デスゲームでの日常を   作:不苦労

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今回からやっと日常に戻ります。
お待たせしました。

じわじわと見てくれている人が増えてくれています。
ありがとうございます。頑張ります。


鼠の陰謀

アインクラッド48層にある万屋「秋風」

俺が営んでいるこの店だが、以前と比べてにぎやかな日が多くなった。

 

アルゴの宣伝の力か、キリトとアスナなどのビッグネームが頻繁に顔を出しているからなのか、客足が増えて固定客も出来つつある。

 

 

 

・・・・というか、俺があれだけ露見するのを恐れていた『βテスターのトップランカー』という情報が、今となっては周知の事実になってしまった事が一番の要因だろう。

 

 

 

いうまでもないが、この情報を流したのはアルゴとキリトの2人だ。

 

あの一件でのキリトの言葉で、長い間心の中に押さえ込んでいた罪悪感や恐怖心が解消された俺は、唯一初めから俺の事を知っていたアルゴに、キリトに俺のことがばれてしまったという報告と、今まで俺の情報を守ってくれていた事について礼を言いに行った。

 

俺としては1年以上抱えていた不安だった訳で、それが少しでも解消されたことはそれなりに大きな事件だったんだが、キリトと一緒にアルゴに報告に行った時から、それを塗り替える事件が始まってしまった・・・・・

 

 

 

 

 

 

『・・・・というわけで、キリトにばれちまった。・・・・けど、悪いようにはならなかったよ』

 

『だから前から言ってたじゃないカ、気にし過ぎだってナ』

 

『けど、俺がキリトに対してした事は許されることじゃないと思ってるよ』

 

『まだそんなこといってるのか・・・・俺は気にして無いし、むしろ怒ってるのはそこじゃなくて、早く連絡をくれなかった方だ』

 

『どこから情報が漏れるか分からなかったからな。他のプレイヤーにバレたら俺はSAOでは生きていけないよ』

 

『そんなこと無いと思うけどな、ちゃんとした理由がある訳だし』

 

『いや、攻め立てられて闇討ちにでもあうのがオチさ、下手したらビーターよりたちの悪い扱いを受けることになるかもしれん』

 

『・・・・・・・クー坊のマイナス思考は筋金入りだナ。・・・・・じゃあ試してみるカ?』

 

『『は?』』

 

『にゃはははは!まーまー明日をおたのしみにナ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・というやり取りがあった次の日、アルゴの号外新聞を見て愕然とした。

 

 

「攻略組を影から支え続けていた元βテスタートップランカー!その生き様の裏に隠された真実とは・・・!?」

 

 

デカデカと載せられた無茶苦茶な見出しの下には、ご丁寧に俺の写真がしっかりと貼り付けられていた。

何を考えてんだあのバカ鼠は!?っと思って新聞を読み進めるとその内容はまぁひどいモンだった。

 

 

 

 

『βテスト時のノーダメージボス撃破伝説!』

 『闘う事が出来なくなった体、苦悩と絶望の日々』

  『それでもなおプレイヤーのために!万屋秋風開店!』

 

 

 

 

 

改めて、ひどいモンだった。

そこには俺がβテスト時にやってきたこと、俺が闘えなくなった理由、12層までの情報を提供していた事、万屋を開いていることが全部書いてあった。

 

 

 

それも200%ぐらい脚色されて。

 

 

 

なんだよノーダメージボス撃破って!あれはただ俺がボスの攻撃を受け流してスイッチする役割で、仲間が攻撃担当だったから偶然ダメージを食らわずに戦闘が終わっただけだ!

前線で闘えない理由なんか必要以上に同情心を煽るような書き方してるし!

万屋は俺が出来て一番効率がいい仕事だったから開いてるだけだ!

