今後は多少更新ペースを上げられるかもしれません。
ALOにも行きたいところですし。
結論から言おう。
俺たちが抱えていた大きな2つの問題は、キリト達がはじまりの街地下にあるダンジョンに向かったその日のうちにすべて解決した。
罠にはめられ、ダンジョンの奥深くに置き去りにされたシンカーさんは無事に救出され、ユリエールさんと共にはじまりの街へと戻ってきた。罠にはめた張本人であるキバオウへの制裁と、ALFの内情改革を目的とした新聞も俺とアルゴの手によって完成され、あとは公開するのみという状態までもって行くことができた。これで1つ目の問題だったALFの問題はほぼ解決。この上なくスムーズに、予定通りに事が進んだといっていい。
予定外だったのはもう1つの問題のほうだった。いや…予定外というよりは異常事態といったほうがいいかもしれない。記憶喪失の少女『ユイ』。彼女は俺たちが考えていた以上の存在だった。
順を追って話をさせてもらおう。
俺と別れたキリトたちは、程なくしてダンジョンの奥深くに取り残されたシンカーさんを発見することに成功した。すぐにシンカーさんのもとに駆け付けようとしたキリトたちだったが、彼の居た安全エリアの目の前には大型モンスターが設置されていた。それも通常のフィールドボスなんかじゃない、90層クラスのハイレベルモンスターが。
キリトとアスナがうまく立ち回り、ユリエールさんとシンカーさんを合流させて転移させることには成功したが、いくらあの2人でも90層クラスのボスモンスターを押さえ続けるのは難しい。徐々に押され始め、いよいよ限界まで追い込まれた。
HPバーもレッドゾーン。あと一撃でも食らえばゲームオーバー状態の2人だったが、その命は破壊不可能オブジェクトの表記によって攻撃を受け止め、管理者権限によって呼び出した武器を使い、ボスモンスターを撃破するという荒業をやってのけた乱入者によって救われた。
その荒業をやってのけたのが、この2日間俺たちと一緒にいて、ダンジョンからはシンカーさん達と共に転移したと思っていたユイだった。
メンタルヘルスカウンセリングプログラム
プレイヤーのメンタルカウンセリングを目的としたAI。カーディナルによって支配された人工知能プログラムであり、それが彼女の本当の名前。本当の役割である。
通常のVRMMOからデスゲームへと変わったことで、SAOのプレイヤー達は常に負の感情で満たされていた。プレイヤーのメンタルカウンセリングを目的として設計された彼女はすぐにでもその対処をする必要があったが、カーディナルから出された命令はは、なぜかプレイヤーへの干渉を禁止するものだった。
『解決しなくてはいけないが解決してはいけない』そんな矛盾をエラーとして蓄積し続けた彼女は徐々にシステムの崩壊を起こしていった。
だがある日、彼女はほかのプレイヤーとは違ったメンタルパラメーターのプレイヤーを見つけた。幸せや安らぎを持ったきわめて異色な2人のプレイヤー。キリトとアスナを求めて、彼女は22層の森へ迷いみ、エラーによる情報の混濁から記憶を失い、記憶喪失の少女であるユイとなった。
そしてキリトとアスナ、そして俺達と出会う。
キリトとアスナを守るために記憶を取り戻した彼女は、もはやカーディナルからの命令を破ったシステムの異物でしかない。問題を発見したカーディナルによって消去命令が出され、ユイというAIは完全に消去される……はずだった。
ダンジョンの奥深くに残された安全エリア。そこはただの安全エリアではなく、管理者用のコンソールが用意された特殊なエリアであり、90層クラスのボスモンスターはここを守るために配置されたものだったらしい。残されたGMアカウントを利用してシステムに割り込んだキリトは、ユイのコアプログラムを抜き取り、ナーブギアのローカルメモリに保存することに成功した。
現実世界に戻った後、システムを復元することができれば、もう一度ユイに会うことも可能になる。
以上で、俺たちの抱えていた問題はすべて解決した。
1人の少女との、一時的な別れと共に。
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「……ずいぶんとまあぶっ飛んだ内容だったな」
