ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~   作:杉田モアイ

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最終章 強さなんて関係ないよ
109 新しいお屋敷


 

 バハルス帝国皇帝、エル=ニクス陛下との会見から数日、実を言うと私は未だに衛星都市イーノックカウに滞在している。

 本来の予定ではあの会見の次の日にはイングウェンザー城に帰るつもりだったんだ。

 ではなぜこの様なことになっているのかと言うと、それは別れ際にロクシーさんからあるお願い事をされてしまったからなのよ。

 

 

 

 

 時は会見が終わり、私が帰りの馬車の準備が終わるのを待っていた時間まで遡る。

 

 「アルフィン様、先程のお話からすると城に戻られてもさしたるお仕事はないのですよね? でしたらわたくしたちが戦争疎開をしている間、このイーノックカウに滞在していただく訳にはいかないかしら? もっと親睦を深めたいですし、何よりアルフィン様の国のお菓子や料理、お酒が楽しめなくなるのがとても残念で。あの味を私たちに伝えたのはアルフィン様なのですから、その責任は取ってくださいませ」

 

 確かに私は政治的な事はしていないと言ったけど、実際は城で色々と仕事をしているのよね。

 まぁその殆どはメルヴァとかギャリソンでもできるし、重要な判断は自キャラの一人であるアルフィスが城にいるから大丈夫と言えば大丈夫なんだけど、でもケンタウロスたちの事もあるし、流石にそれ程長く城を空けるのは不安だから何とか断ろうと思ったの。

 そこでホテルでの長期滞在は色々と不便ですからと言う理由で断ろうとしたんだけど、どうやらロクシーさんからすると、そうやって断られる事は想定済みだったみたい。

 

 「あらアルフィン様、それならば屋敷を購入されればよろしいではないですか。陛下ともお会いになり、これからは我がバハルス帝国とも親しくお付き合いしていただけるのでしょう? ならばお城から一番近いこの都市に大使館を持つべきですわ。幸いここは衛星都市。帝都とは違い、土地も館もそれほどお高くはありませんから」

 

 と、こんなことを言われてしまった。

 その上すでにある程度の目星はつけてあるらしくて、ロクシーさんが合図をすると扉近くに立っていた執事風の男性が羊皮紙を幾つか此方に持ってきた。

 どうやらそれには、この都市の色々な物件情報が書かれているらしいの。

 そこでどれくらいの値段なのかと聞いてみたんだけど、確かにそれ程高くは無かったのよね。

 

 都市国家イングウェンザーの大使館として使うのだから区画は当然貴族や裕福層が住む町の中心部なんだけど、それでも普通の館ならば金貨2000枚もあれば買えるらしい。

 実際に今、目の前にに並べられた物件は、金貨2000枚から3000枚くらいのものが多かった。

 これならばエントの村で村長に渡したルビーのほうが高額なのだから、私ならば買うのも難しくはないと考えるのは無理もない。

 

 「でも先のパーティーでイングウェンザーのお菓子や食事を周辺貴族に振舞ってしまいましたもの、アルフィン様が館を構えられたと聞けば訪れようと考える者も多いと思いますわ。ですから、わたくしとしてはこちらをお勧めしますわ」

 

 「これですか? ですが流石にこれは大きすぎるのではないでしょうか?」

 

 そう言って見せられたのは迎賓館に匹敵するほどの大きさの建物で、聞けば前領主の館だった物らしい。

 因みにその前領主は色々と問題がある人だったらしくて、皇帝陛下が即位された再に失脚、処刑は免れたものの侯爵から平民まで落とされて別の地へと飛ばされて行ったんだって。

 その際この館も解体すると言う案が出たそうなんだけど、贅を尽くして作られた館や庭は壊してしまうのは流石にもったいないからと、とある商会が買い取り、管理していたんだそうな。

 

 そんな事情なので家具や調度品は何も残ってはいないけれど、大使館として使うには相応しい建物でお勧めなんだってさ。

 

 「管理しているものが申すには、アルフィン様に買っていただけるのであれば大変光栄であり、値段の方も金貨30000枚でお譲りしても良いとの事です」

 

