デスゲームでの日常を   作:不苦労

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決闘 後編

嫌な時間ってのはどうあがいたってやってくるわけで、キリトとヒースクリフの決闘が終わった後に少しの休憩を挟み、俺とヒースクリフは闘技場のド真ん中で対峙していた。

 

とうとう俺の出番がやってきた。やってきてしまった。

 

 

「本気でやる気が出んな」

 

「これから戦う相手の前で言う事かね?」

 

「これから戦う相手があなただから言ってるんですよ」

 

 

ついさっきまでキリトが立っていた闘技場のド真中に今度は俺が立っている。

正面にいるヒースクリフと軽口を叩きあいながら、観客が落ち着くまでデュエル開始を待っている状態だ。

 

それにしても、なんでSAO最強クラスのプレイヤーとのデュエルをこんな大勢に見られなければならんのだ。へたしたら思いっきりボロ負けする様をこれだけのプレイヤーに見られると思うと憂鬱だなー。いや、依頼を受けた俺が悪いんだけどさ。

 

 

「こちらの戦いも、上質な物にしたいがね」

 

「じゃああなたにとって、キリトとの戦いは上質だったわけですか」

 

「ふむ。少々手違いはあったが概ねそういっていいだろう」

 

「手違い・・・・ねえ」

 

 

どうにも含みの有る言い方をする人だ。俺の中の疑惑が大きくなるから辞めて欲しいんだけど、前々からこんな言い回しだから深く考えないようにしよう。

 

 

「観客も少し落ち着いたようだ。そろそろ始めよう」

 

「・・・・・分かりました」

 

 

ヒースクリフから決闘申請が届き、俺はYesのボタンをしぶしぶ押す。

カウントダウンの音を聞きながらだが俺の考えをまとめよう。

 

9....

8....

7....

 

この際俺の私情は全部取っ払う。

これも『依頼』な訳だ。ヒースクリフからの依頼。

『攻略組の志気を上げるために決闘してもらいたい』と言うのが今回の依頼な訳だが、それを達成するためには当然クオリティの高い戦いってのが求められる。

 

6....

5....

4....

 

さっきキリトがしてたみたいな、あんなレベルのクオリティを。

正直言ってあんな物は無理だ。あんなバケモノ同士の戦いを攻略組でもない俺がまねる事ができる訳が無い。

 

3...

2...

1...

 

キリトみたいに正面からぶつかったって瞬殺されるに決まってる。

だったら策を練るしかない。情報を集めれたのはキリトとの1試合分だけだが、1つだけ作戦は組みあがった。それが上手くはまれば何とかなるだろう。

 

0...!!

 

 

 

 

無機質な機械音が試合開始の合図を告げた。

 

 

.

.

.

 

 

 

「先手必勝じゃぁ!!」

 

 

試合開始の合図と同時に、俺は左手に持っていた鞘をヒースクリフめがけてぶん投げた。

 

 

「なっ・・・・!?」

 

「「「はああああああ!?」」」

 

 

流石に予想外だったのか、ヒースクリフが驚愕の声をもらすのが微かに聞こえる。ついでにさっきまで俺がいた入場ゲートのあたりからも3人の絶叫が聞こえるが、こっちは知ったこっちゃ無い。俺の投げた鞘はまっすぐとヒースクリフの顔辺りに向けて飛んでいっている。

 

利き腕と逆で投げたから不安だったがひとまずは成功。

自分で投げた鞘を追いかけるようにして俺自身もヒースクリフめがけて走り出す。鞘に追いつく事は不可能だが、どちらかと言うとAGI寄りな俺のステータスなら距離をつめる事くらいならできる。

 

ガキィ!!

 

っという音と共に鞘がヒースクリフの盾に防がれる。

完全に予想外の攻撃だっただろうにしっかりと防御をしているあたり流石だが、俺の目的は鞘で攻撃する事じゃない。というか多分投げられた鞘に当たったところでダメージなんか大したものじゃないだろうし、これはあくまでも準備段階だ。

 

さっきの試合で気が付いた事の一つ目。この人は完璧な防御でキリトの攻撃を防いでいたが、それは反射神経で防いでいたわけじゃなかった。キリトみたいなめちゃくちゃな反応速度を持っている訳じゃない。この人は『敵の攻撃を有る程度予測してから行動する(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)タイプ』のプレイヤーだ。

 

だったらこの人が予想して無いことをしてやればいい。先手からトリックプレイでこの人に考える時間を与えない!