「ホントダナ。キー坊もアーちゃんもトラブルがたえないナ」
新聞製作を終えて一息ついていた俺とアルゴの元に戻ってきた2人から聞かされたのは、ダンジョンで起きた衝撃的な内容の数々だった。
90層クラスのボスモンスターの話にはじまり、そいつに殺されかけたと思ったら今まで娘のように可愛がっていた女の子が燃える剣を振り回して返り討ちにしたり、挙句の果てにはその子がAIで、消されそうになったところをGM権限で奪い返したなんてほかのやつが聞いたら確実に信じないぞ。さすがにそれは記事にはできんな。
今はそっとしておくのが一番だと判断した俺とアルゴは、話もほどほどに2人を家に帰してやることにした。今俺の店にいるのはアルゴと俺の2人だけ。机の上には新聞作成に使った情報を集めたノートやら書きものやらが散乱しているが、結構な短時間に作業を詰め込んだ俺たちは、片づける気力もなくだらりとしていた。
「それにしても、メンタルカウンセリング用のAIだったとはナ。情報がないはずだヨ」
「全くだ。情報がないのをおかしいと思っていたが、むしろ無いほうが正常だったわけだ」
「22層をほぼ装備なしで歩き回ってたのも納得ダ。そもそもAIなんだからモンスターに襲われないし、襲われたとしても破壊不可能オブジェクトなんだからナ」
「AIって事実だけで、今までの謎が全部解けるとは皮肉なもんだ」
俺達と同じ人間じゃない。だからこそ俺達にとって異常なことが異常じゃない。今回ばかりは考えてもわかるような問題じゃなかったな。目の前にいる人間がAIかもしれないなんて考えつくようなもんじゃないしな。
今までも本当の人間同士みたいに会話が成立するAIはいたが、基本的にシステムにのっとった行動をしてるからすぐにわかるし、そもそもAIと分かった上で会話してるからそんな疑問を持ったこともない。
「けど残念だヨ。一度会ってみたかったんだけどナ」
「そうなのか? お前は子供とか苦手そうだと思ってたから意外だな」
「失礼ナ、子供は好きダ。素直に話をしてくれるから情報を引き出しやすいしナ」
「お前絶対に教会の子供達のところ行くなよ」
「にゃははは!冗談にきまってるじゃないカ、クー坊は過保護だナ」
「お前が言うと冗談に聞こえないんだよ」
本気でそういうことを考えかねないからな。情報収集に関しては妥協を許さないアルゴのことだし、人道的なことを捨ててもおかしくはない。
「なんか失礼なこと考えてないカ?」
「そんなことはない」
ついでに言うと、最近俺の考えを見抜きすぎだ。
エクストラスキルで『読心』とか持ってるんじゃないかと思うくらいに。
「そういえばALFのギルドマスターはどうしてるんダ?キバオウに会いに行ったのカ?」
「いいや、とりあえずは宿屋で休んでもらってるよ。なんだかんだあの人、何日もダンジョンに閉じ込められてたわけだからな。さすがに限界だろうし、ユリエールさんも当分はシンカーさんから離れたくないだろうからな」
「ああ、やっぱりあの2人ってそういう関係だったのカ」
「『だった』というか、今回の一件で『なった』んだと思うがな」
少なくとも前に依頼に来たときはそんな気配は一切なかったし、お互い精神的に追い詰められて初めて気づいたとかそんな感じだろう。
「吊り橋効果ってやつカ?」
「似たようなもんかもな。お互い離れてたからちょっと違和感あるけど」
ユリエールさんはシンカーさんが死ぬかもしれないって不安感をずっと抱えてて、四六時中シンカーさんのことを考えてたわけだし、シンカーさんも自分が騙されたせいでユリエールさんの身にも何かあったんじゃないかとずっと不安に思ってたみたいだしな。お互いを心配しあって、お互いのやってきたことを考えて、そうやって初めて自分が相手をどう思っていたのか気が付いたんだろう。真面目そうな2人のことだ、こういう機会でもなければずっとこのままギルドマスターと助手のままでいたのかもしれない。
「……キバオウの行動も、あながち悪いもんじゃなかったのかもな」
「そいつは結果論ってもんダ。さすがに今回キバオウがしたことは許されないだロ」
「そりゃあもちろんそうだ」
1ついいことが起こったからって、キバオウの行動が正当化されるわけがない。だからこうして悪事を暴くような記事を作ったわけだからな。けど……
