ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~   作:杉田モアイ

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134 驚きのネタ晴らし

 

 建物に関しての概要が決まったと言う事で、今度はレストランを建てる場所を決める事にする。

 この場合外に出て実際に見ながら決めるよりも庭を含めたこの土地の図面を見て決めたほうが間違いが起こりにくいと言う事で、ユミちゃんに用意してもらってそれを机に広げて考える事に。

 

「う~ん、取り合えず今の館の横にある庭園は残したいのよね。館二階の喫茶スペースから見えるようにしたいし。ならレストランは南東側に作る事になるんだけど」

 

 どうしよう? 館とレストランをつなげれば雨が降ったときも濡れずに移動できるようになるけど、そうなると匂いの問題も出てくるしなぁ。

 なにより、そんな造りにしたら正門側から館横の庭園へ行く事ができなくなってしまうのよね。

 

 折角いい庭があるのだから、お客様も気軽に寛げるように椅子やテーブルを置いたりして自由散策ができるようにしたい。

 となるとやっぱり二つの建物は独立させた方がいいか。

 

「そうね。あれもこれもって欲張っても何もいい事はないもの。建物は各自独立させる事にしましょう。さて、そうなるとレストランの入り口をどこにしようかなぁ。見栄え的に言うと西側中央って事になるけど、せっかく二階席を作る事にしたんだから、そこの窓からはこの館の喫茶スペース同様に庭が見えるようにしたいし」

 

 こうして私は1人、店舗の構成を考えて行く。

 そしてまるんやギャリソンがこれに関して口を出す事は無く、彼らはただ私の仕事を隣で見つめるだけだった。

 と言うのも、まるんは私の現実世界の職業が何かを知っているからプロの仕事に素人が口を出しても意味がないと考えているし、ギャリソンはギャリソンで私が何かを考えている時は何時も隣に控えてはいるけど、自分の意見は求められない限りけして口にする事はないからなの。

 おかげで私はこうして1人、自分の世界に引き篭ってデザインの仕事に集中できるって訳。

 

 と、ここで私はまるんたちの事を考えたおかげで、ある失敗に気が付いた。

 久しぶりのデザイン系の仕事が楽しかったから、ついカルロッテさんの事を忘れてしまっていたのよ。

 

「ごめんなさい、カルロッテさん。つい夢中になって忘れてたわ。ここに居ても何もやる事もないし、退屈だったわよね」

 

「いえ、そんな事は」

 

 そうは言ってくれたけど、彼女がいる場所を見ればこちらに気を使ってくれていたのは間違いない。

 だって私の邪魔にならないよう、一人少し離れたソファーに座っていたんですもの。

 だから私は彼女に退席を許す事にした。

 

「そうねぇ、カルロッテさんもこの館は初めてでしょ? ここにはいいお庭があるのだから、折角の機会ですもの。少し散策してきたらいいと思うわ。ユミちゃん、案内をお願いできる?」

 

「畏まりました、アルフィン様」

 

 こうしてカルロッテさんを送り出した私は、1時間ほど再度レストランの配置について頭を悩ませた後、やっと配置図の草案を完成させる事ができた。

 

 と言う訳でその配置草案図を元に、まるんやギャリソンを交えてのディスカッション。

 2人には私1人では気が付かなかったような細かい問題点を指摘してもらい、微調整を繰り返してはつぶして行く。

 これが職人の手によって作られる建物であるのなら、問題点が出てきてもその場である程度修正できるからここまで綿密に決める必要はないんだけれど、このレストランは私の魔法で一瞬にして出来上がってしまうからそうは行かないのよね。

 

 と言う訳で見つけられる限りの問題点や修正点をあぶりだすのに更に1時間以上を要してやっと全ての行程が終了、後はこれを元に私が図面を引き、コンセプトイラストを描いて内装を決めたら完成だ。

 

 まぁ中に搬入する椅子や机、キッチンの設備なんかをアルフィスに作ってもらう必要はあるんだけど、その辺りは彼に丸投げしてしまっても問題はないと思うのよねぇ。

 別に特別おかしなデザインにすると言うわけではないのだから、彼に任せておけば使いやすくて見栄えのするものをうまく作ってくれる事だろうし。

 

 

 丁度そのころ、カルロッテさんも庭の散策から帰って来たと言う事で、一度みんなでお茶をしながら休憩。

 そしてその後、ユミちゃんに次に私が来るまでにやっておいて欲しい事の指示を出す事にしたんだ。

 

「やって欲しい事は二つ。この図面を元に、レストラン建設予定地の周りを白い布で囲って目隠しを作っておいて欲しいのと、それができたらその目隠し布周辺とこの館の改装予定の場所に遮音の魔道具を設置しておいて欲しいのよ」