 これはパーティーから会談までの間に調べてきてくれた、実はロクシーさんの家令だった先程の執事さんの言葉。

 本来ならば金貨38000枚で売り出されていたらしいから、お勧めと言うのは確かだろうね。

 

 しかし、金貨30000枚かぁ。

 前にエントの村で聞いた価値で換算すると30億、とんでもない金額よね。

 まぁ、この規模なら当たり前かとも思えるけど。

 

 「前にアルフィン様の執事がカバンから出した大きなルビーならば、一つでも金貨10000枚以上の価値があると思いますわ。そしてあの時の話から察するに、複数お持ちなのでしょう?」

 

 「ええ。あのサイズのルビーならば幾つか持ってはいますが・・・」

 

 「ならばそれを手放すだけで買えてしまう程度のものですから、ここは購入してはいかがですか? 幸い、この物件ならばわたくしが滞在している館とも近いですし」

 

 う~ん購入資金の調達方まで考えられているのか、完全に外堀まで埋められてるなぁ。

 まぁ仕方がないか、ここまで用意してもらったんだから購入しよう。

 

 「解りました。ではその物件を購入する事にします。あとルビーですが、ギャリソンがまるんに同行してこの都市に滞在しているうちにイングウェンザー金貨がバハルス帝国でも使えると調べてくれましたから、わざわざ買い取っていただかなくても金貨でお支払いする事ができますわ」

 

 「そうでしたの・・・」

 

 あれ、どうしたんだろう? ロクシーさんの表情が少し曇ったようなんだけど。

 話の展開的にはロクシーさんの思惑通りに事が進んだと思っているんだけど、何か予定と違うことでもあったのかな?

 

 そんな事を考えていたら、なにやら意を決したかのような顔をしたロクシーさんが真剣な目を私に向けてこんな事を言い出した。

 

 「アルフィン様。不躾な申し出なのですが、あの大粒のルビーを、わたくしに一つ譲ってはもらえないでしょうか?」

 

 へっ? もしかして表情が暗くなって理由ってそれ?

 

 「えっ? ええ、もちろん良いですけど・・・もしかしてロクシー様の表情が暗くなったのはあのルビーを購入できなくなると思われたからなのですか?」

 

 「はい。お恥ずかしい話ですが、わたくし、あれほど大きなルビーを持っていませんの。いえ、わたくしだけではありません。あれほどの大粒なルビーは我が国がいかに広いとは言えども、数点しか存在しないと思いますわ。それだけにお金だけあっても手に入るものではなく、まさに憧れの一品なのです。ですからこれを気に手に入れようと思ったのに、アルフィン様が売らなくても館を手に入れることは出来ると仰られたので・・・」

 

 ああなるほど、確かにそんな貴重なものだとしたら手に入る機会があるのなら手に入れたいと思うだろうし、それを持ちかける口実が見つかって喜んでいたのに断られて落胆したと言う訳ね。

 まぁ私としてはそれ程珍しい物でもないから譲っても問題はない。

 でも、相場で買い取ってもらうと言うのも芸がないわよねぇ。

 だからと言って、プレゼントすると言うのもまた芸がないというか、物の価値が解らない娘だと再認識されるだけだし・・・あっ、そうだ。

 

 私は良いことを思いついたとばかりに顎の前で両手を合わせ、フフフッっと声を出して笑った。

 

 「ロクシー様、最初に幾つか見せていただいた物件がございましたでしょう? あれの一つを私にプレゼントしていただけませんか?」

 

 「最初のと言うと、比較的安い物件ですか?」

 

 私はクスクスと笑いながらコクリと頷いた。

 そしてテーブルの隅に追いやられていた物件の書類を手元に引き寄せる。

 

 「そうですねぇ・・・うん、これなんか良さそうです。立地的にも、建物の構造的にも」

 

 そう言って私は一つの物件を選び、ロクシーさんに渡す。

 それはイーノックカウの中心部にある広場近くに建てられた庭付きの洋館で、値段も金貨2800枚と用意されたものの中では比較的値段の高めのものだった。

 

