デスゲームでの日常を   作:不苦労

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ずいぶんと間が開いてしまいました。
申し訳ありません。


感想のほうで質問があったので、ここでも答えておきます。


Q.「痛い」って言ってるシーンが有るが、SAOに痛覚は無いのでは?

A.原作などでもキリトとアスナがぶつかった時に言ったりしてるので、反射的に言ったものと解釈してもらえれば幸いです。現実でも友達とゲームしてたら思わず言ったりしちゃいますし。一応理解して書いていますが、叩かれて何のリアクションもなかったりしたらキャラクターの感情表現や掛け合いに違和感が出てしまい、物語としてつまらないのであえてそういった描写を残しています。


Q.主人公が12層まで行ったなら、他のプレイヤーもいけるはず。攻略情報を持っているのが主人公だけなのはおかしいのでは?

A.主人公が攻略したことでもちろん他のβテスターも12層まで上ることは出来ます。しかし、『転移で12層まで行ける様になった』だけで、『12層まで攻略できるようになった』訳ではないということです。
例えば、この場合はLv.1のプレイヤーでも『12層まで行く』ことはできます。しかし『12層を攻略する』ことはできません。次の層に行けても、フィールドに出てボス部屋まで行くことはできないということです。
主人公はソロで11層以上の層のボス部屋まで到達したというわけです。ボスもソロで撃破しているので、ボスの攻略情報を持っているのは主人公だけです。めちゃくちゃすごい事してますが、だからこそβテスターで最強の扱いを受けているわけです。死んでもOKなβテストなら可能では?ということで。




黒の剣士との日常

「この店は落ち着くな・・・・」

 

「そりゃどうも」

 

 

 

以前リズと決めた定休日の昼過ぎ、珍しくキリトが1人で店を訪ねてきたかと思えば第一声がこれだ。

だらりと腕を伸ばしてソファに体を預けている様子から、かなり疲れているのが伺える。

 

圏内にいるところばかり見ているから忘れがちだが、こいつもれっきとした攻略組のプレイヤーだ。さすがにフィールドに出ずっぱりだと精神的に持たないんだろう。

童顔のせいで実年齢ははっきりとは分からないが、俺より年下なのは確かだろう。そんなやつが常に死となり合わせのフィールドに居たらさぞしんどいことだろう。

 

 

 

「けど俺の店は休憩所じゃないぞ」

 

「もうちょっと居させてくれ。宿屋は生活感がなさ過ぎて逆にリラックスが出来ないんだ」

 

「はいはい。というかお前、いまだに宿屋に泊まってるのか?」

 

「まあな。マイホームを買うコルなんて無いし」

 

「はあ?前線で1日中戦ってたら家を買う金貯めるのもそこまで時間はかからないだろ」

 

「・・・・・・・いろいろ出費があるんだよ」

 

 

思いっきり目が泳いでるな。この様子だと絶対に必要ないものにまで金を使ってるな。使い道の分からないレアアイテムとか、装備しない種類の武器なのに見た目とかレア度とかで衝動買いしたりだろうな。

シリカと冒険した時もなんか似た様な事言ってたし、こいつ貯金できないタイプだな。

 

 

「さすがの万屋も金貸しはやって無いからな。ちゃんと考えて使えよ」

 

「うぐ・・・分かってはいるんだけどな」

 

「まあ家を買うとなると、本気で金を貯めることだけに専念したら数週間で終わるだろ。なるべく早くいい家見つけろよ」

 

「善処するよ。そういえばクレハの家はどの位したんだ? しっかりした作りだし、かなり広めだし、結構したんじゃないか?」

 

「ん?ああ、内装とか全部含めて450万コルくらいだったかな」

 

「450万・・・・・」

 

「リズの店はもっと高いはずだぞ。水車付きな上に武具屋だからな」

 

「どこからそんな金が出るんだ」

 

「真面目に貯めてりゃ貯まる。リズの場合は知り合いから借りたりしたみたいだけど、その返済もさっさと済ませてたぞ」

 

