ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~   作:杉田モアイ

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外伝3 年末年始

 

 

 今よりほんの少しだけ先の話。

 

 「この世界でも年の瀬は忙しいのねぇ」

 

 1年の終わりを数日後に控えたある日のイングウェンザー城、一階の中央エントランス。

 そこにはあわただしく動き回るメイドたちと、それを見守るアルフィンとシャイナの姿があった。

 

 「忙しいって、私たちは何もやってないじゃない。城の大掃除も新年の飾りの準備もみんなメイド任せだし」

 

 「そうは言うけどシャイナ、あなただってせめて自分の部屋くらいは自分たちで掃除するよってメルヴァに言った時に、彼女からどう言われたか覚えてるでしょ」

 

 そう言ってあの時のことを思い出す。

 私たちが、みんな忙しいだろうから自分たちの領域くらいは自分で掃除するから手を出さなくても大丈夫よと言ったら、メルヴァが大慌てで止めたのよね。

 

 「メイドたちの仕事(楽しみ)を取り上げる御つもりですか? 至高の御方々の私室を掃除する栄誉に預かれるのは各部屋3人ずつの計18人だけなのです。その人選でどれだけ長い時間会議が開かれたか。できる事なら、そう、できる事ならば私もアルフィン様のお部屋を掃除したかった! しかし掃除はメイドの仕事なので血の涙を流しながら私も我慢したのです。そのような状況で選ばれた者たちに、至高の方々は御自ら自室の掃除をなさるようですなどと、どの口が言えましょうか!」

 

 本当に血の涙を流しかねない表情で語るメルヴァに、私たちは何も言えなくなってしまったのよね。

 

 「確かにああ言われちゃなぁ。前にも私たちのために働くのが彼らの最大の喜びと言っていたし、それを取り上げるのかと言われたら手を出す事はできないよ。私としても、まるっきり解らない気持ちではないしね」

 

 「そうね。でもまぁ、御神像と神棚の掃除だけは私がやるけどね」

 

 私のジョブは巫女である。

 そして商売の神様に感謝し、家や会社にあった御神像と神棚を清め、新年を迎えるのは元の世界にいた時から私自身がやっていた事なのだから、これだけはけして譲れないのよね。

 

 「流石にあれだけはメルヴァも折れてたな」

 

 「それはそうよ、商売の神である恵比寿様と大黒様は私にとって大事な神様だもの。この世界に来てしまって初詣にも初えびすにも行けないのだから、せめてそれくらいはしないと気がすまないわ」

 

 流石に熊手の準備だけはメルヴァに取られちゃったけどね。

 まぁ、お札の作成は巫女のような神職系ジョブしかできないからと、熊手の中央に貼るお札だけは私が書くことを認めさせたのだから、それくらいは我慢するとしよう。

 

 ぱたぱたぱた。

 ぱたぱたぱた。

 

 私たちがそんな事を言いながら忙しなく走り回るメイドたちを見ていたら、彼女たちの足音に混じって軽い二つの足音が聞こえてきた。

 ああ、この足音は。

 

 「あっ! あるさん、こんな所にいたんだ」

 

 「あるさんとシャイナ発見!」

 

 我が城の癒し担当、ちみっ子二人組みの登場だ。

 

 「あらまるんにあいしゃ、どうしたの? 私に何か用事?」

 

 「うん、ギャリソンが探してたよ」

 

 「なんか、お手紙がとどいたっていってた!」

 

 手紙? 誰からだろう。

 

 この世界に来て手紙を貰うのは初めてだ。

 と言うのも、たとえばボウドアの村長が私たちに何か用事がある時は館のメイドに伝言を頼むし、カロッサさんが用事がある時はリュハネンさんが同じくボウドアの館に来て連絡するか、時間に余裕があるときは城まで直接訪れるからだ。

 

 例外的にボウドアの村までちょっと遠いイーノックカウにいるライスターさんから手紙が届く事はあるんだけど、そのあて先は私ではなくシャイナだから私にわざわざ手紙を送ってきた人は今までいなかったのよね。

 

 「解ったわ。ギャリソンは執務室ね? 誰からの手紙か気になるし、ちょっと行って来るわ」

 

 「はい、行ってらっしゃい」

 

