【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話 作:しゅーがく
私はいつも着ている改造巫女服(※自覚アリ)を脱いで、私服を着ています。私たちのトレードマークとも言える電探カチューシャも外しました。特徴的なお団子ヘアー(フレンチクルーラー)も解いて、髪を下しています。
この姿をするのはお風呂に入る時か寝る時、この髪型で私服を着るのも新鮮ですね。
斯くいう私服も、酒保で買えるとはいえ着て行く場所がありません。提督がデートに連れ出してくれるなら張り切りますけど......。
「......よしっ!」
今から私は単身で鎮守府の外に出ます。目的は買い物。と言ってもお洋服や美味しい食べ物が目当てではありません。主に家電屋とホームセンターです。必要なものがあるんですよね。
「じゃあ、行ってくるヨ。」
「はいっ!お気を付けて!」
妖精さんたちはそう言って私を見送ってくれました。
私は完成していた穴から出ると、周りを見渡し、草むらから出ます。ちなみに出口を作ったところは門兵さんの巡回経路から外れているところです。草が多く、普通なら誰も立ち入りません。妖精さんはそこに偽装した道を作ってくれました。
私はそこをくぐって歩道脇の木の陰から出てきます。ここに出口を作ったもう一つの理由は、この歩道は人通りがほとんどないということです。何と言えばいいんでしょうか。取りあえず人間の通りがないんですね。
(ここを通って、道に出ましょう!)
私はキョロキョロと辺りを見渡して、カバンから地図を出しました。
酒保の本屋は探すところを探せば地図を見つける事は容易いんです。鎮守府周辺をピックアップした本を開いて、あらかじめ出口をマークしておいたところからラインの引かれた道を歩きます。
コツコツといつもとは違うヒールの音を楽しみながら大通りに出てきました。そこに広がっていたのは、私の中に点々とある『街並み』ではありませんでした。見たことのない車が沢山走っていて、歩道を行き交う人間たちは皆楽しそうにしています。
進んでいくと中心街でしょう、大きなビルが立ち並び、私と同じ年齢の女の子や男の子で溢れ、おいしそうなにおいを漂わせ、見たことも無いものが所狭しと並んでいました。
私はてっきり酒保がこの世界の全てだと思っていましたが、違いました。外の世界はこんなにも活気に溢れていて、皆が笑顔で、幸せそうにしています。そんな光景を見て私の中にうずめくモノが目を覚ますと思い、必死に堪えて、目当てのお店を探し始めました。
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行き交う店に目を惹かれながら私はやっとの事でお店に着きました。お店の中には酒保では見たことのない家電が並んでいて、騒がしい音で思わず耳を塞いでしまいました。
「いらっしゃいませっ!.......って大丈夫ですか?!」
私があまりの騒がしさに耳を塞いでいると近くに居た店員さんらしき人に声をかけられました。てっきりこういうお店の全ては女の人が店員をやっているのだとばかり思っていましたが、違った様です。その店員さんの胸には名前の入ったプレートが付いており、そこには『大山』と書かれていました。きっと苗字なんでしょう。
「いえ、大丈夫デス。」
「そうですか?......何かありましたら声をお掛け下さい。」
大山さんはそう言ってニコッと笑うと離れて行きました。
てっきり絡まれるのかと思ってましたが、構え損ですね。
(騒がしさには慣れませんが、目当ての物を買いましょうか。)
私は店の奥へと進みました。
私の両脇を通り過ぎていく商品は最初は何か分からないものばかりでした。『スマートフォン』って一体なんでしょうか。ですが、その先に見えてくるものは分かります。『印刷機』です。ですけどここにある『印刷機』は全て『プリンター』って名前が書いてあって、何が違うのか分かりません。色合いでしょうか?
その次に目に入ってきたのは、執務室で提督が使っていたのをチラッと見ただけですが、パソコンです。『スマートフォン』と同じで何か分かりませんが、取りあえずすごいものだっていうのは分かります。
そして私の目当てのものが見えてきました。『ボイスレコーダー』です。その商品名から察するにそのままの意味でしょう。声を記録するものです。私は物を眺めてどれがいいか吟味し始めました。長時間録音できるものか、ポケットに入って且つ薄いものか......。
うーんと唸っているとまた声を掛けられました。
「何かお困りですか?」
そう言って声を掛けてきたのはさっきの大山さんでした。
「いえ......どれにしようかなと思いマシテ。」
本心だが、本当にどれにすればいいのか分かりません。まぁ私もどう使うかとか決めてないっていうか、使う場面はいっぱいありますからね。
「なら一緒に選びますよ?......お客様は何にお使いになるのですか?」
そう訊かれて私は唸りながら答えました。
「そうデスネー......言質を取ったりダトカ。」
「言質っ?!」
「部屋に置いておいたりダトカ。」
「それって盗聴?!」
「まぁ、情報収集ですカネ?」
何を驚いていたのか分かりませんが、そういうことができるものを欲しているのには変わりませんので。一緒に選んでくれるということなので偽っても仕方ないです。
「うーん?もしかしてお客さんって警察の方ですか?」
「エッ?!違いマスヨ?」
警察って門兵さんの原隊ですよね(※盛大に勘違いしてます)?、私は違います。
「じゃあアブナイ仕事をしてる方なんですか?」
危ないって(※再び盛大に勘違いしてます)確かに、危ないことしてますけど(※戦争の事です)危ない事にボイスレコーダーなんて使うんでしょうか?
