毎日少しずつ少しずつ書いているので、中々ペースは上がりませんが頑張ります。
じわじわとSAO内でのストーリーを消化していきます。
「こんなに人がいるなんて聞いて無いぞ・・・・」
「1度受けた依頼でしょ。文句言わないの」
「そりゃあそうなんだけどな・・・・・」
闘技場裏に有る控え室。
俺はソファでゲンナリとうなだれていた。
俺の弱音に対して容赦なく現実を突きつけてくるいつも通りのリズとは反対に、俺はもう間もなくであろう出番のせいで全く落ち着くことができない。
「まあいいじゃないの。いろんな人があんたの出番を待ってるんだから」
「それが嫌なんだが」
「面倒くさい奴ね、ホントに」
何で俺が闘技場の控え室なんかにいるのかというと、いろいろと面倒くさい理由がある。というかさっき名前が出たキリトの所為というかきっかけがあいつだったというか、ともかくキリトが関係してきている。ついでにアスナもな。
事の発端は3日前の夕方までさかのぼる。
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俺は47層の自分の店で仕事をこなしていた。
今日は特に大きな依頼も無く、気がつけばあっという間に店を閉める時間までは十数分残っていない。
ちなみに店を閉めるギリギリに依頼が来た場合は、それが短時間で終わる物だったら少し延長して依頼をこなし、逆に長時間になりそうな場合は明日優先的に話を聞く、という形を取っている。
今日は割とスムーズに仕事が終わったし、明日もこんな感じだといいんだが。
なんて考えていると、入り口のほうからおそらく本日最後になるであろう依頼者の声が聞こえてきた。
「万屋『秋風』はここで間違いないかね? 少々依頼したい事があるのだが」
「ああ間違いないよ。けどもうすぐ店仕舞いだから、長時間になりそうな依頼なら明日に回す事に・・・・・・」
俺は依頼者の方を振り返りながら、テンプレートになりつつある依頼者との会話文を話し始めていたが、振り返りきって依頼者の顔を見ると口を付いて出てきた言葉は無意識のうちに止っていた。
簡単に言うと絶句した。
見覚えの有る白と赤を基調にした鎧と、白というより銀色の髪を後ろにまとめた中年というには少し若い。俺やキリトみたいな情報操作なんかじゃなく、実力でSAOの全プレイヤーに知られているようなプレイヤーが
そこにいた。
「血盟騎士団の・・・・ヒースクリフ団長?」
「おや、『剣影』殿に名前を知られているとは光栄だね」
「・・・・・・・そっくりそのままお返ししますよ」
正直ビビった。
こんなビッグネーム中のビッグネームが俺の店に来る日が来るとは思っても見なかった。いや、キリトとかアスナも十分有名人ではあるが、この人はそれの比じゃない位のプレイヤーだ。
SAOのトップギルド『血盟騎士団』通称KoB。その団長であるヒースクリフ。
この人が有名な理由としてはギルドの大きさも関わってくるが、何よりたった2人しかいないユニークスキルの保持者であり、これまでのボス戦で1度もHPをイエローまで持っていかれたことが無いほどのプレイヤースキルを持っていることが大きいだろう。
彼がいなければ死者の数は今の倍になっていてもおかしくは無い。
こんな有名プレイヤーがこの店を訪れてくれたのは素直にうれしいが、有名プレイヤーだからこそ、ここに来る事に対して疑問が生まれる。
「あなたほどのプレイヤーが万屋に何のようです?」
「私は皆が思っているほどに優秀な人間ではない。1人のプレイヤーとして行き詰る事だってあるという事だ」
「だとしても、それをサポートする優秀な団員がいるじゃないですか」
なんてったって巨大ギルドの団長だ。1人のプレイヤーが抱えるような問題を解消できる奴だって団員の中から探せばいいだろうに、何でわざわざ万屋に依頼するなんて面倒な事をする必要が無いだろうっていうのが俺の疑問。
何か問題があったならギルドメンバーに頼んで解消すればいいし、この人ほどのカリスマ性があれば自分から進んで手助けするような奴もいるだろうに。
「そういうわけにもいかなくてね。むしろその団員の事で問題を抱えている状態なのだよ」
「団員の事で問題? レベリングが足りてないとかですか?」
「そんなことはない。彼らはよくやってくれているよ」