 「「行ってらっしゃぁ~い!」」

 

 3人の言葉に送られて、私は転移の指輪で執務室の前へと移動する。

 

 「アルフィン様、ギャリソン様がお待ちです、どうぞ此方へ」

 

 すると執務室のドアの前で控えていたメイドが、私に気が付いて一礼し、

 

 コンコンコンコン。

 ガチャ。

 

 「ギャリソン様、アルフィン様が御見えです」

 

 ノックをした後、観音開きのドアの片方を開けて中にいるギャリソンに一言かけてから、もう片方のドアも開けて中に入り、扉の横に控える。

 

 フゥ。

 

 心の中でため息一つ。

 

 いつも思うけど、恭しすぎるのよねぇこれ。

 でもまぁ様式美みたいなものだし、やめろと言っても困らせるだけっぽいから、いつものように一言お礼を言ってから中へ入ることにする。

 

 「ありがとう。ギャリソン、手紙が届いたって? 一体誰からなの?」

 

 「はい、アルフィン様。どうやらロクシー様からのようでございます」

 

 ロクシーさん? 確か戦争も終わって今は帝都に帰っているはずよね? 一体何の用事かしら? これがイーノックカウに滞在していると言うのならパーティーのお誘いかな? なんて考えるんだけど、帝都にいる彼女からそんな手紙が届くとは思えないのよねぇ。

 

 「とりあえず見せて頂戴」

 

 エントランスにいたのにこの手紙が届けられたのを私が知らないところを見ると、ボウドアの館に届けられたのかしら?

 

 そんな事を考えながら、ギャリソンにそう言って手紙を受け取る。

 手紙と言っても封筒に入っているのではなく羊皮紙を巻いてその端を封蝋してあるだけのもので、そこには差出人が誰かなどと当然書いてはいない。

 だけど誰から届いたのか解るのは、この封蝋に押された紋章のおかげなんだろうね。

 私はこの紋章だけではロクシーさんからの手紙だなんて解らないけど、ギャリソンはきっと知っていただろうし。

 

 パキン。

 

 私はアイテムボックスからペーパーナイフを取り出し、羊皮紙の隙間に通して封蝋を砕く。

 そして、おもむろに手紙を広げて読・・・ダメだ、読めないわ。

 

 そう言えば私、この世界の文字をまだ習得していないのよね。

 と言う訳でペーパーナイフを仕舞いながら解読の魔法が掛かっているモノクルをアイテムボックスから取り出して、再度手紙に目を落とした。

 

 ふむふむ、なるほど。

 

 「どうやら帝都で行われる新年のパーティーに来て欲しいらしいわ。なんか皇帝陛下が今年一年ろくな事が無かったらしくて、悪い運気を祓うために私に神楽を舞ってほしいそうよ」

 

 「そのような事でアルフィン様をわざわざ呼びつけるというのですか? 許しがたいですね」

 

 あら、またギャリソンの悪い癖が出てるわね。

 いやギャリソンだけじゃないか、これはNPC全員に言える特徴だものね。

 でもまぁ、このままでは話が進まないから、なだめるとするかな。

 

 「まぁまぁ、そういきり立たないの。とんでもなく運が悪かったりすると誰だって神様に縋りたくなるものよ。そんな時、私のように穢れを祓う巫女と知り合えたのだから、一年の最初に神楽で清めて欲しいと考えてもおかしくはないでしょ?」

 

 「それならばあちらがこの城に訪れれば良いだけではありませんか。それなのにアルフィン様を呼びつけるなどと!」

 

 「あら、それは仕方がないのではないかしら? だってあちらは大国の皇帝なんだし、新年となれば色々な所から挨拶の人が来るでしょ? それなのにその挨拶を受ける皇帝が嫌な運気を祓う為に出かけていますでは多くの人が困ってしまうもの。その点私は気楽な立場だし、どちらが移動すれば良いかなんて一目瞭然じゃない」

 

 「しかし・・・」

 

 う~ん、流石にこれだけじゃギャリソンの引いてくれないか、ならダメ押しでっと。

 

