ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~   作:杉田モアイ

11 / 154
11 ヒーロー登場

 草原を信じられないほどのスピードで疾走する赤と青の馬、その上ではのんびりとした会話が交わされていた。

 

 「シャイナ、村についても中には入らないんだよね?」

 「うん、そのつもり」

 

 今回の目的は視察と言うか偵察だから村の人とは接触しないつもり。

 遠目に見るだけなら子供とメイドと戦士と言う変な構成でも誰も気にしないだろうけど、わざわざ村を訪ねたら流石におかしいと思う人はいると思う。

 それに

 

 「村人と話をして、何か迂闊な事をしゃべったりしたらこれからの行動に支障をきたすだろうし、何よりアルフィンたちに相談もしないで親交を深めたりしたらまたメルヴァたちに怒られそうだしね」

 「メルヴァさんは怒らないと思いますよ。ギャリソンさんは頭抱えるかもですけど」

 

 そうだなぁ、危険なことをしなければメルヴァは怒らないか。

 でも、ギャリソンは場合によっては領主への説明を少々修正しなければならなくなるから大変になるかな。

 

 「まぁ、そう言う訳だから、中には入らず、遠くから見るだけにするつもりだよ」

 「そうかぁ、ちょっと残念」

 

 後ね・・・。

 

 (小声で)「マスターに黙って村人と仲良くなったら怒られそうだしね」

 (小声で)「そうだね」

 

 セルニアに聞こえない声でまるんと笑いあう。

 マスター、来たがってたからなぁ。

 これでさらに何か面白い事があったら暴れそうだ。

 

 距離が30キロ以上あると言っても時速100キロほどで走っていれば20分もあれば着いてしまう。

 そして20分なんて時間はお喋りをしていたらあっという間に過ぎてしまうもので。

 

 「シャイナ様、ボウドアの村まであと5キロほどに近づきました」

 「えっもう?ならそろそろ減速して、並足にするかな」

 

 流石に普通の馬ではありえないこのスピードで近づけば、誰かに見られたりしたら大騒ぎになってしまうので急速に速度を緩め、普通の馬の並足くらいのスピードまで落として歩を進める。

 

 「後5キロか、もうちょっと近づいてから速度を緩めてもよかったかなぁ?」

 「村に近づくと人と遭う確率も上がるからしかたないよ」

 

 並足だと50分ほど掛かってしまうけど、まるんの言う通り安全策だと思えばいいか

 急ぐ用件でもないし、のんびり風景でも眺めながら行くとしよう。

 

 「最初に言っておくけど、村人に見つかっても声はかけない事。声さえかけなければ、こちらの服装を見て自分から声をかけてくる事はないだろうからね」

 「はい、解りました」

 

 セルニアが元気に返事をする。

 

 「あ、まるんは子供だから手くらい振ってもいいよ」

 「子供じゃないって!」

 

 確かに年齢は私と同じくらいのはずなんだけどなぁ。

 

 「まるんは外見と行動がお子様だから」

 「お子様じゃなぁ~い!」

 

 そう言って、ぷいっと横を向き、ほほを膨らます。

 こう言うところがお子様なんだけどなぁ。

 グラスランナーはみんなこうなんだろうか?

 

 「まるん様の子供らしいところも私は好きですよ」

 「だから子供じゃないの!」

 「あはははっ」

 

 セルニアとの掛け合いもほほえましい。

 この二人、うちの和み担当(勝手に命名)だけの事はあるね。

 

 そんな微笑ましい空気の中、30分ほど馬の背に揺られていると前方で煙が立ち上った。

 

 「ん?野焼きでもしているのかな?」

 「野焼きって何ですか?」

 

 ああ、セルニアは知らないのか。

 

 「春先に草原や畑に生えた雑草を刈り取って、一箇所にまとめて焼くんだ。その灰を肥料にしたり、その火に集まってきた害虫を駆除する事ができる。これを野焼きって言うんだよ」

 「へぇ~、そうなんですか」

 

 と言っても私も聞きかじりだから本当にそうなのかはよく解っていなかったりするんだけどね。

 

 「でもそうすると、時期が合わないような気がするのですが」

 「そう言えばそうだなぁ」

 

