デスゲームでの日常を   作:不苦労

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かなり期間が空いてしまいました。


これから少しずつ物語の時間を進めていきます。
SAOからALOに移るように進めていきます。



閃光との日常

アインクラッド第48層 リンダース

攻略の最前線は74層まで押し上げられたが、俺の店である万屋秋風は店を上層へ移動させる事も無く、いまだにリンダースで店を開いている。

 

一時期は異常とまで思える盛況振りを見せた俺の店だが、あれから結構な時間が経ち、店として落ち着いた経営が可能な状態に落ち着いた。

 

 

 

 

 

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「あーあ。今日も結構疲れた」

 

 

クウォーターポイントが近づいている所為か、最近はレベリングや討伐クエストの護衛などの依頼が増えている。拘束時間が長いって言うのに加えて、安全マージンはしっかり取っているとはいえ戦闘をしているわけだから精神的にもきついものがある。

 

中々に疲れる一日だったが、営業時間も無事に終了したので、今日の疲れを癒すためにコーヒーを入れて一息つくとしようかな。

キリトたちと一緒に飲むコーヒーもいいが、やはり一人でのんびりとコーヒーを飲むのもいい。リラックス効果としてはこんな風に一人で静かに飲むのが一番だろう。

俺は久しぶりの一人の時間を噛み締めながら、コーヒーの一口目を・・・・

 

 

 

 

「ちょっとクレハ君聞いてよ!!」

 

「・・・・・」

 

 

 

 

飲めなかった。

 

 

あわただしくドアを開けて俺の店に入ってきたのはアスナだった。こいつがここまで慌しく俺の店に来る事自体が珍しい事なのだが、それに加えてアスナはいつもの血盟騎士団の鎧ではなく、動きやすそうな私服姿だった。

かなりレアなアスナの姿に驚くべきところなのだろうが、今まさにリラックスタイムに入ろうとしていた俺は驚く元気も無くそのままのテンションで話をする気しか起きなかった。

 

 

 

「アスナかーどうしたー」

 

「そんなにのんびりしてる場合じゃないって!聞いてよ!」

 

「聞いてるって」

 

「もう!とにかくこれ見てよ!」

 

「聞くのか見るのかどっちなんだ」

 

 

 

いつもではありえないほどに興奮している。というよりは歓喜しているアスナが見せてきたのはアスナのスキルステータス画面だった。細剣スキルやさまざまな戦闘スキルのがずば抜けているのを見せられ、最初は何のためにそんな事をしているのか分からなかったが、その疑問はすぐに解消された。

さまざまな戦闘用スキルが完全習得されているのかで、一つだけ異なった部類のスキルが完全習得されていた。

 

 

 

 

「料理スキル完全習得したのか」

 

「そうなのよ!昨日やっとよ!」

 

「そりゃあおめでとう。けどなんでわざわざ俺のとこまで来たんだ?」

 

「なんでって・・・・クレハ君覚えてないの?」

 

「なにがだ?」

 

「料理の先生を依頼したとき、完全習得を依頼完了とするから報酬はそこで決めようって言ったじゃない」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・そうだっけ?

完全に忘れていた。なんだかんだいつもの事のようにお茶の前の準備は殆どアスナとしていたから、正直なところ料理の先生の依頼を受けていた事も今言われるまで忘れていた。習慣になっていた。

というか依頼を受けてから20層も攻略が進んでいる。俺もずいぶん時の長い依頼を受けたもんだ。

 

 

 

「すまん完全に忘れてた」

 

「まったく。クレハ君らしいけどね」

 

「そういうアスナもな。わざわざそんな昔の話を覚えていて、きちんと報告に来るんだから、ずいぶんと真面目なもんだ」

 

「当然よ。けどクレハ君がそう言って無くても最初に報告するのはクレハ君だったと思うわ。一番お世話になったんだから」

 

「そういうところがらしいと思うんだがな」

 

 

 

変なところで律儀な奴だな。料理の先生なんていっちゃあいるが、実際のところ後半はただお茶の準備を手伝ってもらっていただけだ。熟練度が上がるに連れてわざわざ俺が見てから料理を始めるなんて事もなくなっていたし、どちらかというと俺のキッチンを共有していた感じだな。

しかし依頼の報酬なんて全く考えていなかった。そもそもこんな事をしただけで報酬を貰っていいのかも疑問ではあるが、それを言ってもアスナは納得しないだろうし・・・・

 

 

 

「・・・・・・・」

 

「クレハ君?」

 

「すまんアスナ。正直なところ依頼の報酬といわれても何を貰っていいかわからないって状態だ。正直報酬なんかいらんと言っていいレベルだ」

 

