【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話 作:しゅーがく
俺は明日、日用品を買いに行こうと考えていた。
丁度、休みなのだ。執務自体を早めて貰っていたので秘書艦も無い。
俺は私室で私物を見ながら何が居るのかを考える。そしてメモ帳にリストアップしていき、ペンを置く。
(こんなもんだろうな......。酒保で買える日用品はあるにはあるが、やっぱり女性用しかない。)
酒保は艦娘の為に建てられたものなので勿論、日用品に関しては女性用のものしか置いてない。鎮守府で男性は俺と門兵くらいしかいない上、門兵の寝泊りするところは鎮守府の外にある。だから鎮守府内で買い物をする必要が無いのだ。
(大荷物になったら迎えを頼めばいいか。)
そう思って立ち上がり、執務室に出ようと扉を開いた瞬間、目の前に金剛が居た。
体勢的に扉に耳を当てていたのは確実で、俺が扉を開いた途端に仰け反った。
「あっ......そのー......。」
そう言いながらモジモジする金剛に俺は退いて欲しいとだけ言って、そのまま執務室の自分の席に座った。
「何か用があったのか?」
「えっとデスネー......。」
珍しく歯切れの悪い金剛に俺は急かさずに待った。急かしても良かったが、多分とんでもないことを言うに違いないからだ。
「そのー。」
「ん?」
未だにモジモジとしている金剛を見ていて面白くなってきたところで、金剛は口を開いた。
「どっかに行くのデスカ?」
「は?」
突然そんな事を訊いてきた。
どういう意味だろうか。俺が今からどこかに行くのかと思ったのか。それとも明日外に出る事なのか。全然分からない。修飾語が無いからだろう。
「明日、どっかに行くのデスカ?」
最悪だ。どうやら一番よくない方を訊かれてしまった様だ。ここで適当に誤魔化しても金剛は多分ついてくる。そんな気がした。というかそうに違いない。俺の隣を歩かずとも絶対に付いてくるだろう。
「えー、あぁ。ちょっとな。」
「どこに行くのデスカ?」
やっぱり誤魔化しても無駄だった。俺はもう正直に言ってしまおうと意思を固める。
「鎮守府の外にな。酒保で買えないものを買いに行くんだよ。」
そう言った途端、金剛は目を輝かせた。それと同時に俺の脳内でアラートが鳴り響いている。危険だと。
「わっ、私も連れてって下サーイッ!!」
思った通りだ。
「艦娘は出れない事になってるだろう?」
「そうですケド......。」
これは何というか殺し文句というべきだろうか。艦娘がもし、出撃以外で鎮守府の外に行きたいと言えばこう答えるのが良いと言われている。というか言えと言われているのだ。
今は特にそうだ。世間に艦娘の事について知られている今、どんな危険があるか分からない上に艦娘の身体能力も年齢相応というところもある。それは運動会をやった時に分かった事だ。
「どうして出たいんだ?」
俺はあくまで出たい理由を訊いた。こんな質問をしておいてなんだが、返答なんて2種類しかない。ひとつは興味があるからで、もうひとつは俺の護衛だ。金剛の場合、後者である可能性が高い。
「もちろん。提督の護衛デスヨ?」
俺の予想は的中だ。金剛ならこう言わない筈がないのだ。
だが、赤城の時は叶えてやったが今回はそういう事ではない。ただ俺が出る事を知られてしまったという理由だけだ。
「それでもダメだな。それに俺の護衛はちゃんと付くぞ?あっちは軍人だ。相手が銃を持ってなければ完璧だ。」
「デモッ......。」
まだ食い下がってくる。諦めが悪いのか、ただ俺を心配してなのか分からないがここでいいと言ってしまえば他の艦娘も連れて行かなければならなくなる。そうするとバレるバレない以前の問題になる。大問題だ。
「それに金剛を連れて行ったら他の艦娘も連れて行かなけりゃならなくなる。艦娘によっては髪色が黒じゃないのも居るんだ。そうしたら目立ってしまって面倒事になる。そうしたらとてもじゃないが俺だけじゃ対処しきれない。」
そう言うと金剛は目をウルウルさせ始めた。どういう事だろうか。
「......そんなに私と行きたくないデスカ?」
俺にはこの言葉は威力が絶大だ。ここまで拒絶したのに食い下がり、最後にこんな事を言う。
何というか俺の信条みたいなものが崩れてしまう気がした。
「はぁ......分かった。」
「やった!」
金剛は喜んでいるが束の間だ。
「但し、条件がある。」
「何デスカ?」
俺はそう言って金剛にいくつか条件を突きつけた。
「ひとつ。その髪型を崩す事。特徴的だから外に出たら一発でバレる。」
「ひとつって事はまだあるのデスネー。」
「ふたつ。そのアホ毛を隠すために何かしらの帽子かハットを被る事。ワックスでぺったんこにしてもいいが。」
