、ロクシー様がお越しになられました」

 

 ユミちゃんがロクシーさんの突然の訪問を知らせてきたのよ。

 

 あれ、今日は何の約束もなかった筈だけど? って思いながらも、訪問を受けたのと言うのなら挨拶に顔を出さないわけにも行かない。

 

「メルヴァ、店長、ロクシー様がお見えになられたみたいだから行かないといけないの。ここお願いね」

 

「「畏まりました、アルフィン様」」

 

 と言う訳で二人にレストランを任せて、私は館の応接間に通されていると言うロクシーさんの元へと向かった。

 

 

「お待たせしました、ロクシー様」

 

「これはこれはアルフィン様。突然の訪問、ご迷惑じゃなかったかしら?」

 

 私が応接間に着くと、ロクシーさんは椅子から立ち上がって私に挨拶をし、続けて突然の訪問にお詫びを入れた。

 

「いえ、それは大丈夫なのですが、今日はどうなされました?」

 

「はい。イーノックカウの門番からアルフィン様がこの都市にいらっしゃったとの報告を受けたので、それならばもしお時間があるようでしたらレストランで働くシェフの紹介をと思いまして」

 

 ああなるほど。

 私はこの頃、色々と手を広げた事のツケで仕事がたまってしまってるから城に篭ってるもんなぁ。

 こんなチャンスが無いとシェフの紹介ができないって思ってわざわざ来てくれたってわけか。

 確かにここから城まではかなりあるから、シェフの紹介だけで足を運ぶなんて事はできないだろうし、このチャンスを逃す手はないよね。

 

「どうでしょう? アルフィン様にお時間があるようでしたら今から大使館の方にシェフたちを連れてくるよう、連絡をいたしますが」

 

 なぜ大使館? って一瞬思ったけど、そう言えばレストランで出す料理の為に大使館の調理場でしばらくうちの城のシェフといっしょに練習するって話だったっけ。

 そう思い立った私は、一応後ろに黙って控えていたギャリソンにこれからの予定を聞いてみたところ、

 

「この館の視察は一通り終えていますから、問題はないかと」

 

 との返事が返ってきたので、私はロクシーさんに笑顔を向ける。

 

「大丈夫のようですから、ご一緒致しますわ」

 

 そしてこう、了承の返事をしたんだ。

 




 着々と開店準備が整っていきます。
 次回は多分このレストランも無事開店の日を迎えると思いますし、アルフィンたちも平和な日々を送っているのですが、世の中の方はと言うと・・・。

 さてさて、どうなる事やら

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