どうしてもフィールドに出ると日常感がなくなるので、これ以降は部屋にこもって話してるだけ、みたいな話を書き進める予定です。
アインクラッド47層フローリア
「わぁ・・・・・綺麗・・・・・夢の国みたい・・・・」
「このエリアはフラワーガーデンといって、フロア全体が花だらけなんだ」
47層の転移門から出て真っ先に目に映ったのは一面の花壇だった。
花壇の中央には大きな噴水が有り、きれいな庭園ってかんじだ。
そういえばこの前アスナがキリトと一緒に来るために47層のクエスト情報をクラインから貰ったらしいけど、こりゃあ確かに女の子が好きそうなエリアだ。シリカなんか目を輝かせて辺りを眺め続けてるしな。
すごく綺麗な場所だが、現実世界だったらちょっと勘弁して欲しい・・・・
「俺花粉症なんだよなー、仮想世界でよかったわ」
「お前雰囲気ぶち壊しだな・・・・」
「しかたないだろ、あれ結構辛いんだぞ」
「というか花粉症って、スギとかヒノキとかの木の花粉だから花は関係ないんじゃないか?」
「え?そうなのか?あまりに辛いからとりあえず植物のあるところはヤバイのかと思ってた」
「雰囲気を壊してるのは2人共だと思います・・・・・」
シリカからジト目で睨まれてしまった。
まあ花の綺麗さよりも花粉症がどうのこうのの話をされてたらそりゃあそうなるか。
にしてもこの層はホントに・・・・
「・・・・・カップルだらけで居心地が悪い」
「そうか?俺は別に気にならないけど」
どうもカップルのキャッキャウフフの空気の近くに長時間居るのは苦手だ。嫉妬とかではなくどうしていいのか分から無いっていうのが一番辛い。決して嫉妬とかではなく・・・
「嫉妬とかじゃないんだ・・・・」
「クレハもそういうの気にするんだな、少し意外だな」
「当たり前だろ。お前も2年近く1人で店番してみろ、死にたくなるぞ」
「遠慮させてもらう」
「あはははは・・・・・」
ああ、思い出したらなんか悲しくなってきた。
依頼者のなかにもカップルで店に来る奴もいるし、女性プレイヤーが彼氏の為に何かしたいとか依頼してくることもあるし・・・・・
というかつい最近アスナがキリト関連で似たような依頼してきたな。よくよく考えたら俺ってキリトがアスナとくっついたら本格的に寂しいやつになるんじゃないか?
お茶の時間もキリトとアスナに気を使いながら過ごすことになるんじゃあ・・・・
「・・・・・・・・・うーん」
「クレハさんまたこうなっちゃいましたね」
「ほっといてさっさと行こうか」
「え、あ、はい」
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俺をおいてさっさと先に進んだ2人に追いつくのに少し時間がかかったが、俺達は思い出の丘に向けての道のりをのんびり進んでいた。
正面から来る敵はキリトが一発で倒してくれるし、たまに後ろから敵が来ても、キリト程じゃないが俺がさっさと倒しているから、足が止ることが殆ど無い。これ以上無いほど順調だ。
シリカの顔色はあまりよくないけど・・・・・
「どうしてマップは綺麗なのに、モンスターはあんなに気持ち悪いんですか・・・・」
「モンスターだからな、やたらと可愛い花の妖精みたいなのが敵だったら倒しにくいだろ」
「それはそうですけど・・・・」
「まあまあ、この調子ならモンスターがシリカに近づくことも無いから安心していいよ」
「あ、ありがとうございます」
シリカはここのモンスターの見た目がダメらしい。3mはありそうな巨大植物が大口開けながら襲ってきたらそりゃあキモイか。女の子なら特にな。
けどキリトの言うとおり、この様子だとシリカがモンスターの襲われることもないだろう。
「きゃああああああああああああああ」
「シリカ!!」
「・・・・・・・・・・」
シリカが植物モンスターに捕まって宙吊りにされてしまった。
足元からツルだけ伸ばしてシリカだけを拘束したのか。なるほどー、前と後ろを警戒しててもこれだけは防げないか。
それにしても・・・・・・
「さすがビーストテイマー。モンスターを使った高度なフラグ回収だな」
「わけが分からないなこと言ってないで助けてくださいよぉぉぉ!!」
「シリカ落ち着いて!そいつすごく弱いから!」
「そんなこといわれても気持ち悪いですー!!」
「やれやれ」
シリカのレベルでもソードスキル一発で倒せるぐらいのモンスターなんだが、宙吊りにされたうえに至近距離にモンスターが居るから思いっきりテンパってるな。
落ち着いて足に絡まったツタを切って、そのままソードスキルを発動するのが一番だが、今のシリカにそれを求めるのはさすがに厳しいかな。
というかスカートのまま宙吊りにされてるからさっきから下着が見えるギリッギリだけど大丈夫なのか?
