ボッチプレイヤーの冒険 ~最強みたいだけど、意味無いよなぁ~   作:杉田モアイ

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 評価への感想に説明が長いとの指摘がありました。
 読み直してみると確かに1話だけ読んでみようと思われる方にとっては無駄に長くなっています。そこで■で区切り、その間の設定は読まなくても話は繋がるようにしました。

 あとユグドラシルは1プレイヤー1キャラクターですが、この作品を書き始めた時点では知らない設定だった為、設定改変タグがつけてあります。

 最後にタグにも”ほのぼの”とある通り、この話は過酷なはずの転移後の世界で主人公たちがのほほ~んと過ごす日常系作品です。
 戦闘シーンなど殆どありませんから、その点はご容赦ください


第1章 異世界転移編
1 プロローグ


                    

 

 画期的なほど自由度の高いDMMO-RPGユグドラシル。

 

 かつては一世を風靡したと言ってもおかしくなかったこのゲームだけど、どんなものも始まりがあれば終わりがある。そしてその終わりがあと数分先に迫っていた。

 

 

 

 ここは生産系ギルド「誓いの金槌」の本拠地、イングウェンザー城。

 ギルドと言っても作った頃こそ十数人居たがほとんど冒険らしいことはせず生産ばかりしていた為、あっという間に過疎化して1年たたずにボッチギルドになってしまった。

 

 まぁ、一応3人ほどメンバーが残っている事にはなっているが、10年以上ログインしていないので、いないようなものである。

 

 なのでギルドと名乗ってはいるものの、アクティブで動いているのはたった6キャラ。それも全部私の自キャラなので実際は一人しか所属が居ない、クランとさえ呼べない組織である。

 

 ■

 

 

 巨大ではあるが岩山だらけの辺鄙なところにあり、砦ではなくただの城なので周りに防護城壁もなく、また地上部分が外見重視でいろいろ使い勝手が悪いのに手に入れるのに結構なお金と労力が掛かる為、プレイヤーからは運営の誰かが使う事を考えず趣味で作っただろと言われて長期間放置されていた「廃城イングウェンザー」

 

 そこをフレンドの戦闘系ギルドに依頼して攻略してもらって地上3階層、地下4階層からなるこの城(見張り台として一部4階部分あり)を手にいれ、ボッチギルドである事をいいことにゲーム内マネーと課金アイテムを存分に使って地上部分を趣味全開で改造し、自らデザインした外装や装飾で飾った。地下を6階層まで拡張し、地下1階層を調理や各生産系作業場とし、2階層を4度からマイナス120度まで段階的に温度が変わる冷蔵庫兼第一防衛拠点に改造。

 

 3階層を最終防衛拠点にとした後、4階層を特に広く改造して人口太陽を設置して広大な森や畑や牧場に、そして5階層以下を地上以上にひたすら自らデザインしたものや課金アイテム、他のプレイヤーやギルド、バザーなどから買った家具や外装を使い豪華なものへ改造した。

 

 そんなひたすら贅を尽くしたイングウェンザー城の、特にきらびやかに飾られた地下6階層。

 その最奥部にある「孤高の広間」と呼ばれる場所に設置された玉座と思われる豪華な椅子の前で、どこの少女向けアニメコス?それとも深夜アニメコス?と言いたくなるような服装や姿をしたキャラたちがこれまたどこの特撮番組?少女向け戦闘物?と言いたくなるようなポーズを取っていた。

 

 「しかし、よくもまぁここまで無駄に自由度の高いシステムを10年以上も前に実装したよなぁ」

 

 正確には12年ほど前か。

 そんな事を考えながらキャラを一時離席状態にしてヘットマウントユニットを付け替えては別の自キャラにポーズをとらせて配置し、NPCの配置をしなおしてはメインキャラのヘットマウントをかぶりなおしてポーズを取っては写真撮影。

 かれこれ1時間ほど衣装チェンジをしては繰り返しているけど、もうそろそろそれも終わりだ。後5分もしたらサービス終了。

 サーバーが停止してしまえば今、目の前にある景色も苦労してデザインしたNPCたちや衣装たちとも永遠にお別れだ。

 

 ぐるっと周りを見回しながら他の自キャラたちを見渡す。

 ヘットマウントを着用して遊ぶゲームであるユグドラシルでは複アカプレイをする人はほとんどいない。

 同時に動かせないからだ。ではなぜ私が6キャラもの数の複アカプレイをしているかと言うと私が戦闘や冒険をメインにするプレイヤーではなく生産系プレイヤーだから。

 

 いや、ボッチの生産系プレイヤーだからと言うべきか。

 