だろうな。
アスナからKoBはレベル上げノルマが無いって話を聞いたからもしかしたらと思ったが、流石トップギルドのメンバーだけあって自主的にレベリングを行っているらしい。
「だったら尚更だ。俺に何を頼むっていうんです?」
「アスナ君とキリト君のことだ」
「・・・・・・・・」
またあいつ等か。
というか最近俺の仕事ってあいつ等関係の事件多くないか?まあ俺のお節介も多々あるんだが、でかい出来事って殆どあいつかが関係している気がする。エギルの件とか新聞の情報提供とか・・・
「君も交流がある2人だと聞いているが」
「まあうちの常連ですからね、いろいろと面倒を見ているところもあります。それで?その2人が何をやらかしたって言うんです?」
「『やらかした』という訳ではないが・・・・ふむどこから説明したものかな、少々長い話になるのだが問題ないかな?」
「仕事柄長い話には慣れてますよ。幸い今日の依頼者はあなたで最後ですしね」
「それは助かる。では依頼の前に、現状の説明に入ろうか」
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ヒースクリフが話した事情は以下の通り。
つい最近突発的に行われた74層のボス攻略で起きた事件は『キリトの二刀流』や『軍の部隊半壊』だけではなかった。
SAO全体としてはほんの些細な事件かもしれないが、1人のプレイヤーに精神的にダメージを負わせるには十分な事件が起きていた。
『キリトが目の前で死に掛けた』
アスナにとってそれがどれだけ辛い物だったかは考えなくたって分かる。
好きな人が目の前で死に掛けて、それを助ける事もできなかった。
トップギルドの副団長という立場に立ってはいるが、アスナだって現実では十代後半の子供だ。結果的に死ななかったとしても、大切な人が死ぬかもしれないという恐怖を味わったアスナは強く願うようになった。
『キリトのそばに居たい』と・・・・
「まあ、概ねこういった経緯でアスナ君は血盟騎士団からの一時的脱退を申し出てきたのだよ」
「・・・・・なるほど」
「アスナ君の気持ちは十分に理解しているつもりだが、こちらとしても彼女ほどの戦力をそう易々と手放す事はできなくてね」
「まあそれは確かに、けど今の状態のアスナを無理やりキリトから引っぺがすわけにも行かないでしょう」
新聞への情報提供をする時、アスナがどことなく思いつめているような気はしていたが、そこまでの事になっているとは思わなかった。後で気づけなかった事を謝っとこう。
ともかくヒースクリフの言いたい事は分かるが、その状態のアスナに『戦力的にきついから駄目』っていうのは流石に酷な話だろう。
「それで、その解決策を俺に考えろっていうのが依頼ですか?」
「いや、その件に関しては既に対策を打っている」
「というと?」
「アスナ君が一緒にいたいと言っているキリト君だが、キリト君自身もアスナ君と一緒にいたいと思っているようでね、問題の解決の為にキリト君に賭けを持ちかけたのだよ」
「賭け? どんな?」
「私と
「はあ!? そんなめちゃくちゃな・・・・」
「私は欲しい物があるなら、自分の力で勝ち取るべきだと思ったまでだよ」
またとんでもない事言い出したなこの人は。
というかこの人がこんなアグレッシブな選択肢を取った事が意外だ。こういうのは普通に話し合いとか、戦うにしても部下に任せたりするタイプだと思ってた。
勝ったらアスナを血盟騎士団に留まらせる事ができる上に、現在のSAOの最大火力と言って良いレベルのキリトをついでに引き込める最強の賭けだな。
しかも負けたところでアスナは完全に血盟騎士団から脱退する訳でもなく、あくまで『一時脱退』って条件付けているあたりさらに秀逸だ。
ローリスクハイリターンにもほどがあるだろ。怖い人だ。
・・・・・・けど、ただアスナを利用して利益を得ようって訳では無いみたいだな。
「さすがの団長も、副団長には甘くなりますか?」
「・・・・・・どういう意味かね?」
「そのままの意味ですよ。結局この賭けって、キリトが負けたとしてもアスナの希望は叶うんですから。ただソロのキリトと一緒にいるか、自分のギルドにキリトが来るかの違いしか無いでしょう?」
「・・・・・・・」
