【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話 作:しゅーがく
北方海域を奪還した作戦艦隊の凱旋だ。
長門曰く、奪還してからそのまま東進。北アメリカ大陸を見たとの事。場所はアラスカだったと言っていた。だが沿岸部は凍り付き、人の気配は感じなかったとの事。北方進出という事で、赤城と加賀がラジエーターの不凍液を積んでいたことから、彗星一二型甲を偵察に出したところ。沿岸から40km離れたところに都市を発見したとの事だった。それよりも内陸は人が居る様で、機体にサーチライトを照射されたので偵察機は慌てて帰還したという事だった。これは全て無線で聞いた事だ。
それよりも今は凱旋待ちだ。足並みをそろえるという事で出撃していた支隊は沖で本隊を待ち、一緒に戻ってくるとの事。
「来たわよっ!」
ビスマルクの声に埠頭に出ていた全員は声を挙げた。
今までの様な手厚い支援も無い処に戦術を凝らして投入したからだろう。それは皆知っている。だからこそだろう。
戻ってきていた艦隊が埠頭に接岸し、艦娘たちが降りてきて俺の前に整列する。
「作戦終了した。北方海域最深部の棲地を撃破した。」
そう長門は言った。
「あぁ。」
「さぁ、まだ作戦は続くのだろう?」
「そうだ。」
俺が答えると長門は手を天高く突き挙げた。
「次もドンと来いっ!だ。」
「そうだな......損傷した艦は入渠しろっ!一時的な休息を取る。」
指示を出して俺は足早に執務室に戻った。
これから西方海域の攻略に向けて動かなくてはならない。だが、難点が1つある。
それは俺の記憶が正しければ西方海域の最深部は『姫』がいる。特殊な深海棲艦だろうけど、実態は不明だ。何せ未だに挑んだことがないからな。
最深部の『姫』は『装甲空母姫』と呼ばれている。それに俺の居た世界では何度も挑んでゲージを減らし、最期に出てくるのが『装甲空母姫』だ。前哨戦では『姫』じゃなくて『鬼』の表記だったはず。だが、まだ分からない。
そんな事を考える前に負けなければいいのだ。
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ーーー
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叢雲ちゃんが言った言葉。
そのままだったのなら私たちが司令官の何もかもを奪ったという事になります。それだけ言われても言葉の意味自体は理解できますけど、途中の経緯が見えません。何故、私たちが司令官の何もかもを奪った事になっているのか......。
「......どういう意味?」
そう訊き返すと叢雲ちゃんは答えてくれました。
「昨日の夜にもう一度、司令官のところに行ったの。」
目に光が戻らない叢雲ちゃんは話し続けます。
「そこで私は司令官にただひとこと訊いたの。『寂しいって思ったことはない?』って。最初は私たち、艦娘が居るから平気だって言ってたんだけど......。」
叢雲ちゃんは光のない目から涙を流し始めました。
「問い返したら、『家族と友達が居ないから寂しい』ってっ?!......私たちは確かにこのことを知ってなければいけなかったっ!?ただただ司令官が着任した事を喜び、幸せな気持ちになったのは私たちだけっ!?......司令官はこの5ヵ月間いきなり家族から友達から引き離されて、知らない土地で戦争をやらされ、重い責任を背負って......。」
叢雲ちゃんはシーツを弱々しく握りました。
「何よ、『提督への執着』って......。こんなの、ただ司令官を苦しめるだけじゃないっ!!!」
叢雲ちゃんは何も発する事の出来ない私の腕を掴みました。
「空襲に遭って鎮守府が焼けた時、司令官が自分を撃とうとしてたじゃない?......あれって、苦しさから解放されたいからじゃないの?!上辺ではこの世界の人たちがとか言ってたけどっ?!」
「......。」
「きっと心の中では辛く感じてるに決まってる......軍隊を指揮して、命を狙われ、日本を背負い、私たちに悟られない様に必死に隠してる......。」
ぐしゃぐしゃの顔で叢雲ちゃんが私の顔を見ました。
「独りで戦っているわ......。きっと......。寂しさと責任とね。」
私は震えて立つことも危うい足に力を入れた。
叢雲ちゃんが言った言葉。多分これが気付かなければいけないことなんでしょう。確かにこれが理由ならあそこまで人を変えてしまうのも分かります。
「......本当なの?」
そう訊くと叢雲ちゃんは涙をぬぐいながら言いました。