 この世界のことはまだよく解らないけど、確かに今は野焼きをする時期では無い気がする。

 

 「とすると祭りか何かかな?」

 「祭りかぁ、楽しそうだね」

 

 私の言葉にまるんが目を輝かす。

 でもね・・・。

 

 「さっきも言ったけど、村人との接触は厳禁ね」

 「もぉ~、解ってるって!」

 

 いや、さっきの目は解ってなかった目だ。

 

 「でもまぁ、祭りなら外から見てもある程度文化レベルが知れるし、ちょうどいいかもね」

 「そうですねぇ」

 

 この時、村ではとんでもない事が起こっているのだけれど、そんなことを知らない私たちはのんびりと馬を進める。

 

 「あ、あそこが丘になっています。シャイナ様、あそこに登って村を観察してはいかがでしょうか?」

 「そうだね、あそこに行こう」

 

 普通の馬では登れそうに無い場所ではあったけど、アイアンホースなら問題なし。

 周りに誰もいないことを確認すると、シャイナたちが操るアイアンホースはまるで鹿のようにぴょんぴょんとはね、崖を駆け上り、あっという間に丘の上にたどり着いた。

 

 「ん?なんか変じゃないか?」

 

 平地ではわからなかったけど、高いところに登ると煙の匂いが漂ってくる。

 これは薪や松明ではなく、古い木材やわらが燃える時に出る埃を含んだ煙のにおいだ。

 

 あわてて中空に手を伸ばし、アイテムボックスから遠見のめがねを取り出す。

 まるんとセルニアもそれに習い遠見のめがねを取り出して装着した。

 

 「シャイナ様、まるん様、大変です!村が襲われています!」

 「たっ大変だ!助けに行かなきゃ」

 

 遠見のめがねの先では野盗と思われる者たちが村を襲っている光景が映し出されていた。

 一軒の家屋などは家の中にあった火種が移ったのか、まだ小火のようではあるけれど火の手が上がっている。

 

 確かにまるんたちの言うように非常事態ではあるんだけど。

 

 「まるん、店長、ちょっと待って」

 「なに?シャイナ、村が襲われてるんだよ」

 「そうです、シャイナ様、待ってなどいられません。早く助けないと」

 

 気持ちは解る。

 私も助けるべきだとは思うけど、頭の片隅で冷静な部分がストップをかけるんだ。

 

 「とにかくちょっと待って。少し変じゃない?」

 「変?変って、なにが?」

 

 実際に声に出してみるとより冷静になれたのか、自分の中の違和感がある程度形になってくる。

 野盗が村を襲っているにしては、今、目の前で行われている光景はやはり変なのだ。

 

 「まるん、よく見てみなよ。あの野盗たち、村人をなるべく傷つけないようにしているように見えない?」

 「えっ?そんな馬鹿な。だって野盗だよ」

 

 そうは言った物の、まるんはもう一度遠見のめがねで村を観察する。

 

 「あ、本当だ。何と言うか、反撃する人だけを攻撃して、逃げそうな人は脅して追っ払っている感じがする」

 「でしょ」

 

 もしかしたらこの世界の野盗はみんなああなのかもしれない。

 何と言うか、子供の童話に出てくるみたいな感じで。

 

 そんな考えが頭に一瞬浮かんだけど、流石にそれはないよなぁ。

 

 「シャイナぁ~、あれってどう言う事なの?」

 「流石に解らないけど・・・」

 

 少し考えて、頭の中に浮かんだ考えを口にする。

 

 「考えられる可能性は三つ。一つは、あれは自作自演で、誰かをおびき出そうとしている可能性」

 「誰かって?」

 「それは流石に解らないよ。私たちってことはないとは思うけど・・・」

 

 実はプレイヤーが近くにいて、私たちがこの世界に来た事を知って試してるなんて事は・・・流石にないよなぁ。

 

 「次に考えられるのは、この世界は人を殺さなければ物を取ってもあまり重い罪にならない場合」

 「そんな事、ありえるの?」

 「たぶん無いとは思うけど・・・(セルニアに聞こえないよう小声で)私たちのマスターの世界でも殺人のほうが罪は重いでしょ。窃盗だけならかなり罪軽いし」

 「そうかぁ・・・」

 