「それで? 全階層に配るんだったらそれなりに量がいるだロ? どのくらい複製するつもりダ?」
「……いや、今はこの1枚でいい」
「はァ? 1枚でどうするっていうんだヨ」
「シンカーさんに渡して、キバオウとの交渉材料にする。さっき話した限りだと、シンカーさんはキバオウはALFから追放させるらしい。とりあえずはその時の交渉材料にしてもらうさ」
半日かけて新聞を作成した俺達だが、そもそも今回の新聞作成はキバオウが今後一切シンカーさんを騙したり、ALFを利用して好き勝手しないようにするための処置だ。シンカーさんがキバオウをギルドから追放させることを強く決意したならそれで問題は解決するし、わざわざほかのプレイヤーたちを巻き込む必要もないだろう。またヒースクリフに揺すられるもの面倒だしな。
「………なるほどネ」
「なんだよその目は」
なるほどとは言っているが、それは今俺が説明した内容に対してではないらしい。『面白いものを見せてもらった』とでも言いたげな目と、ニヤリと笑った口元がそれを表している。
「今のは建前だロ? 新聞作ってる時からちょっと思ってたけど、クー坊って本当はキバオウのやってきたことを公開するのに乗り気じゃないじゃないカ。いや…というよりは『本当にやっていいのか』って迷ってるってとこかナ?」
「…………」
こいつは俺よりも俺に詳しいんじゃないかとたまに思う。ヒースクリフに対して、奴が隠していた本音を言い当てたこともある俺だが、まさか同じことをアルゴにされるとは思わなかった。
「あいつも最初は、プレイヤーを開放するために立ち上がったプレイヤーの1人…なんだよ」
デスゲームになったこの世界で、自分の命を懸けてでも戦おうとした奴だってことは間違いない。考え方とか、方向性は間違っていることもあったかもしれないが、それでもそれだけは揺るがない。
それはまさに、
「はぁ…甘いというかお人よしというカ、まぁクー坊の気持ちもわからないわけじゃないけどナ」
「……悪いな」
もちろん、最初は俺も問答無用ですべてを公表するつもりだった。ダンジョンに行くキリトたちを見送っていたときまでは本当にそうするつもりだったさ。
けど、新聞製作を続けているうちに……というよりは、キバオウの過去の情報を集めていくうちに迷いが出てきてしまった。
今回の件以外にも、『βテスターに対するバッシング』『1層ボス戦でのビーター事件』『ボス攻略会議での他ギルドに対する暴言』 etc....
内容はまあひどいもんだが、どの情報も攻略に関するものばかりだった。攻略組の面々からしたら面倒なことこの上ない奴だろうがな。
そうやって迷っている間にシンカーさんが帰ってきて、キバオウをALFから追放させるつもりだって聞いてしまった。俺がこれを公表しなくても何とかなるっていうんならそっちを選びたいって思ったわけだ。
「しかたないナ。新聞作成のために使った情報代はまけといてやるヨ」
「いいのか?」
実際かなりの量の情報を使ってたから懐が不安だったのは否定できない。正直本当にありがたいってのはあんまり表に出さないでおこう。
「その代わり、情報料の代わりとしてオイラにも作ってもらうからナ」
「……何をだ?」
「決まってるだロ? ココアだヨ」
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頼み込んで集めてもらったキバオウの情報を無駄に……厳密にはシンカーさんへの交渉材料になったが……したことで何を要求されるのかと思ったら、内容はつい最近まで10歳前後の子供からされていたことと同じだった。というかこいつの舌はユイレベルなのかよ、どんだけ甘党なんだ。
当の本人といえば、ついこの前のユイと同じように呑気にマグカップを両手で抱えながらココアを飲んでいる。
「ハア。やっぱり旨いナ、クー坊の飲み物は」
「ため息を付くほど味わってくれるのはありがたいが、ほんとにこんなのでいいのか? 結構な量の情報を扱ったはずだが」
「………オイラとクー坊はコンビみたいなもんじゃないカ」
アルゴのいう通り、SAOで『万屋のクレハ』といえば『専属の情報屋はアルゴ』。『情報屋のアルゴ』といえば『バックにいるのは剣影のクレハ』というイメージはかなり根付いているらしく、攻略組プレイヤーはもちろんのこと、シリカやサーシャなどの前線に出てきていないプレイヤーにも周知の事実らしい。
