【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話 作:しゅーがく
赤城と話した日の夜。消灯時間が過ぎた辺りに艦娘寮の空き部屋に私は来ていた。
今からそれぞれの艦種の代表を集めて、これまで起きてきて何も解決していない事態のヒントを上げるの。
「待たせた。」
私の次にこの部屋に来たのは長門だったわ。長門は戦艦の代表。鎮守府でも発言力の大きい艦娘の一人だ。
だが次から入ってくる艦娘が私の指定していた艦娘と違っていた。
「お邪魔しますね。」
「お邪魔しますわ。」
入ってきたのは霧島と熊野だった。
何故、この2人なのか......見当は付く。
「済まないな、叢雲。今日呼んだのはこの2人だけだ。」
そう言って長門は椅子に座ったわ。
「このメンツなら分かるわ。だけど、どうして?」
そう訊くと長門は腕を組んで言ったわ。
「医務室で叢雲に言われた言葉、考えてみたんだ。......答えは分からないが、まだ広めるべきではないと判断した。それに、今から話す内容は赤城、金剛、鈴谷の件だろう?」
流石は長門だ。私より進水は遅いが、数多くの修羅場を潜り抜け、鎮守府で一番強い彼女なだけあるわ。
だけど司令官は『長門は偶にポンコツな発言をするからなぁ』と言っていたのは黙っておきましょう。
「そうよ。」
そう答えると霧島が訊いてきたわ。
「それで、分かった事があるんですよね?」
「えぇ。」
霧島も流石だ。長門と伝家の宝刀、扶桑と山城とほぼ同時期に進水し、回避率を上げる為に編成される高速艦隊の旗艦を専任している艦娘なだけある。特に霧島は情報収集が得意みたいだし、艤装の妖精への指示も上手いわ。なにより古参というブランドが物を言うわね。
「私たちは形はどうあれ赤城、金剛、鈴谷の異常な行動に関して調べて来たわ。」
そう言うと霧島と熊野は頷いたわ。
「彼女らが何をしているか、それは大方分かってきたけど、どうしてそんな事をしているのか、考えた事はあったかしら?」
「......ふむ......何かの目的があるのは明確なのですが、皆目見当もつきませんね。」
「霧島さんと同じくですわ。」
やはりこの2人も『気付かない』艦娘だったんだわ。そして私も昨日までそっち側だった。
「長門。私が医務室で言った言葉、言ってみて。」
「あぁ。確か......『私たちは一生『海軍本部』に囚われた檻の中に居た方が良かった』だったか?」
そう言うと霧島はすぐに答えたわ。
「......提督に関する事ですね。」
「当たりよ。」
私は続けたわ。
「でもなぜそういう事を言ったか......『提督を呼び出す力』に関して疑問に思った事、呼び出した後、何かを考えた事はあったかしら?」
「無いですわね。提督が着任されて、嬉しくて嬉しくて、提督の力になろうと心に誓っただけですわ。」
よくもまぁそんな恥ずかしい言葉を言えたものだけど、大体の艦娘がそうなのよね。
「そう......。じゃあ、何のためにこんなことをしているか......それは......。」
少し溜めた。口が少し動かないというのもあるが、言い出しにくい。だが、そんな時、突然扉が開かれた。
「叢雲さん。待ってください。」
現れたのは赤城、そしてその後ろには加賀、時雨、夕立、金剛、鈴谷、イムヤが居た。イムヤには少々違和感を感じるものの、どういう組み合わせか私は分かっていたわ。
「私から説明します。」
そう言って赤城は空いてる椅子に座ったわ。他の金剛たちは立ったまま。
「私たちが動き出したのは提督のある言葉です。」
「ある言葉とは?」
長門が訊く。
「金剛さんと鈴谷さんは知りませんが、私は提督の『寂しい』、『帰りたい』という言葉で動き出しました。」
そう言うとやはり察しがいい霧島はメガネを上げて言ったわ。
「はぁ......そう言う事ですか......。」
それを赤城は一瞬見て続けたわ。
「それ言葉の意味。『寂しい』は家族と友人からいきなり引き剥がされた寂しさです。『帰りたい』はそんな家族がいる家に帰りたいという事でしょう。」
赤城は少し震えながらも続けたわ。
「提督は苦しんでいるんですよ。私たち艦娘は提督を欲してきました。そして私たちは遂に、『提督を呼び出す力』を手に入れました。当時、歓喜していたのは誰もが知って居る筈です。私もその一人でした。」
その赤城に続いて鈴谷が話し出した。
「嬉しい、これから楽しみ、提督がいるなんて幸せだ......そう思ったでしょ?でもそれは私たち艦娘だけ。」
