オーバーロード二次「+α」   作:千野 敏行

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四話

 あとで全員に紹介するとモモンガに言われたものの、見知らぬのっぺらぼうの姿にアウラはこっそりと警戒する。武器も防具も身に着けている様子が無いが、無手の闘士である可能性がある限り安心はできない。なにせ強さは見た目では測れないのだから。

 目や口が無いなんて変なの、と水を飲む振りをしながら考える。目が無ければ見えないし、口が無ければ話せないし物を食べることも出来ない。つつ、と視線を滑らせて肩へ、腰へ、そして漂白されたように白い肌に浮かぶ赤い指輪に目が止まる。アウラらナザリックのNPCがそれを見間違えようはずもない――リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンだ。驚愕のあまり気管に水を入れてしまい、アウラは盛大に噎せた。

 

「だ、大丈夫? お姉ちゃん」

 

 マーレが背中を擦ってくれるが、アウラは自分の今までの行動がどれほど不敬なものだったかと血の気が引く思いだった。あののっぺらぼうは至高の方々の一人なのだ!

 しかし見覚えがない。一度でも会ったことがあれば彼女が誰なのか分っただろうに、いや、至高の御方々がアウラと会ってやる義務など全くないのだ。先ほどのすっきりとしたそれとは違う、脂汗がアウラの背中をじっとりと濡らしていく。

 やばい。アウラの頭の中にはこの言葉がぐるぐると回っていた。

 

 

 モモンガと第六階層の守護者らが和気藹々と話している横で、アッバルは目指せペットの可愛い蛇計画を練っていた。口が無いのは幸いだった、黙って立っていてもおかしくない。

 媚びに媚びるというのは無しだ。今までつかず離れず適当な距離感でいられたものを突然崩すのは危険だ。物事にはなにも適度というものがある――しかし、適度に媚びるというのはどの程度のことを言うのだろう。

 今までに読んだことのある男性向けR18漫画を思い返してみたアッバルだが、不細工なデブが特殊なフェロモンで美少女なクラスメイトや美人教師をメロメロにして(自主規制)という展開とか、義妹が「お義兄ちゃんが……好きなの」と恋愛に至る過程を飛ばして(自主規制)が開始される展開とか、クラスメイトの特殊性癖(M)を偶然知ったことで彼女に(自主規制)プレイを強要し最終的には(自主規制)な展開とか、そんな現実にはありそうもない物ばかりで、彼女の助けとなる知識は全くなかった。

 

 弱さを前面に出すというのはどうだろうか、と考える。弱いから守って欲しいの、きゅる~ん☆――アッバルには無理だ。「きゅる~ん☆」とは声に出して言うのか、それとも効果音なのかさえ分らない。いや、弱いアピールは駄目だ、邪魔なお荷物扱いされてしまう可能性がある。

 役に立てるとアピールするのはどうだろうか。役に立とうと努力する年下の女の子。アッバルの目に光明が見えた。戦闘スタイルもあって、アッバルの職業には錬金術師、薬師、狩人などがある。これらのどれか一つでも役立つと目されればアッバルの身は安全になるのではないだろうか。

 

「おや、わたしが一番でありんすか?」

 

 アッバルのノーマル耳に少女の声が届いた。視界が効かないため彼女には見ることができなかったが、もし視界があったなら大地から影が吹きあがり扉の形をとる様を見たことだろう。そこから現れたのは十代半ばになるかならないかといった年齢の少女で、ファッションに詳しくない者に説明するならばゴスロリに身を固めた美少女、とでも言うべきか。彼女こそシャルティア・ブラッドフォールン。サービス終了前、モモンガによるナザリック紹介時には転移でサックリ飛ばされた場所の守護NPCだ。

 シャルティアの鈴を転がすような甘い声にアッバルは「エロゲ声っぽい」という身も蓋もない感想を抱いた。だいたい合っている。

 

 ぼんやりと立っているアッバルなど視界にも入らなかったらしく、シャルティアはここ円形劇場へ来て早々アウラと口喧嘩を始める。途中「見せられないよ!」になだれ込みそうなエロティックな発言も挟みつつ、だんだんと年相応なガキの喧嘩に変わっていく。とはいえ骨人間ながら大人の体格を備えたモモンガだ、中学生くらいの女の子が色気たっぷりに抱きつき口説き文句を述べたところで、ト○ロに抱きつくサツキのような微笑ましさしかなかった。

 

 次に現れたのはコキュートス。冷気を友とする巨大な昆虫の足元から這い寄る冷風に、アッバルはぶるりと身を震わせた。ペットの可愛い蛇は変温動物ゆえ、寒さを感じると冬眠したくなってしまうのだ。思考が鈍化しうとうととし始めるアッバルだが、ゴマ鼻と耳しかない顔から眠気を察しろというのはどだい無理な話だ。誰もアッバルの眠気に気付いた様子が無い。

