【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話 作:しゅーがく
俺の目の前には的池が居る。今いるところは執務室。水雷戦隊が抑えた後、ここに連れてきたのだ。
「的池さん、ここへの停泊も護衛『依頼』も陸軍のものだったんですよね?」
「えぇ。」
そう言った的池は懐から紙を出して差し出した。
その紙は普段俺が見ている様な紙ではない。間違いなく海軍のものではなかった。
「陸軍ですね......。ここへの停泊も護衛『依頼』も命令ではなかったと?」
「そうです。あくまでも『お願い』です。」
そう言い切った的池の顔を見た。
「海軍には話は通してあるんですか?」
そう言うと的池は苦いものを食べたような顔をした。
「......そうですか。」
俺はそう言って的池から受け取った紙を返した。
「それよりもまず、聞いていただきたいことがあります。」
俺はそう切り出し、艦娘の事を話しだした。提督への執着、艦娘が怒る理由、昨夜の逮捕者の逮捕理由、全てをだ。
そうしたら的池は少しため息を吐いた。
「はぁ......。」
「ん、どうしたんですか?」
そう俺が訊くと答えた。
「貴艦隊に護衛を頼むことを決めた時、全員分のビラで艦娘について知らせたんですよ。ですが、彼らはそれを信じなかったんです。だから艦娘たちの怒りを買ったんでしょうね。」
そう言って頭を抱えた。
「知ってはいたんですね?」
「はい。」
そう俺が確認するのを聞いていた陽炎が艤装を身に纏った。
「今すぐ仕舞え。」
俺はそれを間髪入れずに止めた。
「現在は鎮守府の地下牢に拘束されてるんでしたよね?」
「そうです。」
「何とか出しては貰えませんかね?」
そう言った的池の顔を俺は見た。その瞬間、陽炎はそれに抗議した。
「ダメよ。あいつ等は何もわかってないわ。それに上陸許可を司令が出していた記憶もないわ。」
そう言った陽炎の言動に的池は答えた。
「上陸許可ですか?」
それを疑問に思った様だ。
「そうよ。」
そう言った陽炎はいつもの目で無く、血走った眼で的池の目を見て言った。
「横須賀鎮守府という土地は言うなれば『司令のシマ』なのよ。ここでのルールは司令のみなの。司令の許可で居る事が出来、司令が許さなかったら入れない。司令の気を害したのなら殺し、司令を侮辱したのなら殺す。それがここの、鎮守府のルールなの。」
そう言った陽炎を見て的池は震いあがっていた。
「私たち艦娘は司令の指示以外は聞くことも無いわ。要するに司令が全てなの。」
そう言った陽炎は少し間を置いてから言った。
「でも、司令が手を差し出すと言うのなら私たちは全力でそれに答えるわ。例え貴方たちの護衛任務だろうとね。」
そう言ったのだ。
「......提督。」
そう俺の顔を見て言った的池に俺は答えた。
「ちゃんと正規の手続きをしてまた来てください。リランカ島の占領、貿易拠点としての開発をするための先遣隊なんですよね?」
「はい。」
俺はそう言うと立ち上がった。
「では、1時間以内に用意を済ませて鎮守府埠頭から出て行って下さい。海軍に話を通して、横須賀への正式な依頼ならば、受けましょう。」
そう言った俺は陽炎に的池を揚陸艦に送るよう伝えると部屋を出ようとした。その時、的池が俺に声を掛けた。
「地下牢に居る乗組員を解放しては貰えないですか?」
そう言った的池に俺は返事をした。
「そればっかりは無理です。彼らは艦娘たちの逆鱗に触れたんですから。」
そう言って俺が執務室を出て行ってから30分後、強襲揚陸艦 天照は埠頭から出航していった。
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昼を越えた頃、俺と陽炎は朝にやれなかった執務をやっていた。今日の執務はいつもより多い。何故なら大本営に今回の話の報告書と、こちらで幽閉中の兵士の取り扱いについての書類があるからだ。
「そう言えば、捕まっている兵士たちはどうなってる?」
俺は兵士の取り扱いに関する書類を手に付ける前に陽炎に訊いた。
「そうね......現在、警備棟地下で装備を奪って監禁中だったと思うわ。」
そう言って陽炎は棚を雑巾で拭いていた。
「門兵たちに差し入れでも用意しようか......。」
俺はそう言いながら兵の取り扱いに関する書類に書き始めた。どの兵を捕らえていて、どう扱っているかと鮮明に書き込み、終わった書類に重ねた。
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俺は酒保で食べ物と飲み物を買うと、警備棟に足を運んでいた。陽炎はいつも警備してくれてる礼がしたいと言って、丁度お腹を空かしてるだろうからと間宮のところでおにぎりを握ってきた様だ。俺と陽炎は両手に大きい袋を下げて警備棟に入った。
