【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話 作:しゅーがく
状況が掴めていない。一体、どうなっているんだろうか。それに俺の眉間には銃口が突きつけられている。
きっとエアガンなんてものじゃない、本物だろう。
「提督。貴方はこの世界に残るべきでは無かったのです。」
「何を言って......。」
俺は侵入者にそう答えながら顔を見上げた。
「っ......。」
一体この侵入者は何者なのだ。まだ混濁が残っているのか、正常な判断が出来ていないみたいだ。
あるはずのない事が目の前で起きている。
「ここで死んでもらいますよ。バグ。」
『バグ』侵入者はそう俺のことを形容したが、俺はそれどころではない。
目の間の状況が本当に理解できてないのだ。
「『バグ』か......。面と向かってそう言われたのは初めてだ。」
「そりゃそうでしょうね。貴方はこの世界、日本皇国では救国の英雄ですから。と言っても、現在進行形で深海棲艦と戦争をしてますけどね。」
状況も掴めていない上に、混乱している筈なのになぜだかスラスラと言葉が言える。もう俺は考える事を放棄しかけていた。
目の間の状況も理解できていないまま。
「さぁ、死んでもらいますよ。世界の理に反する異世界人。」
「......。」
俺は侵入者を睨みつけた。
「......何ですか、その目は。これから死に往く人間のする目ではないですよ?」
「そりゃそうだろうな。俺は死にたくない。それに俺を殺せばどうなるか分かっているのか?」
俺は質問を質問で返した。
「日本皇国、この世界の不利益は異世界人が死んだところで出てくるのは深海棲艦との戦争が再び劣勢になることくらいです。」
「本当にそう思っているのか?」
「えぇ。」
「違うから教えてやろう。......俺の死は艦娘の安全装置の解除を意味する。死を知った艦娘はたちまち日本皇国全土を攻撃し始めるだろう。」
「それが一体どうやって?ここに来るまでに日本皇国に歯向かうだろう人間や艦娘は始末してます。始末してきた艦娘たちに何が出来るわけでもない。異世界人の居た部屋の9人の艦娘も始末してますし。」
「始末......殺して行ったって事か?」
「勿論。」
「それは残念だ。全員気絶していただけだった。時期に目を覚ますだろう。ハッタリは良くない。」
「......まぁいいです。ここで異世界人に死んでもらう事に変わりはないですから。さぁ、死んでください。
『異世界の俺』
」
やはりそうだ。毎日鏡の前で見る顔が目の間にあったのだ。だから状況が掴めずに居た。
だがこれでハッキリした。やはり目の間に居た侵入者は俺だったのだ。
「嫌だ。」
「そうは言わせませんよ、『俺』。『俺』はこの世界の『バグ』なんですから。『バグ』はいずれ消されるんです。古いゲームソフトではないんですから、アップデートですよ。」
『俺』が言ったアップデートの意味。それは多分、俺の居た世界で艦これのアップデートがあるのだろう。
よくよく考えて見れば変な話だが、俺は大型アップデートを2回以上は経験している。それなのにそこで消される訳でもなく、何故今だったのか。
考えてみれば簡単な事だった。1回目のアップデートで巡田に暗殺されそうになり、2回目のアップデートは思いつくだけでかなりある。イレギュラーとしてきたが深海棲艦による横須賀鎮守府空襲と、米艦隊が来航した際のウェールズが放った侵入者のどちらかだ。
「まぁそれでも2回はその『バグ』も残ってしまったみたいですから、今回でこれも最期ですよ。」
「それで本当にいいのか?」
「何を言って......。」
「『バグ』を消してしまえば近い将来艦娘か深海棲艦のどちらかに確実に滅ぼされる。それでも......。」
「えぇ。いいですよ。『俺』を殺してから俺も死にますから。」
そう言って『俺』は襟を直した。
「俺の所属していた機関は無いですからね。」
「海軍部情報課じゃないのか?」
「はい。私は『海軍本部』の人間ですよ。」
「っ?!」
つまり扇動されていた人間ではないってことだ。
驚きを隠せない。
「私の同僚が最初の暗殺に投入されましたけど、彼とは面識がありませんでしたからね。」
「最初の暗殺......巡田さんか。」
『俺』の同僚が巡田さんとは思いもしなかった。
「......もう時間がありませんね。ここで死んでもらいますよ、『俺』。」
「死んでたまるか。」
『俺』が俺に銃口を突きつけたまま安全装置を外した。
ーーーーー
ーーー
ー
私が目を覚ますとそこは提督の私室でした。見渡せば番犬艦隊と秋津洲もいます。ですけど提督が居ません。
頭痛がする気がしますが、今はそんなことを言ってられません。提督が居ないんですから。
「皆サン、起きて下サイ!!」
近くに居たビスマルクの肩を揺らして状況を整理します。