「シリカー!近づいたらパンツ見えちゃうけど助けに行ってもいいのかー!?」
「だ、だめです!!見ないで!!見ないで助けてください!!」
「それは無理だな、自分で何とかしてくれ」
「お前は鬼か・・・・・」
「じゃあキリトが助けてやればいいだろ。見ないで」
「それはに無理だな・・・・けどさすがに何とかしないと」
「いや、これはちょうどいい機会だろう。今のシリカは完全にテンパって冷静な判断が出来ない状態だ。そういうときに人の手を借りずに自分の力だけで解決することが出来れば、次からこういうことがあったとき動けなくなることも無い。今なら俺とキリトもいるから、最悪の事態になることもないしな。ついでに敵も弱い」
「・・・・結構考えてるんだな」
「俺がただ面白いからシリカを助けないとでも思ったのか?」
「・・・・少し」
失礼な奴だな。さすがにそのくらい考えて行動しないと万屋は務まらんぞ。
分からない問題が有った時にその問題の答えじゃなくて解き方を教えておかないとそいつの力にならないだろう。万屋としては依頼者のその後まで考えておかないとな。
シリカも大分落ち着いたみたいだし、そろそろ自力で抜け出すだろう。
「この、いい加減に・・・・・しろー!」
シリカは足元のツルを短剣で切り、落下の勢いを利用してソードスキルを敵に放ったた。真上から放たれたソードスキルはすべて命中し、敵はポリゴンのかけらとなって砕けていった。
「はぁ・・・はぁ・・・やった・・・・・」
「お疲れシリカ、自分だけの力で解決できたじゃないか」
「あ、ありがとうございます」
ちょっとは恨み言を言われるかと思ったが、俺の意図を理解してくれたのか意外とシリカは俺にお礼を言ってくれた。がんばったのはシリカだからお礼をいう必要は全く無いと思うが。
「いい動きだったぞ。今後不意打ちを食らっても、今みたいに冷静に対処すれば問題ない」
「そうだな、シリカはソードスキルへの繋ぎが上手だな。そこを鍛えていくともっと戦闘が上手くなるんじゃないか?」
「・・・・・・・見てたんですか?」
キリトと2人でシリカの動きをほめたんだが、シリカとしてはそれ以上に見られたかどうかが気になるらしい。というかこれだけ動きのよさとかを褒めたんだからそりゃあ見ていたに決まってる。が、少し涙目で祈るようにこっちを見ているシリカを前にしたら、
「「・・・・・・・見てない」」
俺とキリトの答えは同じだった。
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それから対した障害に見舞われることも無く、俺たちは思い出の丘の最深部らしきところまでたどり着くことが出来た。道の終わりには小さな祭壇のような物が有り、シリカが近づくと、祭壇は急に光を放ち始めた。
何も無かった祭壇から芽が伸びてくると、それは急激に成長し、すぐに白くて綺麗な花となった。
「これが、使い魔蘇生アイテム『プネウマの花』か」
「これでピナが生き返るんですね!」
「ああ、けどここは強いモンスターも多いから、生き返らせるのは街に帰ってからにしよう」
「はい!」
無事にピナの蘇生アイテムを手に入れた俺達は、今まで来た道を戻ることになった。
シリカはピナが生き返らせることが出来るようになり安心したのか、今まで異常の笑顔で町へ向かっていた。
だが俺達2人にはまだやることが残っている・・・
「もうすぐ転移門ですね、とりあえず35層の宿屋に行きましょう!」
「ああ、それがいいだろう」
「俺も賛成だ。けどその前に・・・・」
「え?」
シリカを制止するとキリトは進行方向に向けて声を投げかける。
「そこで待ち伏せてる奴!でてこいよ!」
すこし間を置いた後、キリトが声を駆けた方向から見覚えのあるプレイヤーが姿を現した。やっぱりというか、想定通りというか、出てきたのはあいつだった。
「ロザリアさん!?」
「あたしの
自分が優位に立っていると思っているのか、自分の作戦通りにことが進んでいるのに満足しているのか、ロザリアは終止ニヤニヤとした笑いを浮かべながらこっちに近づいてくる。