「・・・・・・・・貯金しようかな」

 

 

話をしていたら家が欲しくなったのか、キリトも貯金を考え始めたらしい。

多分長続きしないだろうけど、一応応援はしておこう。キリトが家を持ったら多分アスナあたりが押しかけていきそうだけど、俺の店で猛アタックされるよりはましだ。必死にアピールしているアスナに全く気が付かないキリトを見てるとなんか悲しくなってくるしな。

 

 

 

「金が欲しいなら持ってるアイテムを売っぱらって見るんだな。450万なんてあっという間だぞ」

 

「その時になったらそうするかもしれない」

 

「いい刀が有ったら俺に売ってくれよ。今の刀よりいい性能なら買ってやる」

 

「そういえばクレハの刀ってどんな刀なんだ? 魔剣レベルか?」

 

「そんなわけ無いだろうが。普通にリズに作ってもらった刀だよ」

 

 

 

俺の刀は結構前にリズに作ってもらった物だ。キリトの剣ほど高性能って訳じゃあないが、中々使いやすくて気に入っている。濃い目の青色の鞘と黒い柄の色合いが、刀のずっしりとした重みを表わしている。

鞘の部分まで鉄で出来ているから、俺の戦い方とも相性がいいしな。

 

 

「その刀ってずいぶんと重そうだよな。よくあんなに振り回せるな」

 

「お前が言うな。お前の片手剣なんて軽めの大剣と変わらんだろうが」

 

「いいだろ。重いほうが好きなんだから」

 

「まあ気持ちは分かるが、残念ながら俺の刀は見た目ほど重くは無いぞ」

 

「そうなのか?鞘まで鉄製なのに意外だな」

 

「まあな。けど、鉄製だから耐久値はめちゃくちゃ高いぞ。普通の刀の2.5倍は有る」

 

「2.5倍!?なんでそんなに・・・・」

 

「そういう素材を集めて作ってもらったからな。耐久値が欲しかったんだよ」

 

 

リズに刀のオーダーメイドを頼んだ時に、俺はひたすら耐久地だけを求めて素材の提供をした。やたら硬いメタルなゴーレムやらクリスタル製のドラゴンをちまちま一人で倒すのはさすがにしんどかった。戦いが厳しかった訳ではなく全然減らない敵のHPを見続けるのが精神的にきつかった。この戦いは終わらないんじゃないかと何度思ったことか。

 

 

「確かにすごい耐久値だけど・・・なんで耐久値なんだ?」

 

「なんでって?」

 

「いや。普通武器に求める性能って攻撃力だろ? 確かに耐久値も重要だけど、それを一番に考えるってのはおかしくないか?」

 

 

刀を作るときにリズに全く同じことをいわれた気がする。俺がメタル系のインゴットとクリスタル製のインゴットを大量に持って行った時には、『こんなの加工しきるのに丸一日掛かるじゃない!』ってすごく嫌そうな顔もされた。作り始めてから完成まで本当に丸一日掛かったときはさすがに申し訳なかったな。

確かに普通は武器といえば攻撃力だが、俺の場合はちょっと違う。他の奴らと決定的に違うところがあるからな。

 

 

「普通の奴なら攻撃力だろうけど、俺の場合は耐久値が無いとやってられないからな。戦い方的に」

 

「戦い方? ホンキで戦うときの話か?」

 

「ああそうだ。敵の攻撃を鞘で受け流して戦ってるが、鞘だって武器の一部だからな。攻撃なり防御なりすると耐久値が減るんだよ」

 

「へーそうなのか。鞘を攻撃されることなんか無いから知らなかったな。」

 

「普通にしてたらまず無いからな。けど俺の場合は耐久値は必須なんだよ。他の奴らの2倍耐久値が減っていくんだから」

 

「・・・・・あの戦い方って結構デメリットが多いんだな」

 

 

 

 

 

.

.

.

.

