今回で何で主人公がキリトに会いたくなかったのか
戦闘の構えなどなどあやふやにしていたことを解消させます。
アインクラッド55層迷宮区
俺たちが敵に囲まれたプレイヤーのところに駆けつけてから数十分が経過していた。
敵の数も徐々に減っていき、現状は打開されつつある。
しかし油断は出来ない、俺たちはともかく、最初から戦っていたプレイヤーたちの回復アイテムはかなり減っているはずだ。それにくわえて精神的な疲労が大きいのか、その動きにさきほどのようなキレは無い。
「HPがイエローになったやつはすぐに下がれ!そのあいだ他のやつが敵をおさえろ!」
「「「「「了解!」」」」」
「アスナ、あっちのサポートに入ってくれ!こっちは俺1人でいける!」
「わかったわ」
各自が連携を取りながら確実に敵の数を減らし続けている。
ダメージを受けたプレイヤーが居ればサポートに入り、HPを回復し終わったら今度はサポートに入ったプレイヤーが回復に回る。
単純な流れだが、的確に複数のプレイヤーが統一された動きをするのには相当な技術が必要となる。各自の技術ももちろんだが、敵を抑えながら仲間に正確な支持を出しているバンダナ男の技量はずば抜けているな、おそらくあいつがリーダーだろう。
キリトとアスナは2人でパーティのサポートをこなしながら敵を倒し続けている、あいつ等は他のメンバーよりもレベルが高いから、命の危険は少なそうだ。
だが自分の身よりも他人優先って動きが多すぎる、何度か危ない動きも見て取れる。
パーティを組んでいる6人はパーティで固まってローテを組んで戦い、キリトとアスナは2人でそれをサポートしながら戦っている。
じゃあ俺はどうしているのかというと
一人で戦っている。
常に5体以上の敵に囲まれながら立ち回り、敵の数を減らすことに集中している。
別に見捨てられているわけではない、初めはアスナが俺を手伝いに来ようとしていたのだが、キリトがそれを制止した。
おそらく俺の構えと戦い方を見て気づいたのだろう。『俺が何者』なのか・・・
「なんだよ・・・・あれ・・・・」
俺の戦いを目にしたのか、誰かの呟きが微かに聞こえた。
確かに、知らない奴が見たら訳が分からないだろう。
左手に持った鞘で敵の攻撃を受け流し、右手の刀で敵の首を刎ねる。
時には鞘で敵の足をすくい上げ、敵に向かって蹴り飛ばす。
それもすべての行動が流れるように行われ、その動きには一切の無駄が無い。
1人で5体以上の敵を相手取りながら
まるで踊るように戦っているのだから・・・・・
.
.
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「・・・・・・全員・・・・・生きてるか・・・・・?」
「なんとかな・・・・」
「ハァ・・・・ハァ・・・・・」
それから1時間ほど後だろうか、トラップによって出現した大量の骸骨剣士はすべて消滅し、みんなは息を切らしながらその場に座り込み、自分たちが生きていることに安堵していた。
1番初めに腰を上げたのはさっきのバンダナ男だった。キリトとアスナに深々と頭を下げている。
「悪いキリト、俺たちのせいでお前達まで危険な目に・・・・・」
「いや・・・・・大した事じゃない、ともかく全員生き延びたんだ、今はそのことを喜ぼう」
「そうね、誰も死なずにすんだ。それだけで私達は頑張った甲斐があったって思えるわ」
「アスナさん・・・・すまねぇ。この借りは必ず返します!俺の命に代えても!」
「それじゃあ助けた意味が無いだろ」
「うるせえな!こういうのは気持ちの問題なんだよ!」
ずいぶんと仲がいいな、キリトとあのバンダナ男は知り合いだったのか。どおりで声を聞いたとたんキリトが敵に突っ込んでいったわけだ。
ともかく皆助かってよかった。
・・・・・・けど、キリトには
それに、久しぶりに本気で戦ったから、もうそろそろ限界みたいだ・・・・・・。
「・・・っとそういえばもう1人はどこだ? あのとんでもなく強い刀使いのプレイヤー。あいつは何者なんだ?攻略組じゃないよな?」
「ああ、クレハのことか。・・・・・・とんでもなく強い、確かにな。けどあの構えとあの動き・・・・・もしかしてあいつは・・・・・・」