「一見アスナを賭けたキリトとあなたの戦いって感じだけど、アスナの要求は100%通るようになっているんだから、確かに良い賭けですね。もっとも、当の本人は気付いていないでしょうけど」
「・・・・・さすが万屋といったところかな。なるべく私の主観的な意見は入れないよう事実だけを述べたつもりだったのだが、見抜かれてしまうとはね」
「職業柄、人の話を聞くのは慣れてますからね。言葉の裏が読めないと依頼者の本当の要求を満たしてやれないってことですよ」
依頼者の中にもいろいろな奴がいる。
あまり自分の意見をはっきり言えない奴がいたら、そいつが何を求めているのかを話しながら引き出したり察したりしないといけない。逆にプライドが高い奴や自己評価が高い奴は自分のパーティの力量を少し高めに伝えてきたりするから、そういう嘘を見抜けないと討伐クエストのサポートをしたときに引き際を見誤る恐れがある。
言いたくてもいえない事や悪意の無い嘘を見抜けないとやっていけない。
「ふむ、確かに君の言うとおりだ。アスナ君は本当によくやってくれている。そんな彼女の頼みなのだから、無下には扱えんよ。しかし一人の団員を特別扱いする訳にもいかなくてね、正面から彼女の頼みを受けきる事ができなかったと言うのが本音だ」
「あら? ずいぶんと素直に話してくれるんですね」
「ここまでこっちの考えを言い当てられてしまってはいまさら隠す必要も無いだろう」
「まあ今回のは考えを言い当てたっていうよりは、あなたが隠そうとした事実を話から読み取ったってだけですけどね」
「さすが『剣影』殿といったところかな?」
よく言うよ。
嘘を見抜くのは難しいが、こんな風に意図的に何かを隠そうとしている場合は意外と簡単に分かる。だけどこの人の場合は他のプレイヤーとは比べ物にならないくらい本心が分からない。あたかも話の裏を見抜いたみたいに言ってはみたが、賭けが終わった後の事を考えて、どっちが勝ってもいつも通りのあいつ等しか思い浮かばなかったからもしかしたらって思っただけだ。推測でもなんでもない。
推測と言えるのはこれから話す事だ。
「けどあなたが話していない事はこれだけじゃないんじゃないです?」
「ほう、まだ何か気付いた事が有るのかね?」
「これに関してはただの推測ですよ。違ったら突っぱねてください」
「推測でもなかなかに興味深い。聞かせてもらおう」
これから推理小説の解決偏を読み始める様な気持ちなのだろうか、ヒースクリフは面白いう物を見るような目で俺を見ている。
いや、この人が今言ったように『興味深い』と言う表現が一番しっくり来る。
なんだか観察されているような、そんな目だ。
少し落ち着かないがまあいいか。どうせただの勘だしな。
「さっき言った様に、あの2人にとってこの賭けの意味は正直言って殆ど無い。どちらにしても『一緒にいたい』っていう2人の希望は叶えられるんですからね」
「その通りだ」
「じゃあこの賭けをする事でメリットを得られるのはあの2人じゃない。あなただ」
「それもその通りだ。私がキリト君に勝てば、彼はKoBのメンバーになるのだから」
「いいや、それはKoBにとってのメリットだ。
「・・・・・ほう?」
「そもそも賭けなんかしなくてもキリトをKoBに入れることも出来たはずだ。キリトはギルドを嫌ってはいるが、今はアスナと居たいって気持ちが強い」
「・・・・・」
「だったら、適当な役職でも用意してソロプレイヤーと変わらない待遇を与えてやって、それの補佐役としてアスナを就けておけばいい。その条件ならキリトがKoBへの入団を断る理由が無い。晴れてあなたはKoBにSAO最大火力の男を手に入れて、アスナも手放す必要が無い最高の一手だ。今までと変わらない状態と言っても、1度入団させてしまえば色々と扱いやすい」
つまり、『わざわざ賭けなんかしなくても、条件によってはキリトを素直にKoB入りさせる事もできたでしょ?』って事だ。
KoBは任務みたいな扱いで迷宮区の攻略だったりマッピングだったりをしているらしいし、そういう任務を与えておけばソロのキリトとやっている事は変わらないだろう。
他のやつとパーティを組むのが嫌だっていうならアスナだけと組ませればいい訳だし、多少の特別待遇を貰っても団長の決定なら文句をいうやつもそこまで出ない。というかそもそもキリトはそんなの気にしない。