「きっとね......だけど、本音は分からないわ。司令官は確かに『寂しい』とは言ってたけど、責任から逃げ出したいってのは訊いてないの。ただその『寂しい』という言葉から連想で来た事がこれだったの。」
「そう......なんだっ......。」
私は遂に足の力が抜けました。
もう何を考えたらいいのか分かりません。ただ、ずっと脳裏にあるのは紛れもなく『司令官の未来を奪った』って事。初期艦だけじゃありません。この世界に着てすぐなら着任拒否で帰る事が出来ました。だけど司令官はそれをしませんでした。という事はもう司令官のいた世界には帰れない。ここに残ったのならいつ終わるか分からない戦争を一生やらされて、いつか死んでしまう......。こんな事、艦娘なら誰にでも想像ができます。
「......これまで、司令官の為に戦ってきたのにっ......。」
目から涙が流れてきます。痛い、辛いなんてものじゃありません。
「......仇が私たちだなんてっ......。」
ただ、長い時間あったのに気付けなかったのだろうという自分への憎悪だけでした。
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私は帰ってきて艤装を入渠場に置いてくると一目散で叢雲と吹雪を探した。
霧島と熊野は共に出撃していたからあの状態で何かを考え、至らせる事は無理だっただろう。だが2人は違う。この鎮守府に残っていたからだ。
何か手がかりを見つけて、彼女らなりに何か至っているのかもしれない。
「提督っ!」
「うおっ?!なんだ?」
執務室に飛び込み私は叢雲と吹雪がどこに居るか聞いた。
「叢雲と吹雪は知らないか?」
「吹雪は知らないが、叢雲は医務室にいるぞ?」
それを訊き私は一目散で執務室を飛び出して、医務室に向かった。
医務室に入ると、目に生気のない叢雲と泣き崩れている吹雪が居た。
「どうしたのだ?......それより、何か分かったのか?」
私はそう話せるか分からない叢雲に訊いた。吹雪はずっと泣いているからな。聞ける様子では無い。
「ええ......何かとは言わずに全てね......。」
叢雲は生気のない目をこちらに向けた。
「目がっ......死んでいるぞ?」
「そうかもしれないわ。」
叢雲はそう言って一言だけ言った。
「先ずは帰ってきた赤城と金剛、鈴谷に謝りたいわね。」
叢雲が言った言葉の意味が判らなかった。
何故突然謝りたいなどと言い出したのだろうか。
「どういうことだ?出撃前の深夜に話す時には事態を把握していたが、彼女らに謝る必要が無いと思うが?」
そう私が言うと叢雲は首を横に振った。何故だ。
「ああやって隠れていたのにはちゃんと理由があるんじゃないの?」
そう言って叢雲は私に説明を始める。
「隠れながらでなければ気になった私たちの誰かが尋ねるでしょ?『何をしているのか?』って。」
「そうだろうな。」
「それで答えてしまったら混乱が起きるわ。......いいえ。混乱では済まされないわ。この鎮守府が運営できなくなってしまうかもね。」
そう言った叢雲は私の目を見た。
「私の目がその証拠。死んでるって言ったわね?」
「あぁ。生気が無いように見える。」
「吹雪を見て。吹雪は泣いてしまったわ。きっと何かを抑えつけているんだと思うわ。」
「そうなのか?」
叢雲はそう言うとシーツを握りしめた。
「だけどね、真っ先にすることは貴女に伝えるのではなく、彼女らに邪魔をした謝罪をする事と、それぞれの艦種の代表を集めて緊急会議を開く事よ。」
「どういうことだ?」
私がそう言うと叢雲は生気の無い目を細めて言った。
「私たちは一生『海軍本部』に囚われた檻の中に居た方が良かったって事よ。」
私はその言葉に怒りを覚えた。せっかく提督が解放してくれたと言うのに、なんという事。
「どういう意味だ?!飼われていた方がマシだと言うのか?!」
そう言うと叢雲は表情を変えずに言った。
「そうよ。」
叢雲の目には生気が無い。だが何かまだあるような気がしてならないのだ。だから私は込みあげる気持ちを抑えつけた。
「......分かった。今日の夜にでも招集を掛けよう。」
「ありがとう......。」
私は叢雲に見取られながら部屋を出た。
一体何があるというのだろうか。
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私は医務妖精にもう大丈夫だと伝えて医務室を出たわ。向かう先は一つよ。
赤城の私室。たぶんここに居る筈。
「赤城。」
私はそう言って赤城と加賀の部屋をノックしたわ。