 「それに私自身、一度帝都と言うものを見てみたいのよね。何せ私たちが知っているこの世界で一番の都市ってイーノックカウでしょ。あれでもかなり大きくて見物する場所には困らなかったんですもの、帝都ならもっと色々と珍しいものを見て回れそうだとは思わない? 何より、帝城の中を見ることができる機会なんてそうはなさそうでしょ。なのに断るなんてもったいなすぎるわ」

 

 「・・・アルフィン様がそう仰るのならば、もう反対はいたしません。差し出がましい口をきいてしまい、真に申し訳ございませんでした」

 

 無理やり自分を納得させ、そう言って頭を下げるギャリソンに軽く手を振って私はもう一度手紙に目を落とす。

 

 ふむふむ、パーティーはそれ程大規模なものじゃないみたいね。

 どちらかと言うと、他国の来賓や大貴族たちとのパーティーが年明けから続くから、それが一段落した10日に愛妾たちと一部の騎士や貴族を呼んで行われる小さなものなのか。

 ああ、だからこんな年末の押し迫った頃に手紙が届いたのね。

 

 この城から帝都まではかなりの距離があるから、もし年始に行われるパーティーのお誘いならもっと早く連絡が来るはずなのよ。

でもこれならば準備をしてから向かっても十分間に合うだけの日時があるから、今頃届けられたのだろうね。

 

 実際、もし帝都にこの城から普通の馬車で向かうとなると10日はかかると見た方がいい。

 でも、うちの馬車なら2日もあれば着くことが出来るし、なんなら誰か早く飛べる者に帝都まで転移門の鏡を運ばせてもいいもの、準備する時間はたっぷり取れそうね。

 

 「そうと決まったら派手にやるわよ。折角の帝都興行ですもの。アルフィスは無理だけど私たち5人とメルヴァ、あとヨウコとサチコも思いっきり着飾らせましょう。後、どうせ神楽を舞うのなら私一人と言うのも寂しいわね。巫女キャラの子を二人ほど連れて行って一緒に舞わせたら舞台栄えも良いわね。そうだなぁ、ギャリソン、メイドのレイとサクラを呼んで頂戴」

 

 「畏まりました」

 

 アニメや漫画の巫女キャラってカラフルな髪色の子が多いから、うちにいる巫女ジョブ持ちもそんな子が多いんだけど、あの二人なら黒髪ロングで神楽の衣装が良く似合うだろうから適任よね。

 さて、そうすると舞の振り付けをどうするかね。

 衣装の巫女服と合わせてセルニアにでも相談するかな?

 

 

 忙しなく動き回るメイドをただ見つめるだけだった私の年末は、その日を境に急に忙しくなった。

 

 「店長、巫女服の選別はもういいから。それが決まらないと振り付けの練習に入れないでしょ」

 

 「しかしアルフィン様、華やかさではアルフィン様が御選びになられたものが宜しいのでしょうけど、流石にあれでは動きづらくはないですか?」

 

 私が選んだのは結構本格的な神楽用の着物だ。

 それだけに幾重にも着物が重なっているので少し重いのだけれど、私の身体能力的にはたいした問題ではないのよね。

 もし問題があるとしたら後の二人、レイとサクラだ。

 

 「店長、私は大丈夫だけど、レイたちだとやっぱり重過ぎるかな?」

 

 「そうですねぇ、キ・マスターも取っているアルフィン様と違って、彼女たちは巫女の習得条件である僧侶と踊り子しか取っていないので身体能力的には少し劣りますから」

 

 キャラ付けのために取得したジョブだからなぁ、確かに彼女たちは前提条件しかとってない。

 他にも料理人とか、こまごまと取ってはいるけど、筋力が上がるジョブがあるわけじゃないから重い衣装は避けたほうが良いか。

 

 「そうね、なら私は今の衣装で。二人は簡略した軽い衣装でお願い。あとそうねぇ、冠とか簪も軽いものに変えたほうが良いわね」

 

 「はい、そうした方が良いと思います。また、その方が中央で踊られるアルフィン様が際立ちますから」

 

 セルニアの了承を得て、やっと衣装が決まった。

 と同時に神楽は本来、3人で踊る場合でも皆が同じ舞を舞って見せるはずなのに、私だけ衣装が違うから変則的なものになってしまいそうね。

 まぁ本当の神楽をこの世界の人は知らないし、エンターテイメントとしての舞と考えればその方が映えていいのかもしれない。

 