「まぁ......そうなりマスネ。」
そう私が言うと大山さんは目を輝かせました。
「凄いですねっ!企業スパイですか?!女性スパイってカッコいいなぁ......。」
そう言ってるますけど、半分くらい何言ってるのか分かりませんね。ですけど、私はスパイじゃありません。
「スパイって......私、スパイじゃありませんヨ?」
「えっ?じゃあ何ですか?」
そう訊いてくる大山さんに私は言えるだけの事を言いました。
「ある人の為に、成すことがあってそのために必要なのデス。」
そう言うと大山さんは『そうなんですね』と言って真面目に探し始めてくれました。
「お客様?」
「何デスカ?」
あれこれと手に取って見ていると大山さんが声を掛けてきました。
「これなんてどうですか?薄くて小型、軽量です。」
そう言って大山さんが見せてくれたのは未使用の消しゴムくらいの大きさのボイスレコーダーだった。
「ある人の為に危険な橋を渡ったりするのでしょう?ならば相手にバレない大きさの方が良いと思いまして。」
そう言って大山さんは私の手のひらにそれを置きました。確かに軽量で、小さい。いつもの改造巫女服の袖に居れてても何ら違和感がありません。
「どれくらい持ちますカ?」
「うーんと......8時間ですね。」
「十分デス。」
私は大山さんにそのボイスレコーダー新品が入った箱を受け取ると、次の売り場を探し始めました。後で纏めて会計すればいいでしょうし。
次の目当ては『カメラ』ですね。
と言っても唯のカメラではありません。鎮守府でもあちこちに設置されている『防犯カメラ』という奴です。私が求める昨日は暗視機能と、モニターに繋げれるかですかね。モニターはこの後適当に選んで買いますが取りあえず『防犯カメラ』というか、『監視カメラ』的なものを探します。
カメラコーナーは基本的にデジカメやら一眼レフっていった酒保でも見掛けるものばかりでしたが、私が探しているものはある区画にありました。
「ありましたネー。」
誰も周りに居ないのでそう呟いてぐるりと見まわしました。色々なタイプがあるみたいで、小さいものや本格的なものまで色々と取り揃えていて、予想以上に色々ありました。
「ウーン......色々ありますネー。」
そう言ってあれこれと見ていると、やはり誰かは声を掛けてくるみたいです。
「お困りですか?」
今度は女性の店員さんが声を掛けてきました。
「お困りと言うか、モニターに繋げれるのは無いかなと思いマシテ。」
そう私が説明すると分かったみたいなのか、私が見まわしていた棚から1つだけ引っ張り出してきた。
「これなんてどうですか?見たところお客様はまだお若い様で、備えて設置されるのでしたらこれがよろしいかと。」
そう言って店員さんが見せてきたのは私的には無いかなって思ったものでした。だって、そのカメラ室内用じゃないですか。
「イエ......屋外につけるのでそれはチョット......。」
そう私が言うと店員さんは箱を元に戻して考え始めました。そしてすぐに私に質問してきたのです。
「用途は......やはり防犯ですか?」
「防犯......言い得て間違ってマセンガ、そんな感じデス。設置場所は屋外デスネ。雨と潮に強いのをお願いシマス。」
そう私が言うと、店員さんは首を傾げました。
「雨なら分かりますが、潮ですか?潮って海の?」
「ハイ。」
私がそう答えると店員さんは『この辺なら大丈夫だと思いますよ』と言ってくれました。そこで私は暗視機能のあるのを探して、手に取りました。
「これはモニターに直接繋げれマスカ?」
「はい。付属のケーブルで直接繋げる事が出来ます。」
そう答えてくれたので私は防犯カメラの売り場から少し離れて、さっき通り過ぎた時に見つけた『小型カメラ』を見始めました。これは使えるかもしれない、私はそう思って1つ手に取って見ました。それは実物大のレプリカの用ですが、さっきボイスレコーダーで見たものとほぼ同じサイズでしたのでこれは使えると思い、小型カメラのコーナーを見て回って一番小さいものを手に取りました。
これでモニターを適当に選んで、一応家電屋での私の目的は達成です。
「合計で○○○○○円になります。」
そう会計の人が言うので少しギョッとしましたが、お財布から万札を数枚出してお釣りをもらい、家電屋を出ました。
私の片手には中々に大きい紙袋が下げられており、モニターに関しては後で取りに来ると伝えておきました。配送してくれると言われましたが、場所が場所です。バレたら一巻の終わりですからね。重くても自分で運びます。
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一度荷物を置きに入口に戻り、地下の部屋に戻ってから荷物を置いて、また上がると、モニターを受け取りに更に家電屋に戻って、また鎮守府に戻ってをしました。モニターは重たく、運ぶのに苦労しましたが、これも目的の為です。頑張って運び、今度はホームセンターに行きます。