「それじゃあ、早速それをこっちに渡して頂戴」
「な、なにを言ってるんですか!」
「そうは行かないぜオバサン。いや、オレンジギルド『タイタンズハンド』のリーダーさんって呼んだほうが良いか?」
「へぇ・・・・・」
そう、俺とキリトは知っている。この女の正体を。
自分たちの利益の為に人を傷付けることを平気で行う集団であるオレンジギルドのリーダーであるこいつの正体を。
「相変わらず口の減らないガキね・・・。けど、気づいていたのね」
「そんな・・・けどロザリアさんはグリーン・・・・」
「簡単な手口だ、グリーンのプレイヤーがパーティにもぐりこんで、オレンジの待ち伏せてるところに誘導するのさ」
「夕べ俺達の話を盗み聞きしていのもお前らの仲間だろ?キリトに気づかれて失敗したみたいだけどな」
「じゃあ、この2週間一緒のパーティに居たのは・・・」
「もちろん、獲物を見繕ってたのよ。一番の獲物のあんたが抜けたのは残念だけど、使い魔蘇生用のアイテムをとりに行くっていうじゃなぃ?」
俺達をなめているのか、べらべらと自分達の作戦を喋りやがって。どうにもこいつは小物臭さが抜けんな。
「けどそこまで分かっていてその娘についていくなんてバカぁ?それともホントにたらし込まれちゃった?」
「いいや、キリトはどうか知らんが、俺の場合は仕事だ。その仕事の一つとして、俺はお前を探してたんだよ」
「・・・・・どういうこと?」
「おい、俺だって違うぞ」
あれ?そうなのか。てっきり可愛さにやられて俺の店に連れてきたもんだと思ってた。
まあとりあえずそれはおいておこう。
「お前、10日ほど前に『シルバーフラグス』っていうギルドを襲ったな。リーダー以外の4人が殺された」
「・・・・ああ、あの貧乏な連中ね」
「リーダーだった奴は泣きながら俺の店に依頼に来たぞ。仲間を殺した奴らを監獄へ送ってくれってな。・・・・・殺してくれとは言わなかった。お前にあいつの気持ちが分かるか?」
「わかんないわよ」
俺の話を聞いたロザリアは、あっさりと言ってのけた。
さっきと同じようにニヤニヤと笑いながら俺に対して言い放ちやがった。
「マジになっちゃってバカみたい。ここで人を殺したからって、そいつが本当に死ぬ証拠なんて無いし。それより自分達の心配でもしてたら?」
パチンっとロザリアが指を鳴らすと後ろに潜んでいたロザリアのギルドメンバーがぞろぞろと出てきた。全部で7人のプレイヤーが現われ、その全員がオレンジプレイヤーだ。
ロザリアと同じようにニヤニヤとした笑いを浮かべているのが見える。
「クレハさん、キリトさん!数が多すぎます!逃げないと!」
「大丈夫だ。俺が転移しろっていうまでは、結晶を持ってそこで見てて」
「おいキリト、俺の依頼だ。相手なら俺が・・・・」
「いや、俺にやらせてくれ。俺だってお前と同じ気持ちなんだ」
「・・・・・わかったよ。じゃあ頼んだ」
「おう」
キリトは剣を抜くとゆっくりとオレンジプレイヤーのほうへ近づいていく。
あいつ等の笑みとは違う、余裕の笑みのような物を浮かべながら。
「・・・・・・・・キリト?」
オレンジプレイヤーの誰かが異変に気がついたのか、キリトの名前を口にした。
あれは気づいたかもな。
「黒の装備に盾無しの片手剣・・・・まさか・・・・!?」
「ロザリアさん!あいつ『黒の剣士』のキリトだ!攻略組でビーターの!」
「攻略組・・・・!?」
ロザリアのほかに隣でシリカも驚いている。なんだ、キリトの奴言ってなかったのか。
あれ?というか俺シリカにちゃんと自己紹介したっけ?もしかしたらシリカは俺のことも知らないのかもしれない・・・・
「攻略組がこんなところに居るわけないじゃない!いいからさっさと身包み剥いじまいな!!」
「そ、そうだよな。それにたとえ本物でもこの人数相手に勝てるわけねぇんだ!!」
「おっしゃやっちまええええええ!!」