俺はそう言って条件を付けていく。
「みっつ。金剛の口調はカタコトだから出来るだけネイティヴに話す事。」
「カタコト......。」
少し思うところがあるようだ。
「最後。オーバーリアクションは無しで。」
全部言い終わり、金剛がこれでも行くと言うのなら俺はどうにかする。金剛の返答を待った。
一方の金剛は髪を弄ったり、アホ毛をちょこちょこ触ってみたり、少し独り言を言ったりしてからこっちを見た。俺の突きつけた条件を飲むのなら俺は連れて行く、それの回答をするのだ。
「分かったネー。でもワックスは無いから何か被って着マース。」
「そうか。なら、着いて来い。それでだが、他の艦娘には悟られないようにしろ。分かった?」
「了解ネー。」
金剛はそう言って笑顔で敬礼すると執務室から出て行った。たぶん、明日の準備を始めるのだろう。
俺もそれなら動き始めなければならない。門兵の明日の配置を訊いてこなければならない。
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ーーー
ー
次の日。俺はあるところに来ていた。そこはかつて金剛が妖精たちと掘って機材などを置いていた部屋だ。何故ここなのだろうか。
俺は疑問に思った。門兵に頼みに行こうと部屋を出ると金剛が待ち構えていて、誰にも言わずに出れると言って聞かないので、何故そんな事が言えるのだろうかと。
「お待たせしましター。じゃあ入りマスカ。」
そう言って現れた金剛は何時もの服装だ。だがそれなりに大きなカバンを持っている。
「分かった。」
「多分大丈夫だと思いマスガ、少し着替えるので待っていて下サイ。」
そう言って俺は金剛に連れられて穴を降りていく。
穴を降りるとそこには電気が来ていて、なかなか明るかった。そして歩いていると途中に横穴があり、そこには土が積み上がっていて水もあった。そしてよく見ると通路脇に溝が彫ってある。何の用途があるのか分からないが、気にせず進むと開けたところに出た。
そこには机と椅子は勿論、機材が置いてあった。何処かの通信施設かと思ったほどだ。
そしてその部屋の奥には靴を脱いでいられる様なスペースもある。
「すぐに着替えますので少し待ってて下サーイ。あっ、でもこっち見ちゃ駄目デース。」
そう言われ俺はすぐに金剛のいる方の真反対に身体を向けた。
後ろで布の擦れる音を聞き、なるべく聞かないようにしているとすぐに金剛に声を掛けられた。
「髪を梳いてカチューシャ取れば行けマス。」
「そうみたいだな。」
金剛は可愛らしい服装で佇んでいた。
白い長けの短いワンピースにカーディガンを羽織り、下はプリーツスカートで二―ハイソックスを履いている。手にはアンゴラ帽子が乗っていた。
「どうかしましたカ?」
そう首を傾げる金剛に俺はそっぽを向いた。
見てると顔が赤くなっていくのが分かるのだ。
「別に、なんともない。」
そう俺は適当に言うと『そうデスカ。』と言って金剛は髪を梳き、帽子を頭に乗せた。
「では、行きマショー。」
「だな。」
ちなみに俺はもう着替えてある。いつもの制服の下に着てきているのだ。上着は手に持って来たが。
金剛に言われて部屋の来た道の反対側にある梯子を上って外に出ると枯草に囲まれていた。
それ程高くないところから頭を出して歩いて行くと路地裏ですぐに町だ。
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俺の用事は早々に終わった。日用品といっても衣類が殆どで、本を数冊買っただけで終わった。案外多くなってしまった荷物を一回、出てきたところに置きに行き、時間があるからと言って赤城の時みたく見て回る事になった。
見て回るのだが、金剛の様子がおかしかった。赤城は物珍しさからキョロキョロとしていたが金剛はそんな事ない。それどころか、まるで分かっているみたいに歩くのだ。
「なぁ。」
「はい。」
それと違和感があるのが、金剛が片言じゃない事だ。無理しているのは丸わかりだが、周りには分からないくらいのレベルだ。
「物珍しさからキョロキョロすると思ったんだが、そうじゃないんだな。」
そう言うと金剛からとんでもない言葉が発せられた。
「そうですね......。貴方の為に色々していた時期がありましたよね?」
金剛は外では俺の事を貴方と呼ぶと宣言していた。ここで提督と呼んでしまうとバレてしまうからだと。
「そうだな。」
「その時に手に入らないものはあそこを使って出て来ては買い物をしていました。」
「なっ!?」
そう言いながらニコニコする金剛に反して俺は冷や汗が額から流れてくるのが感じられる。
「すみません......。どうしても必要だったので......。」