 

 そんなこんなで月日はあっと言う間に進み、年明け。

 年末からボウドアの村に移動していた私とシャイナ、まるんの3人はユーリア姉妹とマイエル夫人、それに村の子供たちを館に招いて、新しい年を大騒ぎしながら祝った。

 そして4日の朝、当初の予定通りアルフィスを除く5人とメルヴァ、ギャリソン、あとヨウコたちメイドと共に城から来た馬車に乗って帝都へと旅立った。

 

 

 道中については特に何も語ることがない。

 それはそうよね、だってほぼ最高速度で進んでいるんですもの。

 

 うちの馬車なんだけど、前にロクシーさん主催のパーティーに向かった頃よりさらに改良を重ね、その上まるんがイーノックカウの魔術師組合の支部で見つけた<フローティング・ボード/浮遊板>と言う魔法を組み込んだ事により、どれだけ飛ばしても馬車の中は殆ど揺れないと言う夢のような乗り物に仕上がっていた。

 

 結果、振動や車軸への影響から100キロほどが限界だったこの馬車も、今の最高速度は200キロ近くまで上がっている。

 当然こんな速度についてこられる野盗がいるはずがないし、モンスターもこの辺りにいるものでは同じくこの馬車に追いつけるものはいないのだから、問題などどうやっても起きようがないのよね。

 

 ただ、その速度で走れるのは夜間と村や町のそば以外だけだから、思ったより行程は短くならなかったんだけど。

 

 それでも出発から二日目の1月6日に帝都へと到着、居並ぶ入るための行列を横目に私たちはロクシーさんからの招待状を見せる事により、貴族用の門を通って初めて帝都へと足を踏み入れたのだった。

 

 

 「流石に人通りは多いわねぇ」

 

 「そうだね。でも道は馬車が通る場所と人が通る場所が別けられているし、石畳で舗装されているから進みやすそうだよ」

 

 石畳だろうが舗装されていないでこぼこ道だろうがこの馬車には関係ないけど、他の馬車はそうはいかない。

 だからこそシャイナの言うとおり、この石畳が無ければ馬車は混雑し、渋滞を起していただろうね。

 そんな風に感じるくらいには、帝都は馬車の往来も多かった。

 

 さて、イーノックカウに行った時は、初めて訪れる異国の町って感じがして周りの建物全てが珍しかったけど、帝都は規模こそ大きくはなっているけど建物の造りはそれほど違わないから目新しさはない。

 帝都だからと言って高層建築が立ち並ぶなんて事はないからね。

 ただ。

 

 「う~ん、流石は帝城ねぇ。これぞお城! って感じがするわ。」

 

 「イングウェンザー城もお城といえばお城なんだけど、石積みの砦っぽい城だからね。やっぱりお城と言えば白壁に三角屋根のノイシュヴァンシュタイン城みたいなのを想像するから、こういうのを見ると、ああお城だ! って私も思うわ」

 

 「あたしもそう思う! 遊園地にあるお城のデラックス版って感じよね」

 

 「おっきいねぇ」

 

 「イングウェンザー城にも三角屋根、付けられないかなぁ」

 

 今のは上から私、シャイナ、あやめ、あいしゃ、まるんの感想ね。

 感想はまちまちだけど、みんな初めて見る帝城に大興奮だ。

 

 それこそこのまま城を訪れたい気分になるけど、呼ばれているのは4日後の10日、今日は今日で別の誰かが皇帝陛下に謁見しているだろうから私たちがあそこへ行くわけにはいかないので、今日から泊まる帝都でも有数の高級宿へと馬車を進める。

 参加の返事を出した所、ロクシーさんが進めてくれた宿だ。

 この宿ならパーティー用のホールもあるし、神楽の練習ができるから良いだろうって。

 

 宿の入り口には護衛が二人いたんだけど、予め話が通っていたのだろうか? 馬車の紋章を見てすぐに人を呼びに行き、

 

 「都市国家イングウェンザーの方々ですね。お待ちしておりました」

 

 と、中から身なりの良い人と従業員らしき人が出てきて、私たちを出迎えてくれた。

 

