デスゲームでの日常を   作:不苦労

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物好きな情報屋

pipipipi pipipipi ・・・・

 

 

 

耳元で、というより頭の中に直接音が響いてくる。

はっきりしない意識のなかで何とか体を起こし、ウィンドウを開いて起床用のアラームを止める。

 

「あー、まだ眠てー・・・」

 

時刻はAM8:00、あと一時間で店を開かなくちゃならんから、のんびり二度寝って言うわけにもいかないな。

 

「・・・とりあえずコーヒー入れるか」

 

 

.

.

.

 

 

「よし、じゃあ開店するか」

 

AM9:00ジャスト、万屋「秋風」開店!

 

 

 

っと意気込んでは見たものの、武器屋みたいに固定客なんていないわけで、結局いつも通りカウンターでコーヒー飲んでだらだらするだけなんだけどな。

しかも昨日の夕方にリズが来て、

 

「明日から工房にこもるからクッキーの作り溜めして!」

 

と珍しくクッキーの代金を支払って大量のクッキーを持っていったため当分リズが店に来ることも無い。

ということはつまり・・・

 

 

「今日は暇な一日になるな」

 

 

俺の店は基本的に暇な上に唯一の常連が来ないことが確定してるため、今日は平和な一日になること間違いなし。

今日はこの前ついに完全習得した「料理スキル」でできることをいろいろ試してみるか。

いやー長かったなー完全習得までの道のり。初めて作ったコーヒーは本当にただの泥水だったからなー・・・・。

それからほぼ毎日時間が有れば料理して料理してコツコツ熟練度上げたかいがあったってもんだな。

まぁやってて気づいたことだが俺は案外料理が好きみたいだ。というより何かを作るって事を楽しいと思えるから、俺と料理は相性がいいんだろう。

 

今日は久しぶりに一日料理付けの一日。なんてのも悪くないかー

 

 

 

「まぁ急に依頼者が来ることなんて・・・」

 

「相変わらず暇そうだナ、クー坊」

 

「・・・・・・・」

 

 

 

来やがった。

しかもよりにもよってめちゃくちゃ面倒なやつが

 

 

 

「おいアルゴ、お前いつからいた。」

 

「そうだナ、『今日は暇な・・・』あたりからだナ」

 

「最初っからじゃねえか!」

 

「にゃははは!気づかないクー坊が悪いナ」

 

「はぁ・・・んで何のようだ?遊びに来たって訳でもねーんだろ?」

 

「モチロン、情報の共有にサ」

 

 

こいつはアルゴ。目深にフードをかぶり、頬にネズミ髭のようなペイントをしている変わり者で「情報屋」をやっている。

『鼠のアルゴ』なんて呼ばれていて、金さえ払えばどんな情報(一部の例外はあるが)も提供する凄腕の情報屋ってやつなんだが、俺はこいつと情報の共有をしている。

 

万屋の仕事の中にも情報提供や情報収集ってのがある。そのため俺もアルゴほどじゃないが情報ってモノを扱っている訳だ。

さらに仕事の内に「討伐系クエストの助っ人」ってのもあるから、アルゴよりクエストの内容に詳しい場合もあるし、「安全マージンはこのくらいのレベル」「こういうパーティ編成がオススメ」っていう情報も手に入る。

 

そういうことで、俺はアルゴから「俺の知らない情報を貰う」、アルゴは俺の情報から「情報のクオリティを上げる」って感じでWinWinの関係を築いてる訳だ。

 

 

「悪いが最近仕事が少なくてな、有力な情報なんてのは全く無いぞ」

 

「イヤイヤ何言ってるのサ、今クー坊しかもって無いとっておきの情報があるだロ?」

 

「はぁ?そんなもん持ってるわけが・・・」

 

 

「料理スキル、完全習得したんだロ?その情報が欲しいのサ」

 

 

こいつなんで知ってやがる・・・。完全習得したのは一昨日だし、まだ誰にも喋っていないんだぞ。

まぁアルゴ相手にこんなこと考えてても仕方ないか。ホントにこいつの情報収集能力はどうなってんだよ、隠しスキルでも有るのか?

 

 

「確かに完全習得はしたが、俺しかもって無い訳無いだろ。料理スキルを完全習得してる奴なんて俺以外にも居るだろうし・・・」

 

「いないヨ」

 

「へ?」

 

「今現在『料理スキル』を完全習得まで持っていったやつはいないヨ、みんなせいぜい60%がいいとこサ」

 

「まじかよ・・・」

 

 

完全習得ってそんなにレアなことだったの?

