元々漫画のネームとして描いていたもので、途中までセリフとト書き形式で進んで、途中からナレーション方式にだんだんシフトしていきます。

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夢を、取り戻せ

某高等学校校舎。

斎(いつき)、小野屋(おのや)の机の前に立つ。

斎「小野屋さん、お昼一緒に食べようぜ。」

小野屋「え!?え、あ・・・」

小野屋、顔を真っ赤にして言葉を詰まらせる。

斎「どうした?なんで顔真っ赤にしてんだよ。いつものことじゃんか。」

小野屋「う、ううん、ごめん、そうだよね。い、行こっか。」

小野屋と斎、手をつないで教室を後にする。他の生徒がヒソヒソ話し始める。

「ねえ、あの二人って付き合い始めたの?」「知らない。でも斎は前から付き合ってる風だったよ?」「そんな噂あった?あたし知らないけど…」

屋上に場所が移る。

小野屋「あの、お弁当…作ってきたんだけど…」

小野屋は弁当を渡そうとするが、斎の手には自分の弁当が握られている。

小野屋「あっごめん、なんでもない!」

小野屋は弁当をカバンに戻そうとするが、斎はそれを取り上げる。

斎「まじ?俺の分も用意してくれたんだ、嬉し~!そうだ、俺の持ってきた弁当、よかったら食べる?」

小野屋「え…いいの?」

斎「もちろん!そうしたら、俺も小野屋さんのために何かしてあげた気分になれるし。」

そういいながら、斎は受け取った弁当のふたを開ける。

斎「わ、美味しそう!」

小野屋も弁当のふたを開ける。

小野屋「わぁ…すごい、美味しそう…お母さん、料理上手なんだね!」

斎「ん?ふっふふ…それね、俺が作ったの。」

小野屋「えっ」

斎「親が共働きだからさ、結構自分で料理してるんだよね俺。家事とか結構得意なんだ。」

小野屋は戸惑った顔でうつむいている。

斎「小野屋さん?」

小野屋「えっ!?な、なに?」

斎「どうかしたの、顔色悪いよ?」

小野屋「そん…なことないよ!あ、ねえねえそれよりさ…」

場面が変わる。宙に浮く二つの球体の一つに、斎が貼り付けられている。気を失ったようにうつむく斎の顔を小野屋が見つめている。

 

昔から、人の輪に入ることができなかった。段々と孤立し、一人で過ごすことが多くなった。しかし、体育のバスケの際。友人から“この中で試合で最初にシュート決めたやつに皆で奢り”という賭けに参加させられてしまった斎は、一か八か、孤立してマークもつかない小野屋に目を付けた。“試合中、俺のことを見ているように。パスを出すから、返してくれ”と。自分が気に入られていると錯覚した小野屋は、それ以来無意識に斎の視界に入るようにしていた。そして、それを“斎が自分を見ている。好いている。”と錯覚したのだった。

小野屋「そんなのだめ。一人でも生きていけるなんて認めてあげない。貴方はそのやさしさがあればいいの。斎は私がいないと生きていけない人なの。ご飯も作ってあげる。服だって買ってあげる。何でもしてあげるよ?だから…」

斎の張り付いていない方の球体の一部がシミのように色が変わっていく。その時、小野屋の手が何かに弾かれて、球体の変色がそこで止まる。周りの景色が変貌を始め、SLや蒸気自動車が走り始め、謎の人物、ユウが背中にマジンガーZのような羽を付けて現れる。

ユウ「なるほどね、空を飛べる世界に魔法を使える世界…世代がばれちゃいそうだな」

小野屋「誰?」

小野屋がユウに向かって光の矢を放つ。ユウは躱すが、矢はユウを追いかけ続ける。

ユウ「問答無用かよ、危ない奴だなぁ」

ユウは矢から逃げながらも、小野屋に向けて攻撃する。小野屋は躱すが、斎から離れたその一瞬をついて、ユウは斎を球体からはがし、盾にした。

小野屋「あ、だめ!」

矢は消える。

小野屋「斎を盾にするなんて…許せない!」

周りの景色が禍々しく歪んでいく。しっかり細部まで作りこんでいない証拠、少しのゆさぶりでこちらの有利に持っていけるが、今の小野屋の精神状態では、長居をすればお互いに悪影響を受けかねない。

