狩人闘恋万華鏡〜迅竜の恋情と覇竜の傷跡〜   作:ドーントレス

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第37話「とある師」

sideハンゾウ

 

「懐かしいな…ここもあんまり変わってねぇのな。安心したってか…時間が巻き戻ったみてぇでなんか違和感あるわ」

「んだともハンゾウ、おめぇさ居なくなってからもう数年は経っちょるけ、全くって事はなかよ?」

 

ビートとの喧嘩の後、俺たちはその先にある小屋にやって来た。

ロックは先にこの小屋の主人に挨拶と許可をもらいに行った。

俺も行くっつったら「おめぇさ行ってびっくりさせてまともに話できんかったらどうすん?」って押し返されちまった。

まぁ、俺の話す段取りをつけてくれるらしいから任せることにした。

 

どういうわけか竜車に戻った俺を見た途端に気を失ったローザは、昔俺が使っていた二階の部屋に寝かせて来たから大丈夫だとは思う。

粥も作ってセニアに持ってってもらったし…マツバは……いいか。

 

 

よし

 

 

俺はよくわからん覚悟を決め、一階のリビングと廊下を隔てる扉を開けはなつ。

 

 

そこには

 

 

 

「は、はんちゃん…?」

「…お久しぶりです、ナナリーさん。お変わりないようで」

 

俺の恩師の奥さん、ナナリーさんが座っていた。

華奢で蒼い髪に良く生える白い肌をした可憐な美熟女は、とても…とても弱々しくとても柔らかく…そしてとても小さく見えた。

 

「え…えぇ、はんちゃんもね……でも、どうして?」

「近くに用事がありまして、恥ずかしながら宿なしの身でしてね。一晩か二晩ほどここに泊めていただければと」

「えぇ、えぇ!かまわないわ!そうだ!ならきょうは、はんちゃんのだいこうぶついっぱいつくっちゃおうかしら」

「っ…く、ははは!ありがとうございます」

 

訂正しなきゃなんねぇな。

この人は決して弱々しくなんかねぇ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう…

 

夫がいなくなったって

 

膝から下が無くたって

 

この人は…前を向いて生きている

 

 

 

 

俺は食事の準備を手伝いながら今までのことをナナリーさんとロックに聞かせた。

今のパーティのこと、空賊とのこと、海を叩き割ったこと、黒龍を討伐するためにここに来たこと…その一つ一つをしっかりと聞いて、驚いたり共感してくれるナナリーさんの暖かさに触れるたびに、俺の心がほぐされ溶かされていくような感覚に時折、涙が込み上げて来たりもした。

 

「でもね、はんちゃん…び〜とくんとけんかしたのはよくないよ?カトルだっていってたでしょ?」

「えぇ…そこは、兄弟子として反省してます…」

「もぉ〜、これからは、ぜったいきんしだからねぇ〜?」

 

この人は…昔から全てにおいてイントネーションが微妙に違う(おかしい)んだが、なぜだか…『恩師』を呼ぶその声だけは、いつもしっかりしている。

 

「…ナナリーさん、あの…」

「ん〜?なぁに?あとその『ナナリーさん』っていうのをやめたらぁ?むかしみたいに、よびすてでかまわないわよ?」

「ははっ、もう俺も子供じゃありませんので。あの…ここに墓があるって聞いたんですが…」

 

ナナリーさんは一瞬驚いたような顔をすると、悲しいような懐かしむような曖昧な表情を浮かべると「えぇ、かたちだけだけど」と静かに返してくれた。

俺は一通り食事の準備を終え、裏庭へと向かった。

この家に墓が建てられるとこなんて、ここしかないからな…

 

ロックとナナリーさんの言っていた通り、裏庭に墓が二つ(・・)建てられていた。

俺は一つの墓の前に立ち、ずっと俺の肩(ってか、ほぼ首か?割とどうでもいい)にかけていた『緋色のマント』をかけてやる。

 

「ここは寒そうだな。…カトル……俺は…俺はあん時のことを、あんまりよく覚えちゃぁいねぇんだ…薄情だとか恩師殺しのクソ弟子だとか、思ってくれても構いはしねぇ。だが、約束だけは……もっかいあんたに会ったらって約束だけは覚えてる。

だから…こいつは返す。そしていつかあんたを超えてみせる。そして必ずここに帰ってくる。

そん時までゆっくり昼寝でもしてろやバカ師匠…」

 

そして俺は徐に兜を外す。久方ぶりに外気に直で触れる肌の震えを押さえ込みつつ、既に供えてあった冷え切った杯を飲み干す。

その杯に懐から1合分の酒瓶を取り出し、なみなみと注いで元の場所に戻す。

そのまま体を斜め45度に向け、もう一つの墓に向かい合う。

 

