ナザリックの核弾頭   作:プライベートX

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俺強ぇ展開になります。
苦手な方はブラウザバックを。


英雄計画part2

 ドス黒い殺気を撒き散らしながら、タイラントはゆっくりと振り返る。

 赤目の仮面(ガスマスク)とフリッツヘルメットの不気味さは、数多くの修羅場を潜り抜けたクレマンティーヌでさえ息を飲んだ。

 

 「……全部で二人、遊ぶには少々不足だな」

 

 くぐもった低い声が不気味さに拍車をかけ、見た事の無い真っ黒な生地の服が異様さを際立たせている。

 そして何よりもはっきりと分かるのはこの男が自分達を完全に舐めている事。

 何故それが分かるのか?

 歯牙にもかけない相手に警戒する必要などない。

 生かすも殺すも自分次第、その余裕は態度なり言動なりで自然と出るもの。

 現にこの男、この場において武器を取り出し構える素振りも見せない。

 この男にとって秘密結社ズーラーノーン幹部二人程度、全く脅威ではないと言う事。

 元漆黒聖典第9次席の実力をもっても”不足”と言う位に。

 要するに対等に戦う気など全く無い。

 遊び半分か暇潰し、又は余興の一種程度にしか考えていない事は明白だった。

 

 「舐めるんじゃあねぇぞ、このクソがぁ!!」

 

 古の名も無き戦士は言った。

 侮辱を受けた戦士が取るべき行動は二つ。

 相手を殺すか、己が死ぬか。

 受けた侮辱をそのままに生きる事は許されぬと。

 

 クレマンティーヌは戦士である。

 人の道を外れ、外道に落ちたとて己の能力に絶対的な自負、プライドを持っている。

 戦士として相手にもされない。

 その辺の有象無象と一緒にされた対応。

 当然、我慢など出来る訳がない。

 得体の知れない恐怖を振り払うかの様な咆哮。

 それと同時に〈武技〉を発動し、タイラントへ突貫を試みた。

 この男は相当な手練れ、慢心するだけの実力があるのも認める。

 まともに殺り合ったら確実に負ける事も百も承知。

 だが格下だと侮って油断している今こそ、千載一遇のチャンスだ。

 武技を発動させた不意討ちならば勝機はあるかもしれない。

 相手は達人、だが此方も達人。

 下に転がる木偶の棒達とは違う、私は英雄級の実力を持つ強者なのだ。 

 怒りに任せた場当たり的な物ではなく、怒りの感情すら計算に入れた攻撃行動。

 

 猫科の動物が獲物に飛び掛かる前の低く、しなやかな姿勢。

 クレマンティーヌは己の殺人術が最大限に発揮する間合いに一息で跳び込んだ。

 

 (チャンスは一度、一撃で仕留めるっ)

 

 〈疾風走破〉〈超回避〉〈能力向上〉〈能力超向上〉 

 武技よって限界まで引き上げられた身体能力は、最早超人の域へ達したと言っても過言ではない。

 更にだめ押しの〈流水加速〉によって、その速度は爆発的に向上する。

 自分以外の時間の流れが操作された様に遅く間延びした空間の中を、一人流れる水の如く移動するクレマンティーヌ。

 武技を合計5つ同時に発動させた必殺の一撃。

 驚異的な速度で放たれたスティレットの鋭利な切っ先は、空気を切り裂きながら低く抉り込む様に無防備な喉へと迫った。

 

 (もらった!)

 

 この間合い、このタイミング、完全に決まった。

 この私を舐め腐ったクソ野郎の喉笛直撃コース。

 スティレットに仕込まれた魔法も食らわせば間違いなく致命の一撃になる。

 あとほんの数センチ、コンマ何秒かで男の断末魔が、絶叫が聞こえてくるだろう。

 

 (妙な仮面ひっぺがして血のあぶくを吐き、のたうち回る姿を笑って眺めてやる)

 

 勝利を確信したクレマンティーヌはほくそ笑みを浮かべ…… 

 

 ガキン。

 

 加速した身体が硬い何かにぶつかり急停止する。

 同時に切っ先から感じたのは、喉笛に突き刺さる感触ではない。

 何かとても硬い物に、そう岩にでも突き刺したような、そんな感触だった。

 

 

 「……で、もう終いか?」

 

 そして間を置かずひどく落胆しきった、低く底冷えする様な声が聞こえた。

 

 

 「ば、馬鹿な……あり、えない」

 

 何が起きたか理解出来ない、いや理解したくない。

 こんな事があって良い筈がない、起きる筈がない。

 死角からの攻撃、タイミング、武技、全てが完璧の一撃だった。

 なのに何故?なぜ?ナゼ!?

 

 この私のっ!必殺の一撃が、渾身一撃が、たった”指二本”で摘ままれているなんて!!

 

 「……遅い、やり直せ」

 

 スティレットを摘まんでいる指を弾くと、呆けるクレマンティーヌを壁際まで吹き飛ばした。

 タイラントは吹き飛ばされる女を見ながらふと思う。

 激昂からの攻撃動作の速さ、死角からの高速の突きまでの流れ、この女は“そこそこ強い“部類に入る戦士なんじゃないかと。

 そう言えばあの村で会ったガゼフ(なにがし)も生身の人間にしては強い部類だったそうな。

 まぁ、俺はガゼフ某の活躍を直接見ていないからなんとも言えないが。

 団長曰く、“そこそこ強い“。

 状況も違うし、性別も違うし、一概に比較はするのは難しい。

 だがら“そこそこ“と感じた人間、大体同じ位の強さと考えるのが妥当だろう。

 

 「……どうした、二人掛かりでも構わんぞ?もっともそっちの奴はあまりやる気が無い様だが」

 

 タイラントはそう言うと足元に転がる剣を蹴り上げて手に取ると、後ろの扉に向かって投げつけた。

 ズドンと音を立てて剣は勢い良く扉に突き刺さる。

 扉を貫通した剣の先はその奥に居たカジットの眼前で止まった。

 

 (此奴っ、気付いておった!)