「あなたほどの人がそれに気付かない訳が無い。けどあなたはそれをしなかった。ってことは、あなたの目的は『キリトをKoBに入れる』事じゃなかったってことだ」
「・・・・では、何だと思うかね?」
「そりゃあ『
「なぜ私がそんな事を望む必要が?」
「『ユニークスキル持ちだから』かな。あなただってゲーマーだ。ただ大きなギルドを纏めるだけじゃなくて、たまには純粋にゲームを楽しみたかったんじゃないですか? やっと自分と対等に戦える可能性の有るプレイヤーが出てきたんだ。戦いたいと思うのはゲーマーの性って奴でしょう」
これが俺の推測。
この人はアスナのため、キリトのためと話していたが、『ただキリトと戦ってみたかっただけなんじゃね?』ってことだ。
ヒースクリフがキリトとデュエルをするって話を聞いたときに、一番最初に思ったのがこれだった。そもそもキリトと居たいからギルドを抜けたいって言ったのはアスナなんだから、戦って勝ち取れと言うならアスナに言うべきだろう。
「どうですか? まあ推測と言ってもこじ付けみたいな物なんですけどね」
「・・・・・十分推理として認められる内容だったよ。あれだけの会話でここまで的確に考えを読まれたのは初めてだ」
「あら、それは正解ってことです?」
「7割正解と言ったところかな」
「・・・・・なるほど」
こじ付けとは言ってもみせたが、結構自身があったから7割って言うのは少し悔しいところがあるな。まあ別にヒースクリフと推理勝負をしていたわけでもなんでもないから全然問題は無いが。
ともかく俺の行ったことが7割正解だというなら、やっぱり残りの3割が気になるわけで。
「残りの3割を聞いてもいいですか?」
「もちろん。といってもこれは今回の依頼にかかわる事なのでね、私が隠したかった本心を言い当てたという意味では10割と言ってもいい推理だったよ」
「そりゃあどうも」
「君は一人のプレイヤーとしての私の考えをずばり当てて見せた。しかし、KoB団長としての私の考えには触れていなかった。3割の部分はここに当たる」
「団長としての考え?」
「そうだ。キリト君が『KoBに入る事』では無く『私と戦う事』で得られるメリットが有る。私が戦ってみたいと言う個人的意見だけでなく、SAO全体のことを考えてのメリットがね」
SAO全体と来たか。こりゃあまたずいぶんと大きな考えをお持ちなことで。
まあ事実上SAO最強のギルドのトップに立っている人なんだからそれくらいの事を考えていてもおかしくないか。この人にはそれぐらいの影響力はある。
「正直に言わせて貰うと、ここまで話をされてもピンと来ないですね」
「最前線に出ていない君ならばしかたの無いことだろう。しかし、SAOには最前線に出ているプレイヤーの何名が気付き始めている問題が浮上している」
「問題?」
「君は無いかね? 他のプレイヤーから『必死さが無くなっている』と感じた事が」
「・・・・・・!!」
・・・・・確かにそれを感じた事は有る。依頼主から伝わる必死さがなくなっている。というよりは、この世界に順応していると言ったほうが正しいのかもしれない。この世界で生きていく事に慣れてしまった。そのせいで、攻略や脱出に対してハングリーさが無くなっているのだろう。
俺も最近は現実世界のことを全く考えない日が有る。
これがヒースクリフたちが気付いた問題か。
「心当たりがあるようだね」
「何度も言いますけどプレイヤーと話して何ぼの商売なんでね。少しずつでも覇気が無くなっていくのは分かりますよ」
「些細な事のように感じるがこれは大きな問題だ。恥ずかしい話だが攻略のペースも目に見えて低下している。この問題は早めに解決しておきたい」
「それで、あなたがキリトと戦う事でその問題を解決できるんです?」
問題の大きさもわかったし、それを何とかしたいって言うのも分かった。
けどそれとキリトと戦うっていうがどう関係しているのかピンと来ない。
「今回の私とキリト君の決闘だが、何名かのプレイヤーが見学に来るそうだ」
「そりゃあ気になる奴はいるでしょうね、ユニークスキル同士の戦いなんてそう簡単に見れるもんじゃ・・・・・・」
・・・・・おいおいまじか。
なんか大体予想が付いた気がする。この人が何を思ってキリトと
「ふむ、察してもらえたかね?」
