デスゲームでの日常を   作:不苦労

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払拭される悪名

「なかなかいい結果になったんじゃないカ?」

 

「そうだな。にしても情報が回るのがはやかった気がするが」

 

「もともと有名人だったからナ。その影響だとおもうゾ」

 

「なるほど、そのおかげで想像以上の結果になったわけだ」

 

「ここに来る間にも色んな奴が話してたナ。影響力は文句なしダ」

 

「今頃あいつは人に囲まれまくって動けないかもしれないけどな」

 

 

 

例によって例のごとく、場所はアインクラッド第48層リンダースに有る俺の店。

俺は新聞をもってやってきたアルゴと共に、その新聞の内容について話をしていた。

 

内容は俺達の友人の事を大々的にピックアップした物で、今日の新聞の半分以上はそいつのことを書きまくった物になっている。ちなみにこの新聞を作ったのは別の新聞作成や情報提供を行っているギルドの物で、俺達2人が作ったわけではない。

 

いや、実際に作ったわけではないが、かなりの情報提供をしている。

こいつがこれまでどんな事をしてきたのか、この新聞の一面を飾っている内容の殆どを俺達が提供したといってもいいくらいだ。

 

 

「まあ、大体予想していた通りだな。めちゃめちゃ大げさに書いてやがる」

 

「期待通りじゃないカ。いつぞやと同じような結果になりそうだナ」

 

「その『いつぞや』をやったのはお前だろうが」

 

「にゃははははー」

 

 

新聞に載っている内容は、明らかに脚色されている。

まるで俺が新聞で取り上げられてバカみたいに祭り上げられた時みたいに、同情を引くような内容や抜群にカッコイイ武勇伝がデカデカと見出しとなっている。

自分がやられたときはたまったもんじゃなかったが、側から見る分には中々面白いもんだな。

 

 

 

「あのー・・・・・・すいません。クレハさんはいますか?」

 

「「ん?」」

 

 

 

俺とアルゴが新聞の内容について盛り上がっていると、店の入り口のほうから誰かの声が聞こえてきた。

店は定休日の札を出しているのに店にやってきた客に一瞬疑問を感じたが、店のドアからのぞかせた顔を見てその疑問はすぐに解消された。

 

 

「ああ、なんだシリカか。どうしたんだ?」

 

「やあシーちゃん。ひさしぶりだナ」

 

「クレハさん、アルゴさんもこんにちは。今大丈夫ですか?」

 

 

来客はシリカだった。

ピナの一軒からちょくちょく俺の店に来てはいたが、ここ最近は俺が忙しくしていたせいかあまり顔を合せる事が無かったので、ずいぶんと久しぶりだ。

 

 

「ああ、大丈夫だ。どうかしたか?」

 

「はい。えっと、ちょっと聞きたいことが有ってですね・・・・」

 

「フムフム、オネーさんに話してみナ?」

 

「何でお前が対応すんだよ。それで?何が聞きたいんだ?」

 

 

まあこのタイミングでシリカが来るってだけで、何を聞きに来たのか予想はつく。

きっとこの記事に載っているあいつ(・・・)の事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このキリトさんの記事についてです」

 

 

 

 

 

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『軍の大部隊を全滅させた蒼い悪魔。それを単独撃破した二刀流の50連撃!!』

 

 

 

俺とアルゴが見ていた新聞の一面にはデカデカとこう書いてあり、その見出しの下には2本の剣を持って戦うキリトの写真がある。

 

事の発端は74層のボス攻略で起こった。

アスナとパーティを組んでいたキリトは、迷宮区の探索を進めてボス部屋の扉を発見した。その場ではボスに挑む事は無く偵察だけを行ったが、その後休憩を取っている際に『アインクラッド解放軍』の部隊に遭遇、ボス部屋までのマップの提供を迫られた。その場に居合わせていたクライン率いる『風林火山』の面々はそれに反対したが、結局マップ情報は軍へと渡ることになった。キリトはボスへ挑む事を止めたが、キリトと別れた軍はそれを聞き入れず、ボス戦へと望んでしまった。

軍がボスへ挑んだ事に気がついたキリトは、ボス部屋へと駆け付け、アスナと『風林火山』の面々と共に軍と共闘。数名の死者を出し、時間と共に戦況は悪化していった。

しかし、キリトは自身のユニークスキルである『二刀流』を開放し、瀕死の状態になりながらもボスを撃破する事に成功。第75層のアクティベートを完了させた。

 

