花咲物語   作:小豆 涼
<< 前の話 次の話 >>

22 / 23
タイトルの方向性が行方不明


ステキなステッキとステーキ

どれくらい泣いていたのか。

記憶が曖昧で、その間誰か来たのか、来ていないのか。
それすらもわかりません。

ただただ、心を砕かれた思いです。

あんなに、楽しそうなのに。
あんなに、嬉しそうなのに。

あんなに…笑顔なのに。

どうして、平気な顔をするのか。
どうして、なにも教えてくれないのか。

どうして、心を押し殺しているのか。

わからない。
わかりません。

「戻りましたー…って楓さん!?ど、どど、どうしたんですか!?何かあったんですか!?」

普通、こんな反応をしますよね。
きっと、さっきまで誰も来ていなかったんですね。

「…泰葉ちゃん」

「ど、どうしたんですか?なにか、悲しいことでもありましたか?私でよければお聞きしますよ?」

ここに来たのが、泰葉ちゃんで良かったと思いました。

「…道端くんのことで」

「…妹さんがきてたみたいですから、まさかとは思いましたけど。聞いてしまったんですね」

「私は、怖いんです。彼が、あの楽しそうな顔の裏ではどんな顔をしているのか。もしかしたら苦痛に歪んで、元には戻らない顔なのかもしれないって思うと…もう」

「楓さん、咲は…」

「分かってるんです!!彼が、今の仕事を楽しんでいて、私たちといることに幸せを感じているんだろうなって言うのは!!!でも、それとは裏腹に、いつか、いつの日にか!この魔法がとけてしまったときに!!…彼の両脚が、果たして動くのかと。そう、思ってしまうんです」

半ば絶叫のような形で泰葉ちゃんに言葉をぶつけてしまいました。

…大人、失格ですね。

「そう、ですね。いつの日にか、咲がダメになってしまったり…するかもしれないですね」

はい…。

「でも、私は違います。たとえ、アイドルを卒業して一線を引いたとしても、私は咲に寄り添います。この、素敵な居場所をくれた咲に、ほんの少しでも恩を返していきたいですから…。楓さんは、違いますか?」

そう言われて、泰葉ちゃんの話を聞いて、頭に入れて。
ゆっくりと深呼吸をして。

やっと落ち着きました。

「…泰葉ちゃんったら、いつの間にそんなに大人になっちゃったのかしら。なんだか、自分が恥ずかしいわ。そうね、魔法が解けたなら、魔法をまたかけたらいいものね。そう、何度でも…」

「えへへ、私ももう18歳ですからね。いつまで子供のままじゃいられないんですよ!」

泰葉ちゃん…強いですね。
私は1人ではこんなふうに気を取り直すことは出来なかったと思います。

きっと、泰葉ちゃんは1人で立ち直ったんだなぁとおもうと、とてもじゃないですけど、18歳には思えないですね。

「でも、それじゃあ泰葉ちゃん…プロポーズみたいね」

「……っ!?」

顔を真っ赤にする泰葉ちゃん。
可愛らしいですね!

「あの…今言った事はくれぐれも内密に!」

そんなに可愛い顔をされたら、お姉さん意地悪したくなっちゃうなぁ~。

「どうしましょう~」

「か、楓さぁん!!」

そんな泰葉ちゃんの声を聞きながら、私は一つの覚悟を決めました。

ーーーーー

「…で、楓さん?話というのは?」

今日の営業を終えた道端くんが帰ってきました。

「とても…とても大切なお話があります。このあとお時間ありますか?」

今までにないほど、私は真剣な眼差しで訴えます。

「…わ、わかりました。大切な話なのであれば、ゆっくり話せる場所を用意しますね」

そう言って道端くんはスマホを取り出し、電話をかけました。

「もしもし、佳爺?あぁ、個室を一つ開けといてくれると助かる。うん、22時頃には。うん、ありがとう。じゃあね…。楓さん、とりあえず場所は確保しましたよ」

「その、佳爺さんというのは?」

ひとつ、気になったことを訪ねました。

「そうですね…タダの悪ガキだった俺をまともに育ててくれた人ですかね…ハハハ」

バツの悪そうな顔をして笑う道端くん。
今までなら、私も笑えたと思います。

ですが、あの話を聞いたあとだと、上手く笑顔を引き出せないでいます。

「あの…楓さん?気分でも優れないんですか??」

「いえ!?そんなことは無いですよ?それじゃあ行きましょう」

時刻は21時。
私は、彼の力になれるのでしょうか。

ーーーーー

「やぁ咲坊。また、綺麗なお嬢さんを連れてきたね」

辿りついたのは、オシャレなBARでした。

「そうだろう?まだまだ沢山いるんだけどね」

「はっはっはっ!咲坊、お前は本当に幸せ者だな」

「佳爺に幸せになる方法を教わったからさ」

そんな軽口を交わす2人。
きっと、このお爺さんが道端くんの人生に大きな影響を及ぼしたんだろうと言うことは、彼の笑顔を見ればわかります。

「それじゃあ、奥の部屋だ。花那枝、案内してやってくれ」

「はい。って、咲坊か」

「花那枝さん、お久しぶり」

花那枝さんと呼ばれた、私より少し年上な感じの女性。
この方も道端くんを咲坊と呼ぶことから、お爺さんとなにか関係のある方なのでしょうか?

「あぁ、紹介します。楓さん、この人は佳川花那枝さん。佳爺の娘さんだよ」

確かに、そう言われると目元や口元の優しそうなところが似ていますね。

「どうも、高垣楓です」

「えっ!?あの女優さんの!?」

どうやら、私のことを知っていたようでした。
やはり、少し恥ずかしいですね…。

「え、え!?咲坊、本当にプロデューサーやってたの!?」

「だから、本当だって言ったろ?まったく花那枝さんってば俺の言うこといっつも信用しないんだから…」

…なんだか、花那枝さんは道端くんの本当のお姉さんみたいです。
アイドルには見せない、その顔。
私達は、本当の意味で彼の顔を知らないんだな…と思ってしまいます。

「とりあえず、ジントニックで。楓さんは何飲みますか?」

「あぁ、じゃあ同じものを」

「それじゃあ、ジントニック2つね」

花那枝さんが戻っていきました。
道端くんは、上着を脱いで壁にかけます。

「はい、ジントニック。あとはごゆっくり」

ついに、運命の時が来ました。

「「乾杯」」

少しの沈黙。

「あの…実は」

「もしかして、杏から聞きました?」

心臓が跳ね上がりました。
図星をつかれた事もそうですが、何より。

何のことも無いかのように、さらっと。
まるで、世間話をするように。

「いやぁ、お恥ずかしです。杏には話すなって言っといたんですけどね」

あろう事か、ハハハっと笑いながら。

その表情が、声色が…。

私は気持ち悪かった。

「…うして…」

「えっ?」

「どうして、そんな顔するんですか?」

呆気に取られた道端君の顔。
目を点にするとはこの事ですね。

しかしきっと、今の私はひどい顔をしています。

「どうして、そんな平気な顔をするんですか?今にも、潰れてしまいそうなのに。今にも、壊れてしまいそうなのに」

ほかの誰にも見せられないほど、ひどい顔をしているでしょう。

「か、楓さ…」

「私は、君が怖いです」



涙が、止まらないんです。



ーーーーー






引き続き楓さん視点かと思いきや、つぎは道端くん視点だと思います。