「それはダメ」

 

「ですよねー」

 

 

 

正直な気持ちを言ったんだが、予想通りの反応が返ってきた。

本当に一体何を貰えばいいというんだ。コルを受け取るっていうのもなんだか気が引けるし、かといってこの依頼に見合ったアイテムや装備なんて思いつかない。アスナから依頼を受けたのはリズと一緒に店の方針を決める前だから、それに合わせて報酬を貰うのもなんだか違う気がするし。

 

 

 

「うーん・・・・・」

 

「そんなに考え込まなくても・・・」

 

「いや、いい落とし所が見つからなくてな。正直こういうタイプの依頼は初めてだったし」

 

「まあ、流石に何人も相手に出来る依頼では無いわよね。考えてみたらクレハ君に料理を教わるって結構すごい事だったのかもね」

 

「そんな事は無いだろ、ただの依頼なんだし」

 

「けどファンクラブの人だったら泣いて喜ぶんじゃない?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

ありえそうで怖い。

アルゴからわけわからんクラブの存在を聞いてから結構経ったが、あれからまだまだ拡大しているらしい。なんだか分からんが詳しく知るのが怖かったので、今何人いるのかは知らない。中には結構本気で熱狂的な奴もいるらしい。我ながら何がいいんだか分からん。

 

というかアスナと同じキッチンで料理しているって、俺がアスナのファンに殺されるんじゃないか?同じ熱狂的なファンでも危険度が違う気がする。オレンジプレイヤーになるのも辞さない奴がいそうだ。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「なんだか今日のクレハ君は考え事が多いね」

 

「自分の身の危険についてだ。大事な事だぞ」

 

「考えてる事がよくわからないのも相変わらずね」

 

「ほっとけ」

 

 

 

すでにばれてるのか、ばれてないのかによってかなり変わってくるな。

ばれてなかったらばれた時が怖いし、ばれてるのならあえて何もされて無いのが怖い。あれ?どっちにしても俺やばいんじゃね? 依頼主と見せかけて報復とかされるかもしれん。

けどまあ、俺が何かされるんだったらその前にキリトがやられてるか。俺が何かされそうになったらキリトを生贄にしよう。そうしよう。

 

 

 

「それよりもクレハ君。ちょっとキッチン借りてもいい?」

 

「別にいいが何をするんだ? 今日は多分お茶会は無いと思うぞ」

 

「お菓子の準備をするわけじゃないからいいの。クレハ君、お腹すいてない?」

 

「何だ急に。まあもう夕方だしな、ちょっと小腹はすいてきたかも」

 

「ならちょうどいいわ」

 

「何がだ?」

 

 

 

「せっかく完全習得したんだから料理してあげる」

 

 

 

 

 

.

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.

 

 

 

 

料理スキル完全習得。

そこまで到達しているプレイヤーが今何人いるのかは知らないが、一番最初に完全習得したのは俺で間違いない。俺が最も信頼している情報屋からの情報だから間違いは無い。

そのせいか、俺は自分以外のプレイヤーの料理を食べた事が無い。自分で作った方が早いから、わざわざプレイヤーが経営するレストランにも言った事が無いし、料理スキルを取っている数少ないプレイヤーがいたとしても、完全習得しているプレイヤーがいればそっちに料理を頼むのは当然だ。

そんな俺だが、アスナからの提案によって実に久しぶりに人が作る料理という物を食べる事になったようだ。

 

人から料理を振舞ってもらうのは精神的にも経済的にもありがたい。そんなわけで、アスナからの依頼の報酬は『俺が注文した料理を振舞ってもらう』ということにした。

 

 

 

「本当にこんなのでいいの? 報酬じゃなくてもクレハ君には最初から振舞う予定だったんだけど」

 

「ああ、十分だ。人に料理を作ってもらうなんていつ振りか分からないからな」

 

「クレハ君がいいなら良いんだけど・・・・・」

 

「よろしく頼む」

 

 

 

というか今までアスナの料理というと、スイーツ系やサンドイッチ系の軽い物が多かったから、ガッツリ料理を作るのを見るのは初めてかもしれない。料理の先生なんていっても、実際にやるのは作る時に間違った手順を踏んでいないかとか、その材料のレア度で料理を行うとどの位の確立で失敗するとかをアスナに横からレクチャーしてただけだからな。完全習得をした今となっては料理の知識が少なからず有るアスナのほうが料理のテクニックは高いのかもしれん。

 

 

 

「それで、何を作ればいいの?」

 

「考えている物が一つ有るんだが、材料がそろってるかどうかだな」

 