 

 

「そんでもって・・・・!」

 

 

気が付いた事二つ目。この人は予想外の攻撃が来た時に初めて『反射的に盾を出す』。さっきの試合でもキリトの攻撃スピードに対して判断が追いつかなかった場面が何度か見て取れた。そのときの防ぎ方は『とっさに盾を出した』って感じの不自然な防御で、キリトが最後に盾を弾いたのもそんな防御をした後だった。

 

 

付け加えると、その時この人は、その時盾の後ろに顔を隠す(・・・・・・・・・)。つまり一瞬だけ相手を見ることが出来なくなる瞬間が出来る!

 

・ヒースクリフが予想していない攻撃で隙を突いて『反射的な防御』をさせる。

・その防御中に顔を盾の後ろに隠させる。

 

ここの二つはとりあえず成功。本番はここから、タイミングがすべての一回勝負・・・・・

 

 

気が付いた事最後の1つ。この人は盾ごしに相手を見るときは必ず左上からだ。

反射的に盾の後ろに顔を隠した後なら、必ず相手の様子を確認するために左上から顔を出すはずだ。

 

俺にキリトほどの攻撃力は無い。盾をはじいて攻撃を当てる事は不可能。

だったら盾で防げない攻撃をしてやる。狙うのはヒースクリフの盾の左上、ヒースクリフが顔を出すであろうこの一点。顔を出した瞬間に刀がそこを通過するように攻撃するしかない!

 

 

「ここ・・・・だ!!」

 

 

右手に持った刀で突きを放つ。

刀スキルに突き技が無いからただの突きになっているが、初撃決着モードで顔に攻撃が当たるのなら問題ない。

 

このタイミングならいける。さっきのキリトの試合を見て図ったタイミングとドンピシャだ。ヒースクリフが盾からこっちを除く瞬間に一撃入るはず・・・・・

 

 

 

.

.

.

 

 

 

 

ガキィ・・・!!

 

「なっ・・・・!!!」

 

 

さっきと同じ盾に弾かれる音と驚愕の声。

さっきと違うのは防がれたのが鞘ではなく俺の刀だって事と、驚愕の声をあげたのが俺だってことだ。

 

体重を乗せた攻撃を防がれた事でバランスを崩し、滑り込むようにして地面で体制を立て直す事になってしまった。こうなると当然・・・・・・。

 

 

「ふっ!」

 

「あっぶねぇ!!」

 

 

ヒースクリフの追い討ちが飛んでくる。体制を立て直したばかりの状態で追い討ちをかけられたせいで地面に飛び込みながら回避する羽目になった。今度は受身も取れず地面に転げ出る。

体制はめちゃくちゃだがヒースクリフと距離をとることは出来た。幸運な事に弾かれた鞘の近くに飛び込んだみたいで、鞘を回収する事もできた。

 

一安心。と言いたいところだが大問題だ。

 

1.盾を投げてヒースクリフに反射的に防がせる

2.隠れたヒースクリフが顔を出すはずの盾の左上に攻撃を放つ

3.ジャストタイミングで攻撃が当たる

 

っていう流れだったのに最後の最後で見事に防がれた。俺この一発で短期決戦に持ち込むつもりだったから、また策を練り直さないといけないじゃないか。

 

 

「・・・・・ひとつ聞いてもいいかね?」

 

「・・・・・なんです?」

 

 

決闘中だというのにヒースクリフが話しかけてきた。

そういえばキリトと戦ってるときも何か喋ってたな。意外とおしゃべりなオッサンだ。

 

 

「君の組んだ策は、不意を付く攻撃で私に盾を使わせ、盾から体を出す瞬間にそこを突くという考えで間違いないかね?」

 

「・・・・・・まあおおむね」

 

 

全部バレてんじゃねーか。こっちは一試合だけの情報から必死こいて考えた策だったっていうのに簡単に看破しやがって。俺結構自身あったんだけど・・・・・

 

 

「聞きたいのは俺の作戦の内容だけですか?」

 

「いいや、聞きたいのはその後だ」

 

「そのあと?」

 

「なぜ迷い無く盾の左上を攻撃してきた?」

 

「ああ、そういうことね」

 

 

盾を使わせて視線をはずさせた後に、ヒースクリフが顔を出すのがなぜ盾の左上からだと確信して攻撃を仕掛けたのかを聞きたいって事か。攻撃をはずすと圧倒的に不利な状態になるにもかかわらず、迷い無く飛び込んできた根拠を知りたいと。