・・・いや、レアって訳じゃなくて単純に「この階層」で完全習得してるのがおかしいのか。戦闘に必要なスキルでもないし上げるのに時間がかかるのもうなずける。

 

 

ということは・・・・

 

 

「俺って・・・」

 

「相当暇だったんだナ」

 

「…………」

 

「にゃははは!よくもまあコーヒーに対する愛情だけでこんな短時間で完全習得まで持ってったものだナ!オネーサン感心しちゃうナー!」

 

 

こいつ絶対バカにしてやがる・・・

仕方ないだろ、武具屋や商人と違って客が来ない間にする準備なんて無いんだから。

カウンターから離れてる間に客が来るかもしれないから店は空けられないし、必然的に部屋の中でできることをやり続けることになるだろ。

 

 

「はぁ・・・」

 

「まあまあ名誉なことじゃないカ!『初の料理スキルを完全習得したのはクレハ』っていう情報も広めておこうカ?」

 

「絶対にやめろ」

 

「なんだつまらないナー。それで、完全習得してからなにか新しいことはできるようになったのカ?」

 

「あーそうだな、『料理スキル』を極めたいって奴にはうれしいことが出来るようにはなったな」

 

 

「料理スキル」の完全習得によってで出来るようになったことは大きく分けて3つだ。

 

1つ目は味覚エンジンの可視化。かなり簡単にあらわすと「この調味料とこの調味料を組み合わせるとこのくらいの辛さ」っていうのがパラメーターで分かるようになった。細かい味の調整とか味付けの幅を広げるのにかなり役立つ。

 

2つ目は。調味料の作成。料理で出来た調味料をアイテムとして作ることが出来るようになった。たとえばグログワの種とシュブルの葉とカリム水をあわせると、醤油に似た味がするんだが、その味をアイテムとして保存できて、他の食材に付けて食べることが出来るってわけだ。

 

 

そして3つ目が・・・

 

 

「外見の変更だ」

 

「外見の変更?それって見た目が変わるって事カ?なんだか他の2つと比べてずいぶん地味だナ」

 

「いや、俺はこのスキルが一番嬉しかったといっていいな」

 

「そうなのカ?正直言って見た目が変わるだけっておまけみたいなものじゃないカ」

 

「誰も見た目が変わる『だけ』とは言って無いだろ」

 

「?」

 

「まあコレに関しては実際に見せたほうが早いな。コーヒー入れてやるよ」

 

「おーそれはありがたいネ!甘いお菓子も一緒に頼むヨ!」

 

「はいはいっと・・・」

 

 

アルゴからの注文を聞きながら俺は完全習得した料理スキルを使うためにカウンターに戻る。

1つ目と2つ目の追加スキルは今は必要ないからおいといて、今回は3つ目の追加スキルを思う存分使ってやるか。

 

 

 

 

.

.

.

 

 

 

 

「ほらできたぞ」

 

「まちくたびれたヨ!今日のお菓子は・・・・・え?」

 

 

そこでアルゴが驚いたように目を見開いた、期待通りの反応でなによりだな。

 

 

「なかなかいい出来だろ?」

 

「これは・・・なるほどナ。確かにおまけなんかじゃないスキルだナ」

 

 

俺が差し出したのはいつもリズに作っているクッキーとコーヒーだが、違うところは

 

クッキーが「鼠の形をしている」ことと、コーヒーではなく「カプチーノ」だということだ。

それもただのカプチーノではなく「デザインカプチーノ」で、こっちには2枚の紅葉と万の字を描いている。

 

 

「これが3つ目の外見の変更だ」

 

「コーヒー大好きのクー坊が喜ぶ理由が分かったヨ、ここまでクオリティが高いものが来るとは思わなかったヨ」

 

「そりゃどうも、けど変わってるのは外見だけじゃないぞ」

 

「まだ何かあるのカ?」

 

「いっただろ、外見を変える『だけ』じゃないってな、カプチーノを飲んでみれば分かるよ」

 

「そうなのカ、けどなんだか飲むのがもったいんだガ・・・・」

 

「飲まないほうがもったいないだろ」

 

「そ、それもそうだナ。じゃあ遠慮なク・・・」

 