「よっぽどレア度が高い物じゃなかったらそろってると思うわ。昨日調味料のバリエーションを試すためにたくさん用意したから」

 

「ああ、あれ楽しいよな。俺も初めて出来るようになった時は未知の調味料を作るためにいろいろやったぞ」

 

「そこは現実世界にあるような調味料を目指そうよ・・・・」

 

 

 

あの時はいろいろ試したなー。醤油でもポン酢でもない二つの間を攻めるような調味料作ってみたり、食べてすぐは辛いのに後味は甘くなるソースとか作ってた。

結局使う事は無くて未だにストレージにあるんだけど、いつ消費しようか。

 

 

 

「まあそういうことだから、食べたい物があったら何でもいって頂戴」

 

「そりゃあありがたいね。じゃあ遠慮なく注文させてもらおうか」

 

「何なりとどうぞー」

 

 

 

フランス料理店のシェフのように、アスナは得意げに注文を待っている。

きっとアスナも人に料理を振舞うという事が少なからず楽しみなのだろう。人に作ってもらうのもそうだが人に作ることもまた料理のよさといえる気がする。どんなリアクションが帰ってくるのかとか、喜んでくれるかとか、いろいろと楽しみな事も多いからな。

 

得意げなアスナに向けて、俺は自分が食べたい料理を注文する。

自分でもたまに作って食べる、俺が好きな食べ物を伝える。

 

 

 

 

「お茶漬け」

 

「え?」

 

「お茶漬けつくってくれ」

 

 

 

 

 

 

.

.

.

 

 

 

 

 

「うめぇ・・・・・・・」

 

「そういってもらえるとうれしいけど・・・・・もっと特別な物でもよかったのに」

 

「いやーめちゃめちゃ好きって訳ではないけど、たまにスゲー食いたくなるんだよなー」

 

「完全習得して初めて振舞った料理がお茶漬けって、なんだか複雑なんだけど・・・・・」

 

「まあぶっちゃけ完全習得しなくても作れるもんな、お茶漬けくらい」

 

「分かってるならもっとちゃんとしたもの頼んでよ!」

 

「いいじゃないか、本格的な料理を振舞うのはキリトに取っておけよ」

 

 

どうしてこんな簡素な料理を頼んだかというと、モチロン俺が食べたかったというのもあるが、せっかく完全習得したんだから最初は好きな男に振舞うべきだと思ったからだ。

あいつなら泣いて喜ぶだろう。いや、アスナから直接料理を振舞ってもらうとなると上手いこと言えなくてテンパるか、上手いこと言おうとして墓穴掘るかのどっちかかな。

未だに初心なアスナでも料理に振舞う位なら出来るだろう。俺にやったみたいに完全習得したから振舞ってあげるとか適当な事言えばいいわけだしな。

あれ?けどそうなるとどこで料理するんだ?キリトは未だに宿屋生活したままだし、流石に俺のキッチンで2人だけの世界作られるのは勘弁願いたい。となるとアスナの家に誘う事になるのか?

 

 

 

「なあアスナ。キリトに振舞うとなると場所は・・・・」

 

「わ、私の家に・・・・・・キリト君が・・・・・・部屋に・・・・・・」

 

「あー・・・・・」

 

 

 

アスナも俺と同じ思考にいたったのか、顔を真っ赤にしてフリーズしている。

別に短い付き合いでも無いんだから家ぐらいさっさと誘えばいいのに。というか俺の家には普通に来るのに家に招くのは無理なのか。自分の部屋となるとやっぱり女の子的にはハードルが高いのか、それともアスナが特殊なのか、まあどちらにしても料理振舞うだけなのにずいぶんと苦労する奴だ。見てて面白いけど。

 

これだけキリトキリトって言ってるくせに、いざキリトと面と向かって話すとツンケンしているというかそっけないというか、ツンデレにしてもデレがなさ過ぎるんだよなー。一度くらい素直に買い物なり食事なり誘えばいいのに、55層の時から殆ど変わらず

偶然を装って一緒に行動したりしている。

 

 

 

「アスナ」

 

「な、なに!?」

 

「想像しただけでテンパりすぎだろ、その分だとキリトを家に誘って飯振舞おうってのは考え付いたんだろ?」

 

「そ、それはそうなんだけど・・・・・家に来るなんて・・・・」

 

「まあそれ自体はいい。呼ぶまでに心の準備くらいはしとけ」

 

「う、うん。そうする」

 

「問題は誘い方だ」

 

「誘い方?」

 

「そう、誘い方だ。キリトが家に行きたいって言うように誘導するなよ」

 

「え? けどどうすれば・・・・・」

 

 

 