一番最初はいつの間にここに居たということだけ。何故ここで気絶していたのか分からないですが、いかんせん記憶が混乱してしまっていてどうなっているのか。
「......んっ?!いつつっ......頭がいたっ。」
「後頭部が痛いな......。」
そんなことを呟きながら起き上がったのはビスマルクとフェルトでした。それに続いて続々の皆、起き始めて全員が起きたところで状況を確認します。
「気付いたらここに皆さん居マシタ。でも、提督が居マセン。」
「本当だわ......。」
今いるところが提督の私室である事に間違い無いのですが、その肝心の提督が本当に見当たらないです。
「私たちは執務室に居た筈デス。」
「そうだな......。だが気付いたらここに......。」
そう言いながらフェルトが執務室への扉のノブで手をかけて撚るがピクリとも動きません。
「あれっ......動かないぞ......。」
そうフェルトがノブをガチャガチャと撚りますが、開く様子もありません。
その後にもビスマルクや私も試しましたがびくともしませんでしたので、叩いてみたりもしてみましたがそれでも開きませんでした。
「どうなってるの?提督だって居ないし......。」
ビスマルクがそんな事を言います。多分皆口に出さないだけで同じことを思っているに違いありません。
「それデース。......よくよく状況を考えてみるとこれは侵入者にやられてしまったと考えて行動した方が良さそうデスネ。」
私がそう言うとその場の空気が一気に変わりました。凍りついたというよりも光が無くなったみたいな雰囲気です。
「......嘘だ。」
そんな空気の中、そうフェルトは呟きました。
「......こんな事、あってたまるかっ。私たち9人が輪形陣で囲んでいたというのに、全員が気絶させられてしかも提督だけ消えているなんて......。」
多分思考している事を無意識に口に出しているのでしょう。
「......ここに居ないということはもうっ............。」
そうフェルトが言いかけた時、今まで黙っていたアイオワが歩き出し、扉の前に立ちました。
「ふんっ!!」
そう言って足を大きく振り上げて扉に蹴りを入れると扉はとんでもなく大きな音を立てて開きました。
蹴った場所には大きな凹みが出来てましたが、妖精さんに頼めば修理してもらえるので問題なしです。それに最初っからそうやってやれば良かったのかもしれません。
「さぁ行くわよ。」
そう言ったアイオワの目はいつもの目ではなく、鋭く怖い目をしていました。
身震いしてしまうほどです。アイオワはそんな目をすることが出来るのかと思った反面、何処か親近感が湧きました。
「最後まで連絡の取れていた赤城と鈴谷にコールしつつアドミラルの捜索と平行して混成警備艦隊も探すわよ。」
そうアイオワは言いますが誰一人として動こうとしません。
それは無理ない事です。さっきまで護衛していた提督が一瞬で自分たちの意識を刈り取られて気付いたらいなくなっていたのですから。普通ならもう殺されてしまったと考えた方が妥当かもしれません。
ですけどアイオワは諦めてないみたいです。探すと言いました。私も提督がもう殺されたなんて思ってません。提督が座っていた椅子の周辺には血痕が無かったからです。ということは少なくともこの場で殺されなかったということです。
「そうデスネ......。提督を探しマショウ......どこかに逃げて隠れているかもしれマセン。」
そう言って私はアイオワの横に立ち、艤装を身に纏いました。こうでもしないと艤装の無線が使えないからです。
「金剛、無線でやりとりするわよ。交信は1分置きに、確実にね。」
「分かってるデース。侵入者っぽい人を見ても接近せずに応援を。」
「分かってるわ。じゃあ、散開。」
そう言ってアイオワは執務室の扉を出て行ってしまった。私は散開と言われましたがその場に残っています。執務室で戦意喪失している番犬艦隊と秋津洲を叩き起こさなければならないからです。
「いつまでそうしているつもりデスカ?提督が殺されたとは限らないデス。こうやって貴女たちが棒立ちしている間にも提督が苦しんでいるかもしれないんデス。ならやることはひとつしかありマセン。」
私がそう言っても変わりません。
「私とアイオワは諦めずに探しに行きマース。ビスマルクたちは提督を"見捨てる"のデス。私はまだ諦めたくないデスカラ......。」
私はそう言って後ろを振り返らずに執務室を出て行った。
一瞬にして意識を狩る侵入者ですから相当の警戒が必要です。周りには相当な注意を払いましょう。
今回分かった事もありますけど、また謎が深まりましたね。
一応、200話まではやるつもりなので、お付き合い下さい。
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