「…あんたも、いなくなっちまったんだなぁ…結局あんたの本気、見れずじまいたぁちょいと口惜しいぜ…あんたとはいずれ何処かで会うかも知れねぇが、そんときゃ覚悟してくれよ?俺の前に立ちはだかる壁はどんなんだろうとぶっ壊して進むだけだからよぉ…」

刹那

「…次に会うとき、か。お前はテオさんまでも殺す気なんだな?」

「……」

 

背中から突き刺さるような視線と、冷たく責めたてるような言葉が同時にぶつかり、俺は兜を被り振り返る。

 

「よぉ、気分はどうだぁ?ビート(・・・)?」

「誰かさんにボッコボコに潰された所為で立ってるだけで身体中超ぉ痛ぇよ」

「なぁんだ、元気そうだなぁ?そんじゃぁもっかいボッコボコにしておくか?」

 

俺がからかうとビートは「はんっ」と息を吐いて外方向きやがった。

それからちょっと間を空けて

「…なんで俺を殺さなかったんだよ…」

とかほざいてきやがった。

 

「なぁんだそんなことか。そんなん、お前さんが先に言い出したんじゃぁねぇかよ」

「…?」

「俺のこたぁ、もう兄弟子として見てくんねぇんだろ?なぁら、ありゃぁ『俺たちの』喧嘩じゃぁねぇ。ただのハンター同士の野良喧嘩(お遊び)よ。

そんな野良喧嘩(お遊び)で殺すまでやる必要ないだろ?」

「…俺を生かしておいても、あんたにはなんの得にもなんねぇぞ?」

 

その言葉が俺の耳から入って脳みそで理解した瞬間、突然の懐かしさとある記憶の一部分が俺の中でフラッシュバックした

 

『なぁ、おい…なんで俺を助けたりしたんだよ…俺なんかを生かしておいても……あんたには…なんの得にも…』

『、、、い、いや、それ、は、、違うよ、、、、ハンゾウ。君は、、、もう、僕の、、僕らの、家族だ。家族に、生きて、、いて、欲しいなん、て、、当たり前、、だろ?』

『カトル…』

『ハン、ゾウ、、生き、、、ろ、生きて、、また、会う時、、、、まで、これを、』

『カトル…もう、いい……あんたの気持ち…今になって分かった気がするぜ…だから…もう』

『ああ、、、頼、むよ、、ハンゾウ、、、僕ら、の、、、、家族、を』

 

俺と師匠の最後の会話…

俺の覚えてる一番古い記憶(傷跡)

これ以上前のことは…覚えてるような覚えてないような…いっぺんローザか誰かに聞かせた気もするし、多分覚えてんだろ。

だがそれがNOWではないってだけだ。

 

俺は改めてビートの方へと視線を向ける。

見るだけで痛々しい(ま、俺がやったんだが)包帯を巻き、だが決して装備を脱がないビートの表情は、顔をすっぽりと覆うフルフェイスに阻まれ見ることこそ出来ないが…目はしっかりと俺を見据えている。

俺の存在を、ここにいる俺を見止めてくれている。

 

それだけで十分だ。

 

 

「そいつは……」

 

 

そうだろ?…カトル

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

sideソル

 

祖龍の説得が失敗し既に数日…

俺は単独でヴァリアライトへと向かった。

セイラ曰く

 

『こっからはスピード勝負になりそうだし、ソルはハンゾウ達がいるヴァリアライトへ向かって。ルナは私と別のお仕事があるから、悪いけど頼むわよ』

 

とのことだ。

何故ハンゾウ達がヴァリアライト近辺にいるのか、何故俺が単独なのか等の疑問は持つであろうが、後に分かることなのでここでは割愛させてもらう。

 

『おい!命が欲しけりゃ金と食料置いてきな!』

『リオレウスの希少種装備とは、金になりそうだ!装備も全部置いてきな!』

 

しかし、まさかあの女(セイラ)…【秘伝書】のことまで知っていたとは…ただ者ではないとは思っていたが、ますます怪しいな…

 

『おい!聞いてんのかゴラァ!!!」

『無視してんじゃねぇ、ぞ…」

 

「…煩い。ハエども、去勢されたくなければ大人しくしていろ…殺すぞ?」

 

なにやら煩く辺りを騒ぎ散らしていた山賊(ハエ)どもをハンターナイフ(×6本)で鎮め、先を急ぐ。

 

この程度の山を後3つほど越えればヴァリアライトに着くはずだ…さて

 

「…次から次へと…鬱陶しいったらないな」

『グキャオオオオオォォォオ!!!』

 

どうやら、今晩のメインは【火竜のもも肉ウルトラグレート焼き】で決まりらしい。

 




そろそろ最終章へ突入します。

それでは、次回もお楽しみに〜
感想もよろしくですぅ〜

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