【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話 作:しゅーがく
アドレーは頭を抱えていた。理由は先日、決行された『FF』作戦だ。
あの作戦は元はというと戦力が十分に備わり、日本皇国との関係が改善された時に発動する予定だったのだ。だが国防総省に保管されていた作戦指令書を誰かが使ったのだろう。作戦指令書にはまだ参加させる艦の指名をしていなかったからこんな風に軍を動かせたのだ。一体、国防総省の誰がこんなことをしたのだ。
お陰で不完全な艦隊で出撃して多大な犠牲を払った。停戦前の唯一の原子力空母も失ってしまった。報告書によれば撤退中、追撃してきた深海棲艦の潜水艦に雷撃され、船体が真っ二つになったとの事だった。これで我がアメリカ海軍に残された戦力はいよいよズタボロになって帰ってきた巡洋艦と駆逐艦しか無い。それも心もとない数だ。今、建造中の船も数隻進水出来るがそれでも作戦が強行されるよりも前の戦力より劣っている。
建造されているのは戦時建造している駆逐艦だ。ブロック工法で建造しているが、急造なので性能は心もとないらしい。それに装備も貧弱で海軍が保有する停戦前の駆逐艦の約1/4という見積もりだ。
そんな軍艦を生還率の低い対深海棲艦の戦闘に投入するわけには行かない。
「クソっ......。」
停戦の間にどうやら国防総省内や軍将官は腐ったみたいだ。勝手な越境、銃撃、拉致未遂、命令違反......数えるだけで頭が痛くなる。陸軍はまともに機能しているのが幸いだ。陸軍は今や国民には警察系鎮圧部隊みたいに捉えられている。将官も有能で汚職に手を染めていない。治安維持に懸命だからだろう。それは空軍も同じだ。空軍の深海棲艦への攻撃はある程度効き目がある。それに深海棲艦の艦載機への攻撃は通用するのだ。こちらもちゃんと統率は取れているのだ。
「今は日本に縋るしか無いというのに......。」
そう。今は日本皇国の海軍に縋るしか生き抜く道は無いのだ。アメリカは地続きの国とは連絡が取れていることから共に生き抜いてきた。だがもうそれも限界だった。海を失ったことで一部の国を除いた南アメリカは情勢悪化。テロなどが頻繁に起こるようになってしまったのだ。そんな国々への援助をしたくても内政だけで精一杯だったアメリカは南アメリカから手を引き、アメリカ、カナダ、メキシコの三ヶ国のみで生き抜く選択をしたのだ。それでももうギリギリなのだ。
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相変わらず、横須賀鎮守府は仕事をしていない。理由は端島鎮守府にある。
先日の『FF』作戦に於いて、艦隊や艦載機の練度の低さ、艦載機の更新をしていないことをこちらが大本営に報告したところどうやら新瑞が激怒。早急にレベリングと艦載機の更新を命じたのだ。そのせいで現在、開放している海域の全てに端島鎮守府の艦隊が出撃中。鎮守府でもどうやら艦載機の開発が進んでいるようで絶賛、横須賀は連続休暇更新中ということになっている。もう5ヶ月とかではない。半年を越しそうだ。
「司令官、執務始めるわよ。」
「あぁ。」
今日の秘書艦は満潮だ。提督に辛辣な艦娘ランキングトップ3に入る艦娘だが、どうだろう。朝潮の話だと(※前日にオイゲンに断って俺に話しに来た)素直になれないだけらしい。よくわからないが。まぁ、朝潮と同じことを言っていた艦娘は居るが。漣と潮だ。2人は曙のことを前日に俺に言いに来てたからな。
「満潮。私が補佐するからには、きっちりやってもらいますからね。」
そう言って満潮に言うのは朝潮だ。番犬艦隊として俺のそばにいる時、フェルトが来るまでは朝潮が秘書艦の代わりをしていたからだ。
それなりにノウハウがあるとのこと。
「分かってるわよ。でも私にちゃんとやらせて。しっかりやりたいから。」
「分かってます。」
そう2人は言うと分担した書類を満潮は秘書艦席に持って行き、満潮は座り、朝潮は立ったまま満潮に教え始めた。なんだが、勉強の分からない同級生に教える図みたいだ。微笑ましい。だがやってることは資材計算やらなんだけどな。満潮や朝潮の見た目で弾薬の計算をする女の子は居るわけが無い。
俺はそんな2人は眺めてから執務に入った。
執務は順調。いつも通りに進み、始めてから大体1時間で終わった。平均だ。
俺は満潮に書類を渡すとすぐに『提出してくるわ』と言って事務棟に行ってしまった。仕事に真面目なのはいいことだ。
そんな中、執務室に残った朝潮が俺に話しかけてくる。