「・・・・・・・・・・『ハイレベルな戦いを見せて志気を上げる』って事ですか?」
「簡単に言うとそういうことだ。」
この人はSAOに2人しかいないユニークスキル持ちの戦いを他のプレイヤーに見せる事で全体の志気を上げようとしているって事か。なんともめちゃくちゃな話だが言いたい事は分かる。確かにキリトとヒースクリフの戦いなんて物を見たら少なからず影響されるにきまってる。シリカあたりなんかは剣を2本持って二刀流の練習なんか始めてもおかしくないくらいだ。
「けど、正直言って上手くいくんですか?」
「100%解決できるとまでは言わないが、現状を変えることぐらいは出来るだろう。憧れと言う物は人を動かすのには十分な感情だよ」
「ミーハーな中層プレイヤーならともかく、上層の攻略組がそう簡単に影響されますかね?」
「上層のプレイヤーだからこそ影響を受けやすい面も有る。戦いの立ち周りや攻撃と防御のタイミング、ソードスキルの発動とその硬直を計算した回避方法。それら一連の動きのレベルの高さは、前線で戦っているからこそ理解できる物だからね」
「・・・・・なるほど」
詳しく話を聞けば中々筋が通っている上に納得ができる内容だな。
よくよく考えたら上手くいかなくたって何のデメリットも無いし、やってみる価値はある。
それにそういう理由があったならキリトに本当のことを伝えなかった事にも納得だ。『人前で決闘します』って言われてキリトが素直に従うわけが無い。俺と同じくらい目立つのが嫌なやつなんだから。
「さすがKoBの団長。抜け目無いというか視野が広いというか。まあ何にしてもかなり良い案じゃないですか」
「そういって貰えるとうれしいよ。ではご理解頂いた所で依頼の話に移らせてもらおう」
「はいはい。俺はこの
「いいや、運営は既にKoBの者に話をつけているよ」
「うん? じゃあ俺は何をすれば?」
「決まっているだろう。君もこの
「はあぁ!!??」
何言ってんだこの人!?
俺が人前で
何がうれしくて人に見られながら戦わなきゃいかんのだ。しかも自分より圧倒的に格上の奴となんて公開処刑もいいとこだろうが。
「不満かね?」
「当たり前でしょう! そもそも3人でどうやって戦うって言うんですか!?」
「私とキリト君が戦った後、勝ったほうが君と戦うと言う形を取る」
「なんで俺が決勝戦扱いなんですか!! というか今回の賭けに俺は関係ないでしょう」
「君はSAOでもかなりの有名人だ。それもかなり特殊な戦い方をすると聞いている。プレイヤーの志気を高めるのにこれ以上有力な人選も無いだろう」
「いや、それはそうかもしれないですけど・・・・・。ほら、俺は長時間集中できない体質なんで」
「では君との勝負は時間制にして、それ以内に決着が付かない場合は引き分けとして終わらせる事としよう」
「ええっと・・・・・・」
やばい、どんな言い訳しても正論で返される。
トップギルドの団長怖っ! 普段からこんな圧力掛けまくってんの?友達いなくなるだろ。
というか実際問題どうするか。
この依頼を受けたくないのって完全に俺の個人的な感情だし、『嫌だからやらない』なんて万屋としてかなりの信用問題だ。けど正直なところ本気でやりたくない・・・・・
ああ、なんかいい言い訳はないのか・・・・・
「ふむ。そんなに嫌な事なのかね?」
「・・・・・・・・まあ正直に言うと嫌ですね」
「しかたがない。なら交渉といこうか」
「交渉?」
「これは依頼なのだから、報酬が無いと意味が無いだろう?」
「まあそれはそうですけど」
正直なところどんな報酬を受け取っても今回の依頼を受けようとは思えないんだよな。
コルもアイテムも別に問題ないし、今のところ気になる情報も無い。俺にメリットの有る報酬なんて出てこないと思うがな。
「ではこちらから提供する報酬は、
『情報操作の隠蔽』でどうかな?」
本日二度目の絶句だ。
今までの流れの話からそこに持っていくのか・・・・・
やっぱりこの人は怖い人だ。俺とアルゴがやったキリトの情報操作を引き合いに出してくるとか普通思いつかんだろう。
俺がメリットで動かない事を見越して、デメリットを起こさせない方法で報酬を提示してくる奴なんて今まで一人もいなかったし、流石トップギルドの団長様だ。世渡り上手というか、自分の意見を通す方法を心得ている。