ユウ「残念、逃げ道は用意してあるんだ。」

小野屋の意識がユウの言葉に影響を受け、ユウは背後にできた穴にすかさず滑り込んだ。

 

斎は、ビルの屋上に立っていた。屋上から飛び出すと、斎は鳥に姿を変えた。夜の闇の中、ビルの谷を駆けてゆく。

 

朝、小野屋が斎の家のチャイムを鳴らす。

斎「ああ、小野屋さん少し待っててくれるかな。」

小野屋「斎くん、どうしたのこの臭い…」

斎「卵焼き焦がしちゃってさ…」

小野屋「もぉ斎君、料理は苦手なんだから私に任せてって言ったのに。手伝ってあげるよ。」

小野屋が家に上がり込む。

斎「ああ、悪いね。いつもどうやって作ってたのかわからなくなってさ…」

小野屋「っやだな斎君、ご飯はいつも私が作ってあげてたじゃん」

斎「そ…う…だったね、うん。いや、小野屋さんの卵焼き、自分でも作れないかなと思ってさ。」

小野屋「そんなの、頼んでくれたらいつでも作ってあげるよ!ハイこれ、斎のお弁当!」

 

授業中、居眠りをする斎。それを見て、自分も眠りに落ちようとうずくまる小野屋。

先生「おい斎ぃ‼今俺の言ったこともう一度言ってみろ‼」

斎「へっ!?ええと………あ、河童!」

先生「いや、確かに言ってたけどな…」

教室が笑いに包まれる中、教師を睨み付ける小野屋。

昼になり、カバンから弁当を出す斎。

友達A「お前偉いよなぁ。いつも自分で作ってんだろ?弁当。」

斎「ん?いやいや、小野屋さんにいつも作ってもらってるよ。」

友達B「あれ、そうなんだ。お前調理実習とか得意なのにな?」

斎「え…?そうだったっけ?」

A「『そうだったっけ』って…お前いつも班で仕切ってるじゃんか。大概一番早く作り終えるのお前の班だし。…あれ、どうした?」

斎「なんか、頭痛い…」

小野屋「大丈夫!?」

斎「ん…大丈夫。多分…」

小野屋「ご飯、一緒に食べようよ。屋上で外の空気吸ったらすっきりするかも!」

小野屋がAとBを睨み付けながら、斎を連れて教室を後にする。

B「なんだあいつ…」

斎と屋上に向かいながら、クラスのみんなへの対処を考える小野屋。このままじゃダメだ。周りのみんなの質問で斎の記憶が戻ってしまうかもしれない。みんなの記憶を書き換えなきゃ。斎に関わる人、全員の…

 

場所変わり、どこかの部署。

ユウ「まだ夢で動くことに慣れていないようです。しかし、彼女の今後の行動を予測する限りでは、急いだ方がいいと思われます。」

上司「君はどう予測したのかね。」

ユウ「彼…田形(たがた) 斎(いつき)の記憶改変に対する地盤固め。親を含む親族やクラスの人間、さらには過去に彼に接触した人物に至るまで記憶に干渉しようとする。当然、どこかで失敗し、そこから新たな犯罪者を出すことにもなりかねない。まだ、田形 斎の精神の一部が彼女の手元にある以上は、身柄を押さえるのもそれを田形 斎に返してからです。」

上司「そんなとこだろうな。行きなさい。」

ユウは、暗い、アロマの焚かれた部屋に向かう。担当の「催眠員」に軽く会釈し、専用のベッドに横たわる。

目を閉じて暫くすると、いつもの仕事場にいた。幼い頃によく見た、19世紀のイギリスを舞台にした探偵ドラマのような場所。ユウの姿は、性別も年齢も不詳な姿になっていた。ロングコートの内ポケットから端末を取り出した。自分がいま必要な情報が何でも入ってくる端末。相手の気持ち。家族構成。何日前に何回トイレに入ったか。通勤途中に寄り道した回数――無論、今は必要のない情報だが。そして、小野屋(おのや) 愛(あい)薇(び)がいま夢の中にいるかどうか。ユウは歩きながらタイミングを待つ。まだ彼女は眠っていない。まだ、まだ…