「司令官。」
「何だ?」
「今、演習レベリングをしてないですよね?」
「そうだな。」
「次のレベリング、駆逐艦を優先していただけませんか?」
朝潮は真剣な眼差しでそう俺に言ってきた。意図は多分、駆逐艦の前線出撃可能な数が少ないことだろう。改造を施してない駆逐艦は攻略などには出してないのを朝潮は知っているみたいだ。
「......分かった。だが相当時間がかかるぞ?」
「皆、覚悟の上です。艦隊護衛、防空、近接戦闘......私たち駆逐艦に求められる事は多いです。その時々に応じた艦娘を投入する事は、作戦遂行確率を上げる事に繋がります。」
「その通りだ。」
朝潮は鎮守府全体の事を考えているみたいだ。その傾向は以前から伺えていたが、ここまでとは思いもしなかった。真面目で厳格な正確だとは思っていたがな。
「駆逐艦レベリングだな。」
「はい。」
「実は水面下で進んでいた事は知らないのか?」
朝潮の目が捉えられなかった。レベリングが行われていたのだ。
「えっ?そんな話は聞いてませんが。」
「言ってないからな。最近進水した大淀と共に対潜哨戒任務で日本近海の潜水艦出没海域に出ている駆逐艦の艦娘がいるぞ。」
「そうなんですか......。」
俺はそう言って編成表を見せた。
さっきは朝潮に言った言い方だと、艦隊を組んでの出撃だが、出ているのは単艦だ。
「艦隊じゃないんですね。」
「MVPを集中させたいからな。」
「これでは、もしもの時......。」
朝潮の言いたいことが分かる。単艦だとロストしやすいのだ。俺が返答しようとした時、満潮が事務棟から帰ってきた。
「今戻ったわ。」
「おかえり。」
「おかえりなさい。」
一旦、朝潮との話は中断だ。満潮がどの程度知っているかにもよるからだ。それに多分だが、朝潮が言っていた皆に満潮も入っているんだろう。
「んで、こっから何するの?」
そう満潮が言ってくるので俺は答えた。
「何にも。もうやることはないぞ?」
「本当に?」
「あぁ。」
俺はそう言って椅子にもたれる。ここで嘘言っても仕方ないからだ。
「ふーん。」
そう満潮が答えてから10分程、静寂に包まれた。俺から話題を振ることもない。朝潮は多分、さっきの話の続きがしたいんだろう。それ以外のことは頭に無いみたいだ。
満潮はたまに執務室を訪れていたが、特段話すことは無かった。資料を借りに来ていただけだからな。
そんな時、満潮が話しかけてきた。
「......こうしてると、司令官と話すのも初めてな気もするわ。」
「そうだな。」
「こういう時って本当に何もしてないの?」
「いいや、何かはしてる。」
満潮が話を振った。静寂は嫌なのだろう。
「何って?」
「読書とか、外を歩きに出たり、ぐーたらしてる。大体3番目だが。」
「しっかりしなさいよ。」
そう満潮は呆れ顔で言ってきた。だがほんの少し嬉しそうにしている。
「そういえば改組が言ってたんだけど、強化型艦本式缶があるらしいじゃない。」
「あぁ。開発で手に入れた。」
「それ、そうとうヤバイらしいわよ。」
「どうヤバイんだ?」
そう聞くと肘を突きながら満潮は答えた。ちなみに改組というのは駆逐艦で改になった艦娘の事を指している言葉だ。
「速力が40ノット近く出るらしいの。島風が使った時はあまり変わらなかったみたいだけどね。」
「そうなのか。」
「えぇ。島風は元からタービンが載ってるからね。」
どうやら缶は速力が上がるものらしい。艦これでは回避率の上昇が見込めるものだとか言われてたがそういうことなのかと思った。
「それとこの前、工廠の近くを通った時に妖精さんがたむろってたんだけど、理由聞いたら『最近、艦載機の運用方針が変わって、色々な艦載機に乗ってる。』って言ってたんだけどどういうことなの?」
「それは艦載機妖精に色々な艦載機に対応してもらうためにやっているんだ。」
どうやら満潮が聞いたのは艦載機妖精に話だったみたいだ。
最近は機種を変えて乗ってもらうことが多くなった。これまで天山に乗っていた妖精が彗星や彗星一二型甲に乗ることが増えたのだ。
経験を増やしてほしいという意図がある。
「お陰で天山がほこりかぶってるそうじゃない。使い込んだ機体が工廠の倉庫でそうなってるともぼやいてたけど。」
「まぁ仕方ない。他の性能の良い艦載機の方が攻略も被撃墜率も落ちるんだよ。」
「それもそうね。だけど流星ってのはデカイ的らしいじゃない。」
「あぁ。大型機だからな。小型機主流の艦載機の中ではデカいから仕方ない。」
なんだか駆逐艦の艦娘相手に艦載機の話をし始めてしまった。