 「これを私にプレゼントしていただけたら、私もロクシー様にお礼のプレゼントをお渡しできますもの。私としてはイーノックカウに拠点を構えるのならば大使館の他に我が城の者が気楽に滞在できる館をもう一つ手に入れたいですし、ロクシー様にお近づきの印を何かお渡ししたいとも思っていましたから、その願いもかなえられます。うふふっ。我ながら、なんて良い思い付きでしょう」

 

 「私はそれで構いませんが・・・本当に宜しいのですか?」

 

 ロクシーさんはあまりの事に困惑顔で聞いてくるが、私としては自分が提案した事なのだから異論があるはずがない。

 それにこのイーノックカウに私たちが滞在するのとは別の拠点を手に入れることが出来るのならば、前から考えていた"あのプラン”を実行に移すこともできるのだから、返って好都合とも言えるくらいよね。

 

 「もちろんですわ。ああそうだ、どうせプレゼントするのですからルビーをそのままお渡しするのも面白くないですわね。指輪にするにはあれは少々大きすぎますし・・・ロクシーさまはネックレスとブローチ、どちらがお好みですか? 城の職人に伝えてお好きなアクセサリーに加工してお渡ししますから」

 

 「まぁ素敵。では厚かましく、ネックレスでお願いしようかしら」

 

 「フフフッ、解りました。そのように伝えて置きますね」

 

 こうして私はイーノックカウに大使館と庭付き物件の二件を持つこととなった。

 

 

 ■

 

 

 時は現在に戻る。

 

 購入の為の金貨30000枚は流石にイーノックカウまで持ってきていないと言う事でその日は仮契約だけして、昨日その金貨をもってメルヴァがイーノックカウに到着した。

 そして先の仮契約は、そのお金を支払った事により正式な契約となって元領主の館は私のものになったらしい。

 らしいと言うのは、その場に私が立ち会ったわけではないからだ。

 

 と言うのも普通はそのような雑事には王族どころか貴族でさえ携わる事なんてありえない話らしくて、本来なら平民である商人がわざわざ城までお金を取りに来て契約するのが当たり前なんだって。

 でもここから遥かに離れたイングウェンザー城までお金を取りに来てもらうのは流石に気が引けるし、何よりそれ程の大金を運んでいる時に何かあれば大変だと言う事で、そんなことが起こりようが無いうちの馬車で運んだというわけ。

 

 何せスピードが違うし、何より殆どの行程はゲートで飛んでショートカットしているから安心安全。

 それにこの都市に長期滞在するとなるとメルヴァと打ち合わせをしないといけないから、これを気に彼女にここに来てもらったというわけだ。

 そしてメルヴァはイーノックカウに付くとそのまま商会まで出向き、馬車に同乗していたイーノックカウの館勤めになるメイド10人とで金貨が300枚ずつ入った袋100個を持ち込んで本契約、館の鍵を手に私に会いに来て事の顛末を語ってくれたと言う訳なの。

 

 さて、メルヴァが運んできたのは当然金庫だけではない。

 複数の馬車と護衛の騎士たちによって館に置かれる家具や調度品、日用品の類も大量に持ち込まれた。

 そしてその中には驚いた事に転移門の鏡まで含まれていたの。

 

 メルヴァが言うには、防犯の面から考えて少々危険ではあるけど、持ち込まないわけには行かないという判断で持ってきたらしい。

 曰く、

 

 「アルフィン様は私と一緒に城に戻っていただき、どなたかが尋ねて来られた時はこの鏡を使ってメイドが連絡すれば宜しいかと。仕事がたまっているのですから、こんな所で油を売っていてもらっては困ります」

 

 だそうな。

 

 私としてはゲートでちょくちょく帰るつもりではあったんだけど・・・そうだよねぇ、ちょくちょくじゃダメよね。

 でもなぁ、この世界に転移した時は「私たちが全て行いますから、至高の御方々は御緩りとお過ごしください。私たちはそのために生み出されたのですから」なんて言っていたのに、変われば変わるもんだ。

 確かにこれは何もしない生活なんて退屈だからと言って私が望んだから今があるんだけど、ここまで変わる必要はないと思わない?