 

「畏まりました、アルフィン様」

 

 私の指示に対して何の質問も返さず、二つ返事で答えるユミちゃん。

 それに対して、まるんは私が何故こんな指示をしたのかが解らないらしくて質問してきたのよ。

 

「遮音の魔道具は工事の音が周りの迷惑にならない為なんだろうなぁって事だとは解るんだけど、なぜ白い布で目隠しするの? あるさん、レストランは魔法で作るんでしょ。ならそんなの必要ないんじゃない」

 

「本当はそうなんだけど、前にボウドアの村で館を作るのに儀式魔法なんてのをやっちゃったからなぁ。あの程度の小屋を作るのでさえあそこまで派手な儀式をしたのよ。ならこのレストランを作るとしたら、どれくらい大げさな事をやらないといけないと思う?」

 

 自分の質問に対して帰って来た私の説明を聞いて、まるんは納得したとばかりに小さく頷いた。

 

「そう言えばボウドアに作ったのって村にある家より小さい洗濯小屋だったのに、あるさんを含めた7人の魔法使いで作ったって事になってるんだっけ。でも今度作るレストランはこの屋敷に近いくらいの大きな建物なんだから、それを魔法で作るとなるとそれこそ20人くらいでやらないとおかしくなっちゃうか」

 

「そうなのよねぇ。それに魔法で作るなんて言ったらそれこそロクシー様が見学したいって言い出しそうでしょ? だから対外的に城から職人が来て作っているって事にしたのよ」

 

 まぁロクシーさんくらいなら問題はないと言えば問題ないんだけど、これがもしフランセン伯爵や、それこそ皇帝陛下がごらんになりたいだなんて言い出したら大変だもの。

 そんな危険はなるべく避けるべきだから、今回はそういう事にしておいた方がいいと私は考えたのよね。

 

「でもあるさん。なら館の改装部分も目隠しした方がいいんじゃないの? こっちも魔法でやるんでしょ?」

 

「ああ、ここに関しては本当に城から木工職人たちを呼んで作ってもらうつもりよ。実際にこの場所で人が働いて作っているのを見せれば、中で何も作ってなかったとしても通りがかった人たちは、目隠しの中も同じ様に人が働いているって思うでしょ。それに私としてはこの世界の建築方式にも興味があるから、魔法で一気にやってしまうよりもきちんと解体して、構造を調べたいのよね」

 

 この世界と私たちがいた元の世界では、当然建築のやり方が同じではないはずなのよね。

 まぁ調べた所で私たちの技術よりも劣っている部分ばかりだろうけど、中には目から鱗のような技術がないとは限らないもの。

 折角の機会だから、その辺りも調べて置きたいと私は思ってるのよ。

 

 と、ここで私はさっきまで黙って聞いていたカルロッテさんが、おずおずと手を上げているのに気が付いた。

 あれ?、どうしたんだろう。

 ここまでの話の中で、カルロッテさんが疑問に思うような事ってあったかしら?

 

「どうしたのカルロッテさん。何か質問でも?」

 

「はい、アルフィン様。一つどうしてもお聞きしたい事がありまして」

 

 やっぱり何か聞きたい事があったようで、カルロッテさんはそう言うと一度居住まいを正し、私に真剣なまなざしを向けてこう質問をしてきたの。

 

「もしかして、アルフィン様は御一人で館を創造する事ができるのですか?」

 

「へっ?」

 

 えっと、どういう事?

 

 私はカルロッテさんの質問の意味が解らず、呆けてしまった。

 いや多分言っている通りの意味だとは思うんだけど、なんで今更? って思ってしまったのよね。

 そんな私の姿を見たまるんが、

 

「ああ、そう言えばカルロッテさんってあるさんとあんまり行動した事、なかったっけ。なら仕方ないか」

 

 と、なにやらフォローらしき事をする気になったようで、私たちの会話に割り込んできたんだ。

 と言う訳で折角気を回してもらえたのだから、ここはまるんに任せる事にした。

 

「いい機会だし、折角だから知っておいて貰ったほうがいいよね。あのね、伊達にあるさんは私たちのトップ、女王に君臨しているわけじゃないの。そりゃあ純粋な戦闘力と言う事ならシャイナにはかなわないけど、事魔法に関しては私たちの中でもトップクラスにすごいんだから。でも対外的にそれが解っちゃうと色々と問題が起こりそうだから、それがばれないように色んな事をやって誤魔化してるんだよ」

 

「では、あの洗い場を作った時の儀式魔法も?」

 

「うん。確かあれはギャリソンだったよね? 普通に作っちゃうとこの国の偉い人たちに伝わった時、警戒されるといけないから儀式魔法に偽装しましょうって言い出したのは」

 