熊野が急に立ち上がった。どうやら結構呑み込めたみたい。
「私たちは提督を大切に想い、かけがえのない存在だと思っている。提督も多分そう思ってると思う。大切って思ってないなら小破中破で撤退なんかさせないし、進水した艦娘が居るたびに歓迎会なんか開かないよ。でもそれは提督の優しさ。」
「私たちに見せている真剣な顔、怒った顔、楽しそうに笑っている顔は本心かもしれマセン。ですけど、本当は家族と友人と引き離されて『寂しく』思ってるんじゃないんデスカ?」
赤城がまた話し出したわ。
「それに提督は平和な世界から来たって知ってますよね?」
そう言った赤城に長門と霧島、熊野は頷いたわ。
「私たちはそんな平和な世界から来た提督に戦争を強いてきたんですよ。そして"提督"という席に居る以上付きまとってくる責任を背負い、鎮守府を背負い、私たちの期待を背負っています。」
赤城は自分で言っていてどうやら辛くなっているのだろう、目が充血してきていたわ。
「知ってますよね?提督はたったの18です。私たちは提督のお蔭でテレビを見れていますが、その時に見ませんでしたか?18歳という年齢では学校に通っている事を。そこで何をしているのか......。提督が読んでいた本の中に参考書というものがありました。それは勉学に関する事。しかも私たちでは到底理解できないものでした。それを提督は見ていたんです。そしてまだ知らなかった私に提督は『もう必要ない』と言ったんです。」
「赤城......。」
私は持っていたハンカチを渡したわ。ボロボロとあふれ出る涙を拭って欲しかったから。
「言葉の意味とか最初に言いましたが、私たちは動いている理由......。」
ここは私も聞くのは初めてだ。
「私たちは、私たちが奪ってしまった提督の未来を少しでも返すために動いているんです。家族、友人、夢......こんな事で返せるとは到底思えませんが、無知で居るよりマシです。」
そう言って赤城は言い放ったわ。
「長門。貴女には気付いて欲しかったんです。長い間秘書艦をして、一番提督と一緒に居た貴女に......。」
赤城から視線を逸らし、長門を見てみると長門は握りこぶしから血を滲ませていた。そしてその拳を壁に叩き付け、崩れ落ちた。
「......私が提督の未来を奪ったのかっ?!提督を欲したばかりにっ?!」
「そうネ。でも長門だけじゃないヨ。皆が提督を欲していたんだから、『私が』じゃなくて『私たちが』の方が正しいケドネ。」
そうすると急に鈴谷が熊野を呼び出したわ。そっちを慌てて見てみるとどうやら熊野が失神したみたい。白目を剥いてる。レディーのしていい表情ではないわね。
「叢雲さん。」
急に赤城に話しかけられた。
「なに?」
「叢雲さんに言われた事を考えて、私たちは協力することにしました。計画も見直しです。」
「そう......良かったわ。」
「えぇ。」
赤城はそう言って私が貸したハンカチを『洗って返します』と言って、熊野の介抱に言ったわ。その一歩で時雨が何かを言っている。そっちを見ると時雨が何かをしようとしている夕立を必死に止めているところだった。
「どうしたの?」
「手伝ってっ!夕立がっ!!」
「私のせいで提督さんがっ!!!提督さんがっ!!!あああぁぁぁぁぁ!!!!」
どっから出したか分からないが、首に尖ったものを突き立てている。どう見ても自殺しようとしてる様にしか見えない。
「やめなさいっ!それをしてももっと司令官が苦しむだけよっ!!」
そう言って夕立にビンタをしたら、尖ったものを離したわ。
「夕立は悪い娘だよ......グスッ......。」
吹雪みたいに座り込んで泣いてしまった。その後時雨から訊くと、どうやら本当の事を言わずに協力してもらっていたらしい。
それにこんな夕立を見たのは初めてだということ。普段から司令官の為に粉骨砕身してきた夕立だからかもしれないとの事だったわ。
周りを見渡せば死屍累々。混沌としていて、収集が付かない状態になっていた。
「......皆さんが落ち着き次第、今後の方針を考えましょう。次の作戦までは時間がありますから。」
赤城はそう言って出て行ったわ。
空き部屋に残っているのは動かなくなってしまった長門と失神した熊野と熊野を寝かせる鈴谷、私の様に目が死んだ夕立と夕立を介抱する時雨、座ったまま黙ってしまった霧島だけだった。
「もう戻れないわ......。」
私はそう思ったわ。