ロザリアの言葉で立て直したのか、うろたえていたオレンジプレイヤーが叫びながらキリトの方に向かっていく。
というかあいつらMMOやったこと無いのか?本物でも人数でごり押せるって無理に決まってるだろうに。
7人からの攻撃のラッシュをキリトは防ぐこともせずただ素直に食らっている。ソードスキルのエフェクト音やプレイヤーの気合の声のなか、キリトは涼しい顔で立っている。
あいつ結構性格悪いことするな・・・・・
「クレハさん!助けないと・・・キリトさんが!」
「え?ああ、大丈夫だろ。ほら、キリトのHPを見てみろよ」
「HP・・・・?あれ?これって・・・・・」
散々攻撃を受けているはずなのに、桐とのHPは一向に減る気配が無い。いや、厳密には少しずつ減っているのだが、すぐに満タンまで回復している。
「クレハさん、これは一体・・・・・」
「そろそろキリトが説明してくれるよ。オレンジギルドのプレイヤー達に向けてだけどな」
俺が予想したとおり、攻撃をし続けて疲れ果てたオレンジプレイヤー達が攻撃しても減らないキリトのHPにシリカと同じ疑問を抱いていた。
「くそ・・・なんなんだよこいつ・・・・」
「HPが全然へらねぇじゃねぇか・・・・!」
「あんたら何やってんだ!!さっさと殺しちまいな!!」
痺れを切らしたロザリアの怒号が飛ぶが、そいつらがキリトを殺すのは不可能だ。どれだけ時間をかけてもな。
「10秒当たり400ってとこか、それがあんた達7人が俺に与えることが出来るダメージの総数だ」
「ぐ・・・・」
「俺のレベルは78。HP14500。バトルヒーリングスキルでHPは10秒に600回復する。あんた達じゃ、一生かけても俺を殺すことは出来ないよ」
「なんだよそれ・・・むちゃくちゃじゃねぇか・・・・」
そりゃあそうだろう、そんなのレベル制MMOに着いて回る弊害みたいなもんだ。逆を言えば、レベルさえ上げれば誰でもその強さになれるってことだけどな。
もっとも、PKなんかで金を稼いでるような奴らには無理な話かもしれないが。
「ああ、たかが数字が上がるだけで無茶な差がつく。これがレベル制MMOの理不尽さなんだ!!」
「・・・・クソ!!っだったら!!!」
キリトの言葉を聞いたオレンジプレイヤーが俺とシリカのほうに向かってきた。
一人が突っ込むと、それにあわせて4人のプレイヤーがそれに続き、合計5人のプレイヤーが俺達に襲い掛かってきた。
なるほど。レベルで無茶な差がつくなら、その差が少なそうな俺とシリカを狙おうって訳か。シリカを人質に取れればキリトも手を引かざるをえないだろうからな。
なかなか賢い選択だ・・・・・・・・・けど、MMOにはレベル以外にも差がつく点がある。
「クレハさん!」
「シリカ、下がってな。さすがにちょっと危ないから」
「この人数相手に1人で挑むってのか!?なめてんじゃねぇぞ!!」
「なめちゃいないさ、だから俺もこうして
叫びながら切りかかってきたオレンジプレイヤーを鞘でいなしながら転倒させる。オレンジプレイヤーだから攻撃しても問題は無いんだが、さすがにきりつけるのはマズイだろう。
「な・・・なんだこいつ・・・・」
「訳わかんない動きしやがって・・・・」
「失礼な奴だな。攻撃を受け流して隙を作って、そこを叩くなんてのは戦闘の基本だろうに」
「いや、それを5人同時にするのはさすがにおかしいだろ・・・・・」
遠目で見ていたキリトに言われてしまったが、バトルヒーリングスキルだけで死なないような奴には言われたくない。
「剣と鞘で・・・・・攻撃を受け流して・・・・こいつまさか、『剣影』のクレハか!?」
「あのβテスター最強の・・・!?嘘だろ・・・・」
おお、大げさに広まった名前も意外と使えるもんだな。雑魚を牽制するのにはもってこいだ。正直この戦い方は長くもたないからそろそろやめてもらいたいってのが本音だし、ハッタリかまして諦めてもらうか。
「MMOの理不尽さはレベルだけじゃない。圧倒的なプレイヤースキルの差にはレベル差すら無意味になる。PKなんかして強くなった気でいるガキ負けるほど、俺は弱いつもりは無いぜ」