 

 

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「以上。アルゴさんの状況説明でしたとサ」

 

「すごいですね!見てきたみたいです!」

 

「ホントにな。どうやったらそこまで細かい情報収集が出来るんだ」

 

「そこは企業秘密って奴だナ」

 

 

新聞の一面の内容については今アルゴ我説明したとおり。

結論だけまとめると、キリトが二刀流を使って74層のボスを撃破したって訳だな。

 

 

「二刀流なんてはじめて聞きました。エクストラスキルですよね?」

 

「というよりはユニークスキルといっていいだろう。ヒースクリフの神聖剣とおなじ部類だ」

 

「発生条件も分かってないみたいだしナ。もっともこんなスキルを全員がもてるようになったらバランスブレイカーもいいとこだし、ユニークスキルで間違いないネ」

 

「なるほど・・・・・流石に50連撃なんて皆が使えたらまずいですもんね」

 

「ああ、それ嘘だぞ」

 

「えええ!?」

 

 

 

こんな記事誰が信じるんだよと思ってたが、シリカみたいな奴がだまされるのか。

中層プレイヤーは攻略組を結構過大評価しているというか、俺達にできないものすごい事ができる奴らみたいなイメージを持っているから、こういう記事にも違和感を感じにくいんだろう。戦闘に参加しないプレイヤーはそれ以上にだろうな。

 

 

「せいぜい16連撃くらいだった気がする」

 

「あれ?クレハさんはこのスキルの事詳しいんですか?」

 

「俺が二刀流での戦い方を教えてたから多少知っているって感じだ。ソードスキルはともかく、通常戦闘の時から剣を二本の剣を使うとなると、立ち回りも変わってくるからな」

 

「クー坊も見方によっては二刀流みたいな物だからナ、キー坊もちょうどいい先生を見つけたもんダ」

 

 

俺はかなり早い段階からキリトから二刀流の事を聞いていて、依頼として『二刀流での戦闘指南』ってのをこっそり受けていた。

初めから盾を持たずに片手剣だけで戦っていたキリトが、通常の戦闘でいきなり二本の剣を使って戦うのにはどうしても違和感があったらしい。今まで素手だった左手にいきなり剣をもって戦うとなると、どうしてもバランスだったり攻撃のタイミングにずれが生じてしまう。俺はそれを極力なくすためにはどう立ち回るべきなのかなどを教えていた。

 

 

「なるほどー。クレハさんが先生だったわけですね」

 

「先生って程でも無いけどな。キリトが慣れるまで立ち回りを観てただけだ」

 

「片手剣が2本になったって言っても、単純に考えると使う武器が代わった訳ダ。立ち回りを見直すのは基本だナ」

 

「自分の動きを他から見てもらわないと、どこに隙が出来てるかなんかわからないからな。その辺の指摘をしてやってたんだ」

 

「それにキー坊とクー坊だと戦い方が全然違うし、それ以外を教えるのは難しいだろうナ」

 

 

キリトに剣を二本使った戦闘を教えていたのは本当に序盤だけだった。

アルゴが言ったとおり、俺の戦い方は『敵の攻撃を受け流して隙を突く』っていう感じだが、キリトの場合は『正面から叩き切る』って感じの戦い方だ。早い話が技術で敵を押さえ込むか、力で敵をなぎ払うかの違いだな。

型は似ていても戦い方の方向性が違うから、後半はキリトは自分で自分なりの戦い方を見つけ始めていて、実践でそれを試して固めていったってところだな。

 

 

「ユニークスキルって便利なだけじゃないんですね」

 

「そうだな。戦闘以外にもいろいろと面倒も起こるしな」

 

「面倒?」

 

「嫉妬に狂った他のプレイヤーだナ」

 

「ああ、なるほどです」

 

「シリカがピナをテイムした時みたいなもんだ。下手したらそれ以上だろ」

 

「あれは・・・ちょっと勘弁して欲しいですね・・・」

 

 

嫉妬深いネトゲプレイヤーが、ゲーム内にたった1つしかないスキルを持ったプレイヤーなんて見つけたら何がどうなるか分かったものじゃない。フェザーリドラをテイムしたシリカも心当たりがあるようで、引きつった苦笑いをしている。

 

 

「まあ、シリカの場合は『女性プレイヤー』っていうフィルターがあったから、そこまで露骨な嫉妬は浴びなかっただろう」

 