『空いてますよ。』
私は赤城の声でそう言われ、部屋に入っていったわ。
「叢雲さん。どうかされたの?」
そういつものように柔らかい笑顔で言ってくる赤城に私は話したわ。昨日今日の出来事を。そして赤城がしていた事を肯定する言葉を述べて、最後には謝罪をしたわ。
そんな私を赤城は胸を撫で下ろしたかのように一息吐いて私の横に来た。
「『気付いた』のね?」
「えぇ。」
私は胸を締め付けられるような思いを必死に噛み殺して赤城に言葉を返したわ。
「そう......『気付いた』時は辛かったでしょうね......。」
「よく覚えてないけど呼びかけにも答えなくなって、何かをぶつぶつ言いだした後に気が動転して、その後失神よ......。見るに堪えないって言ってたわ。」
そう言うと赤城は首を傾げたわ。何故だろうかと思ったけど、すぐにそれに関する疑問が赤城から投げられてきたわ。
「言ってたって......誰かと一緒に居たんですか?」
「司令官とね......。」
不味ったと私の直感が知らせてきたわ。ここで司令官の名を出すとどうなるか......。
「提督と?......そうなんですか。」
良かった。赤城は余り深く訊いてこなかったわ。
「えぇ。......それで訊きたい事があってね。」
「何ですか?」
「『気付いて』分かったんだけど、赤城たちがしている資金調達やパイプを繋げるのは戦後の為ってのは分かったわ。」
「そうですね。」
「だけど、それを使ってどうするの?パイプを使って今の状況から脱して、資金で逃げると?」
「そのつもりですけど......。」
私は溜息を吐いたわ。
安直すぎるもの。パイプで司令官の地位や何からをどうにかして、自由になった後は資金を使って消えるという事らしい。
「少し詰めが甘いわ。」
「んなっ?!」
私がそう言うと今まで訊いた事のない声で赤城が驚いたわ。
「そもそもこの計画は終戦を迎えるのが大前提なんでしょ?」
「そうですよ。確実に海域を取り戻しつつありますし、今日も北方海域を制圧して帰還してきたんですから。」
私は頭を抱えた。
赤城はどうやら終戦を迎えてその後に何があるのか考えていない様だったわ。
「確かに終わりは見えてきてるわ。だけどね、終わっても司令官はその重責からは逃げられないわ。」
「どういうことですか?」
私はここまで歩いてくる間ずっと考えていた事を言ったわ。
「多分終わったとしても深海棲艦の残党による散発的な戦闘はあるだろうし、その度に艦隊を出撃させなくてはならないわ。そうだったら司令官は一生深海棲艦の残党狩りとして生きる事になるわ。そして深海棲艦の占有する海域を全て解放したとなれば国民からは救国の英雄、大本営からは私たちを上手く操り勝利を掴んだ指揮官。どんなパイプがあったとしてもそんな『駒』をやすやすと手放すとは思えないわ。」
そう言うと赤城は少したじろいだわ。ここまで本当に考えてなかったのかしら?
「救国の英雄として祭り上げるのは分かりますが、『駒』ですか?」
急に赤城から怒りを感じた。多分『提督への執着』が出てきたのだろう。
「言い方を悪く言うとだけどね。でも実際にそう見られてもおかしくないわ。」
そう言って私は息を整えて続けたわ。
「......それとね、赤城は同じ事を考えて行動している艦娘を知ってる?」
そう訊くと赤城はすぐに答えたわ。
「いいえ。」
そう言って私は艦娘を2人挙げた。
「金剛、鈴谷......彼女たちも赤城と同じことを考えて、行動している可能性が高いの。」
「そうなんですか......。」
「あら、あまり驚かないのね。」
そう言うと赤城は頷いたわ。
「えぇ。」
そう返してくる赤城に私は続けたわ。
「だからここからは提案。赤城は金剛、鈴谷と接触して協力するのよ。それぞれバラバラだときっと後で揉めるわ。」
「確かに......。」
「だから3人で話して、協力するの。」
そう言って私は口を閉じた。今日赤城の部屋を訪れたのはこれを言う為だと言うのも過言ではないわ。
だけどこれを言って私は赤城にどうされるか分からない。あの場で赤城は『気付かない』艦娘を始末すると言った。それを捻じ曲げる事だから。
「あと......。今日の夜、艦種の代表に召集を掛けて伝えるわ。司令官の真実を。」
「っ?!」
赤城は驚いたようね。そしてあからさまな殺気を私に飛ばしてきた。
「でもまだ伝える時ではないわ。今発動中の作戦を終わらせた後に伝えるつもり。......でもあの時赤城が私たちにしてくれたようにヒントを出すわ。赤城が大本営宛てに送った手紙と写真、そして私たちにあの時言った言葉をね。考えて『気付いて』欲しいんでしょ?」