端末のLEDが灯る。今だ。ユウは横にあった扉を勢いよく開けた。

 

小野屋が降り立ったのは、街中だった。中世ヨーロッパのような建物や、原宿、渋谷のおしゃれな建物などが乱立している。人は誰もいない。看板や大型ビジョンは斎で埋め尽くされている。街の中心には球体が浮いている。彼女の精神の、夢の世界の核を成すものだ。その隣に、小さな球体。先日やっと手に入れた、斎の精神核の一部だ。まだ、斎を完全に自分のものにし切れていない。急がなきゃ…

誰かが、小野屋の夢に入り込んできた。きっと、先日も現れた邪魔者だ。守らなければ、私の斎を。

 

斎は、数学の宿題を終えた。眠ろうとベッドを見て、たじろいだ。何か、自分の中の何かが、警告を上げている。眠りにつくのは危ないと。しかしこみ上げる眠気には勝てず、斎は眠りにつく。気が付くと、斎は二人に挟まれていた。小野屋と見知らぬ…男?女?

小野屋「斎!」

名前を呼んで駆け寄ろうとする小野屋よりも、目の前に出現した斎を見てその場から斎に飛びついたユウの方が速かった。

斎「小野屋さん!?」

斎がそう叫んだ時、ユウはその勢いのまま翼を広げ、空へ逃げていた。

小野屋「貴様あああああああああああ!!!!!!!」

建物という建物から、ユウに向かって無数の腕が伸びていく。すべて小野屋の腕、独占欲から生まれるビジョンだ。小野屋に揺さぶりをかける暇もなく、ユウは右へ左へ逃げ回る。まどろっこしくなった小野屋は自らも宙を舞いユウを追いかけようとしたが、その結果無数の腕たちの動きは緩慢になった。すかさず、ユウは地面に向かって急降下した。人間の脳は生きている限り、“死”の感覚を再現できない。地面に触れる瞬間、ユウと斎は姿を消した。夢の中に一人残された小野屋の顔はこれ以上ない怒りで歪んでいた。

 

 夢から覚める瞬間をうまく利用することで、改めて相手を自分の夢に落とすことができる。何度か経験しているユウには慣れたものだった。斎の居場所も、この世界の“ルール”なら見つけるのは容易い。ユウは交通手段を省略し、斎のもとへ向かった。

 

 馬車が飛んでいる。引っ張っているのはペガサスだ。SLも空を走っている。ハリーポッターでも居そうな雰囲気だ。そんなことを斎が考えていると、突然後ろから声がかかった。

ユウ「ふう、やっと話ができる。」

斎「え?」

ユウ「立ち話もなんだ、そこに入ろう。」

ユウが指さした方の喫茶店に入る。

ユウ「いい街だろう?」

斎「…」

斎は状況を飲み込めていない様子でキョロキョロしている。

ユウ「シャーロックホームズくらいの街並みが好きでね、僕のその世界に君の空を飛べる世界が合わさるとこうなる。」

斎「?」

斎には明かさないが、この世界にいる間は皆、所持している端末で正に“全て”を知ることができる。斎は“世界”を作るときに具体的なビジョンが形成されなかったため、ユウの持つ世界観をそのままに、“空を飛ぶ”というビジョンを共有している。

ユウ「君はここのところ、空を飛ぶ夢を見ていたんじゃないか?」

斎「!…は、はい…」

ユウ「それ以前に、小野屋 愛薇と何か話さなかったかい?」

斎「何か…」

ユウ「夢の世界を一定にする方法はいくつかある。催眠状態のところに、他者が世界観を口頭で伝える方法。それか、会話の中で相手の望む世界観を引き出させる方法。もしも後者で夢の世界を作った場合は、会話した相手と夢を共有しやすくなる。何か思い出せないか?学校で小野屋に話しかけられたとか…」