 

アルゴはゆっくりとカプチーノを口にしたが、ミルクの泡を口に含んだ瞬間アルゴはまた驚いたように目を見開いた。

こいつはホントに期待通りの反応をしてくれるな。

 

 

「本物みたいなのどごしダ・・・。泡の触感というかなんというか、そういうのがちゃんと分かるというカ・・・」

 

「そういうことだ、外見が変わるだけじゃなくて、それにあわせて触感や歯ごたえやのど越しまで調節できる。」

 

「これはすごいナ、料理スキルの需要がまた上がるナ」

 

「まぁ今からスキルを取りはじめるとなると、その前にSAOが攻略されるだろうがな」

 

「……それもそうだナ」

 

 

.

.

.

 

 

「いやあ美味かっタ!ついでにいい情報も貰えたしナ!」

 

「情報はついでかよ・・・・」

 

「にゃはははは」

 

 

一応貴重な情報のはずなんだがな、まぁアルゴには普段から世話になっているから別にいいか。

俺の提供した情報以上に入手の難しい情報も共有してる訳だし、まだまだアルゴには借りがあるな。

 

 

「オットもうこんな時間カ、次の客が待ってるからオレッチはそろそろ行くヨ」

 

「繁盛しててうらやましい限りだな」

 

「クー坊も真面目に働けばこのぐらい繁盛するヨ」

 

「・・・・善処する。また新しい情報があったらよろしく頼む、俺も情報があったら連絡する。」

 

 

「そう・・・だナ・・・」

 

「?」

 

 

珍しく歯切れが悪いな、俺なんかへんなこと言ったか?

 

 

「なぁ・・・クー坊」

 

「ん?どうした?」

 

「たまには・・・特に用が無くても・・・来ちゃダメかな?」

 

「?」

 

 

な、なんだ?いつものアルゴじゃない感じが……

いきなりしおらしくなってどうしたってんだ?

いや、しおらしくというか恥ずかしがってるというか・・・・

 

・・・・・あーなるほどな。

 

 

「アルゴ、おまえ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カプチーノが気に入ったんなら素直に言えよ」

 

 

 

「は?」

 

「カプチーノが飲みたいから定期的に着たいってことだろ?」

 

「いや!そ、そうじゃなくてナ・・・・」

 

「別に隠す必要も無いと思うぞ、仮にも女の子だから恥ずかしいがるのも分かるが」

 

「話をきけっテ!」

 

 

結局こいつもただの女の子ってことだな、カフェとか甘いものが好きな。

なにを恥ずかしがる必要があるんだかわからんが。

 

 

「だからクー坊、そういうわけじゃなくテ・・・・」

 

「いーよ別に、好きなときに遊びに来い」

 

「ふぇっ?」

 

「お前が来たいって言ったんだろ、暇なときがあったらいつでもコーヒー飲みに来い」

 

「・・・・はぁ、わかった。ありがとナ、クー坊」

 

「はいはいっと」

 

 

 

.

.

.

 

 

安請け合いするんじゃなかった。

 

 

「おーいクー坊、カプチーノおかわりたのむヨ」

 

「クレハー、クッキー無くなっちゃったんだけどー」

 

「ああうるさいなお前ら!」

 

 

アルゴはあれ以来たびたび俺の店に来るようになった、そして工房での作業が終わったのかリズもまた俺の店に来るようになった。

そのおかげで俺の店は万屋というよりただの喫茶店状態だ。

 

 

「お前ら遠慮というものを知らんのか」

 

「いつでも来いって言ったのはクー坊だゾ?」

 

「いつものことじゃない、なにをいまさら」

 

 

こいつらマジか。

 

 

・・・まあ正直この2人には逆らえる気がしないし、1人で居るよりはずっといいし、

早めに諦めろって事なのか・・・・

 

 

「クレハー!」

「クー坊!」

 

 

「はいはい聞こえてるよ」

 

 

万屋「秋風」

客足は相変わらずだが、少しずつにぎやかになりつつある。

 

 

 




というわけで第二話でした。
アルゴのキャラとか有ってるか分かりませんが、原作で好きなキャラの一人です。


料理スキルに関しては完全にオリジナル設定です。
本編と似たようなところもありますがとりあえずはこんな感じで。


ヒロインとかは完全に未定なんですが、原作の主要キャラ全員とはからませる予定です。


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