 

 

アルゴを捕まえて問い詰めたら「嘘は書いてないだロ?」とか言ってウィンク飛ばしてきやがった。反省の色無しかよ・・・・

 

 

突っ込みどころ満載のその新聞はアインクラッドすべての層で販売されたらしく、ほぼすべてのプレイヤーに行き渡ったらしい。

 

 

最初は闇討ちや糾弾が怖くてびくびくしながら店を開かずに引きこもっていたのだが、その数日後におそるおそる店を開いたらその瞬間に大量のプレイヤーが店の中に押し寄せてきた。

大量のプレイヤーに囲まれた俺は、圏内にもかかわらず「ああ・・・・俺はついに殺されるのか」と本気で思い、現実世界の家族のことを思っていた。

 

 

そしてプレイヤー達は皆まっすぐとした目で俺を見て・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「本物のクレハさんだ!」

「ファンなんです!握手してください!」

「倒れないくらいでいいんで『剣影』の戦いを見せてください!」

「料理スキル完全習得ってホントなんですか!?」

「ギルドに興味は無いですか?」

 

 

 

 

 

 

押し寄せてきたプレイヤーは新聞を読んで俺のことを知った人達で、俺の行動にえらく心を討たれたらしい。俺が引きこもっていた数日間の間にアルゴはキリトに情報提供をさせて、何枚も新聞を発行していたようだ・・・

 

俺のことを悪く思わないでいてくれる人が少しでもいてくれたことに安堵しつつ、その場は何とか収めることが出来た。

けどまだ不安だった俺は意を決して町に買い物に行くことにした。

 

 

圏内ならさすがにそこまでひどいことはされないだろうと思って出かけたが、村についてから数分でプレイヤー達に気づかれ、俺はまたしても囲まれることになった。

本日2度目の家族の顔に懐かしさを感じながら絶句していると、1人のプレイヤーを皮切りに一気にプレイヤー達が口を開き始めた。

 

 

 

 

 

 

「すげー本物だ!」

「今日も万屋のお仕事ですか!?」

「ワイはβテスターを勘違いしとったんや!あんたみたいな人も居るんやな!」

「『剣影』の戦いを生で見たいです!」

 

 

 

 

 

ただ店で起こったことが町で繰り返されただけだった。

それから色んな事を試してみたが、俺のことを悪くいってくるやつは一人もいなかった。

 

 

 

アルゴの詐欺まがいの新聞のせいで有名になってしまった俺だったが、これは俺が恐れていた事態とはまったく別のものだった。

まぁあの新聞が殆どの原因なのだが・・・・・

結局アルゴの言ったとおり、俺の気にしすぎだったのかもしれない。今となってはもっとはやくこうするべきだったと後悔しているくらいだ。

 

アルゴとキリトには、大きな借りが出来てしまった・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・いつか返さないといけないな」

 

「なにを?」

 

「・・・・・・・・」

 

 

振り返ると店の入り口にはアスナが立っていた。俺の独り言の意味が分からず、小さく小首をかしげている。

こいつもなのか、俺に気づかれないように店に入ってくる女が多すぎるだろ、アスナはそういうところちゃんとしてると思ったのに!

 

 

「いや・・・なんでもない。最近忙しかったから、ちょっと疲れてな」

 

「あー、クレハ君大人気だったものねー。私も副団長になったばかりのとき大変だったよー・・・・」

 

 

そういってアスナは少し肩を落とした。

確かに、『閃光のアスナ』の名前が知れ渡ったときは町にいる奴らの殆どがその話をしていたな。俺と違って珍しい女性プレイヤーの上に、美少女で副団長ときたらそりゃ大変だっただろう。俺の噂なんか目でもなさそうだ。

 

 

「確かに、『閃光のアスナ』といえば、SAOで知らないやつはいないだろう」

 

「人の事言えないと思うよ、『剣影(ケンエイ)のクレハ』君」

 

「ほんとうに、その名前誰が付けたんだよ、恥ずかしいってモンじゃないぞ?」

 

「しらないけど、そういうのって自然に出来ていくものなんじゃないの?『黒の剣士』とか『閃光』とか。自称してる人なんてそうそういないし」

 

「そりゃ自分で二つ名なんて付けた日には、そのまま黒歴史まっしぐらだろうしな」

 

 

 

俺は今、『剣影(ケンエイ)』なんて呼ばれてもてはやされている。刀の鞘で戦う俺を見て誰かが名付けたらしい。刀の影である鞘を使っていることと、すべて攻撃を受け流して攻撃が当たらない影のような動きから付けられたそうだ。

 

 

「この由来も脚色されてる気がする・・・」

 

「まあまあ、皆クレハ君を慕ってるんだから、そんなこといわないの」

 

「それはそうだけどな・・・・」

 

「そんなことより、もうすぐ皆が来るんだし、お菓子用意しましょうよ」

 

「ああ・・・・・・もうそんな時間か、じゃあさっさとはじめるか」

 