 生産をする場合、スキルによって付加価値が付くものが違う。

 そして何かを作る場合、たとえばひとつの品物を作ってそれを利用して他の品物を作ろうとした場合、作ったものを作業場から出てポストから別キャラに送り、それをキャラを変えてポストから受け取り、作業場に移って作業再開と言う工程になるのだけれどこれが意外と面倒なのだ。

 

 で、それを解消するために複数の違う生産スキルを持ったプレイヤーで生産系ギルドを作って何人かで作業をするのが普通なのだけど、私の場合は多くのNPCを製作したかったため少人数でギルドを作ってしまい、また、ボッチになってから大きな本拠地を手に入れ、なおかつその本拠地に多くのリアルマネーをかけたため、職業柄お金はあるのに根が貧乏性な私は、他のメンバーを増やしてNPC製作枠を渡すくらいなら新しいPCを買ってキャラを増やせばいいとまったく的外れな発想をしてしまったのだ。

 

 結果、これが結構便利で、横においてあるヘットマウントユニットを付け替えるだけでアイテムの受け渡しと次の作業が簡単にできるからと、ほしい職業ができるたびに新アカウントを製作、最後にはアイテム取得用に作ってあった戦士系と魔法系のキャラまで一緒に写真に納まりたいと言う理由だけで破棄して新アカで作りなおし、無駄な6キャラ使いとフレンドに呼ばれる存在になってしまった。

 まぁ、自キャラも種族ごとのマネキンに使えるから後悔はしてないけど。

 

 キャラはそれぞれ人間でメインキャラのアルフィン、フェアリーオーガ(オーガと付いてはいるけどフェアリーの上位種)のシャイナ、ドワーフのあいしゃ、エルフのあやめ、グラスランナーのまるん、そして唯一の男キャラであるハイエントマーマンのアルフィスの6人。

 女性キャラ多目だけど中身はオタクなおっさんだ。

 だって、服とか装備をデザインするのなら女性キャラの方が楽しいし、それを眺めるのも女性キャラの方がいいじゃないか。

 

 男性キャラだと同姓だから、がんばってデザインをするほどモデルが着ているみたいに似合って、その姿が自分と比べてあまりにかっこよすぎて劣等感を感じるとかじゃないぞ、ホントだぞ。

 

 と、まぁ、自己弁護をしながらこの10年以上やってきたけど楽しかったなぁ。

 ギルドの所持金がカンストしたから運営に申請して所持金の最大桁数を増やしてもらったなんてのもいい思い出だ。

 

 お金の話が出たが、そもそも生産系とはいえボッチギルドがそこまでのお金を得る事ができたのには理由がある。それは私が考えた二つのお金を生むシステムのおかげだ。

 

 一つ目はNPCの貸し出し。と言っても当然戦闘系NPCではないよ。

 

 私のリアルでの仕事は服飾や家具、建築物の設計や内装など手広くやっているそこそこ売れっ子のフリーデザイナーなのだが、同時に同人漫画やネット小説を書くほどのオタクでもある。

 それだけに製作するNPCもかなり出来のいい、アニメに出てくるようなキャラや服装、装飾をそろえている。お金にもさほど困っていないので課金アイテムを豊富に使い、見た目につぎ込んだから美人&かわいい子ばかりだ

 と、同時に食べる事が好きな私はただの消費アイテムである料理も華美なものを好んだため、食べてみたいと思った世界中の料理やデザートのレシピを見つけてはゲーム内で開発し同時に使用する野菜やフルーツ、肉なども開発&生産する畑、牧場を作り、料理スキルの高いNPCを製作して完璧で豪華な料理を作らせ、美人ぞろいのNPCたちに運ばせて自分のでデザインしたテーブルに並べ悦に入りながら食べるという暗い趣味も持っていた。

 

 で、ある日ふと思ったのは、これは商売になるのでは? と言うこと。

 リアルでもコンセプトレストランと言うものが流行っているのだから、お客さんの好みに合わせた服装に身を包んだNPCたちが世界中の珍しい料理を給仕をするパーティーを会場ごと貸し出すので、誕生日やとてもレアなアイテムを手に入れた記念などの際にどうですか? と宣伝したところこれが大ヒット。

 もともとNPCの数を増やしたいがために大きな本拠地を手に入れただけなので空いている部屋も多かったので、地上階の半分ほどをいろいろなコンセプトの部屋に改装し、2点間を無制限転移可能なマジックアイテム[転移門の鏡]<ミラー・オブ・ゲート>も複数所持していたのでそれをメインホールに設置、いろいろな町で借りた営業所からメインホールへ飛ぶ事ができるようにしたおかげで2~3人のパーティーから最大200人ほどのパーティーまで開かれ、かなりの収入となった。