 

 計算外だったのは面白がったあやめが「アルフィンは放っておくと坂道を転げ落ちるかのように怠けだすから、適度に監視してね。これ命令」なんて言ったものだから、生真面目なメルヴァがそれを真に受けて今みたいに厳しくなっちゃったという側面もあるのよねぇ。

 だから厳密に言えば私が望んだこととは違うんだけどね。

 

 でもまぁ実際あやめの言う通り、坂道を転げ落ちるようにどんどん怠惰になる自分が私にも想像できるから、このままが一番なんだろうとも思う。

 流石あやめ、私だけの事はある・・・とでも苦し紛れに言っておくかな。

 

 閑話休題。

 

 それで今は運んできた物を館に運び込んで、各部屋に設置してもらっている所と言う訳。

 ロクシーさんの口調からすると結構なお客さんが来るみたいだし、会談する場所や会食する部屋はきちんと用意する必要があるだろう。

 それにこれだけの大きな屋敷を購入させたと言う事は、パーティーを開くことも想定しているんだと思うから、そちらの調度品も整えないといけないのよね。

 

 だから実際に置いてみて足らないものを城にメッセージで連絡、城にあるものならばそれを、ない物はアルフィスが先頭に立ってそれぞれの職人たちに作らせて続々とゲートを使って此方に送られてきていた。

 

 「あとはそうねぇ、メルヴァ、料理人を2~3人此方に寄越して頂戴」

 

 「料理人ですか? アルフィン様は城にお帰りになられるのですよね? ならば転移門の鏡があるのですからパーティーを開く時だけ此方に寄越すのではいけないのでしょうか?」

 

 確かにこの館に住むメイドたちは全員料理スキルを持っているから自分たちで料理が作れるし、私たちが居ないのならばそれ程手の込んだ料理を食べることも無いのでわざわざ専門職である料理人NPCをこの館に置く必要は無いだろう。

 でもねぇ、ちょっと考えている事があるから数人此方に常駐して欲しいのよね。

 

 「折角この都市に拠点が手に入ったことなんだし、色々とやってみたい事があるの。その為にはこの国の食文化をもう少し知っておきたかったんだけど、前もって色々と調べていたまるんちゃんが言うには、専門的な知識がないと何がどうイングウェンザーと違うのか解らないらしいのよ。だから料理人の子たちにイーノックカウの有名なお店を回ってもらって、この町の味を見てきて欲しいと考えているのよね」

 

 「なるほど、そういう理由でしたか。それでしたら数名選抜し、この館に配置したいと思います」

 

 この館にも確かに一人はいたほうが良いと思う。

 でもこの役割を考えるとここよりも。

 

 「その事なんだけど、今まるんちゃんに付いているユミを責任者にして、中央広場近くの館の方に派遣しようと思っているのよ。ユミは味見スキルを持っている貴重な子だし、立地面で見てもこの館よりあちらのほうが有名な店や高級宿も多いから。そのほうがこの仕事には向いているでしょ」

 

 「はい、解りました。ではユミに変わるまるん様付きメイドは誰を任命しますか?」

 

 「同じ紅薔薇隊のトウコで良いんじゃない?」

 

 「畏まりました。そのように手配します」

 

 とりあえず人事面はこれで大丈夫かな? あっ、広場のほうの館も使うのならあちらの調度品もそろえないといけないのか。

 まぁあちらはそれ程広くないし、人を招くわけでは無いから各自が使う日用品以外は適当なものを見繕ってそろえれば良いかな。

 最終的にはあの館は大幅改修するつもりだしね。

 

 私がそんな事を考えていた頃、イーノックカウにある重要な情報が齎された。

 それは10日ほど前、帝国がアインズ・ウール・ゴウンという魔法使いに新たな爵位である辺境候という地位を与えて皇帝陛下の臣下にしたことを発表したと言うものだった。

 





 最終章の始まりです。
 この最後に齎された情報から始まり、世の中は少し波乱に満ちた状況になっていきます。
 この展開で、こののほほ~んとした物語はシリアス展開になって行くのか? ・・・なるなんて思っている人、居ないですよね?w

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