「あんな戦い方をするやつは初めて見たぜ。俺達にも紹介してくれよ、礼が言いたいんだ」
「クレハ君ならたしかあっちに・・・・・ってクレハ君!?どうしたの!?」
アスナが慌てて俺のほうに駆けてくる。それに続いてキリトとバンダナ男、そしてそのパーティメンバーまでもが俺の所に駆け寄ってくる。
全員が心配そうな顔や驚いた顔で俺を見ている。
当然だろう。
なぜなら俺は、迷宮区の地面に体を倒したまま、ピクリとも動かなかったのだから。
皆に声をかけられても、体を揺さぶられても何の反応も無い。
いや、何の反応も出来なかった。
HPが0になっている訳ではない、ただ体を動かすことが出来なかった。
徐々に視界が狭まっていく
だんだんと意識が薄れていく
泣きそうな顔をしたアスナと驚きで言葉を失っているキリト達の顔がチラッと見えたが、皆に声をかけることができないまま・・・・
俺の意識は完全に途絶えてしまった・・・・
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「・・・ハ・・・・・レハ・・・・・・・!」
うっすらと人の声が聞こえる、今にも泣き出しそうな震えた声が聞こえる。
記憶がはっきりしない、確かアスナの依頼でキリトに会いに迷宮区に行って、キリトと合流してそれから・・・・
そうだ、プレイヤーの悲鳴を聞いてものすごい数の敵と戦ったんだった。
さすが敵の数が多すぎてやばいと思って、鞘を使って本気で戦って・・・・・
ああそうか、それで意識を失ったのか。
「・・・・・レハ・・・・!・・・・クレハ!起きなさい!」
うっすらとした声がはっきり聞こえるようになった。
このでかい声は多分リズだな、ってことはここは・・・・
「・・・・・俺の店か?」
「クレハ!!・・・あんたいつまで寝てんのよ!さっさと起きなさいよ!!」
「グヘェ・・・!」
涙目のリズからボディーブローを食らわされて、俺の意識はもう一度飛びそうになった。
こいつマジか・・・・
「リズ・・・・そこは『心配したんだから・・・・』とか言って静かに抱きつくところじゃないの?意識失った友人が目を覚ました瞬間ボディブローってお前・・・・・」
「うっさいわね!キリトとアスナが動かないあんたを連れて帰ってきたときどれだけ心配したと思ってるのよ!」
「・・・・・・ああ、悪かった。心配かけたな」
「フン・・・・分かればいいのよ」
そんなに目に涙浮かべて怒られたら素直に謝るしかないだろう。
まぁリズ目線だと、店で心細く俺達の帰りを待っていたのに、帰ってきたうちの1人がピクリとも動かない状態になってた訳だから、かなり怖かったんだろう。
「本当によかったよ、クレハ君・・・・・」
「ああ、心配したんだからな」
「悪い、2人にも迷惑かけたな」
とりあえず生きて戻ってこれて何よりだ。明日からはまたのんびりと万屋業を続けて・・・・
いや、そういうわけにも行かないかもしれない。あれをキリトに見られたんだ、気づかれているかもしれない。
いや間違いなく気づかれている。でないと俺のサポートに来たアスナを制止するなんて事はしないだろう。
「・・・・・クレハ、一つ聞きたいことが有る」
「・・・・・・・・なんだ?」
ああ、来てしまった。もう観念するしかないみたいだ。
キリトが次に何を言うのかすら容易に想像できる。
「『
・・・・やっぱりな。
お前ならすぐに気づくと思っていた。だから会いたくなかった。
だからあの戦い方を見せたくなかった。
けど、ここまで来たらもう隠し通すことは出来ない。すべて話すまで、キリトは納得しないだろうしな。
「キリト君、誰なの?そのアオバって人。聞いたこと無いけど・・・」
「私も心当たりは無いわね。SAOのプレイヤーなの?」
「ああ、アオバは俺が知る中で最も強いプレイヤーだ。ヒースクリフとだって対等以上に戦えるぐらいの強さを持ってる」
「団長と対等以上に!? 嘘よ・・・だってそんな人が居たらSAOで名前を聞かないわけが無いじゃない」
「そうよ、それにそのアオバってやつとクレハに何の関係が・・・・」
ずいぶんと過大評価してくれたもんだな。キリトが知る中で最も強いだって?ヒースクリフと対等以上に戦えるだって?
