【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話 作:しゅーがく
朝。俺は今日の秘書艦である熊野と、今日の出撃艦隊を執務室に集めていた。
理由は簡単だ。キス島攻略で目を逸らしていたジャム島攻略に向けて艦隊を編成したのだ。普段なら掲示板に貼られる出撃艦隊の出撃先がキス島に対して、今日はジャム島と書かれていた。それを見た艦娘たちは身体を奮い立たせ、朝は早々に朝食を済ませていた。俺から交代要員として呼ばれるのを考えての行動だ。
そして、出撃する艦娘たちが俺の前に並んでいる。
「旗艦に戦艦 長門。以下、重巡 高雄、駆逐艦 雪風、駆逐艦 時雨、空母 赤城、軽空母 飛鷹は本日、西方海域解放に向けた橋架けとしてジャム島を攻略してもらう。」
「「「「「「了解!」」」」」」
俺の眼の前に佇む艦娘たちは俺が艦これを始めた初期から所属している古参たちだ。足りない練度を気合で足し、迫りくる深海棲艦に果敢に立ち向かった戦力の乏しかった時代を支えた艦娘たちだ。
「途中、潜水艦の襲撃が予想される。雪風と時雨はこれより改装。ソナーと爆雷投射機を持っていけ。」
「「了解!」」
そう言うと俺は最後に声を掛けた。
「何時もなら旗艦だけが出頭し作戦命令を訊く、が今回は新海域の攻略だ。想定していない事も多々起きるだろう。だがそれを交わしてジャム島を解放して欲しい。これを伝えたかったから全員出頭と伝えた。進軍し、戦果を挙げよ!」
「「「「「「はっ!」」」」」」
俺の言葉に応えた艦娘たちは気合の入った返事を返した。
「長門。頼んだぞ。」
「分かっている。こっちには赤城が居るんだ。私が砲撃するまでも無いだろうな。」
そう言って長門は笑って執務室を出て行った。
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俺と熊野は第一艦隊が埠頭から出撃するのを見送ると、すぐに執務に入った。
今日の執務はいつもと違い、1枚多かった。一枚多いのは瑞鳳の願いである滑走路の建設だ。大本営に送り、新瑞と総督の許可を得る。返事など待たずとも分かっているが、形式上出さなければならないのだ。俺は面倒に思いながら、建設する趣旨(※嘘)を書き留めて封筒に厳封した。
「あら提督、それは何ですの?」
終わっていた書類を纏めていた熊野が厳封した封筒を見るとそう尋ねてきた。
「それは大本営、新瑞さんと総督に直送のものだ。中には鎮守府の設備拡張の許可を願う書類が入っている。まぁ、送らずとも結果は見えてるが。」
そう言って最後の書類に俺は手を伸ばした。
「そうですの。設備拡張とは、何を建設するのですの?」
「滑走路だ。」
そう言うと熊野は驚いた。
「滑走路......空母があれだけいるのにまだ足りないのですか?」
「そうじゃないんだ。何でも工廠にカバーのかけられた飛行機がいくつもあるらしいんだ。それの為だ。あと用途はいくらでもある。」
そう言って最後の書類にサインを入れて熊野に手渡した。渡した書類で今日の執務は終わり。熊野が事務棟に出しに行けば終わりだ。
「そうですのね......。雷電改といい、何なんでしょうね?」
そう言って熊野は事務棟に向かうべく、執務室を出て行った。
俺は背伸びをして固まった首と指をほぐし、熊野のいた角度から見えないところにいた白衣の妖精に声をかけた。
「来たって事は俺が行くのを分かっていたのか?」
「そうですよ?昨日瑞鳳さんが工廠に来て私に言っていたので、早い方がいいと思いまして。」
そう言って白衣の妖精は俺の肩に乗った。
「では工廠に行きましょうか。」
そう言った白衣の妖精に少し待つように言って俺は熊野宛てに『工廠に行ってくる。』とだけ書いて執務室を出た。
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工廠に着くといつも通りなのか、今日はまだ建造の指示を出してないので動いてなかった。工廠担当の妖精たちは端でお茶を飲んで談笑したり、何かの会議をやっているのか真剣にディスカッションをやっていた。そんな姿を横目で流し、以前雷電改のあった工廠の奥に到着した。そこには雷電改の時とは違い、布をかぶせられている物がいくつもあった。
「全部順に見せましょうか。」
そう言って白衣の妖精は俺の肩から降りると、被せていた布を剥がしていった。順番に出てくるものに俺は驚いていた。一目見た瞬間でそれが何だか分かる。全部当時の陸軍が使用していた戦闘機や爆撃機ばかりだ。
「隼......2枚じゃないから一型じゃないな......。それとこれはなんだ?」
「それは疾風です。奥にまだあります。」
そう言って白衣の妖精は俺を奥に導いた。
其処は薄暗く、何も置かれていないところにポツンと布を被ったものが置かれていた。
「これが出たのには私も驚きましたよ。」
そう言って白衣の妖精が布を剥がすと出てきたのは巨大な胴体と翼。翼には6基のエンジン。
俺は目を疑った。それは伝説であり、計画のみがあったとされる長距離爆撃機。