 

 

「さっきの試合でも3回ほど同じパターンで防御をしたときがあったが、あなたはその後すべて盾の左上からキリトに視線を戻していた。だからこれはあなたの癖で、攻撃するならここだろうと思っただけですよ」

 

「・・・・・・癖、か。君はあの一試合を見ただけでそれに気が付いたと言う訳か」

 

 

ずいぶんと驚いてくれているようだが、驚いているのはこっちのほうだ。

最後の瞬間まで、俺は自分の作戦が成功する物だと信じていたんだから

 

 

「こっちからも聞いていいです?」

 

「なにかね?」

 

「その一撃、何で避けれたんです?」

 

 

この人自身、俺が左上めがけて攻撃した理由を分かっていなかった。にもかかわらず俺の攻撃を防いで見せた、それも完璧にだ。タイミング自体は完璧だったと思うし、感づかれるような動きをした覚えも無い。さっぱり分からん。

 

 

「ふむ、正直なところ君の作戦に気が付いたのは攻撃を防いだ後だ。私がわかったのは君が突き攻撃をしてくるという事だけだ」

 

「・・・・・?」

 

 

言っている意味が分からない。この人は確実に俺から視線をはずしていたはずだ。そんな状況で俺の攻撃方法を把握する事なんて・・・・・

 

 

「盾の後ろに顔を隠していたとしても、音は聞こえる。君が私に攻撃を仕掛けてきた時にはソードスキルの発動音は聞こえなかった。隙を狙った刀使いがソードスキルを使わないということは、ソードスキルでは出来ない攻撃方法を取ろうとしているのではないかと予測したまでだ」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

一瞬疑問が浮かんだがぐうの音も出ないほど納得する理由をすぐさま突きつけられた。そこまで言われてしまったら何も言い返せないな。

 

 

「私は突き攻撃をされたときは、防ぐのではなく受け流す事にしている。線ではなく点の攻撃範囲の攻撃を盾で完璧に防ぐのは難しいのでね。正直なところ、君の攻撃を回避する事ができたのは半分は偶然と言って良い」

 

「・・・・・・・なるほど」

 

 

つまりヒースクリフは、俺が『左上に攻撃してくる』と言う事を見破って回避した訳じゃなく、『突き攻撃が来る』という情報だけを予測して、それに対する対策をとった結果、盾から顔を出すことなく俺の攻撃を回避する事ができたって事か・・・・・

 

必死に頭をひねって考えた作戦だったのに普段どおりの回避方法を取られただけで簡単に防がれたって事か。最高に滑稽だな、俺。

 

さらに問題なのは今の攻撃を防がれたって事よりも『予測をさせないための先制攻撃』が全く意味を成していなかったてことだな。視線さえはずさせておけば思考させる時間を与えなくてすむっていうのは早計だった。

 

というかこのオッサンなんで刀スキルの事にも詳しいんだよ。普通自分が扱ってない武器のソードスキルの種類なんて把握して無いだろ。どんだけこのゲームに詳しいんだ。

 

 

「初手からこちらの不意を付く良い作戦だ。さあ、お互いの疑問も晴れたところで続きと行こう」

 

「・・・・・・・お手柔らかに」

 

 

 

 

その後も何度も策を練って試してみたものの、すべて間一髪で避けられるかあの鉄壁の盾に防がれるかのどっちかだった。しかも作戦が失敗した後にはもれなくヒースクリフの追撃が待っているわけだから気が気じゃない。

 

短い間で作戦を練って、それを実行に移して、その後の追撃を鞘で受け流す。

最初っから最後まで集中しっぱなしの決闘だったわけで、当然俺がそんな試合を長い事できるわけが無い。

 

俺は試合の途中でぶっ倒れ、決闘はドローと言う結果となった。

 

 

 

 

.

.

.