「さすがに、ヒースクリフには勝てないと思うぞ?」
俺の言葉にキリトは少し目を見開いたが、すぐに落ち着いて話を続けた。
「・・・・・・やっぱり、お前は・・・・・」
「ああ、今まで黙ってて悪かったな」
「ちょ、ちょっと待ってよ・・・私達にも分かるように説明して!」
「まずアオバって誰なのよ!? さっきも言ったけど、SAOにそんな名前でトップクラスのプレイヤーは居ないはずよ!」
やっぱり2人も詳しく話を知りたいらしい。当然か、ここまで来てなんでもないじゃあ通らない。1から説明するしかないようだ。
だが、『アオバ』というプレイヤーに関してはキリトが説明してくれるだろう。
「アオバがいたのはこのSAOじゃない。一つ前のSAOだ」
「1つ前のSAO? それって・・・・」
「ああ、βテスト時代のSAOさ」
「「!!」」
「俺はβテストの時、アオバっていうプレイヤーと一緒にアインクラッドを攻略していたんだ。気が合う奴でいつもパーティを組んでいたよ。アオバはかなり戦闘が上手な奴でな、俺がβテストで10層まで攻略出来たのも、アオバとパーティを組んでいたからと言ってもいい。それにアオバは他のプレイヤーが何度挑んでも攻略できなかった11層を超えて、1人で12層まで攻略していた」
「そんなプレイヤーが居たんだ・・・・・」
「けどおかしいじゃない、そんなプレイヤーが本稼動したSAOの中に居ないなんて・・・」
「ああ、俺もそう思って、最初はアオバと合流しようと思って探し回ったさ。けどどこにも居なかった。特殊な戦い方をする奴だったから、すぐに噂になると思っていたが、どこにも情報は無かった」
「特殊な戦い方って・・・まさか・・・・」
「ああ、アオバは『
「それって!! ついさっきクレハ君がやっていたことと同じ・・・・・」
「・・・・じゃあアオバっていうのは・・・・」
アスナの言葉でリズも察したらしい。
そうだ、キリトが最強と評する元βテスター『アオバ』は・・・・・
「お察しの通り、
.
.
.
俺とキリトはβテストの時からともに戦っていた仲間だった。リアルでの年齢も近く、お互いに気が合う相手だったからか、俺達はβテスト中はほとんど一緒に攻略をしていた。
俺はβテストの時から鞘と剣(そのときは刀が無かったから曲剣だった)を使った戦い方でゲームをプレイし、キリトからは『なぜそんなに無駄の無い動きが出来るんだ?』などと呆れられたりもしていたが、俺からしたらキリトの反応速度も人のことをいえないだろうと思っていた。
そうこうしているうちにβテストは終了し、製品版発売までの1ヶ月間、俺はもう1度SAOの世界に入るのを待ち遠しく思いながら日々をすごしていた・・・・・
「聞かせてくれアオバ・・・いやクレハ。お前がどうして名前を変えてここに居るのか」
「ああ、話してやるよ。全部な」
俺はキリトの聞きたがっていることをすべて話してやることにした。
キリトが聞きたがっていることは大体想像がつく。
「まず名前が違うのはなんてことは無い、βテストの時のデータを引き継がなかったからだ。俺は1からアインクラッドを攻略しなおしたかったから、新しくキャラクターを作ったんだ。そのときはデスゲームになるなんて思ってもみないからな」
そして、キリトが1番聞きたいのは名前の違いなんかではなくこれだろう。
「俺がお前と合流しなかった理由、そして、攻略組になっていない理由はな・・・・」
βテスト時代に最強とまで評された俺がなぜ攻略組にならず、万屋なんてものをやっているのかについてだ。
リズもアスナも興味深そうに俺とキリトの話を静かに聴いている。
いろいろと理由はあるが、一番の理由はコレだ。
「なりたくてもなれなかったからだ」
「「「は?」」」
静かに聴いていた2人も俺の発言に虚をつかれたのか、ずいぶんと間の抜けた表情をしている。
そう、俺は攻略組にならなかったんじゃない、なれなかったんだ。
「ちょ、ちょっとまってくれ!お前ほどの実力がある奴が攻略組に入れないわけが無いだろ!現に今日だって・・・・・」