 ああ、そう言えばそうだった。

 あの時私は普通に作るつもりだったのに、ギャリソンがこの世界の住人の魔法技術が低すぎるからって、そう提案してきたんだっけ。

 懐かしいなぁ。

 

 と、私は彼女たちの会話をそんなのんきに構えて聞いてたんだけど、次のカルロッテさんの言葉で事態は一変する事になる。

 

「周りの目を欺く為に・・・。そうですか、だからギャリソン様はあれほど美しい、まるで何かの舞台を見ているかのような演出が凝らされた儀式魔法をアルフィン様にご提案されたのですね」

 

「ううん、あれはあるさんの発案」

 

 事情を聞いて、それならばあの派手な魔法にも納得が行くと一人頷いていたカルロッテさんなんだけど、まるんがあっさりと真相をばらしてしまったものだから、彼女は一瞬固まった後、ギギギッと音がするかのような動きで私の方へと驚愕の目を向けてきたのよ。

 

 いやいやまるんちゃん、それは言わなくてもいい事だから。

 

 そうは思っても言ってしまったものは仕方がない。

 テヘペロって誤魔化そうかとも思ったけど、そんな事をすればカルロッテさんの中の私への評価は地に落ちそうだったからやめにして、きちっとした答えを返すために私は頭をフル回転させる。

 で、出した答えというのがこれ。

 

「あら、折角儀式魔法に偽装するんですもの。より派手なものにした方がその儀式を見た人が気軽に頼む事ができない魔法なんだって考えてくれるでしょ? だから仰々しく幾つもの魔法陣を描いたり、服装もいつものとは違ったものにして特別感を出したのよ。それに光の演出も、魔法陣を描いただけでは偽装と疑われかねないから、ちゃんと魔力を通して起動しているって見せたかっただけよ」

 

 ちょっと苦しい気もするけど、筋は通ってるでしょ?

 その証拠にカルロッテさんも半信半疑ではあるけど、少しは納得したような顔をしてるしね。

 

 

 そんなカルロッテさんだったけど、やがて自分の中でこの話を纏める事ができたらしい。

 

「そうですね。私も魔法を使いますから、もし儀式魔法に必要だと言って描かかれた魔法陣が最後まで起動しなければ不審に思ったかもしれません」

 

 だってこんな事を言い出したんですもの。

 と言う訳でカルロッテさんからの疑惑はこうして無事、解消されたと思うわ。

 

 そしてこの後、どうせここまで話してしまったのだから物はついでと言う事で、彼女にはある程度の情報を教えておく事にした。

 毎回のようにこんな風に驚かれても困るし、何よりいざと言う時に知って居るか居ないかで事態大きく変わる事があるかもしれないからね。

 

 流石にユグドラシルの話や私たちの本当の力を全て開示する訳にはいかないけど、私が高度の治癒魔法や蘇生魔法を使えるって事やまるんが実は高度な攻撃魔法を使用できると言う事、それにやろうと思えば要塞のようなものを一瞬で想像できるという事まで彼女には話しておいたんだ。

 

「なるほど。では私たちが今住んでいる別館もアルフィン様が?」

 

「ええ。私が魔法で作ったものよ。はじめて会った頃に言ったでしょ? 一つ建てるのも二つ建てるのもたいして変わらないって」

 

「そう言えば・・・って、ええっ!? ではもしかして別館だけで無く、ボウドアの村の本館も魔法で建てられたものなのですか?」

 

「そうよ。あの程度の館なら要塞を作るよりも簡単だからね」

 

 それを聞いたカルロッテさんはまさに絶句といった状態。

 そしてその後、搾り出すように、こう言ったのよ。

 

「まさかイングウェンザー城もアルフィン様が魔法で・・・」

 

「いや、流石にあれは無理よ」

 

「よかった。もしその通りだと言われたら私、どうしようかと」

 

私からのその返答に心の底から安堵したのか、カルロッテさんはそう言って小さく笑うのだった。

 

 





 カルロッテはよくアルフィンやまるんと一緒に行動しているのですが、実はその力をまるで知らなかったんですよね。
 だからいつかそれを知らせなければいけなかったと思っていたのですが、その機会が中々訪れなかったので今になってやっと教える事になりました。

 因みにまるんが強力な魔法が使えると教えてはいますが、当然超位魔法の事なんかは秘密ですし、せいぜい4とか5位階程度の魔法が使えるんだろうなぁ程度に考えるように説明をしています。
 流石にこの世界最高の魔法使いと言われているフールーダより、こんな子供の方がすごい魔法が使えると聞いたらまた気絶しそうですからね。

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