デスゲームでの日常を   作:不苦労

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更新かがなり遅れてしまいました。
リアルが忙しく中々アイディアを形にする事ができません。
執筆って難しい物ですね。


鼠との日常

俺がキリト達と行動を共にするようになってから数ヶ月がたち、アインクラッドの攻略は着実に進んでいった。

現在の最前線は74層。攻略は順調に進んでいるようで、数日後にはこの層を突破することも可能という情報も入ってきている。

 

順調といっても攻略のペースが早まっているわけじゃない。むしろペースは遅くなっているが、これは仕方が無いことだろう。ゲームの難易度が上がっただけでなく、皆この世界での生活に順応している。

 

それが良い事なのかは分からないが、これは遊びではないがゲームだ。きっと悪い事ばかりでは無いだろう。

 

 

 

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「とりあえず、今回入った情報はこんなとこだな」

 

「なるほどナ。やっぱりあのクエストは大量討伐系だったカ」

 

「村人を守りながらモンスターを全滅させるタイプだ。難易度はそこまで高くないが、無理だと思ったらクエストを棄てて逃げた方がいいだろうな」

 

「そうなるとパーティの状況判断が大事になってくるナ。パーティリーダーが引き際を決めるようにしておくように書いとくヨ」

 

「そうしたほうがいいな。無理に進めたら全滅もありえる」

 

 

 

俺は前回受けたクエストの依頼の情報をアルゴに提供しつつ、『アルゴの攻略本』の執筆をしているアルゴの手伝いをしていた。

今回の攻略本は74層の討伐系クエスト特集らしく、アルゴは俺が受けたクエストの情報を片っ端からメモ帳に書きなぐっている。

 

俺がアルゴの攻略本執筆を手伝うのは何回目だ?たしか店を開く前から手伝ってるから30層以上も手伝ってるのか。そう考えるとすごいな、俺がじゃなくて殆ど一人で攻略本を書き続けているアルゴがだけど。

 

 

 

「今回の攻略本はこんなとこかナ。助かったよクー坊」

 

「いつもの事だろ、それに今の俺が出来るのはこのぐらいだろうしな」

 

「謙遜するなヨ、最近のクー坊はずいぶんと活躍してるみたいじゃないカ」

 

「どこがだよ。俺は来た依頼をこなしてるだけだぞ」

 

「オレンジプレイヤーを監獄送りにする依頼とかナ」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

こいつなんで知ってやがる・・・・・

アルゴが言っているのは多分シリカの件だろう。あれから結構な時間が経ったし、アルゴからその話を追求される事も無かったから知らないもんだと思っていたが、こいつの情報収集能力を甘く見てたな。

別に知られて困るような事じゃないし、アルゴが言ってる事は間違いじゃないが、その言い方は明らかに誤解を招くだろ。俺が嬉々としてオレンジプレイヤーを監獄にぶち込んでるみたいじゃないか。

 

 

 

「流石は剣影様。これでまた人気もうなぎのぼりだナ」

 

「うるせえよ。そもそもあんなに騒がれたのだって一時的な物だっただろうが」

 

「イヤイヤものすごい勢いじゃないカ」

 

「何がだ?」

 

「クー坊のファンクラブの会員がとうとう500人超えたらしいじゃないカ」

 

「はあ!? 何だそのわけわからんクラブは!? 初耳だぞ!!」

 

「そりゃあ言ってなかったからナ、小さいうちに知らせたら潰されそうだしナ」

 

「当たり前だろうが。というか500人って明らかに男プレイヤーのほうが多いだろ」

 

「まあファンクラブだしナ。『男気に惚れた!』みたいな男プレイヤーも多いみたいダ」

 

「なんだよそれ・・・・」

 

 

 

ほんとになんて物を作ってやがる。というか誰だよそんなもの作った奴は。

いや、もちろん気持ちはありがたい。何を勘違いしてるか分からないが俺の事を少なからず好いていてくれる事は素直にありがたい。

 

けど恥ずかしい。純粋に恥ずかしい。

何だよファンクラブって。そんなの漫画やアニメの中でしかありえない都市伝説だと思ってたわ。いや、これもゲームの中だからそのファンタジーの世界と変わらないのか?