「そうよ!1人で沢山の敵を引きつけながら、それを全部倒し続けてたじゃない!」
「え゛え゛!?あんたそんなことしてたの!?めちゃくちゃじゃない・・・・」
3人の反応が全く同じで見ていて面白いな。
その場を見ていなかったリズに関しては別の意味で驚いているようだが・・・・
けれど俺は嘘をついているわけではない。俺は攻略組になりたくてもなれなかった。それは事実だ。
その理由は単純なうえに、ここに居る3人はその様子を目撃しているはずなんだがな、ノーヒントじゃさすがに分からんか。
「確かにβテストの時みたいに、あの動きがずっと出来るなら、俺は今頃攻略組で戦っていただろうさ。けど、現に俺は今ベットの上だろ?」
「あの動きがずっと出来るなら・・・・?」
「今ベットの上・・・・?」
「クレハ・・・・まさかお前・・・・」
「・・・・・
キリトのその発言に俺は苦笑いで答えてやる。
「大正解。長時間本気で戦闘すると、今回みたいに意識を失っちまうんだ」
そう、βテストの時と違い、今の俺は長時間戦闘することが出来ない。
厳密に言うと『長時間集中し続けることが出来ない』というわけだ。
強力なボス敵や大量の敵に囲まれない限り倒れることは無い。早い話が、『あの構えで長時間戦うことができない』わけで、万屋業には全く影響が無い程度だ。
しかし命を掛けて戦うことの多い攻略組にとって長時間集中できないのは致命的すぎる。
コレに気づいたのは第1層の迷宮区で戦っていた時だった。
βテストの時の知識だけでダンジョンを攻略していた俺は、βテストから攻撃のモーションが変わっている敵の攻撃を食らって、そのまま敵に囲まれてしまった。
そこで、デスゲームになって初めて鞘と剣を使った戦い方で敵を全滅させたのだが、本当のピンチはここからだった。
急に体が動かなくなりその場に倒れこんだ俺は、さっきと同じようにじわじわと意識を失っていった。何がなんだか分からなかったが、このままではまずいと思い、偶然宝箱から発見した転移結晶(当時は超貴重だった)をなんとか取り出し、始まりの町へと帰還して意識を失った。
「そのときに睡眠PKの手法が広まって無くてよかったよ、転移門の前で1日気を失ってたからなー」
「危なすぎるわね・・・」
「というかどうして誰も起こさなかったのかしら?」
「転移門の前で倒れてるプレイヤーなんて怖すぎて誰も近づかないだろ」
「おまえら言いたい放題だな」
その時は本気で焦ったんだぞ、未知の状態異常かと思って情報を集めまくったりもしたがそんな報告は一切無かった。それで問題があるのは自分だって事に気がついたんだ。
「俺は昔から集中力が異常に高い子供だったらしくてな、集中しすぎて熱を出すこともあったし、声を掛けても一切反応しない時もあったらしい」
「異常に高い集中力かー、それであんな神業戦闘ができるのね。SAOは脳で感じている世界だから、集中力がすべてだもの」
「ああ、本気で集中すると、敵の動きや周りの景色がスローモーションで見えるようになってな、攻撃を受け流したり隙を突いたりすることが出来るようになるんだ」
「チート臭いわねそれ・・・・」
「キリトの反応速度も似たようなもんだろ」
βテストの時に1度デュエルをしたことがあるが、完璧に隙を突いたと思っても、どれだけ体制を崩しても紙一重で避けられて、結局決着はつかなかった。
俺がチートならあれも十分チートだろう。
「けど、どうして本稼動から意識を失うようになったのかな?βテストから仕様を変えたのかしら・・・」
「それは無いんじゃないか?集中力なんて人それぞれなんだ。それに、急に意識を失うなんて、いくらなんでも危険すぎる」
「そうねー、なんでかしら?」
3人は悩んでくれているが、正直なところ、俺にはもうその理由が分かっている。悪いのはSAOではなく俺なんだ。
「それは多分、俺の受けた手術のせいだろうな」
「手術って・・・・・あんたリアルでどこか悪いの?」