 そしてその宿で神楽の最終チェックをしたり、ロクシーさんからの使者と言う人と詳しい打ち合わせをしたり、ちょっとした観光をしたりしているうちに時は進み、あっと言う間にパーティーが行われる10日がやってきた。

 

 

 「いらっしゃい、アルフィン様。おめでとうございます。御会いしたかったわ」

 

 「おめでとうございます、ロクシー様。ご無沙汰しております。本日はお招きありがとうございます」

 

 いきなり帝城に入るのではなく、まず一番外の城壁に作られた砦のような場所で私はロクシーさんの出迎えを受けた。

 流石に何のチェックも受けずに中に入る事はできないらしく、馬車のチェックを受けたあと入場となるので、ロクシーさんは足止めされる間にでもと挨拶に来てくれたらしい。

 

 「今日はパーティーと言っても社交で忙しかった新年の慰労と言った感じですから、それ程堅苦しくはないのよ。参加者も私たち陛下の愛妾や、一部の上級貴族が参加するだけですもの。ただ、予めお教えしておかなければいけない事が」

 

 そう言ってロクシーさんは私に近づき、小声で注意するべきことを教えてくれた」

 

 「一人だけ気をつけて欲しい方がいます。辺境候閣下です。彼の方ご本人はとても穏やかで紳士的な方なのですが、その周りの者たち、特に今回も閣下がエスコートしていらっしゃるであろうシャルティアと言う美姫は、閣下に対する忠誠心が少々行き過ぎておりまして。アルフィン様ならば不況を買うことはないとは思いますが、念のためご注意ください」

 

 「ありがとうございます、ロクシー様。ご忠告、しっかりと心に留めて置きますわ」

 

 辺境候閣下か、と言う事はあの人がここにいると言う事よね。

 他の方の出迎えもしなければいけないと言うロクシーさんを見送った後、私は皆を集めてちょっとした打ち合わせを行う。

 あの人の存在を知ってから、もしもの時のためにと用意していつも持ち歩いていたステータス偽装のマジックアイテムをメイドも含めた全員が装備し、急遽私が作り上げたストーリーを説明して口裏合わせをする。

 

 急ごしらえだからよくよく調べれば嘘と解る内容ではあるんだけど、何も用意せずに赴くわけには行かないのよね。

 だって神楽を舞う時点で此方がプレイヤーだと疑われる可能性が高いのだから。

 

 

 馬車の審査も終わり、それに乗って入城、控えの間に通されたのでレイとサクラは神楽舞の衣装へと着替える。

 私はと言うと、まずは皇帝陛下への新年の挨拶があるのでこのままの姿でパーティーに赴き、神楽舞の時間が近づいたらヨウコたちと一緒に一度退室して着替え、会場に再入場をして神楽を舞うと言う流れになっている。

 

 

 「エル=ニクス皇帝陛下。新年のお喜びを申し上げます」

 

 「おおアルフィン殿、おめでとう。遠路はるばるご苦労だったね。今日は穢れを祓う舞、楽しみにしているよ」

 

 「はい、心を籠めて舞わせて頂きます」

 

 そんな皇帝陛下との新年の挨拶を経てパーティーが始まり、

 

 「これより都市国家イングウェンザーの神事、神楽舞の奉納が行われます」

 

 そしていよいよ神楽を舞う時間がやってきたので、シャイナたち自キャラ5人だけで舞台へと足を進めた。

 

 さて、ここからが正念場ね。

 

 そのまま何の挨拶もせずに始めてしまったら、きっと疑いは濃くなると思う。

 だってこの神楽は本来この世界に無いはずのものだもの。

 と言う訳で舞いを舞わない4人を連れてまずはこの舞台に上がり、私は来賓の方々に頭を下げてから挨拶を始める。

 

 「皆様、お初にお目にかかります。私は都市国家イングウェンザーの支配者、アルフィンです。以後お見知りおきを」

 

 私はそう言いながら皇帝陛下の横に座る仮面の男性に目を向ける。

 するとその人は私の挨拶に対して興味が引かれたかのように、少し身を乗り出すようなしぐさを見せていた。

 

 やっぱりお得意様のモモンガさんと同一人物なんだろうか? そんな疑問が心に擡げたけど、今はそれを確かめるべきときではないだろう。

 もし違っていた場合、ユグドラシル金貨欲しさにもし襲い掛かられたりしたら、ギルドの力関係からして一溜まりも無いんですもの。

 と言う訳で、予め作っておいたストーリーをここで疲労する。

 