「富嶽が......。」
「そうです。大戦期に開発できなかったものが、開発できました。陸用ですが深海棲艦相手に使えるでしょうか?」
そう言った白衣の妖精は首を捻った。
「大丈夫だろう。使えなくても、長距離を高高度で飛べるなら輸送に使える。」
俺はそう言ったが、全く別の用法を考えていた。
「それで、今回開発された未確認の装備はこれだけか?」
「そうです。他には用途が分かっている物がありますので、追って連絡します。」
そう言われ、俺は富嶽の前で考え事を少しした後、執務室に戻った。
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俺が工廠から執務室に戻ると、熊野が待っていた。どうやら提出は終わったらしい。
「おかえりなさい。どういったご用件でしたの?」
「あぁ。未確認の装備を見に行っただけだ。」
そう答えて俺は自分の席に座った。
「アレですわね......。えぇと......飛行機?と言っても艦載機ではない様ですが。」
「そうだな。あれは陸軍で使われていたものだ。しかもそのうち2つは名前はあっても実在したかは知られていないものだ。」
そう俺は答えて、ある事を考え始めた。富嶽の運用について。そして、陸軍の飛行機はどう使われるのかについてだ。
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昼はいつも通り食堂で済ませ、やる事も無いが執務室に戻ってダラダラしていると、埠頭の方が騒がしくなっていた。どうやら出撃していた第一艦隊が戻ってきた様だ。
俺はいつも通り執務室の窓から埠頭を見下ろす。
「っ!?熊野っ!走れっ!!」
俺は埠頭に到着した第一艦隊の雪風と飛鷹の艤装が炎上しているのが見えた。それを見るなり俺は熊野を連れて執務室を飛び出した。
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俺と熊野が到着する頃には第一艦隊の艦娘と埠頭に来ていた艦娘、妖精たち総出で消火作業が行われていた。
「状況は!!」
俺は陣頭指揮を執っていた長門に走り寄り、そう尋ねた。
「第一艦隊はジャム島の攻略に成功したが、敵艦載機の雷爆撃で雪風と飛鷹が炎上したんだ。消火作業をしながら帰って来たのだが、鎮守府に着くまでに鎮火しなかったようだ。」
そう言って長門が拳に力を込めた。
「敵本隊までは順調だったんだ。威力偵察艦隊も航空戦で半壊、敵に撃たせる間もなく殲滅。提督が警戒していた潜水艦も雪風たちが爆雷で片づけた......。だが、本隊は軽空母と重巡が中心の機動艦隊、こちらも機動艦隊だ。損傷覚悟で戦ったが、見ての通りだ。雪風と飛鷹は被弾して炎上だ。」
そう言った長門の拳を俺はとった。
「これまでは比較的に安定した戦いだったが、これからは激しさを増すばかりだ。見たところ2人の艤装は共に中破程度。炎上も当たり所が悪かったんだろうな。」
「そうだな。」
「これからの戦いを見据えて、今後は大破で帰ってくる事もあるだろう。味方を曳航する事にもなるだろう。」
長門は黙って聞いている。
「......俺は小破以上が出たら撤退を徹底してきたが、その信念を捨ててまで戦う時が来るだろう。そんな時、安全な本土に居る俺より戦場で戦う長門たちが考えて動くんだ。どうやれば味方がこれ以上傷つかずに進むか、どうすれば戦いに勝てるか、如何すれば隣に居る味方の命を繋ぐが......。平和な世界から来た甘ちゃんだが、俺はそう思うぞ。」
そう言って俺は長門の手を話すと指示を出した。
「雪風と飛鷹の艤装を優先して入渠させよ!それ以外は入渠ドッグ前で待機だ!!」
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俺が埠頭から執務室に戻ると電話がかかっていた様だったので折り返した。すると繋がったのは総督のところ。要件はどうやら早速滑走路の奴を見た様だ。
『滑走路の建設を許可する。』
それだけだった。なんでこうも甘いんですかね、と言おうとすると切られたのでまた別の機会で言ってみようと思った。
俺は椅子にぐったりと持たれると熊野が心配そうに体調を気遣って聞いてくれたが大丈夫とだけ答えた。そうすると執務室の扉が開き、鈴谷が入ってきた。
「提督ー!鈴谷もレベリングしてよ!」
そう言って飛びついてきたので、危険を察知して緊急回避した。
「ヘブッ!」
そう言って鈴谷は誰も座ってない椅子にダイブしたのを見て俺と熊野は笑った。勿論この後鈴谷に躱した事を問い詰められて、身体が勝手に動いたとだけ言っておいた。
いやぁ、新たな装備が追加されましたね。隼に疾風、富嶽。提督がどう使うかが気になりますね。
それと鈴谷についてですが、どこかのあとがきでも言った気がしますが、ほぼ金剛の性格と同じですのであしからず。
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