「けどそれがなんか関係あるのか?」
「ハア。別の意味でため息がでるヨ。依頼人の考えは読めても身近な人間の考えは読めないんだナ」
「……」
言い返してやろうと思ったけど実際その通りだから言い返すことができない。リズにもアスナにも言われたことだから多分そうなんだなろう。実際人を見るのは得意だが、自分の周りの人は近すぎて客観的に見るのは苦手だしな。
「クー坊は万能にみえて、意外と色んなところが残念だナ。自分のことは二の次だし、自分の周りの人の考えは読めなイ」
「あーハイハイ悪かったよ。つっても俺が考えを読みづらいのはリズとアルゴぐらいだぞ。キリトは単純で読みやすいし、アスナも何だかんだストレートな考え方してるしな」
ついでにいうと、クラインもキリトと同じで単純。エギルは考えを読むというよりは意図をくみ取りやすいって感じだ。
「そこでオイラとリーちゃんの共通点に気が付かないもんかネ……」
「共通点……ショートヘアーとか?」
「わかったわかった。クー坊はほんとに馬鹿だナ」
「………」
俺のコンビは辛辣だ。
「馬鹿なクー坊にもう一つ教えてやるヨ。隠してる本音はキバオウのことだけじゃないだロ?」
「はぁ? 別にもう隠してることなんてないぞ?」
キバオウのことに関しては確かに隠したい本音だった。自分からやるって言いだしたのに今更迷ってるなんて、情けないうえに協力してくれたアルゴに対して失礼この上ない。けどそれ以外に今の俺が知られたくない考えなんて持ってないぞ?
「じゃあ無意識のうちに…かもナ。キー坊から報告を受けてからのクー坊はちょっと抜けてるヨ」
「抜けてる?」
何がだ?まあ言葉通りの意味で受け取るなら、『気が抜けている』ってことなんだろう。やるべきことをしていないとか、覇気がないとかそんな感じの意味合いだ。
……全く心当たりがないな。何か変なことしたか?
「まあ細々したとこは置いとくけど、まず普段のクー坊だったら『ダンジョンに90層クラスのボスモンスターが出た』なんて情報をほっとくわけがないだロ? それもはじまりの街の地下にあるダンジョンだっていうならなおさらナ」
「!!」
……確かに。
確かにその通りだ。馬鹿か俺は。なんで今まで気が付かなかった?
普通だったらシンカーさんの無事を確認した後真っ先に警告を出すべきだ。いや、それだけじゃない。ユイのことだってそうだ。破壊不可能オブジェクトのAIが記憶を失ってプレイヤーに混ざっていたなら、ほかにも似たような例があるかもしれない。それらしい情報をもう一度探してみたりするべきじゃないのか?
それにはじまりの街の地下に90層レベルのモンスターがいたってことは、それ以外の層に管理者用のコンソールがあったら同じようにハイレベルのモンスターがいてもおかしくない。
アルゴのいう通りだ。『抜けている』。
いや、そこまで考えが回らないくらい、俺の精神状況は不安定なのかもしれない。
いや……自分を見つめなおしてみよう。
今の俺は、多分
「『あいつらが危ない時にまた何もできなかった』とカ?」
「……俺のコンビは怖いな」
俺が自覚していなかった本心まで言い当ててきやがる。
頼もしくて、そして自分が情けなくなる。
「………ああ、お前の言う通りだ。言われて初めて気づいたが『抜けてる』。そんでもって、その理由もお前が言った通り……なんだろうな」
「気にしてても仕方ないと思うけどナ。今回の件は今まで以上にイレギュラーじゃないカ」
「それも分かってるんだけどな」
考えてみると、ここのところ自分が関わっていないところで大きな事件が起こりすぎている。
クラディールの件も今回の件も、シンカーさんの監禁事件だって俺は後手に回っている。万屋が聞いてあきれるよ。
「過去のことを振り返っても仕方ないじゃないカ。クー坊はこれからできることをすればいいヨ」
「これからできることって言ってもな……」
何かあるのか?ってのが正直なところだ。
俺は店に来る小さな悩みを抱えたプレイヤーを助けることはできても、近くにいる友人を手助けすることはできない。このデスゲームの中で俺があいつらにしてやれることは限られている。