 「これから披露する舞は、我が国に伝わる穢れを祓う神事です。ことの始まりは数百年前、突如どこからか6人の勇士が現れて強力な力を持つアンデッドに悩まされていた村を救い、そのリーダーがこの神楽を舞って穢れを祓う事によりその地を浄化して新たな国を開いたそうです。そして6人は我が国を支える6貴族となり、リーダーであった巫女姫が我が国の支配者となりました。今日ここにいる私たち5人はその子孫であり、私は新たな巫女として地位を引き継いだ時、アルフィンという初代の名も共に引き継ぎ、この神楽舞の舞い手となりました」

 

 私はここで一旦言葉を切る。

 そして周りを見渡した後、もう一度口を開いた。

 

 「この様な歴史があり、この舞いがあるのです。この国の方から見れば不思議な舞いでしょうが、これは見せる為のものではなくあくまで神事。派手さはありませんが、神聖なものとして御覧下さい」

 

 そう言って私は頭を下げる。

 それを合図にシャイナたちが舞台から降り、変わりにレイとサクラが私の左右に陣取った。

 

 シャラン、シャラン、シャラン。

 

 三度神楽鈴を振るい、

 

 「オン マカ キャラヤ ソワカ」

 

 大黒天御真言を唱えてから中央で舞いを舞い始める。

 すると仕切りの裏でギャリソンが神楽笛を吹き鳴らし始め、それと同時にレイとサクラも舞いを始めるのだった。

 

 

 ■

 

 

 神楽舞? 神楽ってあの神楽だよね、と言う事はあの少女はもしかしてプレイヤー?

 俺は思わぬところで出会ったプレイヤーに驚きを隠せない。

 

 横にいるシャルティアはユグドラシルの知識しかないから解らないだろうけど、この神楽と言うのは新年や夏祭りなど、色々な所で行われる日本の神事だ。

 だからこそこの世界にあるはずのないものであり、彼女がプレイヤーであると言う証拠でもある。

 

 だけどなぜ? 俺のギルドの悪評は知れ渡っているはずだし、この世界に来たのならユグドラシル金貨など、この世界では手に入らない貴重なものを奪う為に襲われるかもしれないと、自分たちの存在をひた隠しにするほうが自然だろう。

 なのになぜこの人は俺の前に姿を現したんだ?

 

 もしかしてナザリックを超える力を持つ上位ギルドの者か?

 

 一瞬俺の心に緊張が走る、そして、

 

 「皆様、お初にお目にかかります。私は都市国家イングウェンザーの支配者アルフィンです。以後お見知りおきを」

 

 この挨拶で俺はもう一度驚く事となる。

 だってこの名前に聞き覚えがあり、そしてこの名前によって掘り起こされた記憶がある人物と重なったからだ。

 

 生産系ギルド、誓いの金槌のアルフィン。

 

 現実世界でもそこそこ名の知られたデザイナーで、ユグドラシルでも他の生産者と違ってシックな家具やスタイリッシュな装備を多数発表して多くのファンを持つプレイヤーだ。

 まぁそんなものばかりではなく、オタク系ファッションやコスプレ衣装、NPCを使ったショー等々、そっち方面でも有名なプレイヤーでもあるけど。

 

 しかし、もしそのアルフィン本人なら余計に疑問が残る。

 だって誓いの金槌は少人数の生産系ギルドで、NPCも生産用やパーティー用に作られたものばかりで戦力などほぼ無いに等しいギルドなのにユグドラシル金貨だけは無数に持っていると言う話なのだから、余計俺の前に姿を現すはずがないのだから。

 

 だからこそ、もしどうしても姿を現さなければならない場合は自分がプレイヤーである事だけはけして此方にばれないようにするはず。

 名前だけなら別に珍しいものではないし、神楽舞さえ舞うと言い出さなければ俺だって気が付かなかったはずなのだから。

 

 もしかして俺がアルフィンさんのファンだと知っている? いやいや、流石にそんなはずはないだろう。

 生産者ならともかく、消費者の名前を知っている人など殆どいないはずだし、何より俺は彼女と面識がない。

 異形種でありショップでの買い物ができない俺は、町などでたまに行われていたと言う誓いの金槌の発表会にも行ったことがないのだから、俺が彼女の作品のファンだと言う事を知らないはずなのだ。

 

 解らない、なぜ彼女はこんな真似を?