 現実世界でも、これは強盗にあたるからかなり罪は重いけどね。

 それに流石に罪が軽くなるようになんて、つかまる事を前提として行動しているなんて事はないとは思うけど、絶対にありえない話ではないよね。

 

 「そして三つ目。これは流石にないと思うけど、実はあの野盗は善良な人たちで、仕事がなくなって喰うに困ったから仕方なく野盗をやっていて、あまり人は傷つけたくないと言う場合」

 「シャイナぁ~、流石にそれは無いよ、少女マンガじゃないんだから」

 「そうですよねぇ。流石にそれはありえません」

 

 いつの間にか話に入ってきたセルニアと二人掛りで否定されてしまった。

 解ってますよ、流石にそんなことはありえないって事くらい。

 

 「シャイナったら、思考がメルヘンで乙女なんだから」

 「シャイナ様はそう言う可愛いところ、ありますよね」

 「ううっ・・・」

 

 でっでも、もしかしたらそうかもしれないじゃないか!

 

 「とにかく、今の状況がよく解らないうちは動くべきじゃないと思う」

 「そうかなぁ?」

 

 むやみに動くとろくなことは無いからね。

 

 「私たちがここにいるのは偵察だし、あまり目立つべきじゃない。それにあの村で虐殺が行われていると言うのなら急いで助けないといけないけど、あの雰囲気からするとお金や食料は取られるだろうけど村人が死ぬなんて事はなさそうだし、野盗が去った後に大変そうだったら手を貸せばいいと思う」

 「それって薄情じゃないかなぁ」

 

 今もなお襲われている村に目を向けたまるんがつぶやく。

 セルニアも同じ様な表情だ。

 でも・・・。

 

 「私たちが短絡的に動いてイングウェンザーのみんなを窮地に陥れるわけには行かないのだから、ここは冷静に状況を見極めるべきだと思うよ」

 「・・・うん」

 

 まるんも私の意見に一応納得してくれたのか、助けに行くのは思いとどまったようだ。

 

 「セルニア、もしかしたら村にいるのが全員ではなくて周りに見張っているものがいるかもしれないから探知魔法で探ってくれない?」

 「解りました、シャイナ様」

 

 セルニアはイングウェンザー城の地上階層を守る立場にあるため、襲撃に備えて周りを探知する魔法をいくつか覚えている。

 もしかすると隠れる技術に長けたものが見張っているかもしれないけど、いま村を襲っている野盗たちを見る限り・・・。

 

 「あれでは流石にセルニアの魔法から逃れるほどのものは仲間にいないよねぇ」

 

 可能性として一応他のプレイヤーがいるかもってのを入れたけど、村を襲っている野盗のほとんどは6~8レベルだし、弱いのなんかもしかしたら2~3レベルかも。

 一番強そうなボスらしきやつでも12レベル行ってないんじゃないかな?

 

 いくらおびき出す役だったとしてもプレイヤーがそんな弱い相手を使うとは思えないんだよね。

 

 「もしおとりでやっていたとしても、私たちなら全員倒すのにほとんど時間が掛からないから、伏兵が来るまでに終わってしまうよねぇ」

 

 そう考えるとプレイヤーがかかわっていると言う説は消えるね。

 と言うことは、想定している相手がいたとしてもあのおとりが耐えられるだけの相手だろうし、隠れている兵がいたとしても、村を襲っている野盗と同じくらいか少し強い程度の相手だろう。

 

 「シャイナ様、完全知覚遮断の魔法を使っているのでなければ、武装をしている者は村を襲っている者たちしかこの周辺にはいないようです」

 「そう、ありがとう」

 

 う~ん、となると自作自演と言うこと自体なくなったか。

 助けに入ったら村人も一緒に襲ってくると言うのもありえなくは無いけど、どう見てもみんな1レベル以下の普通の村人だしなぁ。

 あれでは助けに来た相手が野盗と同程度の強さであったとしても壁にすらならないだろう。

 

 考えられるのは後二つだけど、流石に最後の案が合っている可能性はないだろう。

 では本当に殺さなければ罪が軽いなんて事があるのかもなぁ。

 

 マスターがエントの村で仕入れてきた情報の中に、今の王様になってから騎士や衛兵が街道を見回るようになったというのがあったから、弱い野盗は本当につかまった時のことを考えていたりするのかもなぁ。