いやいや漫画アニメと違って俺はリアルに生きてる人間なんだからそうでも無いし、テレビに出てるアイドルとかと同じ扱いか?うわぁそれ余計に恥ずかしいな・・・・・

 

 

 

「むう・・・・・・」

 

「なんともいえない顔してるナ」

 

「ほっとけ。この気持ちが知りたいなら、ためしにアルゴファンクラブでも結成してやろうか」

 

「ニャハハ!遠慮しとくヨ。オレッチの場合そこまで人は増えないだろうしナ」

 

「いや、割と集まると思うぞ。情報屋の仕事を抜いても結構人気あるからなお前」

 

「エエ!? 何だそレ!? はじめて聞いたゾ!?」

 

「初めて言ったからな」

 

 

こいつも何だかんだ言って数少ない女性プレイヤーだ。しかも種類は違うがアスナと同じ位の有名人なうえに、いつもフードをかぶって素顔を晒さないのに顔は美少女の部類だ。そりゃあ人気も出るだろう。

といってもみんな隠れファンみたいな物だからアスナのファンほどおおっぴらに公言して無いみたいだけど。

 

 

「というかお前が知らないなんて珍しいな。お得意の情報収集はどうした」

 

「うう・・・・わざわざ自分の人気なんて調べるやつい無いだロ」

 

「ああそりゃそうだ。現に俺も知らなかったしな」

 

「・・・・・・・というかクー坊」

 

「何だ?」

 

「・・・・えっとナ。クー坊は何でオレッチの人気の事なんか知ってたんダ?」

 

 

 

アルゴは照れているのか聞きづらいのか、少し歯切れが悪くうつむきながら聞いてきた。なにかに期待しているようなよく分からない感じだ。

いや、これは警戒してるのか?確かに知り合いの男プレイヤーが自分の人気に詳しかったらちょっと怖いか。

 

 

 

「この間客の一人がお前のファンでな? アルゴと俺が一緒にいるのを見たらしくて、『どういう関係なんだー』って聞かれたんだよ。そこで知った」

 

「ど、どういう関係!? ・・・・・・・それで・・・・あの・・・なんて答えたの?」

 

 

「ああ、別になんでもないって言っといた。情報交換とかそういうのでよく会うだけだってな。変な噂なんてたって無いから安心しろ」

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・そう」

 

「?」

 

 

 

 

なんだか明らかに落胆しているようにがっくりと肩を落としてしまった。

俺の答えが気に入らなかったのか?俺としてもアルゴは結構信頼できる知り合いだから思いっきり否定するのも気が引けた訳で、あまり強くは否定しなかったんだが、情報屋としてはそれが不満だったとか?

いや、けど怒ってる風にも見えないし、よく分からんな。

 

 

 

「何か不味かったか?」

 

「・・・・・いや。クー坊はもっと女心を勉強するべきだと思うナ」

 

「いやいや、これでも結構気がつくほうだぞ。アスナとキリトをくっつけるためにさり気無くサポートとかもしてるし、恋愛相談の依頼だって偶に来るし」

 

「・・・・・・けど自分の事には鈍いんだよナー」

 

「何がだ?」

 

「なんでもないヨ。クー坊がそんななのは今に始まった事じゃないしナ」

 

 

 

何だかよく分からんが『しょうがない奴だナ』みたいな扱いを受けてしまった。

なにがなんだかさっぱり分からん。アルゴやリズと話しているとたまにこんな事が起こるから不思議だ。素直に分からないって言うと決まってこういう扱いを受けるんだよなー。

 

 

「ん?というかアルゴはなんで俺のファンクラブの情報なんか持ってたんだ?そんなの一銭の得にもなら無いだろ?」

 

「え゛!? いや・・・・それはな・・・」

 

 