 

 

 

 

 

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PM3:00

この時間は「俺の店でお茶をする時間」ということになった。

というか俺の知らない間に勝手になっていた。

 

キリト、リズ、アルゴ、アスナの中では常識だったらしい。なんで俺に知らせてないんだよ・・・・・・

 

 

「じゃあ、今日もよろしくね、クレハ君」

 

「ああ、大事な『依頼』だからな」

 

 

アスナは俺が料理スキルをコンプしていることを知って、最初はかなりショックを受けていたが、アスナは直ぐに立ち直り、俺に『料理の先生』を依頼してきた。

先生といっても、料理スキルの発展的な使い方や、味の調整などを見ているだけなんだがな。

ただこいつのストイックさは正直すごいと思う。出来ないことをできないままにしないというか、他人に厳しくて自分にはもっと厳しいみたいな感じだ。

 

 

ちなみに前の依頼である恋愛相談は、アスナ的には満足の行く結果になったということで、無事に報酬をもらった。キリトと仲良くなることが目的だった訳で、あの一件以来ほぼ毎日一緒にお茶が出来るようになって幸せらしい。結果オーライというやつだ。

 

 

 

「こんな感じでどうかな?」

 

「ああ、それなら大丈夫だ。味のバランスもいいから失敗にはならないだろう」

 

「よし、じゃあこれで完成ね」

 

「そうだな、あいつらもそろそろ来るだろうし、俺はそろそろコーヒーの準備するか」

 

「クレハ君のコーヒーは本当にすごいよね。いくら完全習得の追加スキルがあるって言っても、細かい苦味とか甘みとかもちゃんと私達の要望に答えてくれるし」

 

「コーヒーに妥協するわけが無いだろ」

 

「その愛もすごいよね・・・・」

 

 

 

.

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お菓子タイムも終わり、いつも通り5人で談笑をしていた。なんだかんだ忙しかったから、やっぱりこういう時間は必要だな。

 

 

「そうだクレハ、お前に会いたいって奴がいるんだけど・・・」

 

「ん?どうした急に」

 

「お前を紹介してくれって言うプレイヤーがいるんだ」

 

 

俺に会いたがってる奴?キリトの知り合いで俺に会いたがるような奴ってことはβテスターか?

 

 

「ま、まさかそれ・・・・女性プレイヤー?」

 

「『剣影のクレハ』は随分と人気者だナー。それで、その相手は誰なんだキー坊詳しく教えて欲しいナ」

 

「い、いや・・・・えっと・・・・」

 

「女性プレイヤーだったらなんかまずいのか?というかアルゴ、目が怖いぞ。キリトがビビってるだろ」

 

「ビビッてなんかない!」

 

「まあまあキリト君・・・」

 

「まずくはないけど・・・・ないけど・・・・・!」

 

「いいからキー坊?それどこのどいつダ?」

 

 

ただただアルゴが怖い・・・

なんだ、なんか2人ともまともじゃないぞ、リズはなんか動揺してるし、アルゴは目が怖いうえになんか嫌なオーラでてるし・・・

 

 

「とりあえずキリト。俺に会いたがってるプレイヤーってのは誰だ?」

 

「そ、そうだな。クラインっていうプレイヤーだよ」

 

 

クライン?だれだそれ?全く心当たりが無い上に明らかに男の名前だろ。

 

 

「なによクラインなの・・・・って男じゃない!先に言いなさいよ!」

 

「そうだゾ、まったくキー坊は・・・・」

 

「俺は一言も女性プレイヤーだなんていってないだろ!?」

 

「あははは・・・」

 

 

なんか俺を置いてきぼりで話が進んでいる。

結局女性プレイヤーだったら何がいけないのかも分からんし、そのクラインって奴が誰なのかも分からんしもう訳が分からん。

 

 

「おい、結局誰なんだそのクラインってやつは、βテスターじゃないよな?」

 

「ああ、クラインはβテスターじゃない。けど攻略組のギルドのリーダーをやってる奴なんだ、クレハも一回会ってるぞ?」

 

「は?そんな奴に会った記憶は無いぞ」

 

「つい最近よ、私とキリト君も一緒にいたわ」

 

「あー、もしかしてあのバンダナ男か?」

 

