私生活が非常に忙しくなり始めたせいで、なかなか話を作ることができません。
これから少し更新ペースが落ちるかもしれませんが、がんばります。
ユイがはじまりの街で気を失ってから、俺達はサーシャの好意に甘えて教会でユイを休ませることにした。ユイが目を覚ますのには丸1日かかったが、キリトとアスナがユイに付きっ切りになっていた間に、俺はユイについて知っている限りのことをサーシャに伝えることができた。
そして朝になり、教会の食堂で朝食をとりながら、俺達は今の状況を整理することになった。
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「これは・・・すごい光景だな」
「恥ずかしながら、毎日こうなんですよ」
「す、すごく・・・・にぎやかですね」
教会の食堂には30人近くのプレイヤーがにぎやかに朝食をとっている。パンを取り合っている子や美味しそうにサラダをほお張っている子までさまざまだ。その全員が10代前半かそれ以下の子供のプレイヤー達なんだから、そりゃあにぎやかにもなるだろう。
「ユイちゃんの具合はどうですか?」
「昨晩ゆっくり休んでいたおかげでもう大丈夫みたいです」
「問題ないだろ。朝会っていきなり『ココアつくって』だったからな」
「おいしいよ?」
「・・・そりゃよかった」
昨日あれだけ盛大に気を失った当の本人は、マグカップを抱えながらご満悦みたいだ。元気になったならそいつは何よりだが、昨日みたいな事が頻繁に起こるようだとさすがに問題がある。十分警戒が必要だろう。
「昨日クレハさんからおおまかな話は聞かせてもらいました。残念ながら、はじまりの街にいた子ではないと思います。子供達にも話を聞いてみましたが、皆心当たりが無いようで」
「俺も昨晩、アルゴと連携して情報を集めたが空振りだ。ユイの関係者らしきプレイヤーは見つかってない」
「そうか・・・・」
「いったいユイちゃんはどこから来たのかしら・・・」
何かあると思って来たはじまりの街だったが、かえって手詰まりになったのかもしれない。というか、アルゴが一晩かけて情報を集めたのに空振りって時点で、かなりの異常事態だ。俺達がちょっと調べたところでそれを超える情報は得られないだろう。
「分からないものは仕方ない。今は焦らず少しずつルーツを探していくしかないだろ」
「・・・クレハの言う通りかもな。はじまりの街にいたわけじゃないんなら、ほかの層にいたのかも知れないし、ゆっくり1層から巡ってみよう」
「そうね、そこでまた何か思い出すかもしれないし・・・」
望み薄だろうけど・・・・とここにいる全員が思っているが口には出さない。
落ち込んでても仕方ないし、無理やりにでも前向きに切り替えていかないと、俺達の不安や不信がユイに伝わりかねない。なぜだかこの子は、俺達の動揺とか焦りとか、そういう感情の変化に敏感みたいだからな。
ここらでサッと別の話題にシフトして明るい空気にしておきたいところではある。
「というかクレハ。この前言っていた協会にいる知り合いってサーシャさんのことだよな? どうやってサーシャさんと知り合ったんだ?」
「よりにもよってその話題を選ぶのかお前は」
個人的にだが俺が一番触れられたくないというか、説明するのが非常に面倒な話題を選びやがったなこのブラッキー先生は。
「別にたいした事はねえよ。依頼人としてきたことがあって、それで知り合っただけだ」
「教会の運営が経済的に厳しいときがあったので、万屋『秋風』のうわさを聞き付けてクレハさんに助けを求めたんですよ」
「へー。クレハ君の人脈はほんとにいろんなところに有るね。さすが万屋」
「まあ、そういう仕事だからな」
人と関わってそいつのために動く仕事だ。人脈の広さは情報屋のアルゴにも匹敵するぐらいの広さだと自負してる。
「ん?けど経済的な問題なんてそう簡単に解決できないだろ? どうやって解決したんだ?」
「確かに、サーシャさんに狩場を教えるっていうのもなんだか違う気がするわね・・・」
「そうだよな。ここの教会の事情を知ったら、クレハがサーシャさんに危険が及ぶような提案をするとはおもえないし・・・・」
・・・・なんでこういう勘だけは鋭いんだこの夫婦は。普通そんなところ気にしないだろうが。正直スムーズな解決方法は取れなかったから、どうやって解決したかなんて詮索しないでほしいんだが。
「私も最初は自分で圏外に出てお金を稼ぐつもりだったんですが、クレハサンは私に危険が及ぶのをよしとしてくれませんでした。なので、それ以来クレハさんから資金の提供をして頂いているんですよ」
「おおい!!サーシャ!!」
言うなよ!人が一番知られたくなかったようなことを!