「提督っ!どういった御用件でしょうか!」
俺を出迎えたのは二等兵だ。鳥海の警備艦隊と共に行動していた奴だ。
「差し入れです。昨日はありがとうございました。」
「私からも、いつも警備ありがとう!」
そう言って二等兵に渡した。
「こんなに......ありがとうございます!丁度仲間たちも腹を空かしていたので。陽炎さん、早速いただきますね!」
「えぇ!」
そう言って二等兵は奥のカウンターの方に置きに行くと戻ってきて俺に要件を訊いてきた。
「それで、要件は?」
「ん?ただあれを渡しに来ただけです。」
そう言ってカウンターに置かれた袋を指差した。
「これは、わざわざ......ありがとうございます!」
そう言って敬礼をする俺は手を下げさせた。
「いつものお礼だと思っていただいて結構ですよ?それに、艦娘たちと仲良くして頂いているみたいですし。」
そう言って俺はグラウンドの方に目をやった。
そこでは駆逐艦の艦娘、第六駆逐隊が休憩中の門兵数人とバトミントンをしていた。傍から見たら事案に思われたり、遊ぶ親子の様にも見える。
「あの娘たちは良く来るんですよね。私も何度か話したことがありますが、つい最近改造して提督に対潜装備を頂いたとかで潜水艦狩りを楽しみにしていると言ってました。」
そう言った二等兵は優しい笑顔をしていた。
「陽炎さんも前はよく来てましたよね?」
そう言った二等兵に陽炎は慌てだした。
「ちょ!何言ってるの、西川さん!」
そう言った陽炎を落ち着かせると、俺は陽炎が言った名前に違和感を覚えた。
「......西川さん......ですか。」
「はい。西川二等兵であります!」
そう言った西川は敬礼をした。
「ですからもういいですって。電気工事の時はまた頼らせてもらいますね。」
そう言って俺と陽炎は西川にこれからもよろしくとだけ言って警備棟を後にした。
後々武下から『わざわざありがとうございました。』と礼の書かれた手紙が届いた。
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執務室に帰ると早速書類を出してくると言って陽炎は出て行ってしまったので、俺は窓から埠頭を眺めていた。
いつも見ている景色に少し飽きを感じ始めていたが、今日はそうでもない。埠頭から少し離れたところに赤城と加賀、瑞鶴、蒼龍、飛龍の艤装が浮いている。どうやら乗り込んで何かをしている様だった。
そう言えばと思い出して、記憶を辿った。この時間に赤城たちが陸軍の隼、疾風と制空戦演習をするための許可願いを出していたのを思い出した。そのために埠頭から離れた様だった。
上空を舞う戦闘機たちは機銃を撃ち合い、当たった演習弾があれば離脱していく。それを見ていて、俺は何だか血が騒ぐような思いをしていた。
数十分見続け、遂に上空には数機しか残っていない。零戦52型が2機と、隼が1機。疾風が1機だ。海軍対陸軍なら同数だが、旋回戦を得意とする零戦と隼とは相異なる疾風は一撃離脱を得意としていた。そうは言っても、日本機という括りだが。
そんな中、零戦のペアが攻撃を仕掛けた。1機は上昇していたのでそこから急降下。もう1機は隼に挑む。急降下をしている零戦目掛けて上空を飛んでいた疾風も急降下を始めた。
遠目の戦闘、俺は急降下する零戦に目をつけていた。その機体には赤いマーキング。赤城航空隊だ。しかも1番機。乗る妖精と俺は話したことがあった。その片割れはこれまた赤城航空隊。だが何番機かは分からない。一方の陸のほうのは何処戦隊かも分からない。
隼と零戦が交わった刹那、急降下していた零戦が急降下を辞めて急上昇を始めた。何故だと思ったがどうやら追いかけてきていた疾風に気付いていた様だ。隼に演習弾が着弾したのを確認すると、フラップを開き、縦旋回をして疾風の後ろに回り込んだ。高速域での旋回は零戦は得意じゃないはずだが、疾風よりもマシだった様だ。回避運動をする疾風を軸線に捕らえ、そして成す総べなく疾風の機体に演習弾が何発も当たった。
今回の演習はどうやら海の方の勝ちらしい。
結果を見届けると俺は陽炎が帰ってくる頃合いだろうと思い、椅子に座りなおした。
まだまだ提督の嘆きは続きますよ。嘆いてませんからね。
今回は航空戦の様子を書いてみましたが、結構伝わらないかも......。機体の性能は結構違っているかもしれません。ご了承ください。
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