「そうだ、あいつがお前に助けられたお礼がしたいんだってさ。ここの所お前が急がしそうで、ゆっくり話が出来なさそうだったからな。明日の朝にギルドメンバーを連れて来るそうだ」

 

 

クラインというのはあの一件で俺達が助けたギルドのリーダーのことだったらしい。バンダナを付けていて、的確にギルドメンバーに指示を出していた野武士面の男。

確かにあれ以来どうなったのかを聞いていなかったが、俺に礼を言いたいとは・・・・

 

 

「そんな必要ないんだがな・・・・」

 

 

別に俺が助けたわけじゃないし、その後俺はぶっ倒れたわけだからな、逆に迷惑掛けたかもしれん。

あれ?というか俺あのときぶっ倒れたよな?なんで自分の店で目が覚めたんだ?

気絶してるんだから転移結晶も使えないし・・・・

 

 

「そういえばキリト、俺ってあの時どうやってここに帰ってきたんだ?」

 

「え゛・・・・いやーそれは・・・・」

 

「それは・・・・ねえ?」

 

 

キリトとアスナの歯切れが悪い。こういうときは大体嫌なことが起こる。

こいつら一体俺に何をしやがった?

もしかして俺の指を操作して転移結晶を使ったとかか?いやそれだったら事情を説明して終わりのはずだ。というか転移結晶は使用者が転移先を口にしないといけないし、回廊結晶は最初に俺の家に出口を設定していないと使えないし・・・・

ダメだ分からん。

一体どうやったんだ?

 

 

 

「いやーびっくりしたわよあの時は、キリトが寝袋に入ったクレハを引きずって帰ってきたんだから」

 

「ちょ、リズお前!!」

 

「・・・・・・・・・・・ほう?」

 

 

 

聞き捨てならんな。

こいつ俺を寝袋につめて、無理やり引きずりながら帰ってきたって事か・・・・

しかも迷宮区から一気に俺の家に来れるわけじゃないから、少なくとも町の転移門から俺の家までは人前を引きずりまわした訳で・・・・・

 

 

「キリト・・・・おまえ・・・・」

 

「い、いや仕方なかったんだって!だって他に方法がなかったし!」

 

「まぁそれはたしかに・・・・」

 

「いや?その場には他にもギルドのプレイヤーがいたんだロ?だったら一人だけ転移結晶で帰って、クー坊の家に回廊結晶の出口を設定してギルドの共有ストレージに入れれば、キー坊のところにゲートを開けるじゃないカ」

 

「・・・・・・・たしかに」

 

「それに、それだけ実力のあるプレイヤーがいたなら、安全圏までクレハを運んでから様子を見ることも出来たんじゃない?」

 

「ていうかキリト君、あの時真っ先に寝袋だしてクレハ君を寝袋に詰めたの、キリト君だよね?」

 

「え、えっと・・・・・・・その・・・・・・・」

 

 

キリトが汗をだらだら流して目を泳がせている。

なるほどな・・・・・こいつ何も考えずに一番最初に思いついた案を実行しやがったな。

確かに俺は助けられた、助けられたのだが・・・・・

 

 

「キリト・・・・久々にデュエルしないか?」

 

「ちょっとまてクレハ!本気のお前とやるのはさすがにきつい!というかそんなことしたらお前が倒れるだろ!」

 

「かまわねぇよ。今はお前を斬れればそれでいい」

 

「よくないだろ!!俺が悪かったからやめてくれ!!」

 

 

 

 

 

結局アスナにとめられてデュエルは出来なかったが、キリト懇親の土下座を受けて、この話なかったことにした。

まぁ倒れた俺が悪いんだ、これ以上キリトを攻めるのは酷ってもんだ。

 

 

 

.

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.

 

 

 

 

 

 

 

 

明日はクラインという奴が来るらしい。

何だかんだいって、新しいやつと知り合うのは楽しみなものだ。

話をしながらのんびりギルドの話を聞くのも悪くない。

 

 

 

クラインとギルドメンバーが、コーヒー好きであることを祈ろう。

 

 

 




というわけで第六話でした。


シリアスからも抜けて日常方向にシフトしました。
当分は日常系の話を続けながら、まだ登場していないキャラクターを登場させていく予定です。



感想や評価を下さった方ありがとうございました。
お気に入り登録をしてくださっている方もありがとうございます。
のんびりとですがこれからも頑張ります。

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