 

 ただ、調子に乗ってライブや演劇が出来るようなイベントホールを200席、500席、1000席の3種類作ったのだが、こちらはほとんど使われる事がなかったと言う失敗もしたが。

 う~ん、アイドルみたいな活動をしていたプレイヤーもいたから需要、あると思ったんだけどなぁ。

 

 次に、と言うか最大の収入源になったのはこのパーティーを開いた戦闘系ギルドの人からの依頼だった。

 と言うのも、戦闘系ギルドは貴重なアイテムやデータークリスタルを手に入れる事が多い。

 また、貴重なアイテムを使ってマジックアイテムや装備を作る場合、より高性能なものを求める傾向がある。

 でも、戦闘系ギルドだけに生産系スキルを特化して持っている人は当然皆無。余計なスキルを入れる余地があれば戦闘系スキルを入れるというと言う考えでなければ戦闘系ギルドに所属するわけがないので当たり前の話だ。

 

 また、生産系NPCを作ることは出来るが、上位生産スキルをNPCにつける事はもったいなくて出来ない。

 なぜかと言うと前段階スキルをいくつか必要となるため、どうしてもある程度のレベルが必要となる。

 作れる数が限られる高レベルNPC枠は通常本拠地防衛用に製作するものであり、戦闘系スキルを多く取り入れるため生産系スキルになどに枠を当てられないからだ。

 生産系ギルドのうちでさえ、上位生産系スキルを持ったNPCは一人もいない。

 と言うわけで手に入れたアイテムで武器や装備を生産する場合、生産系ギルドに頼んで作ってもらうのだけれども、一つだけ問題がある。

 それはギルド武器だけは他のギルドに頼めないと言う事。

 何せ普通は破壊、盗難防止でギルドに入っていない人が触れれば即死系の呪いやレベルドレイン効果、凶悪な攻撃魔法等が発動するように設定してある。

 かと言ってスキルを持っているだけのよく知らない変なのを入れて壊されたら敗者の烙印がついてしまうので、これだけは信用できるギルド内メンバーで製作するしかない。

 

 でも、ギルドには製作時に付加価値や効果を上げるスキルを持っているものがいない。

 ならばよく知っている生産系ギルドに入っている人に頼んで一度抜けてもらい、自分のギルドに入ってもらえば?と言う話になるのだろうけど、そんなスキル、それも戦闘系スキルを削ってまで高レベルで持っている人(物好き)はどこのギルドでも貴重な存在で、当然どこからも断られてしまうんだよね。

 もし、待遇がよくて相手のギルドに移るなんて言い出されたら困るから

 契約か何かでしばれるのならいいけど、残念ながらそんな機能はユグドラシルにはなく、ギルド長は追い出す事はできても他のギルドから取り戻す事はできない。

 

 でも、ボッチギルドの複アカならこんな心配はない。

 何せ自分自身なのだからどんな条件を出されても移籍するわけがない。

 そこで複アカのキャラをギルド武器製作に貸してほしいと言う依頼が来たというわけ

 まぁ、断る理由もないし、金額も製作するアイテムの価値の20~25パーセントの価値がある金額かマジックアイテム、アーティファクトで払うと言う事なのでこちらには特に異論もない。

 と言うことで一度受けたところその話が広まって多くのギルドから作成やバージョンアップの依頼が舞い込み、それに追われている内に気づけばとんでもない金額が手に入ったと言うわけだ。

 副次的に得た利点といえば有名戦闘系ギルドと懇意になったため、お金が有り余ってる状況になったにもかかわらず、うちのギルドにそのお金目当てで攻撃を仕掛けるギルドがいなくなったと言う事かな。

 

 と言うわけで今も別空間にある金庫には増やされた桁数の上限にさえ届きそうな数の金貨が眠っている。

 それも後数分で消えてしまうのだけど。

 

 最後に、依頼の交換材料としてもらったマジックアイテムの中でも特に強力なマジックアイテムを組み込めるだけ組み込んだため、ゴッズさえ上回る復活と癒しの力、そしてすさまじい威力を誇る攻撃力をその身に宿したにもかかわらず、一見何の威厳もない、白とピンクを基調とした少女アニメのキャラクターが持つおもちゃのロッドのようなギルド武器「ごるでぃおん☆いんぱくと」を握り、玉座に座る。

 

 

 ■

 

 

 ギルド本拠地の最深部である玉座周りにキャラを配置して最後の1枚をパチリ。それをPCに保存してすべての工程は終了。あとはじっと最後の時を迎えるだけだ。

 

 「もうさすがに他のネトゲを最初からやる気力もないし、後数秒で私のネトゲ人生も終わりか」

 

 玉座前に設置した、サービス終了カウントダウンのためだけに製作した大時計の残りの秒数をぼぉ~っとみつめる。

 

 「5・4・3・2・1・0・・・・・・・・・・・・・ん? あ、あれ?」

 

 なんだ? ブラックアウトしないぞ? それになんだろう? なんか違和感が? 一瞬視界がゆがんだような?