 

 そんな自分でも信じられないような理由を真剣に考えていると。

 

 「あのぉ~、シャイナ様」

 

 セルニアがこちらの考えを中断させるのを躊躇するような、でも話すべきだよなぁと考えた末のような、すまなそうに声をかけてきた。

 

 「なに?なにかあった?」

 「はい、武装している者はいないのですが」

 「いないけど?」

 

 これは関係あるかどうかわからないけど報告すべきだろうといった表情でセルニアが続ける。

 

 「子供が二人、村に入っていきました」

 「ふ~ん、子供がねぇ・・・・・・子供がぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~!」

 

 セルニア、何でそれを早く言わないの!

 私が今の村を見て静観しようとしたのにはもう一つ理由があった。

 子供がいないのだ。

 

 たぶん、野盗が襲って来た時に、どこか安全な場所に隠したか、逃がしたのだろうと思って、それならば静観してもいいだろうと考えたんだ。

 でも、もしかしたら逃がしたのではなく、子供は別の場所で仕事をしていて、村から上がった煙を見てあわてて戻ってきたのかもしれない。

 

 これはうかつだった。

 あわてて遠見のめがねをつけて村を見ると。

 

 母親だろうか。

 野盗にやられたのであろう、ぐったりと倒れこんで頭から血を流す女性が見える。

 

 そしてその傍らで泣く小さな女の子二人。

 

 ギリッ。

 奥歯が鳴る。

 

 「しゃ、シャイナ様・・・」

 

 目の前が真っ赤になり頭が一気に沸騰した。

 

 バァァァァァァァァァァァ~~~~~ン!

 

 丘が揺れるほどの衝撃と爆発音。

 それを残し、今までまるんとセルニアの横にいたはずのシャイナの姿が消えていた。

 

 

 ■

 

 

 「ああ、やっぱり」

 「えっと・・・まるん様、シャイナ様は?」

 「あそこだよ」

 

 指差しながら思い出していた。

 そう言えばシャイナって大の可愛い物好きだった。

 

 子供が泣いているなんて光景を見たら黙っていられるわけが無いよね。

 

 「まるん様、どうしましょう」

 「仕方ないじゃない、シャイナが突っ込んだんだから行くしか」

 

 遠くで聞こえる「子供を泣かすなぁぁぁぁぁ!」と言う絶叫とちゃんと手加減する理性は残っていたと解る破裂音。

 そして「子供を泣かすやつは私が絶対に許さない!」と言うシャイナの絶叫を聞きながら。

 

 「静観するんじゃなかったの?」

 

 と言葉とはまったく逆の満面の笑みをうかべて、まるんはセルニアとともに村に向かった。

 




(H27・11月24日)
 長々と休ませてもらいましたが、とりあえず復活し、加筆修正をしました。
 これまでの心境や経緯は私のHPにアップした第14話のあとがきに書いてあるので気になる人はどうぞ。

 あと、最初のコメント文にも書きましたが、これからはあとがきや私が感想掲示板の返答に書いたものへの書き込みが掲示板に書かれても基本返答しないのでご容赦を。
 この理由も私のHPの14話あとがきを読んでもらえれば解ると思います。

 あ、こちらの12話も今週中にアップします。

 さて、ここからが今回のあとがき。

 うちのHPでも書きましたが、これは書いておいた方がいいかな?と思ったのでこちらでも。

 シャイナが子供のピンチにおかしくなってますが、これはシャルティアの血の狂乱みたいな物です。
 TRPGなどでステイタスを底上げするためにわざわざマイナスのステイタスを設定する事があるのですが、シャルティアの血の狂乱もそのようなものなんじゃないかなぁ?と思い、シャイナにも同じ様なものを設定しました。
 因みにシャイナの可愛い物好き、子供好きはこの為に作った設定ではなく、はじめからのものです。

 たぶん本編でこの弱点が大きく作用する事はないでしょうけど、シャイナは相手がアウラやマーレのような子供キャラだった場合全ステータスが20パーセントほど落ちます。

 また、今回のように子供のピンチは絶対に見逃せません。
 こちらはこれからもたまに顔を出すんじゃないかな?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。