 

 ところがそんな俺の疑問は彼女の次の挨拶で霧散する事となる。

 

 「これから披露する舞は、我が国に伝わる穢れを祓う神事です。ことの始まりは数百年前、突如どこからか6人の勇士が現れて強力な力を持つアンデッドに悩まされていた村を救い、そのリーダーがこの神楽を舞って穢れを祓う事によりその地を浄化して新たな国を開きます。そして6人は我が国を支える6貴族となり、リーダーであった巫女姫が我が国の支配者となりました。今日ここにいる私たち5人はその子孫であり、私は新たな巫女として地位を引き継いだ時、アルフィンという初代の名を引き継ぎ、この神楽舞の舞い手となりました」

 

 国を開いた? たった6人で? それって間違いなくプレイヤーだろ。

 

 そう言えば過去に複数のプレイヤーが同時にこの世界に迷い込んだと言っていたな。

 法国の6大神だってほぼ間違いなくプレイヤーだろうし。

 もしかしてこのアルフィンと言う子は転移してきた誓いの金槌の子孫なのか?

 

 いや、それにしては流石に容姿が似すぎだろ! ・・・まてよ、でもそれなら俺の前に堂々と姿を現したのも納得できる。

 本人が俺に襲われるなんてまるで考えてもいないのならば、ここで平然と姿を現したとしても不思議はないのだから。

 

 シャラン、シャラン、シャラン。

 

 そんな事を考えているうちに舞いが始まったようだ。

 いつの間にか舞台の上には先程の5人ではなく、アルフィンと言う娘と二人の巫女装束の女性がいて、共に踊っていた。

 

 ん? そうだ、調べてみれば良いんじゃないか。

 アルフィンと言う子がもしプレイヤーだったとしたら、きっとステイタス偽装をしているだろう。

 ではその横で踊る二人は? あの二人がNPCだったとしたら間違いなくプレイヤー本人だ。

 

 そう思い経った俺は早速踊っている右側の子を調べる。

 

 レイ・クレール

 24歳・女性/12レベル

 職業:司祭7  神楽の担い手4 料理人1

 

 その後つらつらと流れるステータスは12レベルにしては低すぎるもので、プレイヤーどころかNPCでもユグドラシルの常識から照らし合わせてありえないものだった。

 

 NPCではないのか。

 と言う事はあのアルフィンと言う子もプレイヤーではない?

 

 そう考えて今度は中央で踊るアルフィンと言う子を調べる

 

 アヤ・サトウ

 17歳・女性/42レベル

 職業:巫女12 司祭8 神楽の舞い手6 モンク3 クラフトマイスター12 料理人1

 

 アヤ・サトウ? ああ、さっきアルフィンは巫女を継いだときに名を引き継いだと言っていたな。

 しかしサトウか、どう考えても日本人の名ま・・・待てよ、プレイヤー名はアルフィンでも本名は当然別にあるわけで。

 

 「アルフィンさんの苗字、佐藤なんだ」

 

 偶然知った意味のない新事実に、今目の前で踊る子がプレイヤーかどうかなんて、もうどうでもよくなるアインズだった。

 





 少々遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
 今年もよろしくお願いします。

 外伝とは言え、アルフィンとアインズの初対面です。
 以降この二人が会うことはありませんが、とりあえずプレイヤー疑惑をもたれずにすんで一安心と言った所でしょうかね。

 因みに個人的付き合いがないアインズ様は、アルフィンの中の人が男性だとは知りません。
 実社会でも彼のデザインしたものを買うようなことがないので調べた事はないですからね。

 話変わって、どうやらweb版の方は書籍と違ってそこまでひどい世界ではないようなので初詣などは行われているのではないでしょうか?
 なので主人公は初詣と初えびす参り、そして熊手や破魔矢と共に神棚を事務所に飾っていたんじゃないかなぁと考えてこの話が出来ました。

 因みに前話に突然神楽が出てきたのはこの話の前振りです

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