別にファンクラブの情報なんて売れないだろ。その情報が欲しいやつはクラブに入るだろうし、人数が増えたなんて会員以外には全く興味の無い情報だし。わざわざアルゴがその情報を集めた意味が分からないし・・・

 

 

 

「というかどっからその情報仕入れたんだ?」

 

「いや・・・・集めたというか・・・・会員にはメッセージが送られるというか・・・・」

 

「メッセージ?」

 

「いや!なんでもない!気にしないでくレ!」

 

「いや、気になるんだが」

 

「それは・・・あれだ! ファンクラブの奴が常連でナ、偶然その話が入ってきたんダ!」

 

「ああ、なるほど。情報屋ってそういうとこからも方法集めるのか。流石だな」

 

「アハハハハ・・・・そうだナ」

 

 

 

そういう日常会話の中からも情報を集めておくのか、流石情報屋だな。

俺も情報を集めてはいるが本職って訳じゃないしな。やっぱり情報屋一本で行くとそうでもしないといけないものなのか、なんだか大変だな。

 

 

「俺も見習わないといけないな。そこまでストイックに情報は集めてなかったし」

 

「・・・・・なんかごめんナ」

 

「?」

 

 

さっき見たのと同じようにアルゴはまたうなだれてしまった。

今回俺はそこまで変な発言して無いはずなんだが、何がなんだか分からんな。アルゴの言うとおり俺も女心を学んだほうがいいのかもしれない。キリトの事をそうそう悪く言えなくなったな。

 

 

「まあいいか、とりあえず攻略本作りも落ち着いたわけだし、お茶にするか。」

 

「おお!待ってましタ!」

 

「こういうときは急に元気になるんだな」

 

「湿っぽい顔して食べてもおいしく無いじゃないカ」

 

「そりゃそうだ」

 

 

何だかんだ言って、攻略本作りは中々の重労働だ。しかもこいつはこの攻略本を殆ど無償で配布してる。新しい情報を集めるのには時として命の危険に晒される事も有るにもかかわらずだ。いつも飄々としているが、こいつ以上に献身的にプレイヤーの事を考えているやつのことを、俺は知らない。

 

アルゴファンクラブなんて冗談じみて言ったが、俺はこいつの事を尊敬している。自分の無力さをただせめて守りに入った俺とは違う強さをこいつは持っている。

こいつが危険な目に合った時、他のプレイヤーから糾弾される様な事が起こった時、俺はきっとこいつを守るためにすべてを投げ捨てるんだろう。

そんな事は起こらないとは思うが、俺の気持ちの問題だ。たとえ全プレイヤーがこいつの敵になっても、俺はこいつの味方で居続けようっていう気概だ。

 

 

 

「ま、それでもお前は一人で何とかしてしまいそうだけどな」

 

「ん?なにガ?」

 

「なんでもねーよ。今日は疲れたから特別に『マイルドベリー』使うか」

 

「ホントカ!? 流石クー坊!」

 

「はいはい、じゃあさっさと入れてくるから待ってろ。菓子は何にする?」

 

「んー・・・じゃあシェフのお任せで頼むヨ」

 

「なんだそりゃ」

 

 

 

こいつとこうやって話す用になったのはいつからだったか、もう忘れてしまった。

最初はそこまで仲が良かったというわけでもないし、家に2人でお茶をするなんて想像もつかなかったが、人の仲ってのはどうなるか分からないもんだな。

けどこいつの隣はなんだか居心地がいい。リズやキリトやアスナ、クラインやシリカだって同じように過ごしているのになぜだけそのどれとも違う安心感が有る気がする。

 

 

女心を、というよりは俺は自分が何を考えて、何を感じるのかを上手く理解できてないのかもしれない。というよりは、どう言い表せばいいのかが分からないんだ。

それも、アルゴや皆と一緒にいるこの日常で分かっていくのだろうか?

 

 

 

 




というわけで第十二話でした。


これからの展開に向けて最前線を74層に押し上げました。
スローテンポですが、執筆を続けていきますのでよろしくお願いします。

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