「すごいじゃないクレハ君! 子供達のためにずっと支援し続けてるなんて!」
「『剣影』の株がこれでまた上がるなー。なんで黙ってたんだ?」
「そういうリアクションが嫌だったからだよ・・・・」
「いいじゃないですかクレハさん。私達はすごく助かっているんですから」
そう簡単に言ってくれるが、この解決方法は俺の万屋としての方針を破っている。あまり広めたい物じゃない。
経済的に余裕のない子供達を保護している教会のために、資金の支援をしている。
これだけ聞いたら確かに美談かもしれないが、万屋としてこれほど根本的な解決になっていないものもないだろう。「食料がない人に食料を与えても意味がない。調達方法を教えるべきだ」ってのはクラインやエギルにも話したことだが、今回の俺はサーシャに資金の提供をしただけで、サーシャに資金調達の方法を教えたわけじゃない。
こんな解決方法をとってしまったのは、サーシャの依頼を100%解決する方法が無かったからっていうのが大きい。簡単に言うと、この世界でリスクを伴わずにコル稼ぐ方法なんて無いってことだ。
はじまりの街に住んでいて、圏外に出ることの無いプレイヤーの資金調達源はかなり少ない。街の中で稀に取れる果物系のアイテムを店に売って、ほんの少しコルが手に入れば万々歳って具合だ。
勇気を出して圏外にいるモンスターと戦って倒すことができれば、それなりの資金は手に入る。実際にサーシャも圏外での資金調達はしているらしいが、それでもこの人数の子供達を養っていくには足りない。資金不足にぶち当たったというわけだ。
今までも『金が無くて困っている』とか、『いい金の稼ぎ方は無いか』みたいな依頼は何度か来たが、どれも中層以上のプレイヤーでそれなりに戦える奴だったから、できるだけリスクが低くてコルを稼げるクエストだったり、狩場を教えてきた。それに、あまりにも我侭に、努力せず金がほしいなんて言ってきた客の依頼はキッパリ断っていた。
だがサーシャの場合はそうは行かない。
狩場を教えるにしても、サーシャは中層以下のプレイヤーで戦闘経験は少ない。リスクが大きすぎる。かといってここまで明確な理由がある以上依頼を断ることはできない。
それに1番の問題は、『サーシャが資金調達に時間を掛けすぎると、教会にいる子供達を守る人がいなくなる』っていうところだ。
ちゃんとした解決策を取れなかった俺は、少しでも助けになるならって事で資金の援助をしているというわけだ。それと間接的だが、ALFのやっている徴税をやめさせるために動いてたっていうくらいか。
「そういえば聞き忘れてたな。昨日のALFの連中についてだ」
「そうだったわね。確か、ALFの動きはクレハ君とALFのギルドマスターで抑えたはずよね?」
「けど、昨日のあいつらははっきりと『徴税』って言っていた。クレハが動く前と状況が変わってないのはどういうことなんだ?」
キリトとアスナの言う通り、俺とシンカーさんで徴税みたいな事を率先して行っていたキバオウ一派の動きは抑えた。これは間違いない。それに74層にコーバッツ達を特攻させた責任を糾弾されて立場は絶望的なはずだ。それなのになんでキバオウ一派の動きが抑制されてないんだ。
「なあサーシャ。さっきみたいな徴税はずっと続いていたのか?」
「いえ、ここ最近のALFはおとなしくて、徴税なんてしてませんでした。そのせいで私達も少し警戒心が薄れていたようで、昨日のようなことに・・・」
「っていうことは、確かにクレハ君達の行動で、キバオウさん達の動きは抑えられてたってことよね」
「おそらく、そういうことだと思います」
「それがなぜか再発したってことか。一体なんで・・・・」
コンコンッ
っと小気味のいい音が俺達の会話を遮るように教会全体に響いた。不意に訪れたその音が教会の扉をノックする音だと気づくのに時間はかからなかったが、あんなことが起こった後だ。ALFの連中がいちゃもんを付けに来たとしてもおかしくない。