「......えぇ。」
赤城は殺気を少し弱めると気を落ち着かせたように見えたわ。
「話はこれだけ。それとね......。」
私は立ち上がって振り返ったわ。
「私も赤城に協力するわ。司令官の為に......。」
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一応作戦艦隊は帰還したが、番犬艦隊は継続らしい。
なので今日も番犬補佐艦隊が来ていた。今日は、妙高と那智、足柄、羽黒、長良、名取だ。
「まったりしてるのもいいわねぇ~。」
「そうだな。」
炬燵で猫の如くくつろいでいるのは足柄と那智。
「うーん......これは......。」
何かの本を見ながら勉強をしているのは妙高。
「......(本を読んでいる)」
多分資料室に元からある本を読んでいるのは羽黒。
「ここにドラム缶を置いたらもっと持って帰ってこれると思うんだけど......。」
「ここに置いたら下ろしにくいのでは?」
何やら自分の艤装の見取り図を開いて、ドラム缶の配置を考えている長良と名取。
「うむ......今日も今日とてカオスだな。」
そう腕を組んで言った。
毎度のことながら、結構なものだ。
今日も空いてるところにお邪魔させてもらう。空いてるのは妙高の隣だな。
「横いいか?」
「ええ、どうぞ。」
妙高は快く言ってくれたので、肩が触れないようにある程度間隔をあけて入った。入る前に小説を片手に入ったので多分暇もしないだろうと思ったが、もしかしたら必要ないかもしれない。
「妙高は何してるんだ?」
「えぇ......何か勉強しようと思いまして......これを。」
そう言って見せてきたのは英語の参考書だった。こんなものを置いてるのか、酒保は。と思ったのと同時に俺は英語が大の苦手だ。いくら勉強しても身に着かなかったからな。やっとの事で高校生に上がって英検三級が取れたくらいだ。ちなみに三級は中学校卒業程度だ。
「うげっ......英語か。」
「はい。」
俺はチラッと参考書を見て、ノートを見た。ノートに書かれていた妙高の字は案外上手く、綺麗だった。読みやすい。
「提督は英語を勉強した事があったのですか?」
「まぁ、してなかったら『うげっ』なんて言わない。......中学と高校、で6年間な。」
そう言うと妙高は首を傾げた。
「中学、高校とは?」
「学校だよ。子どもが集まって勉強をするところだ。」
「そうなんですか。じゃあ提督もそこに通ってたと?」
「そんなところだ。」
その話に足柄と那智が食いついてきた。
「学校に通ってたの?」
「学校に行ってたのか?」
そう訊いてきた2人に俺は答えた。
「あぁ。」
そう答えると足柄が少し興奮気味に訊いてきた。
「学校に通ってたって事は色々なことを学んでいたのよね?!なにを学んでたの?」
「そうだな......現代文、古文、数学、化学、物理、政治経済、英語......他にも副教科って言われてた体育と情報、美術、保健体育かな。」
「現代文って......何?そのままの意味よね?」
足柄がそう顎に指をやりながらいった。
「あぁ。近代にかかれた小説や評論文を読み解く科目だ。読解力を身につける。」
「ふーん。じゃあ授業中はずっと本を読んでたの?」
「いいや。普通に教員が講義をしてた。」
俺はそう言って持っていた本を開いて、適当に行を指差して見せた。
「例えば、ここ。......『分厚い雲から大粒の雨が地面を叩いている。』この文から何を感じる?」
「雨が降ってる様にしか思えん。」
「そうよね?」
そう答えた那智と足柄を一蹴した。
「違う。正解は、主人公は悲しい気持ちになっている、だ。」
そう言うと那智と足柄は驚いた。
「前後の文と主語を読むんだ。そうするとこれの文がそういう意味を持っている事が分かる。」
そう言って那智と足柄に本を渡した。
「......確かにそうね。」
「言われてみれば......だな。」
そう言った2人が本を返してきた。
「こうやって物語や評論を読み解いていくんだ。」
「「へぇー。難しい事をしているんだな(のね)。」」
声をそろえて2人は言った。
「まぁ、皆やってることだ。」
そう言って色々と話した。
何だかこの時間が楽しく思えた。この感覚は久々な気がする。
遂に動きますよ。えぇ(白目)
考察が激化すると思うのですが、気にしません。偶に当ててくる読者様もいらっしゃるので毎回ひやひやしております。
一部の艦娘はああやっているのにも関わらず結構のほほんとしてますね。提督。
ご意見ご感想お待ちしてます。