「くそ・・・・・!」
逃げようとしても後ろにはキリトが居るし、シリカを人質にしたくても俺が居る。詰みってやつだ。
そろそろ仕上げに取り掛かろう。
「これは俺の依頼人が全財産はたいて買った回廊結晶だ。監獄エリアを出口に設定してある。全員おとなしくしてもらおうか」
「グ、グリーンのあたしを傷付けたら、あんたがオレンジに・・・・」
その言葉を聞き終える前に、俺はロザリアに急接近し、刀を首元に突きつける。
「俺は仕事柄知り合いが多いもんでね、カルマ回復イベントなんか一日あれば終わらせることが出来る。そうだな・・・・せっかくだから試してみるか?」
「な・・・・なにを・・・・」
「この世界で死んでも現実で死ぬかどうかは分からないって言ったのは自分だろ?・・・・じゃあお前自身で確かめてみな・・・・」
「そ、そんなこと・・・・・・あんたに出来るわけが・・・・」
ロザリアは口では強気だが明らかに狼狽しているのがわかる。俺に出来るわけが無いと思っている反面、本当に殺されるかもしれないという恐怖が残っているのだろう。
ならやってみせよう。
俺の刀が青色のライトエフェクトをまとい始める。
ロザリアは目を見開いて口を開け、俺が自分に何をしようとしているのかを悟ったらしい。
刀スキル『浮船』
下から敵を切り上げるような刀スキルの一撃がロザリアに向かって放たれ・・・・
パリィン!!というポリゴンの砕ける音が響いた。
「あ・・・ああぁ・・・・・」
俺のソードスキルはロザリアの顔ギリギリをかすめ、手に持っていた黒い槍を破壊した。
間近で死の恐怖を味わったロザリアはひざから崩れ落ち、放心状態になっている。
「まあお前の言うとおり、俺に人を殺す度胸なんてなかったみたいだな。このゲームで死んだ後どうなるかは、俺の関係ないところで勝手に調べてくれ」
俺の声が聞こえているのか聞こえていないのか分からないが、ロザリアはその場から動くことなく膝たちのまま震えている。
・・・・・・・ちょっとやりすぎたかな。
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無事に『タイタンズハンド』の全員を監獄エリアへ送った俺達は、『シルバーフラグス』のリーダーへの依頼完了の報告を済ませ、もう一度35層の宿屋へ戻ってきていた。
「しかし心臓に悪いな。本当に殺すのかと思ったぞ」
「さすがにそんなことはしない。けど、ちょっと位お灸をすえておかないと、俺の気が治まらなかっただけだ」
「あの・・・クレハさんは別の人の依頼で、ロザリアさんを探してたんですよね?」
「ああ。そういえば、まだそのことをシリカに謝ってなかった」
結果はどうあれ、俺はシリカを餌にしてロザリアを釣ったことになる。怖い思いもさせてしまっただろうしな。
「すまなかった。シリカを囮にするようなことをしてしまって、恨まれても仕方ないことをした」
「いいえ。クレハさんは私の依頼もきちんと受けてくれました。それに道中もわたしのことを考えていろいろとしてくれましたし、恨むなんてとんでもないですよ」
「・・・・・そうか、ありがとう。けどこの埋め合わせはどこかで必ずしよう」
もっとなにか言われても仕方が無いと思ったんだが、シリカは俺を攻めるつもりは無いらしい。前から思っていたが、まだ小さいのにずいぶんと人間が出来ている。
「俺もすまない。攻略組のことだまっていて。怖がられると思ったんだ」
「そんなことないです。キリトさんはやさしい人だから、怖がったりしません」
「・・・・・ありがとう」
「やっぱり、行っちゃうんですか?」
「ああ、前線からずいぶん離れちゃったからな。早く戻らないと」
「こ、攻略組なんてすごいですね!わたしじゃ何年かかっても成れそうにないですよ・・・」
なんだか寂しい空気が部屋に広がっている。というか主に2人の間だけど。
俺やっぱり邪魔かな?ここは空気を読んでそっと部屋から出るべきなのか?