ユウの持つ端末に届く情報は、“記憶”ではなく“情報”だ。例えその時の記憶が小野屋によって消されていても、その事実はしっかり伝わる。ユウは、小野屋が斎との会話によって世界を形成したことは把握済みだった。

斎「あ!そういえば学校でそんな話をしたような…ここは夢!?」

 慣れている者ならそういった記憶は最優先で消す。小野屋が夢の世界に慣れていない証拠だ。

ユウ「さて、本題だ。君はいつから小野屋と付き合っている?」

斎「?いつって、前から…」

ユウ「いつから?」

斎「……わかりません…」

ユウ「君の記憶は今、小野屋によって書き変えられている。」

斎「……は?」

ユウ「君と小野屋が付き合い始めたのは、ほんの数日前だ。細かいところの記憶が曖昧なのはその証拠だ。友達との会話にも支障をきたすほどにね。」

斎「ちょ、ちょっと待ってください!俺、ほんとにあいつのこと好きなんですよ?こんな気持ちまで作れますか!?」

ユウ「彼女は君の精神にも手を加えている。彼女は精神に関しての知識はまるで乏しい。下手ないじり方をすれば君を廃人にしかねない。」

斎「あ…あんた誰なんですか!何の権利があって人の夢に入って…小野屋さんを悪く言って!」

ユウ「警察の『スリーパー』。夢に入り込む技術を利用する犯罪者を追跡している。今みたいにね。」

斎「そんな犯罪があるんですか…?」

ユウ「元々は精神患者のカウンセリングのために考案された技術だった。患者と医者の会話でお互いの夢を共有し、医者が患者の精神を治癒した後、悪用されないように患者から“世界”の記憶を消すのが決まりだった。だが、どこかから噂が広まった。オカルトマニア、裏社会の人間なんかに広まり、やがて警察にも対策本部が建てられた。」

ユウはコーヒーを一口、口に含む。

ユウ「この件が終わったら、再発防止のために君たちの夢の世界と、互いの恋愛感情を消させてもらう。君は元に戻るだけだが、彼女は犯罪者だからな。早くしないと被害が拡大する恐れもある。」

斎「な…違う!小野屋さんはそんな人じゃない!」

ユウ「彼女は君を愛している。」

斎「え…」

ユウ「だけど、病的なほどに。君も勘付いてはいるんじゃないか?」

斎「…」

ユウ「彼女が君に施した記憶の改変は完璧じゃない。周りとの会話で矛盾が生じることで記憶が戻る可能性がある。」

斎「…!!被害の拡大…」

ユウ「そう。…!」

斎「!?何、今の感じ…」

ユウ「小野屋 愛薇が侵入してきた。」

斎「え…!」

ユウ「君の精神の一部は彼女の管理下にある。君がまだ夢の中にいることを察知したんだろう。」

ユウが店から出ていこうとする。

斎「待って!」

ユウ「君が見つかったらまずいからここにいて。少しは安全なはずだから。」

精神核は本来球体だが、慣れている者なら何かほかのオブジェクトに擬態させておく。この喫茶店が、ユウの精神核そのものだ。

 先程までいた小野屋の世界とは、がらりと変貌していた。建物も、空も、色彩も、禍々しく揺らめいて留まらない。気を抜けばすぐにユウの精神がやられてしまいそうだった。

遠方にとらえた小野屋の姿は、何とも形容しがたい衣装に覆われていた。

小野屋「ああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

小野屋はユウを見ると、声にならない雄叫びを上げて襲い掛かった。

 

許さない。私から斎を奪おうとしている。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。

 

世界の形成すら廃し攻撃に集中する小野屋の速度は尋常なものではない。ユウは回避もままならなかった。このままでは、いずれは精神核に到達し、斎を奪い返すついでにユウの精神も破壊するだろう。手も足も出ずどうすることもできないユウは、視界の端に喫茶店から出てきた斎を捉えた。喫茶店にいろといったのに。戻れ。早く。捕まったらおしまいなのに。