サーシャは少し警戒心を強めて扉に向かっていった。一応キリトとアスナも扉までついて行ったから問題は無いだろう。俺はちびちびとココアを飲んでいるユイのそばから、扉を開けに行った3人を見ておくことにしよう。何かあったとき子供達の方に被害が及んだらまずいしな。
というか俺達が話している間、ユイは黙々とココアを飲んでたって事か。退屈させたかもしれないし、あとでもう一杯くらい作ってやろう。
サーシャが扉をあける音が聞こえたが、ここからだと扉の向こうにいる人は見えない。けど、3人の様子からだと予想通りALFのプレイヤーだったみたいだ。警戒を解いてないし、アスナにいたっては一応だが腰にレイピアを装備したままだ。
「ALFの方ですよね? 昨日のことで抗議に来たってことですか」
「いえいえとんでもない。むしろお礼を言いたいくらいですよ」
ん?今の声ってもしかして・・・・・
ちょっと俺も扉のほうに行ってみるか。意味有り気な言葉も聞こえたし。
「今日は御2人にお願いがあって・・・」
「ああ、やっぱりユリエールさんか」
聞き覚えのある声だったからまさかと思ったが、間違って無くてよかった。
「ク、クレハサン!? なんでここに・・・」
「クレハ? 知り合いなのか?」
「まあ、ちょっとな。ちょうどよかった、ALFについて聞きたいことがあるんですよ」
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教会に訪れてきたのは間違いなくALFのプレイヤーだった。銀色の長髪で、後頭部のあたりで髪をひとまとめにしたポニーテールが印象的な、20代中盤くらいの女性プレイヤーだ。
昨日サーシャ達をブロックしていたALFのメンバーだが、あいつらとこの人はまったくの別物だといっていい。早い話が『派閥が違う』プレイヤーだ。
「改めまして、私の名前はユリエールといいます。ギルドマスターであるシンカーの秘書のようなものです」
「この前話しただろ、ALFのギルドマスターと側近の人が依頼に来たって。その側近がこの人だ」
「なるほど、だからクレハと知り合いだったのか」
そう、この人はギルドマスターであるシンカーさんの側近で、ALFの現状を何とかしたいと思っている人達の1人だ。
「ユリエールさん。シンカーさんはどうしたんですか? 見た限りだと、まだキバオウ一派が徴税なんかを繰り返しているみたいですけど」
「キバオウの行動はクレハと一緒に抑えたんですよね?」
「それは・・・・」
予想通りというかなんと言うか、訳ありらしい。
盛大に嫌な予感がするが避けては通れん。俺達はなぜキバオウ一派が勢力的に巻き返したのかを聞かなくちゃならない。
「聞かせてください。ALFの現状依頼が変わってないなら、俺への依頼はまだ達成されてないってことになる。達成してない依頼を投げ出したなんて万屋の名折れだ」
「私達も個人的に気になるんです。子供達から徴税なんて事をしているギルドを放っておけません」
「・・・・・・わかりました。本当は、これ以上クレハさんに迷惑を掛けるつもりではなかったんですが、すべてお話します」
「別に迷惑だなんて思ってませんけどね」
ユイのことにしたって、ALFのことにしたって、情報が少なすぎるのが一番の問題だ。俺はアルゴみたいな謎の情報経路なんて持ってないし、直接知人から聞くのが一番手っ取り早い。さしあたって、情報がもらえそうなALFの問題を先に解決しよう。
「確かに、クレハさんとシンカーの行動で、キバオウ一派の行動を抑えることには成功しました。キバオウはギルドの中での立場を失い、事態は沈静化していくはずでした」
「そこまでは俺も関わっていた所だな」
「けど74層のこともあるし、今から立場を持ち直すなんて不可能じゃないか?」
「・・・・私とシンカーもそう思っていたんです」
ってことは、その状態から『キバオウが立場を持ち直した』ってことか。
とりあえず、キバオウの意思を継いだプレイヤーがいたとかじゃないだけ助かった。それだったらもっと面倒なことになっていただろうからな。