「ゲームの中の強さなんて幻想に過ぎない。それよりもっと大事な物をシリカは持っているよ」
「キリトさん・・・・・」
「次は現実世界で会おう。そうしたらきっとまた友達になれるよ」
「は、はい!」
すこし沈みがちだったシリカの顔が前向きな物へと変わっていった。キリトもなかなかいいことを言う。けど2人の空間を作られると俺はどうしていいかわからんからやめてくれ。
「ん?どうしたクレハ?」
「クレハさん?」
「・・・・・・なんでもない」
思えば今回の依頼の最中ずっとこんな感じだった気がするな。シリカは明らかにキリトに気があるし、キリトは自覚なしにときめき台詞を乱用するし。アスナが居たら抜群の修羅場になりかねん。みんな仲良くが一番だ。
「まあ、現実世界で友達になるのもいいが、この世界で新しい友達を作るのもいいだろう。今度また俺の店にコーヒー飲みに来るといい。騒がしいが気のいい奴らが集まってるから、シリカもすぐに仲良くなれるさ」
「分かりました!絶対に行きますね!」
「それじゃあ、まずは君の大切な友達を生き返らせてあげよう。クレハの店に来る時は、そのこも一緒だ」
「はい!」
初めて会った時の無理をしたような笑顔ではない、心の底からの笑顔で、シリカは『プネウマの花』と『ピナの心』を取り出した。
花の蜜が青い羽に触れると、綺麗な光があふれ出し、凛々しい竜の鳴き声が聞こえてきた。
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アインクラッド48層 万屋『秋風』
俺、キリト、クライン、アスナ、リズ、アルゴ。
いつものメンバーは新たに1人のプレイヤーが参加したことで、いつも異常ににぎやかに騒いでいる。
「シリカちゃん!ちょっとピナを抱かせてもらっていいかな?」
「あ!アスナ、次はあたしだからね!」
「ビーストテイマーの話を聞けるなんて滅多に無いからナ、今のうちに情報を集めたいとこダ」
「あ、あの・・・・えっと・・・・」
約束どおり、ピナと一緒に俺の店に来たシリカは、年上の女性陣に囲まれてあたふたしていた。
それなりのに知名度の高い面子が集まっているからな。中層プレイヤーのシリカとしてはかなり緊張することだろう。
「シリカちゃん・・・・かわいいなーおい・・・」
「クライン、さすがにシリカに手を出すのはちょっと・・・」
「うるせえ!だいたいなんでキリトの周りにはこう女の子が集まるんだ!」
「いやいや・・・・この店はクレハの店なんだから、俺の周りじゃなくてクレハの周りだろ?」
「けどアスナとシリカを連れてきたのはキリトだろ?それまではアルゴとリズしか女の知り合い居なかったし。そもそもキリトはその2人ともはじめから知り合いだっただろ」
「そ、それはそうだけど・・・・」
「だああああああおもしろくねぇ!クレハ!もう一杯!」
「俺のコーヒーをビールみたいに言うな」
いつものように騒いではしゃいで、この様子を見ていると、やっと日常に戻ったんだと安心できる気がする。
キリトがシリカに言ったとおり、現実世界でもこの関係はつづくんだろうか?
できれば、現実世界でも今と同じようにいたいものだ。
というわけで第九話でした。
これで原作に出るヒロイン達はあらかた登場させたきがします。
あくまでSAOにいる人たちだけですが。
今後は前書きでも言ったとおり、完全に日常だけを書いた物にしたいと思っています。
マイペースですがよろしくお願いします。