次の瞬間、斎は小野屋の背後にいた。先程ユウも使った、移動の省略。当然、斎はそんな技術は知らない。無意識の行動だった。

斎「小野屋さん」

斎の声に、小野屋は振り返る。

小野屋「斎!」

斎は、小野屋をおもむろに抱きしめた。突然の行動に、流石の小野屋も戸惑っていた。

斎「ありがとう小野屋さん、俺のことをこんなに愛してくれて。俺…思い出したんだ。」

小野屋はゾッとした。斎は何を思い出したというのか…

斎「俺ずっと不安だったんだ。親が共働きで顔を合わせない日も多くて、俺のことを愛してくれてるのか…ほんの数日間だったのかもしれないけど、小野屋さんと付き合って、思い出したんだ。“愛されてる”っていう感覚。父さんも母さんも、俺のことを愛してくれてるから、あんなに一生懸命仕事してるんだって…小野屋さんのおかげで思い出せた。」

小野屋「…そうだよ。お父さんとお母さんが忙しい今、斎に愛情を注いであげられるのは私だけなの。ねえお願い、私だけを見て…」

小野屋の瞳は揺れている。斎は、小野屋の肩越しにユウに目配せした。その瞳には、悲しい決意の色があった。ユウは、小野屋に気づかれないよう、そっとその場を離れる。

斎「ごめんね」

小野屋「えっ」

斎「小野屋さんの俺に対する思いに気づいてあげられなくて。いつからかわからなかったけど…俺のこと好きでいてくれたんだよね。なのにそのことずっと見過ごしてて…小野屋さんがこんなことをするきっかけを作ってしまった…」

小野屋「斎…心配しないで。すぐに全部済ませるから。私たちが一緒になるために必要なことは、全部私がしてあげるから…。」

擬態されていない精神核を見つけるのは容易だった。ユウは、作業に入り始める。

斎「もう十分伝わったよ…小野屋さんが俺のことを愛してくれてるだけで、俺、幸せだから…もう、無理しないで。ありがとう…ゴメンね…ゴメン…」

小野屋が、違和感に気づく。振り向き、作業をしているユウを視界にとらえる。ハッとして、もう一度斎を見た。時間を稼いだ…?

小野屋「どうして…!?」

小野屋は全速力でユウを止めようとするが、手遅れだった。途中で気を失ったように勢いを失い、やがてどこへも姿を消した。

ユウが作業をしていると、小野屋の精神核の隣に浮いていた斎の精神核の一部が姿を消した。元の場所に戻ったのだろう。そして、小野屋の夢の世界も消え始める。やがて、斎とユウだけの夢の世界に戻った。先程の場所に斎を迎えに行き、今度は斎の精神核の下へと向かう。

斎の目の前に、球体が浮かぶ。初めて見る、自分の精神。

ユウ「記憶を消す前に言っておくよ。助けられた、ありがとう。」

斎「愛薇は…どうなるんですか?」

ユウ「記憶を改変させてもらってから、隔離施設に移されてちゃんとした専門家によるケアが行われる。あの子の様子からすると、しばらく学校には戻らないだろうな。」

斎「名前…」

ユウ「え?」

斎「名前、まだ聞いてませんでしたね。」

ユウ「もうすぐ忘れるっていうのに律儀な奴だね。…ユウだ。」

斎「ユウさん…恩に思っているなら…」

ユウ「?」

斎「一つだけ、お願いしてもいいですか?」

 

 

 

 

木目を基調とし、机や本棚が並ぶシンプルな部屋に、ノックの音が響く。

看護師「小野屋さん、面会の方がお見えになりましたよ。」

小野屋「え…?」

誰も来ることはないと思っていた小野屋は驚く。

斎「えっと、小野屋さん、調子はどう…?」

照れた様子で斎が入ってくる。

小野屋「わざわざ来てくれたの…?」

斎「う、うん。様子が気になって…さ。」

小野屋「そう、なんだ。ありがと…」

西日が差し込む部屋には、甘酸っぱい雰囲気が漂っていた。

 

 

「『小野屋への恋愛感情だけ残してくれ』…か。」

 



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