そう申し訳なさそうに言う金剛に俺は訊いてみた。
「ちなみに、何が必要だったんだ?」
そう訊くとまたもやとんでもないものが金剛の口から発せられた。
「監視カメラにケーブル、偽装用の植物や造花、麻袋、それにボイスレコーダーです。だいたいはあの部屋を隠すためのものですね。」
「そうか......。だがボイスレコーダーは何の為に?」
興味本位で訊いてみるがこれまた衝撃的な言葉が金剛から発せられた。
「貴方たちが調査していたのは分かっていたんです。ですのでそれの進行状況を聞くために執務室に置いてありました。」
そう言われて俺は思い出した。鮮明にビジョンが脳裏に映る。それは叢雲が俺にこれは何だと執務室の外で俺に見せたものだ(※第百五話参照)。
「やっぱりそうだったか。」
「はい......すみません。」
そうしょんぼりする金剛を尻目に俺は町並みを見ながら歩く。
「まぁもう昔の事だから気にしても仕方がない。忘れろ。」
「そうします。」
そうして俺たちは色々な店を回った。服屋、雑貨屋、、スーパーマーケット、百均、コンビニ......色々と見て回ったが、どうやら金剛は家電屋とホームセンターにしか行ってなかった様で、どれにも凄く興味を示していた。今回は酒保が大きくなっているのでそれなりに誤魔化しが効くだろうという事になり、金剛は小物やらを買って行く。大物は持って帰れないから諦めると言っていた。服も買ったりして結構楽しんでいた。
そしてそうやって歩いている最中、金剛はある話題を持ち掛けた。
「そう言えば赤城の事なんですが......。」
艦娘の名前を出すが話し声は俺にしか聞こえない程度だったのでいいだろう。
「どうした?」
「赤城が宝物だと言ってずっと持ち歩いているものがあるんです。」
俺は何だか嫌な予感がした。
「小さい懐中時計でいつも袖の中に入れて持ち歩いているんですよね。」
予想的中。俺が赤城を景品として鎮守府の外に連れ出した時に買った物だ。
「貴方は何か知りませんか?」
そう尋ねてくる金剛に真実を言う訳にもいかずに俺ははったりを言った。
「知らないぞ。俺も初めて聞いた。」
「そうですか。」
「あぁ。」
どうやら深く訊いてこない様だ。まぁそこまで訊いてこないなら本当に話題として出しただけだろうと思い、俺もすぐにこの話をした事を忘れたのだが、次に入ったアクセサリーショップで金剛にねだられた。
「何かプレゼントして下さーい!」
カタコトではなかったが、いつものようにそう言ってくる。
言っている金剛は目を輝かせていたのでまた断るわけにもいかずに俺は結局、金剛に似合いそうな髪飾りをプレゼントする事になった。
その後もゲームセンターに入ってシューティングをやって騒いだり、本屋で金剛が探していた本の題名を訊いて俺と一緒に探してくれた店員にドン引きしたりして過ごした。ちなみに金剛が探していた本はME○RO2033というロシアの若手作家が書いたSFファンタジーだ。核で荒廃した地上を棄てた人間がロシアの地下鉄でそれぞれの駅が独立国家を営む世界でモンスターの襲撃や汚染に怯えながら暮らす人間が暗くて長い地下鉄のトンネルを旅する話だ。暗い内容ので読んでて辛いものだ。俺も知っているので、余計に引いたのだ。
店員は『こんな可愛い子がそんな本を読むなんて......。』とかショックを受けながら本を探してくれた。運が良く、その本は見つかり金剛は上機嫌で買ったのだ。そしてそれの会計をしていた店員は一緒に探してくれた店員で、上機嫌の金剛を見てさらにショックを受けていた。そんなショックを受けるものなのか。
そうして俺と金剛は鎮守府に帰った。
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夜。執務室で本を読んでいると鈴谷が入ってきた。休みという事もあって鈴谷は結構ラフな格好で現れた。
「提督ぅー。今日、どこ行ってたのさー。」
どうやらこれを聞くために来たみたいだ。
「今日は警備棟でで門兵と世間話してたけど?」
「えぇー!鈴谷が行った時、いなかったよ?!」
どうやら探して回っていたみたいだ。
「入れ違いだったんじゃないか?」
「そうかなー?」
そう何とか鈴谷を誤魔化して俺は少し鈴谷と話すと床に就いた。
こうやってダラダラとするのもいいものだなと思いながら。
今日は買い物の話にしました。プロットにはもうひとつネタがあったんですが、かなり強引になってしまうのでこちらに......。もうひとつの方はまたそのうち投稿させていただきます。
まぁ、今回のには昔の話が多く出て来ますね。忘れている頃の話もあるので※で書いてあるのを見返す事もおすすめします。忘れていたならですが(汗)
ご意見ご感想お待ちしてます。