「いや、俺は健康そのものだよ、ただ俺はドナー登録しててな、SAOが始まる前に骨髄移植のドナーとして手術を受けたんだよ」
「骨髄移植ってずいぶん珍しい手術ね。そう簡単に行われるものじゃないと思うけど・・・・」
「俺の体は珍しい型だったらしくてな、担当の先生が息を荒げながら話を持って来たよ。白人の1%にしか見受けられないかなりレアな種類らしい」
「白人の1%って、あんた日本人じゃない」
「俺はクォーターだぞ。ほら、目が青いだろ」
「それキャラメイクじゃなかったのか!?」
「失礼な、自前だよ」
リズみたいなピンク髪にピンク目なんていうありえない色じゃないんだし・・・
まぁ隔世遺伝ってやつで、俺の外見は明らかに日本人だから気づかないのも無理は無いか。・・・・・ちなみにこの目のせいで俺はずいぶんと深い中二病を患った。
「それで、実は手術が終わった後に『しばらくは激しい運動とかは控えて、安静にしてください』って言われてたんだ。SAOなら体を動かすわけじゃないから大丈夫だろうと思ったが、厳密には体を動かすことじゃなくて脳を酷使するのがまずかったみたいだな」
体を動かすって事は脳が働いてるって事だし、血液の流れとかその辺にも影響が出る。詳しい事は分からないが、問題なのは体を動かすってことじゃなくて、その結果起こる脳の酷使だったらしい。
「・・・・ってことは自分のせいじゃない!」
「・・・否定できないな」
だってSAOやりたかったんだから仕方ないじゃないか、βテストが終わってからずっと待ってたんだぞ。
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「ま、まあクレハが攻略組に入れなかった理由は分かったよ。けど、どうして俺や他のプレイヤーとの接触を避けたんだ?β時代の知り合いを誘えば、万屋ももっと利用者が増えるだろうに」
「βテスター全員がお前みたいに素直に聞き分けてくれるわけが無いだろう。中には無理やり前線に出そうとする奴が居るかもしれないし、そもそも未だにβテスターを目の敵にしているような奴もいるんだ。広まったら今みたいな生活は送れないよ。過去に前線に立たなかったことについて制裁を受けるだけだ。お前だけには話しても良かったかもしれないが、どこから情報が漏れるか分からないからな、アルゴに頼んで『アオバ』の情報は完全に抹消したのさ」
「アルゴが情報を操ってたのか・・・・そりゃあお前の情報が見つからないはずだ・・・・」
情報に関してはアルゴの右に出るやつは居ない。それにアルゴはβテスターの情報は売らないと宣言もしているから、俺の情報はあっという間に消えてくれた。
けど、俺の情報が早めに消えたのはそれだけが理由じゃない。
そして俺がキリトに会いたくなかったもう一つの理由でもある。
「・・・・キリトには謝らないといけないな」
「いや、お前の事情はわかったよ。正体を隠していた理由も、元βテスターと関わらないようにしていた理由もな、全部仕方ないことじゃないか」
「そうじゃない。もう一つ有るんだ、俺がお前に会うのを避けていた理由が・・・」
「?」
そう、やりたくても出来なかった理由なんてものじゃない。完全に俺の自分勝手な理由だ。攻められても仕方が無い、キリトにずっと謝れなかった理由だ。
「俺の情報がすぐに消えた理由はな、お前が『ビーター』になったからだよ」
「!!」
「お前がビーターになって、『卑怯なβテスターはキリト』っていう認識を広めたから、『アオバ』の情報はすぐに消えていったんだ。俺はお前を犠牲にして逃げ延びたんだよ、お前を隠れ蓑にして俺はクレハになったんだ」
キリトがβテスターへの恨みをすべて受けたから俺は助かったんだ。本当に恨まれるのは俺だったのに。けど俺はキリトを助けるどころかそれを利用して完全に姿を消した。
「仕方ない理由なんてもんじゃない、俺は自分のことしか考えずに・・・・」
「うそだな」
「・・・・え?」
嘘って何が嘘なんだ。俺はお前を見捨てたんだぞ?