 

 

 

 

俺達は特に何か目的があるわけでもなく話し続けていたが、気がつけば窓の外はずいぶんと暗くなっていた。

腹も減ってきたし、ずいぶんと長い間は無しふけっていたみたいだ。コーヒー何杯のんだか覚えて無いくらいだ。

 

 

 

「さすがに長居しすぎたな。そろそろ帰るよ」

 

「もうこんな時間か、早いもんだ」

 

「貴重な休日を潰しちゃって悪いな」

 

「ホントだよ」

 

「そこは否定してくれよ!」

 

 

 

やっぱりこいつをからかうのは楽しいな。リアクションが大きいし早いし、根が真面目だから皆で居ても場を乱すことも無い。なんだかんだ、リアルでも友達がちゃんと居て楽しい生活を送れるような奴なのかもしれない。

それなのにこいつは、いまだにソロでこのデスゲームの最前線に立っている。ソロは利益も多いが常に危険が付きまとう。

 

 

「なあ、キリト」

 

「なんだ?」

 

「そろそろギルドとかには入らないのか?」

 

 

ビーターの汚名を背負ったキリトだが、今の層まで上ってこれたのはこいつの業績が大きいってことぐらい他のプレイヤーも分かってるはずだ。もっといえば、最初からこいつがβテスターへのヘイトを全部請け負った事に気づいてる奴もいる。そろそろソロを辞めてもいい頃だ。

 

 

 

「・・・・・今はまだ、無理かな」

 

「・・・・・そうか」

 

「悪いな、クレハの言いたい事も分かるんだ。心配してくれてるんだろ?」

 

「・・・・・どうだかな」

 

 

 

まったく、こいつのこういう勘はやたら当たるからたちが悪い。俺の考えてる事に関してはどうしてこんなに勘が働くんだろうか。

 

それはともかく、こいつの言い方だとソロを辞めない理由は他にもあるらしい。ビーターの汚名が有るからという理由じゃなく、何かこいつの精神的な問題が有る用に聞こえる。

できることならそれも何とかしてやりたいが、それをやるには俺じゃあ役者不足だ。それが出来るのはもっとこいつの近くにいれて、こいつの生きる糧にもなれるような人間だろう。一人心当たりがあるが、そいつの気持ちに気がつくのはまだまだ先だろうな。

今の俺に出来ることといえば、ほんの少し背中をしてやることくらいだ。

 

 

 

「キリト。お節介だろうが一つ言っておく」

 

「なんだ?」

 

 

「今後アスナからパーティに誘われたときはなるべく断るなよ。今のお前を救ってくれるのは多分あいつだからな」

 

 

「ん?確かにアスナぐらい強かったら俺を助けてくれるだろうけど、なんでわざわざそんな事言うんだ?」

 

「・・・・言っただろ、ただのお節介だ。納得できなくても従っとけ」

 

「んー。まあ、分かったよ」

 

 

 

お前を救ってくれるのはアスナだ。間違いない。

そしてアスナを救うのもお前だろう。

 

具体的な根拠があるわけじゃない。アスナの恋心だって、思春期を過ぎれば思い出になるような一時的なものなのかもしれない。

けどどうしてだろう。キリトとアスナの2人が別々の道を進むのが想像できないのは。

 

 

 

「クレハ?どうした?」

 

「なんでもないよ。ほら、そろそろ帰るんだろ。話の続きはまた明日だ」

 

「あ、ああそうだったな。それじゃあまた明日来るよ」

 

「あいよ。じゃあな」

 

 

 

 

 

静かに扉を開けて出て行くキリトを見送った後、俺はソファへ座り込んだ。

どうして根拠も確信も無いのになぜあの2人が助け合うと確信しているのだろうか?

すこし考えてみたが、これ以外の理由が浮かばなかった。

 

 

「俺がそうあってほしいと思っているからかな」

 

 

ずいぶんと自己中心的な答えだと自分でも呆れるが、不思議と悪い気はしない。

いつも無駄にお節介を働いているんだ。これくらいのわがままは許してもらおう。

 

 

 




というわけで第十一話でした。

中々更新ペースが伸びませんががんばっていきます。
見てくださっている方、これからもよろしくお願いします。

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