「うーんそうですね。どちらというと、珍しい物見たさで押しかけたり、パーティに引き入れようとする人のほうが多かったですね」

 

「けど今回のキー坊はそうも行かない訳ダ。なんせビーターなんて最上級の悪評を初めから持ってるんだからナ」

 

 

アルゴが言うとおり、キリトはビーターだ。同じユニークスキルを持ったヒースクリフみたいに、巨大ギルドのギルドマスターみたいな後ろ盾なんて無い。

攻略に向けてかなりの戦力になるから、戦闘とかレベリングの邪魔とかはされないだろうが、中途半端に陰湿な嫌がらせとか受けそうだ。

 

けどそんなの黙って見過ごすのはおもしろくない。

 

 

 

「だからこの新聞製作を手伝ったんだけどな」

 

「ああっそうでした! わたしはその事を聞きに来たんですよ!」

 

「そういえば聞きたいことが有るって話だったな。この新聞の事か?」

 

「そうです! この新聞の続きの事ですよ!」

 

 

 

 

「この『剣影が語る黒の剣士の真実!!』っていう記事。やっぱりクレハさん本人の提供だったんですね」

 

 

 

 

 

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このままだとキリトにヘイトがたまるのは避けられない。自分がしたことで周りから疎まれたり嫉妬される分にはまだ分かるが、今回キリトは何も悪い事なんかしていないどころか、ボス1体を撃破するという功績まで残している。

そんな奴が周りから疎まれるなんて間違っている。というより今までビーターなんて不名誉な称号を1人で背負っていたこと自体が間違っているんだが、とりあえずこれから起こりうる問題は俺にとっても気持ちがいい物ではない。

 

75層のアクティベートから帰ってきたクラインからキリトが二刀流を使ったという話を聞いた俺は、すぐにアルゴに連絡を取って情報屋へ手を回した。

といっても俺がやった手回しって言うのは簡単だ。キリトが今までやってきた事を、そのまま記者へ伝えて新聞にしてもらっただけ。俺の記事を書いたアルゴと同じだな。

 

『βテスターの盾になったビーター』

   『圏内殺人解決の立役者』

     『ビーストテイマーを狙うレッドギルドの討伐劇』

 

などなど、それ以外にもいろいろと見出しが有る。

 

 

 

 

「その結果がこの新聞だよ。アルゴとキリトが俺にやったのと同じ事をしてやった」

 

「にゃはは。下手したらクー坊の時より脚色してるかもナ」

 

「前回の記事を書いたのはアルゴだったけど、今回は違う。俺達が脚色して話した物ををさらに記者が脚色してるから凄い事になってる」

 

「なるほどー、だから実際の内容よりもちょっぴり大げさなところがあるんですね。わたしと一緒に45層に行ったときの話も載っていて、それが気になって・・・・」

 

「ああ、悪かった。シリカのことも勝手に記者に話しちまった」

 

「いえいえ、それは全然かまわないですよ。クレハさんとキリトさんしか知らないはずの話が記事になっていたので、本当にクレハさんが情報提供をしたのかの確認がしたかったんです」

 

「情報提供者は俺で間違いないよ。まあ提供したのは俺だけじゃなくて、クラインやアスナも関わってるんだけどな」

 

「そうだったんですか・・・わたしにも声を掛けてくれれば、喜んで参加したんですけど・・・」

 

「そうしようとも思ったんだが、あまりいい思い出でも無いだろうからな。俺が話せる分は俺が済ませとこうと思ったんだ」

 

 

俺とキリトが和解した55層以降にキリトが関わってきた事件については俺が話をしている。それ以前のものはクラインやアスナやエギルがメインで話を進めて、脚色はともかく嘘をつくと後々問題になるから、その裏付けをアルゴがしている。

 

 

「けどクレハさん。わたし達を襲ったギルドって、7人くらいでしたよね?」

 

「そうだな、詳しくは覚えてないが確かそのくらいだ」

 

「新聞には『大量のオレンジプレイヤー』ってなってるんですけど」

 

「俺達3人に対して7人も来たんだ、大量だろ」

 

「けどこれ誤解をまねくんじゃ・・・・」

 

「嘘は言ってない」

 

「確かにそうですけど・・・・・」

 

 

俺の時だってバカだろって言いたくなるくらいの脚色ぶりだったんだから大丈夫だろ。というかその新聞を作った本人が真横にいるんだが、そいつに聞いても『嘘は言ってないだロ?』としか言わなかったんだからいいじゃないか。俺が言っても。