「自分のことしか考えなかったなんてうそだ。 じゃないと、11層と12層のボス情報があったことに説明がつかない」
「!!」
「確かにそうね、12層のボス攻略会議の時、確かにボスの攻略情報がアルゴさんの攻略本に載っていたわ。βテストで12層まで攻略できたのは『アオバ』君だけってことは・・・」
「そういうことね、その情報ってあんたがアルゴに渡したんでしょう?」
「それは・・・・」
たしかにそうだ・・・・けどそれだけじゃあ・・・・
「その情報のおかげで俺達は死なずにすんだんだ」
「けど!たった2層分だろう!自分勝手なことに変わりは・・・・」
「じゃあ今日、どうしてお前は倒れるまで集中してあいつらを助けたんだ?」
「・・・・・・」
「なあクレハ、もう自分を許してもいいんじゃないか?確かにお前はβテスターのトップランカーだ。自分が戦えていればって思うのかもしれない。けど、今のお前に助けられた奴もいるはずなんだ。命を助けることがすべてじゃない。小さな悩みを抱えた奴を助け続けてきたんだろ? だってお前の店は、そういう店じゃないか」
万屋「秋風」
・・・・・・・ああ、そうか。
結局俺は自分を許しちゃいけないと思い込んでただけなのか。
俺がしないといけないのは戦って命を掛けることだけなんだと思ってた。
それが出来ない俺は卑怯者なんだと思ってた。
けどそうじゃないのか・・・・・
俺は間違った訳じゃなかったのか・・・・・
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次の日、俺の店は今までに見たことが無いほどにぎわっていた。
・・・・・・・・・・・・客は1人もいないがな
「・・・・・結局こうなるのか」
「クレハー、クッキー切れたわよー」
「キー坊はオレンジジュースじゃなくていいのカ?」
「子ども扱いするなよ!コーヒーぐらい飲める!」
「このカプチーノって一体どうやって作ったの!? まさか料理スキルの初完全習得者ってクレハ君のことだったの!?」
ティータイムメンバーにキリトとアスナが追加されてかなり騒がしくなった。
なんなんだお前らは、毎日きっちりPM3:00にきやがって!
というかというかアスナは副団長だろ!こんなとこでコーヒー飲んでいいのか!
リズもアルゴも自分の仕事があるだろ!キリトは・・・・・・ぼっちだからいいか。
「おい、今なんか失礼なこと考えなかったか!?」
「気のせいだ」
日に日ににぎやかになっていく万屋「秋風」
相変わらず仕事は少ないが
今ならこんな日常も悪くないと思える。
というわけで第五話でした。
主人公の過去話と、あやふやにしていたところを一掃したので
かなり長いです。
主人公の戦い方についてはまた別の話で掘り下げます。
ちなみに途中の手術のくだりであのキャラの生存フラグを立ててます。
他の作者さんと被っているかもしれませんが、どれだけしらべてもあの病気の治療法がこれ以外出てきませんでした。それも成功例は極めて少ないそうです。