 

 

 

「いやー惜しかったわねー。かなり良い試合してたじゃない」

 

「どこがだよ、どれだけせめても突破口すら見えなかったんだぞ」

 

「あんたはそうかもしれないけど、見てるほうからしたらかなり白熱した試合だったわよ」

 

「・・・・・・まあ見てる側がそうだったらいいんだが」

 

 

試合が終わり控え室で目を覚ました俺は、付き添ってくれていたリズに俺が気を失っている間の事を聞きながら、今回の決闘についての反省点をまとめていた。

正直完敗だった。時間制限と言うルールに助けられて引き分けにはなったものの、頭ひねって考えた作戦は毎回ギリギリとどかない。何をしても突破口を見出せなかった。

 

だが観客はそうは思わなかったらしい。

 

攻める俺とそれを防ぐヒースクリフ。逆にヒースクリフが攻め始めたら俺がその攻撃を受け流す。観客だけを見ればキリトとの決闘よりも盛り上がっていたようだ。

何はともあれ、俺がヒースクリフから受けた『決闘を通してプレイヤーの志気を上げる』という依頼は無事に達成できたみたいだな。

 

 

「まったく、試合開始からいきなり鞘を投げたときは何をしてるのかと思ったわよ」

 

「いや、あれは立派な作戦でだな」

 

「そうだとしても、そんな発想がぱっと出る時点でおかしいわよ」

 

「じゃあそれを防いだヒースクリフは俺以上におかしい奴だな」

 

「・・・・・・ほんとに、口が減らない奴ね」

 

 

試合結果はどうあれ、依頼は成功と言って良い。

観客がすこしでもやる気を出す事ができたのなら、人前でぶっ倒れた甲斐があったってもんだ。キリトやアスナでさえ試合に熱中していたらしいし、攻略組のメンバーにも効果があったと信じたい。

 

 

「そういえばキリトとアスナはどうなったんだ?」

 

「結局キリトは負けちゃったからね、入団の事でヒースクリフに呼ばれていったわ」

 

「ああ、そういえば負けたら入団だったか。まあ結果的にアスナと一緒にいられるならいいんじゃないか?」

 

「それはそうだけど、勝って自由になりたいってのも少しはあったみたいね」

 

「キリトもプライドぐらいもってたか・・・・」

 

 

勝っても負けても同じ事ってのは少し言いすぎだったかもしれないな。

キリトとしては勝ってアスナを連れ出したいっていう気持ちも合ったんだろう。いざ結果が出てみないと、そいつがどうしたかったかなんて分からない物だな。

 

 

ピコン・・・・・!

 

「ん?メッセージ?」

 

 

そんな事を考えていると、不意にメッセージの通知音が頭の中に響いた。

試合に対する感想か何かを常連の客が送ってくれたのか?

なんて思ってメッセージを開くと、常連どころじゃない奴からのメッセージだ。

 

 

差出人:アルゴ

『オレッチのことで迷惑かけちゃったみたいだナ。

 借し一つってことにしといてくレ。

 

 

 PS.ヒースクリフにはちゃんとお礼をしとくヨ』

 

 

差出人はアルゴだった。

俺がどうして決闘をする事になったのかを知ったんだろう。自分が人質みたいな扱いをされているって事で俺に迷惑をかけたと思ったみたいだな。別にいまさらそんな事は気にして無いんだが、そんなことを言ったところでアルゴは聞きやしないだろう。

 

というか、PS以降に書いてある事のほうが問題だ。

『お礼』とは書いているが、絶対に言葉通りの意味じゃない。アルゴを敵に回したらヒースクリフでも流石に面倒な目にあうことになるだろう。ご愁傷様だな。

 

 

「だれからだったの?」

 

「アルゴからだ。ヒースクリフに『お礼』しとくってさ」

 

「それはまあ……、ご愁傷様」

 

 

リズも俺の発言で大体理解したんだろう。アルゴを敵に回したらどうなるか、リズだって想像付くだろうしな。

 

 

「というかあいつはどうやってヒースクリフと俺の交渉の情報を手に入れたんだよ。俺は今のところリズにしか話して無いぞ」

 

「あたしも情報を漏らしてなんか無いけど、アルゴだから仕方ないんじゃない?」

 

「ホントにあいつの情報収集能力はどうなってんだよ」

 

 

 

 

 

無敵の団長様も、あの鼠と戦うとなるとずいぶんと手を焼く事になるだろう。俺やキリトとの決闘みたいに簡単には行かないぞ、あいつは。

俺だってしてやられた側だ。あの人にはしばらくアルゴを相手に苦労してもらいたいもんだな。

 

 




というわけで十八話でした。

刀に突き技が無いっていうのはホロウ・フラグメントとかの情報を反映しています。
本当に無いのかは分かりませんが、そこは二次創作と言う事で。

ヒースクリフが突き技を受け流すのはアニメでの動きからです。

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