「それと皆で赤城さんの艦戦隊とか攻撃隊とか見てたんだけど、何アレ。」
「どういう?」
「あんな機動、攻撃方法は戦術指南書に無かったから。」
「まぁ、赤城には"特務"で別で航空隊の練度上げや戦術考案をしてもらっていたからな。艦載機に関する知識も相当詰め込んだみたいだし。」
「他の空母の艦娘が愚痴ってたわよ。『赤城さんだけ提督に艦載機の特性とそれに見合った戦法を教えてもらってる。』って。」
話を聞いていて思ったんだが、満潮も結構勉強をしているようだ。夕立や時雨のイメージが強すぎて霞んでいただけだろう。
資料室を訪れるのは夕立や時雨だけじゃないんだ。
「そんなつもりは無いんだが......。もし次聞いた時には『提督はそんな事教えた記憶はないって言ってた。』って言ってくれ。」
「分かったわ。......でも条件があるわ。」
「なんだ?」
満潮がそう言って足元から出したのは戦術指南書だ。内容は『砲撃戦。砲の特性。』と書かれている戦術指南書だ。
「私に雷撃以外で深海棲艦に致命傷を与える方法を教えてほしいの。貧弱な砲でも効く攻撃を。」
そう言いながら満潮からその戦術指南書を受け取った。
「私も知りたいです。」
朝潮も食いついた。
「分かった。」
そう俺は答えて少し戦術指南書を見る。
内容は砲撃で仕留める方法が書いてあるが、詳しく見れば分かるのだがこの戦術指南書は大型艦用のものだ。大口径砲のことしか書いてない。正直、これを駆逐艦の艦娘が勉強しても意味が無い。
「うーん。......満潮はこれで勉強してたのか?」
「まぁね。だけど見ればわかると思うけど、それは大型艦用よ。そう思って小型艦用のを探したんだけど、なくって仕方なくそれで。」
「そうか。」
そう言って俺は満潮に聞いてみた。
「砲で深海棲艦を仕留めたいって、やっぱり自分よりも大きいのか?」
「えぇ。そうね。」
「具体的には?」
「軽巡かしら。現実的なのは。」
そう満潮が言ったので、コピーで持っていた川内型軽巡の絵が書かれているものを取り出した。
「先に言っておくけど、俺は船の構造に詳しくない。それは念頭においてくれ。」
「分かったわ。」
そしてその絵に俺は丸で囲んだ。
「ふーん。」
「川内型で悪いが、これで説明させてもらう。例えば川内だとこの赤丸が弱点だと俺は思う。」
「艦橋のは分かるわ。ここだったら一撃よね。でも船体のは?」
「これは弾薬庫の位置だ。ここに直撃して上手く作用すれば一斉に弾薬がドカーンだ。」
「成る程......。」
そう言って俺は丸を書いた絵を片付けた。
「でもこれが通用するのは軽巡と駆逐だけと思うんだ。それ以上になると駆逐艦の砲では貫徹出来ないからな。魚雷で仕留めろ。」
「そうよね。」
「でもな、駆逐艦で戦艦を仕留める事があるだろう?」
そう言って俺は大和型の絵に丸を書いた。
「そういう時は多分だが、艦橋に被弾している。」
俺はすぐにその絵を仕舞った。
「そうなのね。」
「あぁ。ということで、おしまい。考えてみれば単純だっただろう?艦橋か弾薬庫があるだろう場所。」
「そうね。でもこんなところを狙って撃てないわよ?」
「そうだな。」
そう言って俺は椅子に持たれた。
「数km離れたところからそんなところを撃ち抜く確率なんて1もない。結局は運だ。運をどれだけ味方につけるか。もしくは、被弾覚悟で接近して撃つか。」
「そうよね。」
「まぁ。駆逐艦の強みは雷撃だから、あんまり砲撃に拘るなよ?」
「分かってるわよ。」
そういった満潮は俺が戦術指南書を差し出したので、受け取るとそれを仕舞った。
というかよくよく考えて見れば、満潮が朝、執務室に来た時に袋をを持っていた。そう考えると満潮は戦術指南書を借りて持ち歩くみたいだ。なんだか夕立や時雨、由良たちを連想させられる。
「まぁ、頑張れ。」
「言われなくても頑張るわ。」
そう言って満潮は違う戦術指南書を開いた。勉強する気満々だったみたいだ。
結局、満潮は執務室でずっと戦術指南書と格闘していた。夕方に聞いてみたところ『別のところだと姉妹がいたりして集中できないから。』と言っていた。どうやら執務室は自習室になったらしい。
MONSTERの力は恐ろしい(←夜に飲んでしまった)
今回は少しだけアドレーの話をしてから駆逐艦についてやりました。
軽巡の弱点ですが、本当に素人思考であそこなんですよね。指摘は受け付けます。
それと満潮はそこまでツンケンしてる訳ではないという話でした。SSであるようなキャラではないと思ってます。
ご意見ご感想お待ちしてます。