もう戻れない。知ってしまったから......。奪ってしまったものを。
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次の日は出撃は勿論なく、遠征艦隊のみ遠征に出かけて行ったわ。活動はこれだけだと司令官は言っていたらしいけど、たまにあるからあまり気にはしてないわ。
それから朝食の時間に赤城から協力することになった経緯を訊いたわ。
「叢雲さんに言われて、考えた後にそれぞれの私室を回りました。」
朝食を頬張りながら赤城はそう私に語り掛けてくる。
「私が何を見て、聞いて、何をしているか言うと金剛さんは『協力した方が良いネ。』と言って下さいました。鈴谷さんも『人数が多い事に越したことはないじゃん?』っておっしゃって協力することになったんです。」
「それで?それぞれの理由と目的は?」
「大体同じですね。ですが、金剛さんは違いました。」
「と言うと?」
赤城から予想もしてなかった言葉が出て来たわ。
「金剛さんは私たちみたいに見た、聞いたじゃなくて、進水してからずっと違和感に思っていたそうです。そして話を訊いたりして辿り着いた、そう言ってました。」
「じゃあ金剛は感じた些細な違和感とたった1人の艦娘の言葉だけで?」
「そうです。」
金剛はとんでもない艦娘よ。
どうやって至ったのか詳しく聞きたいけど、気付いた艦娘全員は何かしらのヒントの様なものを手に入れてから辿り着いているわ。赤城と鈴谷は提督の言葉、私は赤城からのヒントと提督の言葉。金剛がこれに辿り着いたのは問題しか書かれてないところからいきなり答えを出すようなものよ。
「後でまた昨日のメンバーと叢雲さんが吹雪さんに言ったということなので、吹雪さんを含めた計10名で会議です。それぞれがどこまで準備をしていたのかという報告と、今後の方針について......。」
「分かったわ。吹雪に声を掛けておくわ。」
「ありがとうございます。」
私は赤城の返事を訊いて席を立ち、吹雪を探しに出た。
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場所は昨日と同じところ。空き部屋に置いてあったものをフル活用して、会議をするわ。
足りないものがあったから買い足したりしたけどね。
「早速、私と金剛さん、鈴谷さんがどこまで準備が整っていたかを、まずは私から。資材を回収、換金する前でした。パイプは新瑞さんに協力を取り付けてます。」
赤城はホワイトボードに書いたわ。
各資材それぞれ1000余り。収集を始めてそれほど時間は経ってないはずなのに、大型艦のみの編成で全力出撃が数回出来る程も溜めていたわ。
「私は資材は溜めてマセン。ですが、鎮守府の外への通路を確保してマス。これは脱出口として使えると考えてマス。」
金剛はやはりそうだった様ね。
「鈴谷は大体の準備は整ってるよ。資材も売ればかなりの額になる予想だよ。それとパイプを総督に取り付けてるから。」
そう言って鈴谷はとんでもない事を口にしたわ。
「それと情報収集用にパソコンを1台と、携帯火器も持ってる。使いたくはないけど、念のためね。」
そう言った鈴谷に赤城は突っ込んだ。
「それは禁止されていますよ?!」
そう言った赤城を鈴谷は一蹴したわ。
「でも必要じゃん。無ければただお金溜めて終戦を待つだけなんて嫌だよ。鎮守府の外の情報を集める事も必要だと思うんだ。」
「ですけど、銃は流石にやりすぎですっ!」
そう言った赤城に反論する鈴谷の回答はとても『理にかなっていた』わ。
「何か鎮守府で問題が起きて、鈴谷たちの『提督への執着』で衝動に駆られるのが分かった時、提督は『艤装装着禁止令』を出すじゃん?ソレの為だよ。......それを絶対守る鈴谷たちがもし提督に手を下そうとする輩を始末しなければならなかったなら、艤装以外でしなきゃいけないじゃん。なら人間が使う銃しかないじゃん。」
「......そう、ですねっ......。」
鈴谷はそう言って保有する携帯火器の数を教えてくれた。ここに居る全員が所持できる数だけあるという事。凄いとしか言いようがないわ。
結局この会議は昼食までかかり、書記をしていた加賀のノートは1冊全て埋まっていた。
赤城と金剛、鈴谷が協力する事になりましたね。
どう動いて行くか.......気になるところです。
本日分は提督が一切出てきません。会話内では出てきますけどね......。
これでどう動いて行くか、楽しみですね。
ご意見ご感想お待ちしてます。