まあ問題なのは、キバオウがいったいどうやって立場を持ち直したか、なんだが・・・・
「ギルド内から糾弾され、追い詰められたキバオウは、シンカーを罠にはめるという強攻策に出ました」
「罠にはめる?」
「・・・・・・・・2人きりで話したいというキバオウの申し出に答えたシンカーを、たった1人でダンジョンの奥深くに置き去りにしたんです」
「はあ!?」
なんだそれ!?そんなの間接的なPKと変わらないじゃないだろうが。一歩間違えたら悪質なMPKの手口だといわれてもおかしくない。
・・・・・けど確かに、それならALFの現状に対する疑問が一気に払拭される。
対抗勢力のトップがいなくなったら、そりゃあ立場を持ち直すのなんて簡単だ。押さえ込む奴がいなくなったんだから。それにシンカー側の人間はキバオウを相手にしている場合じゃない。自分のリーダーを助ける事に手いっぱいになる。
「て、転移結晶は!?」
「シンカーは良い人過ぎたんです。丸腰で話し合おうという言葉を信じてしまった・・・」
「まさか手ぶらで!?」
「おいおい、流石にそれは・・・・」
確かにシンカーさんは良い人だったが、警戒心ぐらいは持っていると思っていた。
同じギルドのメンバーとはいえ、対立している派閥のリーダーの言うことを信用しちゃマズイだろ・・・・
好き勝手し放題じゃないか。馬鹿みたいな強攻策だけど結果だけ見ればキバオウの1人勝ちだ。『モンスターに襲われて、自分ひとりが助かるので精一杯だった』とでもいっておけばそれ以上の追求もできない。証拠なんて無いんだから。
「・・・かなりハイレベルなダンジョンで、身動きが取れないようで」
「そんな・・・・」
「すべては副官である私の責任です。ですが、私だけではダンジョンを攻略してシンカーの所にたどり着くなんてとてもできません・・・・」
「なるほど、それでここに来たわけか」
ようやく合点がいった。
どうしてユリエールさんがここに来たのかがずっと疑問だったんだが、なるほどそのためか。俺への迷惑なんか考えずに真っ先に連絡くれればよかったんだが、まあ結果オーライだ。
「クレハ、どういうことだ?」
「ユリエールさんがわざわざこの教会に来た理由だよ。最初に言ってただろ? 『2人にお願いがある』ってさ」
「そういえば・・・・」
「ユリエールさんは、シンカーさんを助けに行くのを手伝ってくれるプレイヤーを探してたんじゃないですか?」
「・・・本当に察しがいいですね、クレハさん」
「けど、何で私達なんですか?初対面ですよね?」
「昨日ご迷惑を掛けたプレイヤー達から聞きいたんです。恐ろしく強いプレイヤー2人にやられたと」
恐ろしく強いプレイヤーねぇ・・・・
その様子だと、この2人が攻略組の『黒の剣士』と『閃光』って事には気づかなかったみたいだな。それは好都合だ。一時脱退しているとはいえ、KoBのメンバーとALFのメンバーが揉めたなんて話になったら面倒だ。
それにそのプレイヤー達は、おそらく俺とアスナのことを言っていたんだろうな。昨日の戦闘でキリトは戦ってないから、2人にやられたって報告したわけか。俺も鞘でこかせただけなんだけどな。
「改めてお願いします!自分勝手な話だってことはわかっています。ですが、私1人ではどうしようもないんです・・・・。シンカーの救出に力を貸していただけませんか!? 彼が今どうしているかと思うと・・・・おかしくなりそうで」
「俺からも頼む。元はといえば俺に来た依頼なんだが、ハイレベルなダンジョンとなると、お前達の力が必要だ」
休暇中のこの2人に頼るのは正直申し訳ない。だけどシンカーさんの命に関わってくる問題だ。手を抜いて入られないし、人手が増えればやれることも増えるからな。
「ここまで聞いて、俺達が断ると思うか?」
「そうね、クレハ君の依頼人だっていうなら、ALFの人でも信用できるし」
「あ、ありがとうございます!」
「すまない。助かるよ」
頼んどいてなんだが、この2人なら断らないだろうと思ったよ。