 

 ふと目を横に向けるとシャイナがびっくりしたような顔をして自分の手を見つめている・・・えっ!? 見つめてる!?

 

 あわてて周りを見るとあいしゃが周りをきょろきょろと見渡してるし、あやめは自分の胸を確認するかのように触ってる

 まるんは何事が起こったのかと言うような顔でこちらを見ているし、アルフィスはと言えば驚愕的なことが起こったかのような顔をしてひざを付いている・・・。

 

 おいおい、どういうことだ? 私のキャラが動いてる。

 私はアルフィンを操ってるのに、どういう事だ? 誰か部屋に入ってきていたずらでもしてるのか? そう思いヘットマウントユニットをはずそうとしたのだが・・・ヘットマウントユニットがない? その代わりに手に触れるのは髪の毛。

 それもふわりとして艶やかなボリュームのある髪の毛だ。

 

 なっ何が起こってる? これ、女性の、アルフィンの髪の毛だよな。それにヘットマウントがないって・・・そうだ、コンソール! ・・・って出ない!? どうして?

 

 ゲームは今日で終わったはずだよな。まさか寝落ち? 寝落ちして夢でも見てる? でも、心臓バクバク言ってるし、夢なら覚めてるよな。

 

 「あのぉ、アルフィン様、至高の方々。どうかなさいましたか?」

 

 何か恐る恐る聞いてくるような声がする。そこでそちらを見てみるとNPCが心配そうな顔をしてこちらを覗き込んでいた。

 

 えっと、確かこの子はイングウエンザー城地下階層統括の・・・確か名前はメルヴァだったかな?

 白いゆったりとしたドレスと、少し派手めな髪型の黒いロングヘアーの下からのぞく大きくて少したれ目がちな澄んだ瞳、やさしそうな親しみのある顔、そして白く大きな胸が特徴的なNPCだ。個人的に結構気に入ってるんだよなぁ、この子。

 

 ん? NPCだよな、この子。その子がしゃべってる!? それも心配そうに?

 

 「ば、ばかな、そんな・・・」

 

 造形的につねに微笑んでいるようにデザインしたNPCが心配そうな顔をするなんてありえるか? 何より設定にない台詞までしゃべってるし。おまけに口までしゃべる声にあわせて動いてるよ。

 

 そして、その時隣から聞こえてきた言葉にもっと驚く事になる。

 

 「えっNPCがしゃべってる!? 口まで動いてる!?」

 

 声のするほうを見ると驚いたようにつぶやいたのはシャイナ。そう、誰も操っていないはずの自キャラである。

 

 「だれだ? おまえ?」

 

 あまりの事につい、声をかけてしまった瞬間おかしなことが起こった。

 私の目の前にいるキャラがフェアリーオーガではなくなったのだ。

 いや、それは正確じゃないな。見えている景色そのものが変わったようだ。

 今見えているのは派手な玉座であろう椅子に座っているピンクの戦闘系魔法少女のような格好をしておもちゃのロットのようなものを握っている人間の女の子。

 

 松明代わりに設置された魔法の光を反射してきらめくプラチナブロンドのストレートロングヘアーと白い肌、そしてまるでルビーのように赤く輝く大きな瞳が特徴的な・・・そう、それはさっきまで自分が操っていたキャラクター、アルフィンだった。

 




 第一話、読んでいただいてありがとうございます。

 私は状況説明や人物描写が苦手なのでSSを読んでもキャラクターが解り難いと言う感想を頂きました。

 そこで、私のHPに人物紹介ページを作ってあります。
 興味を持った方は↓
http://www1.m1.mediacat.ne.jp/banchi/OVERLOAD%20mein.htm
 にオーバーロード関係のページがあるのでそこを読んでもらえれば少しは状況を理解する手助けになると思います。

追記その1
 キャラクターの描写とか、表現などを少し修正しました。
 時間が有れば2話以降も少しずつ手を入れたいと思っています。

追記その2
なんとなく思い立ったのでかなりの文章を削除及び再編集しました。
それに伴い、後書きも一部修正しました。

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