 

やっぱりキリトから言い出すようにするつもりだったか。

というか自然にその発想が出てくるのが怖いな。俺も普段から知らない間にこういう風に誘導されてるんじゃないか?いや、そうなるとアスナよりリズとアルゴのほうが怖いな。

 

まあいい。とりあえず今回アスナが料理スキルを完全習得したっていうのはいいタイミングだし、ここらでこいつら2人の関係を一つ進めておくべきだろう。一段落したといっても最初にアスナから貰った依頼はキリトとの関係を深めたいって奴だったし、俺のお節介も込みだけどアスナのためにもなるだろう。

 

 

 

「簡単だろ、アスナが自分から素直に誘えばいい。『料理を振舞うから家に来てくれ』って」

 

「エエエ!! 無理無理!!」

 

「なんでだよ、そろそろ強気なアピールでもしとかないと現状は変わらないだろ」

 

「だって・・・その・・・・」

 

「何だよ」

 

 

 

「・・・・・・恥ずかしいし」

 

 

 

 

予想通りの返しが来たな。というか好きになってから1年以上経ってるのに何でこんなに

初心なんだ。こいつ絶対いいとこのお嬢様だ、箱入り娘って感じだ。

多分アスナは本当に恥ずかしいだけなんだろう。やらずにすむならやらないで事を済ませたいって感じなんだろうが、そうすると進展するのは難しいだろう。その間にもアインクラッドの攻略は進んでいくわけで、SAOもいずれ攻略される。そうなると2人が会う事もなくなるだろう。お互いの個人情報を共有でもして無い限りは・・・・

今のアスナに足りないのは多分危機感だ。今のままでもいいって気持ちがどこかにあるから、ちょっと強気なアピールが出来ないんだろう。ならその危機感を持たしてやればいい。

 

 

 

「まあそれでもいいけど。最近キリトは結構人気あるみたいで、飯とかに誘われる事も多いらしいぞ」

 

「・・・・・・・・え?」

 

「この間もNPCの上手い飯屋を紹介してもらったとか言ってたし、代わりに今度キリトが他の店を紹介する約束もしたらいい」

 

「け、けどそんな事キリト君は一言も・・・・」

 

「わざわざ女の子にするような話じゃないからな。アスナもキリトにそういう話題振らないだろ?」

 

「う・・・・」

 

「まあそういうこともあるみたいだが、どうする? 取られるかも知れないけど」

 

「それはダメ!!」

 

 

 

 

そこはやっぱり嫌なんだな。まったく、何でここまでベタ惚れで強気になれないのか分からんな。いや、攻略の鬼なんて呼ばれているほどだから、一回そういう火がつけばものすごく積極的に頑張るやつなんだろう。今の話で多少火がついてくれればいいが。

ちなみにさっき言ったキリトを誘っている奴ってのはクラインとそのギルドメンバー達のことだ。別に『女性プレイヤーから人気が有る』とは言って無いからな、キリトもわざわざクラインと飯に行った話しなんてアスナに言わないだろうしな。嘘はついてない。ばれたら怖いけど・・・・

 

 

 

 

「わかりました!!」

 

「うわぁびっくりした!」

 

「明日キリト君を家に誘って料理するわ!」

 

「お、おう・・・・・・・って明日?」

 

「そうよ! だって早くしないと・・・・その・・・取られちゃうじゃない!」

 

「そ、そうだな・・・・・」

 

「私家に帰って準備してくるわ! それじゃあクレハ君、いろいろとありがとう。またね!」

 

 

 

 

急に立ち上がり明日誘う宣言をしたアスナは、簡単な別れの挨拶を済ませた後すごい速度で俺の家を飛び出て行った。一回火がついたら積極的と予想はしたが、積極的なんてものじゃなかったな。思い立ったら全パワーをその目標に向けるタイプだった。

想像以上の成果を見せた俺のブラフだが、アスナがその気にする事はできたからよしとしよう。ブラフだってばれたときはクラインを生贄にしよう。そうしよう。

 

 

俺はすっかり冷めてしまったコーヒーを飲みなはじめた。

20層近く進展が無かった2人が明日進展を見せるかもしれないとなるとそれなりに楽しみかもしれないが、上手くいくか不安なところもある。アスナが張り切りすぎてからまわらないかとか、キリトがテンパりすぎて訳わかんないことしないかとか。

 

ずいぶんと世話の掛かる2人だ。

 

 

 

 

 

まあ、全部俺のお節介なんだけどな。

 

 

 

 

 




というわけで第十三話でした。

いろいろと突っ込みどころの多い小説ですが
優しい目で見ていただけると幸いです。

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