そんでもって、この2人がユリエールさんに協力してくれるなら、俺は
「・・・・パパ、お出かけするの?」
「ああ、ちょっとの間お留守番しててな」
「いや!」
「「「え?」」」
「ユイもいく!」
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俺達5人は、サーシャに礼を言って教会を後にして、シンカーさんが置き去りにされている、黒鉄宮にあるダンジョンの入り口にたどり着いた。
「・・・・ほんとに連れて行くのか?」
「どれだけ言っても聞かないのよ」
「これが反抗期ってやつか」
「もうキリト君!馬鹿なこと言わないでよ」
あれからどれだけ言っても聞かなかったユイは、結局ダンジョンまでついてきた。今はキリトに肩車をされてご機嫌だ。
まあ、ハイレベルと言っても出てくるモンスターも60層クラスらしいし、キリトとアスナがそろっていれば楽勝だろう。目を離さなければ問題は無いはずだ。
「それより、クレハは本当に中までは来ないのか?」
「ああ、申し訳ないが俺は街でやることがあるからな。シンカーさんの救出は3人に任せたい」
本来なら俺もついていくべきなんだろうが、今言った通りやることがある。
シンカーさんの位置情報が分かるユリエールさんは付いて行かざるを得ないが、キリトとアスナよりレベルの低い俺が行っても大して役にはたたないだろうしな。
「いったい何なんですか?クレハさんがやらないといけない事って」
「ああ、シンカーさんを助けるだけじゃ意味ないですからね。問題の原因を消す作業をちょっと」
「原因を消す?・・というのはいったい」
「だってそうでしょう。シンカーさんを助けても、キバオウが居る限り何度でも同じようなことが起こりかねない。手口や言い方を変えて罠にはめようとしてくるはずだ」
そして、シンカーさんはそれにまんまと嵌ってしまいそうだ。
人がいいことは悪いことじゃないが、流石に今回の件は警戒心が低いと言わざるを得ない。反省して意識を変えても、根がいいあの人はきっと心から敵を疑ってかかることができない性分なんだろう。
「けど、いったいどうするんだ?」
「まあそんなに難しいことじゃない。あっちが1人を狙い撃ちして罠にはめるなら、こっちは数の力に頼らせてもらう」
「・・・あの、よく意味が分からないんですが」
「キバオウはギルド内で立場を失ったのに、シンカーさんを罠にはめて立場を持ち直した。だったら今度はギルド外からも立場を失わせてやればいい」
「それができればいいけど、そんなのいったいどうやって・・・・」
「何言ってるんだよ。すでに俺やキリトが経験済みだろ? 全プレイヤーに1人のプレイヤーの情報を広めるのが得意な奴が居るじゃないか」
「・・・・・アルゴか」
「・・・・・アルゴさんね」
「当たりだ」
情報の扱いに関してはあいつの右に出る奴はいない。俺やキリトの場合はプラスイメージをばら撒いたが、今回のキバオウはその間逆。あいつが今までしてきたことをすべて暴露してやる。はじまりの街にいるプレイヤーからの徴税や、今回のシンカーさんに対する行為、下層でキリトにしてきたことなんかも含めて全部だ。
「けど、そんなことしたらALF全体が問題視されるんじゃあ・・・・」
「まあ多少はな。けど、『メンバーの一部が勝手にやったことだから、ALFは関係有りません』なんて、そんな虫のいい話がある訳ないだろ」
「それは・・・・そうだけど」
「・・・クレハさんの言う通りです。私達は責任を取らなくてはなりません。たくさんの人に迷惑を掛けて、死者まで出したんですから」
ギルドのメンバーがやった事はギルドマスターが、もしくはギルド全体が責任を持つことになるんだ。1人のバカのやった事だって変わらない。KoBのクラディールの件も、今頃ヒースクリフがどうにかしているんだろう。
「とはいっても、どちらかと言うと被害者のシンカーさん達が糾弾されるようなことはしないよ。糾弾されるのはキバオウとその一派だけだ」