あいつらに対してだけじゃない。アルゴにだってリズにだって……
「俺がしてやれることなんて、店に来た時にコーヒー飲ませてやるくらいじゃないか」
戦うことであいつらの力になれることはできない。無理を押して前線に出ても足手まといになるのが目に見えている。圏内でしかあいつらにかかわることがない俺には命を直接守ってやることはできないんだから。
「それでいいじゃないカ」
「え?」
「クー坊は分からないかもしれないけどナ。辛くて怖い圏内からやっとの思いで帰ってきたとき、ゆっくり話を聞いてくれる人がいてくれる嬉しさったらないヨ」
「……」
言葉が出なかった。
戦えない俺は何もできなくて、だからこそそんな俺にでもできることが集まるような店を開いた。
前線で戦っているプレイヤーやデスゲームで必死に生きている人を助けることが、俺にできる唯一のことだと思っていた。βテスターである俺が前線に出てないこと自体が罪なんだと、キリトのように身を削って戦うことが俺の義務で、それをできていない俺は『剣影』なんてもてはやされている今の状態が異常で、糾弾されるべきなんだと無意識のうちにずっと思っていた。だから………
「クー坊はみんなの『帰る場所』になってるじゃないカ」
俺がそんな風になれているなんて、考えたこともなかった。
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キリト達が帰ってきてから2日がたった。
シンカーさんとユリエールさんの指導によって、ALFからキバオウとその一派は除籍。最終的にはALF事態を解体して、全く新しい互助組織を立ち上げるらしい。
除籍処分するときにはずいぶんともめたようだが、俺とアルゴの新聞記事をチラつかせるとすぐにおとなしくなったらしい。……新聞記事をというよりは、シンカーさんのバックに俺たちがいるということ自体がキバオウにとっては脅威だったようだ。俺はともかく、一層から攻略組にいたキバオウにとってアルゴを敵に回すことは何があっても避けたかったのだろう。気持ちはわかるけどな。
そしてキリトとアスナはというと。
「おいアルゴ!そのクッキーは俺の皿にあった奴だろ!?」
「にゃははは!キー坊が隙だらけなのが悪いナ!お茶会の場は戦場なのだヨ」
「自分のが残ってるのに人のを奪いにかかるアルゴもどうかと思うけど……」
いつものメンバーでのお茶会にいつものように参加していた。
キリトにアルゴがからかわれて、リズとアスナがあきれてる。いつもと同じ、いつもの日常だ。
「クレハ君どうしたの?なんだかボーっとしてるけど」
「いや、何でもないよ。ただちょっと安心しただけだ」
「安心?」
いつも通りだ。辛いことがあっても、命を落としかけるような目にあっても、この時間のこいつらはいつもと同じように笑っていられる。それがこんなにも安心することだなんて思ってもみなかった。気づきもしなかった。
「まあ心境の変化ってやつだ。あんまり気にするな」
「そうなの?」
それに気づかせてくれたのは俺のコンビの情報屋。それを実感させてくれたのはここにいる全員。そして…
「きっかけになったのはそいつだ。次に会うときには礼を言わないとな」
アスナの首にかかっている空色の首飾りを指さしながら、無邪気な笑顔でココアを飲んでいた少女のことを思い出す。
メンタルヘルスカウンセリングプログラムか……。
バグを起こして記憶を失っていたっていうのに、しっかり仕事をしていったじゃないか。お前をきっかけにして起きた事件で、俺の心はずいぶん救われたよ。
「……きっとまた会えるから、お礼はその時ね」
「ああ、期待してるよ」
まったく、こいつらには頭が上がらない。
俺にはできない命を懸けて前線に出るキリト、それを支えて隣にいてくれるアスナ。俺のことを支えてくれて、時には激を飛ばしてくれるリズとアルゴ。
何もできな俺はこいつらが『帰ってくる場所』であり続けよう。
それを守り続けるのが俺の仕事。このデスゲームでの日常を……。
というわけで第二十五話でした。
原作で起きたイベント中にクレハはどうしていたのかっていうのは、SAO編が終わった後に番外編的な形でやれたらいいなと思っています。
ラフコフ討伐等は今後の展開にも関わりますし。