 だんだんとモモンガらの話声も遠く感じられるようになり、まさにアッバルが立ったまま眠らんとした時。騒々しかった声が止み、叩きつけるような威圧――害意はないが、アッバルの心胆を寒からしめるのには充分だ――がアッバルを襲った。対象はアッバルではなくその横に立つモモンガだが。

 

 シャルティア、コキュートス、アウラ、マーレ、いつここへ現れたのかもアッバルには分らないデミウルゴスにアルベド。彼らがモモンガへ捧げる忠誠心をすぐ横でビシバシと感じ、NPCが決してモモンガを裏切ることはなさそうだと判断する。彼らがモモンガの庇護対象を傷付けるようなことはあるまい。モモンガの庇護下にあれば死ぬことはなさそうだと判断した、その時だ。

 アッバルの信頼はすぐ傍の男に裏切られた。なんとモモンガが絶望のオーラを解放したのだ。弱いとはいえアッバルは100レベルプレイヤーの一人。絶望のオーラによる効果は受けない……はずなのだが、何故か効いている。

 そのオーラの放出を止めろ、とアッバルはモモンガのマントの裾を何度も引く。伝言を使う精神的余裕など全くなかった。

 

 

 どうするのが最善なのか、何をすべきなのか。混乱のあまり絶望のオーラを解放してしまったり後光を背負ってしまったりしていたモモンガのマントを、くいくいと引く者がいた。振りかえれば、その者こそゴマ鼻のっぺらぼうことアッバルだった。何度もガクガクと頷く彼女はまるで「私もついている」と言っているようだ。なんと心強いことか……モモンガは彼女へ(見えていないだろうが)頷きを一つ返した。同郷の、モモンガが守るべき、しかし頼れる女の子。彼女はまたモモンガに勇気をくれた。

 モモンガは映画やテレビで見た偉い人を思い浮かべる。それっぽく行動すればきっとなんとかなる、と良いのだが。

 

「面を上げよ」

 

 モモンガの許しで、守護者たち全員が、まるで揃えたように同時に顔を上げた。彼の脳内に日体大の集団行動が思い出される。

 

「では……まず良く集まってくれた、感謝しよう」

「感謝などおやめください。我ら、モモンガ様に忠義のみならずこの身の全てを捧げた者たち。至極当然のことでございます」

 

 アルベドの言葉を否定する者は一人もいない。つまりアルベドの言葉こそ守護者らの意思に他ならない。忠義、信頼、敬愛……それらの込められた視線に、モモンガの無い喉がネバつく。NPCらはもちろん、友人達と作り上げたナザリック地下大墳墓、同郷の友アッバル、そして自分自身――単なるサラリーマンだった鈴木悟、いや、モモンガの肩には重すぎる荷物だ。

 私もついているよと伝えたいのだろう、アッバルがマントを何度も引いてくれているのが嬉しい。だが、やはり重圧は重圧である。モモンガは言葉に詰まっていた。

 

 言葉に迷っていたモモンガに助け舟を出したのはアルベドだった。そして彼らの見せた真心。彼らを信じ切れずにいたモモンガの疑惑を払拭する、堅く折れぬ忠誠心、それを示した守護者らにモモンガは打ち震えた。仲間たちと築き上げたアインズ・ウール・ゴウンは今なお燦然と輝いている。NPCらはその証拠、その果実、その子供。不滅だ。決して消えぬのだ。アインズ・ウール・ゴウンは彼らの中に、モモンガの中に、生きている。

 

 守護者らにこれからのことを指示し終え、自分に対する評価を訊ねたのち、モモンガはそういえばと背後を振りかえった。ゴマ鼻ののっぺらぼうの手をマントから外させ、その小さい肩を抱いて守護者らに彼女を紹介する。やけにふらふらしているがどうしたのだろう。

 

「彼女は我が友、アッバルという。彼女への対応は私と同じようにせよ」

 

 以上だ、と話を切り上げ、モモンガはアッバルを連れ玉座に繋がる大広間――レメゲトンへ転移した。

 

「アッバルさーん、アッバルさーん?」

 

 重心の定まらないアッバルの肩を掴んで前後に揺らすが、反応が無い。

 

「あれ、もしかして寝てる……?」

 

 気絶しているのだとは露とも思わず、「アッバルさんは剛毅だなぁ」と呟いて今度は自室に跳ぶとソファに彼女を転がした。

 そして一人掛けのソファに自身も座り込むや身も髪もないつるりとした頭を抱え込む。

 

「疲れた……」

 

 モモンガは癒しを求め、アッバルは確固とした立場を求め。

 アッバルの仕事がポケットの中の友達ならぬポケットの中の癒しグッズ兼友人(?)になるのは、間もなくのことだろう。




おまけ

自主規制の中身
乱交にもつれ込む・ベッド上のレスリング・赤ちゃん・モノホン作っちゃおうぜ!

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