 

 

「けど以外ですね。クレハさんがわざわざ名前まで出して情報提供するなんて」

 

「そうか?」

 

「匿名とかにするタイプだと思ってました。クレハさんって目立つの嫌がるじゃないですか」

 

「にゃははは、クー坊見抜かれてるナ」

 

「うるせえよ」

 

 

見抜かれてると言ったアルゴの発言が間違っていないからこそ腹立つな。

『匿名にしたい』『目立つのが嫌』っていうのはまさに俺が情報提供をする時にアルゴに対して言った言葉だった。記事にする際に情報提供者の名前を出すか出さないかって話をしたとき、全力で俺は反対した。

OK出したら記者がノリノリで俺の名前使いまくりそうだったから本気で嫌だった。

 

 

「嫌だったけど、影響力が違うって言われて折れたんだよ」

 

「影響力、ですか?」

 

「キー坊はすでに悪評のほうが広まっているからナ。それを塗り替えるには『今までの情報のほうが間違っていた』って思われるような信憑性の有る情報元が必要ダ。そこで我等が『剣影』様のビックネームを利用したわけだナ」

 

「お前絶対バカにしてるだろ」

 

「すでにいろんな人に信頼されているクレハさんからの情報だから、いろんな人が信じやすいって事ですか?」

 

「まあ、簡単に言えばそういうことだ」

 

 

信頼されているのかどうかは知らんが、情報元が分からない物よりはずっと信憑性が有るって事で俺の名前が使われた訳だ。・・・・・・・ここまでデカデカと名前を出すとは思ってなかったけどな。

 

 

「といっても、キリトの悪評のほとんどはビーターっていう先入観から生まれたでっち上げだからな。アルゴがその辺の情報がデマだって事を証明したって事のほうが大きいだろう」

 

「調べてみれば対したものでもなかったゾ。キー坊が『無抵抗のプレイヤーをボコボコにした』って噂を調べたら、『ケンカを止めに入って巻き込まれただけ』みたいなオチばっかりだったしナ」

 

「・・・・・悪評に関してはあいつの運が悪いってのも有るよな」

 

 

何をどう歪曲したらそうなるんだ。というか何でそれを信じるんだよ周りの連中は。

現在進行形で脚色した記事をばら撒いている俺達が言えたことじゃないが、流石に疑ってかかるとか自分で調べてみるとかしようぜみんな。

 

 

「けどキリトさんの見られ方が変わって良かったですね。中層はキリトさんの話題で持ちきりですよ」

 

「おお、それは良い知らせだな。中層での噂の流れ方はまだ確認してなかったから不安だったんだ」

 

「はい!わたしもピナを助けてくれた人だって話をして来ましたから間違い無いですよ」

 

 

シリカからも話をしてくれたのなら中層プレイヤーに対してはもう大丈夫だろう。シリカもそれなりに名前が知れているし、シリカが話していた事実は信憑性として文句無しだろう。

 

 

「これで『ユニークスキル持ちに対する嫉妬』と『キー坊の悪評』の問題は無事解決だナ」

 

「そうだな。結構の数のプレイヤーがキリトの噂を見直したみたいだし、嫉妬心を持った奴がいたとしてもおおっぴらにキリトの邪魔は出来ないだろう」

 

「そうですね。2人ともお疲れ様です」

 

「ホントーに疲れたナー。こんな時は甘い物とかが食べたい気分だナー」

 

 

アルゴがちらちらとこっちを見ながら疲れたアピールをしてくる。

さっきまで言いにくいことズバズバ言ってたのに何でこういうときだけは遠まわしにしてくるんだよ。

 

 

「はいはい分かったよ。コーヒーと菓子作ってくるから待ってろ。ついでだしシリカものんびりして行きな」

 

「え?いいんですか?」

 

「ああ、久しぶりにチーズケーキでも作るか」

 

「わぁ!ありがとうございます!」

 

 

色んなところに手を回したりしたから結構疲れたのは事実だが、一仕事終えてやっとのんびり出来そうだ。久しぶりにシリカも来たことだし、シリカの好きなチーズケーキでのんびりしとこう。

攻略もクォーターポイントに到達したし、ユニークスキルも2つ目が発見された。

これからすぐに忙しくなるだろうから、今のうちにのんびりしておこう。

 

 


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