ホームセンターでは足りなくなった造花とスコップ、塩ビ管やら色々と買い、入り口から地下の部屋に持ち帰りました。
用途はですね、造花は監視カメラの偽装に使います。スコップと塩ビ管ですが、水を通したり、トンネルの側面に溝を掘って入口から入ってくる水を誘導して排水します。排水するところはですね、適当に大きな穴を掘ってそこに溜めましょうか。そのためにスコップを買ったんですからね。
「サテ。買い物も終わったことダシ、着替えて戻りマスネ。妖精さんたちも組み立てありがとうございマシタ。」
「「「「「どういたしましてー。」」」」」
私は何時もの改造巫女服に着替えると、私服は地下の部屋の机の上に畳んで置いて鎮守府の敷地内の穴から出ました。
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私が何故こんな事を始めたかまだ言ってませんでしたね。
始めたのは、鎮守府に進水して数日経った時の事です。私たちは元の記憶に『提督が居た場合、その提督は異世界の人間だ。』という事は知っていました。それに関しては誰もが知っている事です。暇な時、ふとその事を考え始めました。提督が異世界からの人間だって言うことは知っています。ですけど、何故この世界から元々生きている人間が提督をやらないのかという疑問が頭に張り付きました。建造後の鎮守府の案内の時に、案内してくれた白雪が言ってました。『今の鎮守府の体制は、初めてこの世界に現れた艦娘たちが人間と決めた取り決めです。ですけど途中で人間の良いように書き換えられてしまいました。』と。誰もが聞かされることで、勿論白雪も聞いたそうですが他の艦娘はこれを訊いて人間に憎悪を抱くと白雪は言いましたが、私は違ったんです。『書き換えられて、その結果異世界の人間が提督になるのか。』と。
その時はそれを考えること自体、タブーだと思ってましたが、日に日にその考えが頭の中を駆け巡り、私の思考をそこに押し止めてしまっていたんです。そして、遂にその事を考え出した結果、行き着いた答えは『異世界の人間だったなら、提督は望まない意思でここに存在しているのではないか。』と。
だから始めたんです。
私は今、提督に指揮を頼み、提督の指揮の下で海域を奪回していますが、機を見計らって私はこの鎮守府から提督を連れて逃げ出すことを計画しています。それは望まれない事だと言うのは分かっています。ですけど、提督が自分の意思とは無関係な事に巻き込まれていく姿は見てられないんです。ですけどそれだけでは私はこのような事を始めるまでには至らなかったんです。
私を突き動かしたのは『近衛艦隊』、事実上壊滅したと言ってもいい非正規艦隊での出来事。
艦娘の間では『提督への執着』が強い艦娘で構成され、提督に降りかかるもの全てを敵とみなし、排除するというような話が噂されていますが、まぁそれも間違ってはいません。実際、提督に降りかかるものは提督の望まない意思で起き、無関係な事ばかりでしたからね。本当の『近衛艦隊』は......
「提督を終戦まで守り続け、提督の世界へ返す。」
これを目的としていました。ですけど、事実上の活動は全て提督の身辺警護でした。『近衛艦隊』が壊滅した今、私がしなければならない事は、私個人の力で提督を生き長らえさせ、深海棲艦を殲滅し、提督のいた世界へ返す事です。
今はそれを目的としていますが、何か足りないというか分からないような気がしてならないんです。ですけど、何が分からないのかすら分からない。ですからこうやって思いつく限りのことを始めているに過ぎないんです。
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本部棟に入った私は何時もの様に提督の顔を見に執務室に向かいます。
最近は霧島が居ますし、人当たりの良い赤城も居ますから行きやすいんですよね。これまではローテーションで秘書艦が決まってましたが、提督が出した戦闘停止がこうも良いように働いてよかったと思います。
今日も提督に会って、話をするんです。私の考える足りないものを見つける為に......。
「ヘーイッ!提督ぅー!!ティータイムしヨー!!」
私はそう言って執務室の扉を開きました。
ぬおぉぉぉぉぉ!!!
第一話が投稿されてから長らく見て下さってる読者様ならお分かりになると思いますが、始めた当初は、こんなシリアス満載のものにする予定はなかったんですよっ!(怒)
何故こうなってしまつた......自分の魂が『シリアスにしろ~シリアスにしろ~』と訴えてきて、それに従ってしまったのか?!
と言うのが、最近の悩みでございます。
いや、本当に初期から読んでくださってる方々も多分思ってると思いますけどね......。
もう軌道修正は出来ないので、このまま取りあえず第一章を完結させないといけませんね。
ご意見ご感想お待ちしてます。