「そんなにうまくいくのか? ほかのプレイヤーから見たら同じALFだと思われるだけだと思うけど」
「大丈夫だろ。シンカーさんは『全プレイヤーを想いギルドを設立したギルドマスター』で、キバオウは『そのギルドを自分の為に乗っ取ったギルドメンバー』だからな」
いつの間にかお手の物になっちまったな、情報操作。
といっても今回のことに関しては本当に『嘘は言ってないだロ?』って感じだけどな。はじまりの街のプレイヤーからもインタビューとかしまくって、下層の現状を上層に伝えるのが目的みたいなところもある。
「お前とアルゴが組んだら最強だよな」
「本当にね。敵に回したくない2人だわ」
「褒め言葉として受け取っておこう」
「これで、シンカーが最初に想い描いていたALFに戻ればいいのですが・・・・」
『多くのプレイヤーに均等に食べ物が渡るように』か。
今となっては正反対のALFだ。俺がキバオウのことを暴露してもしなくても、はじまりの街に居る人がALFを見直すのはかなり難しいだろう。
「さっき言ったとおりだ。ギルドメンバーの行動はギルドマスターが責任を持つんだ」
「・・・・・・」
「俺はシンカーさんが思い描いた理想を実現させることができるように、ALFから邪魔な物を取っ払う。はじまりの街のプレイヤーがキバオウから受けた被害を返す為に全力を尽くすのが、あなた達の責任の取り方だ」
「・・・・・そうですね。シンカーを救出した後は、私達でキバオウの行動に責任を取ります。そして、シンカーが掲げた理想を現実にします」
そうして欲しい。
俺が最初にこの人たちからの依頼を受けたのも、シンカーさんの掲げた理想に惹かれたからだ。元βテスターの俺ですら、デスゲーム開始時はほかのプレイヤーの事なんか考えられなかった。それなのにシンカーさんはほかのプレイヤーに目を向けた。戦えないほど怯えたプレイヤーの日常を守る為に動こうとした。
だったら俺は悪意で捻じ曲げられたギルドの一部をぶち壊す。
彼がしたかったことができる環境を作り直したい。
「結局厳しいことを言ってるようで、根っこのところは優しいよね、クレハ君って。シンカーさんが責任を取るんだーとか言っておいて、クレハ君のやり方だったらシンカーさんにメリットしかないじゃない」
「まったくだな。早い話が『ギルドから問題のあるプレイヤーを追放させて、当初の目的通りに動ける用にする』って話だろ? どうせ情報を広めるときだって、シンカーさんがやり直しやすいようにうまくやるつもりなんだろうし」
「・・・・・」
こういう隠したいことを的確に当ててくるから厄介だ。
否定しようにもうまくごまかすのは難しいし、本当に厄介この上ない。
「おにいちゃん、どうして焦ってるの?」
「・・・・お前は心でも読めるのか?」
しかも今回は追い討ちを掛ける子供まで居る。
勘弁して欲しいね、ココアあげるからもっとやさしくしてくれよ。
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「それじゃあ、そろそろ行こうかな」
「うん、そうだね」
「御2人ともよろしくお願いします。クレハさんもよろしくお願いします」
「ああ、出てくるときには情報を集め終えておくよ」
「いってきます!」
「気をつけてな」
4人は真っ黒な螺旋階段を下っていき、やがて見えなくなった。
情報を集めて、それが広まるのに2日って所だろうか。
前回まではプラスの情報だったが、今回はマイナスの情報だ。流石にあからさまに悪意を込めた脚色なんてしないが、しばらくALFには関われないくらいのお灸をすえてやろう。うちの相棒の情報網は甘くないからな、まだ俺達が知らない情報も出てくるかもしれない。
とりあえずは、4人が無事に帰ってくることを祈っておこうか。
というわけで第二十四話でした。
ユイの話なのに全然ユイがしゃべらないですね。
次回でユイ編は終了ですが、お察しの通りユイはもうクレハと会うことは無いでしょう。
少なくともSAOでは。