けど、それなら仕方ないって事でその要求を呑むのはまた問題がある。
それで俺がホイホイ承諾してしまったら、情報操作をした事を全面的に認める事になる。
しらばっくれてみるか。
「・・・・・・少し意味が分かりませんね」
「意味ならば君が一番分かっているのではないかね?」
「さあ、何の事かさっぱり」
「先日発行されたキリト君の新聞記事だが、あそこに掲載されている内容は脚色されているだろう? もちろん君が提供した情報も含めてだ」
「まあ新聞なんてそんな物じゃないですか? 俺は嘘の情報を提供したりなんてしてませんよ」
「しかし、読者が偏った認識をするよう意図的に仕組まれた内容だ」
「それも新聞の醍醐味でしょう。俺達はあなたの思うような不正は行っていませんよ」
「確かに不正を行っていはいない。意図的に自分たちに有利な情報が浸透するよう公開するのは不正ではない」
「だったら何の問題も無いでしょう? もっともそんな事はしてませんけど」
「問題は無い。だが、『不運にも情報屋が自分の都合の良い方向へ情報を操作した可能性があるという誤った情報が流れた』としたら、彼女の活動には影響が出るのではないか?」
「・・・・・・・!!」
そういうことか。俺がしらばっくれる事も見越して手を打ってるとはね。
この人は初めから俺達が情報操作をしたことを武器に話していたんじゃなく、協力者のアルゴを人質に取ろうとしてたわけか。
情報操作って言っても名前の響きほど悪い事をしているわけじゃない。ただ今まで間違った認識をされていた物を元に戻しただけだ。何も間違った事じゃない。
けどアルゴはSAOでは有名な情報屋だ。そのアルゴが『情報を偽った
実際に身柄を拘束しているわけじゃないから少し違和感があるが、アルゴを人質にとっているようなものだ。
「・・・・・ずいぶんと汚いやり口ですね」
「人聞きが悪い事を言わないでくれたまえ。これはあくまで交渉だ」
「脅迫の間違いでしょう」
「私としても、今回の
そんな使命感棄ててしまえ。
と言いたいところだが言っていることが理解できないわけでもない。志気の低さっていうのは大きな問題だ。早く払拭した言っていう気持ちも分かる。
現状ではこれが一番無難な策だとも思う。
・・・・・・・・・・・・・・・もう腹くくるしかないってことか。
「はぁ・・・・・・わかりましたよ。ここまで手を打たれていたんじゃあ仕方が無い。素直に従った方が早い」
「それはありがたい。私としても少し心苦しい交渉だったのでね」
嘘付け。
思いっきりこっちに圧力掛けてたくせによく言うよ。よくアスナはこの人の下で働いているもんだ。いや、アスナだったらこの人にも正面切って意見できるから副団長になれたのか?
「ですが、これをあくまで『交渉』にしたいのなら、こちらの意見も聞いて貰いますよ」
「もちろんだ。これは『交渉』なのだから」
腹はくくったが、全部この人の思い通りになるってのは面白くない。
というより、ここまでされたら俺にだって条件を出す権利くらいあるだろ。
「じゃあ一つ目。戦うのは俺とあなたにすること。例えキリトが勝っても戦うのは俺とあなただ。俺とキリトだとお互いの動きを知ってしまっているから、単調な動きになりかねない」
「なるほど、志気を上げるという目的がある以上、それは避けたいところだ」
「二つ目。キリトと
「うむ。問題は無いとは思うが、妙は勘ぐりをされたくないというのはこちらも同じだだ。了解した」
「最後に。今回のような『交渉』を二度と俺に持ち掛けない事。俺以外の誰かを人質に取るような交渉には、今後一切乗らない。もしもう一度こういったことが起こったら、俺は一人のプレイヤーとしてあんたと敵対する。フィールドに出るときは気をつけてくださいね」
「・・・・・・・・肝に銘じておこう」
この人の話を呑むとするならこの三つは最低条件だ。流石にこんな脅迫まがいの事を何度も何度もされたんじゃたまらないからな。
今回の件で味を占められてKoBのパシリになるなんてごめんだ。
「ともかく交渉は成立だ。日程は追って連絡しよう」
「了解です。まあ交渉はともかく依頼は依頼だ。やれるだけのことはやらせてもらいますよ」
「それは助かる。では私はこれで失礼するとしよう」
「ああ、最後に一つだけいいですか?」
「なにかね?」
この人と話していて違和感、と言うよりは一つ疑問に感じる事が有った。
プレイヤーの志気を高めるためにハイレベルの戦闘を見せるとか、俺を交渉のテーブルに乗せるためのやり口とか、人の感情とか思考に敏感過ぎる。
しかも自分の本心は隠そうとしたり、自分に有利な方向に物事を進めるためには余念が無い。というより、初めから相手がどんな反論をしてくるのかを想定して、先に手を売っているみたいだ。
「あなたって、リアルではVRMMOの研究でもしてたんです?」
「・・・・・・・・・・・なぜそう思うのかね?」
「いや、人の考えとか思考にやたら詳しいんだなと思ったので。それもSAOでの思考回路に特化している気がするので、VRの世界で人がどういう行動を取るのかっていう研究とかしてたのかなあと思っただけです。」
「なるほど、君の推測や思考は本当に目を見張る物がある」
「ありゃ? 当たってました?」
「ふむ、詳しい事はいえないが、おおむね正解と言っていいだろう」
「勘だったんですがね」
「君との
「そりゃあどうも」
ではまた。
と言い残してヒースクリフはゆっくりと店から出て行った。
噂には聞いていたがずいぶんとまあとんでもない人だった。キリトを利用してプレイヤーの志気を上げて、ついでに自分のやりたい事までこなしてしまおうって言うんだから欲張りもいいとこだ。まあそれぐらいのハングリーさが無いと団長なんてのは務まらないのかもしれないけど。
しかもついでに俺まで巻き込んで・・・・・・・・
・・・・・・・ん?
もしかして、俺とも戦ってみたかっただけなのか?
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.
.
「志気を上げるっていうからKoBの幹部クラスの数人しかいないと思ってたのに・・・・・」
「ざっと5000人以上いるわね。SAOにいるプレイヤーの9割はいるんじゃない?」
「おかしいだろ・・・・・・皆暇なのか」
「失礼なこと言わないの」
SAO全体のことを考えるってこういうことか。なにが『何名かのプレイヤーが見学にくる』だよ。目立つとかそういう次元じゃなくなってるだろうが。
「ヒースクリフも凄い事考えるわねー。ユニークスキル同士の戦いなんて皆興味あるに決まってるじゃない」
「俺はユニークスキルもって無いから関係ないのにな」
「あんたはあんたでユニークスキルみたいなもんじゃない。戦い方を生で見たとき本当はそういうスキルなんじゃないかと思ったわよ」
「残念ながら全部自力だ」
あれからよくよく考えても、ヒースクリフがわざわざ脅迫まがいの事をしてまで今回の
本人は『SAOの有名人が戦えば志気を上げやすい』って言っていたが、それだったらヒースクリフとキリトだけで十分事足りるだろう。俺の出る幕じゃない。
となると、やっぱりヒースクリフがキリトと戦おうと思った個人的な理由と同じ、『戦いたかったから』って言う理由が一番しっくり来る。俺に関しては無理やり理由付けをしたって感じだろう。多分。
「普通に正面きって戦おうって言ってくれば、別に断りゃしないのにな」
「それってあんたの推測でしょ? 私にはヒースクリフがそれだけの理由であんたを指名するとは思えないけどね」
「いや、あの人の思考回路は意外と子供っぽいぞ。自分の要望を通すための手回しが異常に上手いだけで」
「それが怖いのよ・・・・・。何にしてもちゃんと警戒すんのよ! あんたが負けたらまた交渉とか言い出すかもしれないんだから!」
「はいはい」
リズに全部話したのは間違いだったかなー。
アルゴを間接的に人質に取られた事に関しては本気で怒ってたみたいだし。
・・・・・・・ヒースクリフも俺以上に面倒な奴を敵に回したことを後悔すると良い。
「ほら、そろそろ時間よ。キリトの戦いもしっかり見とか無いとね」
「そうだな。応援ぐらいはしてやろう」
その後に俺の出番があると思うと億劫だが・・・・・・
何にしてもここまできてしまったんだから仕方が無い。さっさと戦って、さっさと終わらせようかな。
まあ勝って終われるとは思わないけど。
というわけで第十六話でした。
クレハもキリト対ヒースクリフ戦に関わらせていきます。
次回は戦闘シーンが書けたらいいなと思っていますが、ざっくりカットするかもしれません。
あくまで日常がメインなので。