 

 目の前で止まった剣の切っ先に大いに肝を冷やしたカジット。

 それ以上に、あのクレマンティーヌが赤子の手を捻る様に軽くあしらわれる光景に絶句していた。

 こと戦闘に関して、比類なき強さを誇るあの女をもってして歯が立たないとは……

 今回の目的は既に達成している。

 クレマンティーヌのお遊びに付き合って死ぬつもりなど毛頭ない。

 ふき出る冷や汗を気にする事なく、カジットは即座に撤退を決めた。

 

 「……逃げ足だけは早い。で、お前はどうする?」

 

 殺りたければさっさと来い、そんな意味を込めてタイラントは漸く構える。

 その時、腕に適当に巻き付けていた冒険者の証であるプレートが露になった。

 それを見たクレマンティーヌの目が見開かれ、ワナワナと震え、叫けんだ。

 

 

 「嘘だ、嘘だ、嘘だ!お前が銅プレートだなんて!ありえない!」

 

 「……貴様もコレを気にする輩か、度しがたい」

 

 駆け出しの冒険者たる証をプラプラと見せつける。

 たかが銅を見せつけた所でだから何だと、普通ならそう思うだろう。

 銅や鉄のプレート持ちなどその辺に掃いて捨てる程居るのだから。

 だが、タイラントの場合はプレートと強さが全く比例していない。

 プレート=強さの目安、しかし何事にも当然例外はあるものだ。

 

 その時、倒れていた漆黒の剣の屍が立ち上がり、一斉にタイラントに向かって襲いだした。

 

 「……なるほど、臆病者がやりそうな事だ」

 

 迫る動死体を見ながら先ほど逃げたハゲの仕業だと看破する。

 おそらく奴はネクロマンサーか黒魔術使いか何かだろうと。

 だが、この程度のゾンビで俺をどうにか出来るとは思ってはいまい。

 

 (ならばこれは、只の時間稼ぎか?)

 

 タイラントに覆い被さる様に襲ってきたのは森司祭のダイン・ウッドワンダー。

 数時間前まで生きていた顔見知りが生ける屍になって襲ってくる。

 まるで一昔前のB級映画みたいな展開だ。

  

 「……少々不快だな」

 

 こみ上がる不快感を吐き捨て、即座に近接即死カウンター【処刑】を発動させる。

 散漫な動きのダインを軽くいなすと、一瞬でその背後に回り込む。

 そして無駄に大きい頭を掴んで捻ると、不快な音と共に首の骨がへし折れた。

 既にダインの死命は制されてはいるが、念には念を入れる。

 その歪に曲がった頭部を離す事なく更に捻り、非常識な腕力で首を無理やり捻り切った。

 半ば千切った形になったが、断面からは血がふき出る様子はなく、ドロドロした黒い血の様な物が流れている。

 それはもう人間ではなく“アンデッド“に成り下がった証拠だった。

 

 残る二体のゾンビ、野伏のチャラ男とPTリーダーのペテルだ。

 あれだけ無駄口を連発していたチャラ男など最早見る影もない。

 今の奴の口からは、無駄口の代わりに呻き声と血と吐瀉物が混じった物が出ているだけだ。

 そんなチャラ男の首にタイラントは正面からナイフを一気に突き立てた。

 深々と刺さったナイフを前蹴りと同時に引き抜くと、倒れた胴体を踏みながら拳銃を頭部に発砲、その脳髄を破壊する。

 団長との模擬戦で打撃力不足を感じた45ACP弾。

 だが、こうして普通の標的相手に使用してみると凶悪過ぎる威力だと言う事を再認識した。

 

 最後に接近するペテルへ容赦なく数発弾丸を撃ち込む。

 45口径の強力なストッピングパワーに加え、純銀製の弾頭はアンデットに対して絶大な効果を発揮する。

 弾丸を撃ち込まれた傷口は焼け爛れて煙が上がり、ペテル・ゾンビは小刻みに痙攣し棒立ち状態になった。

 タイラントは攻撃の手を緩める事なく、ナイフの届く間合いまで近づく。

 全ての弾を撃ち切った銃をホルスターに仕舞うと、ぶっきらぼうにナイフを薙ぎる様に一閃振った。

 ナイフにしては長く分厚い刃が肉と骨を容易く断つと、首は重力に従って床に落ちた。

 

 落ちた首がゴロゴロと床を転がり、足に当たり止まる。 

 足元の苦悶の表情のペテルの首を拾いあげ、まじまじと見ているといつの間にか感慨に浸っていた。

 本来ならばこいつ等には団長と俺の森での活躍を大いに宣伝してもらう筈だった。

 その為にこちらも色々と策を弄し、その結果も殆ど完璧と言えた。

 あとは座して待つのみ!ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ……

 

 そんな感じになる予定だったのだ。

 しかし、肝心の核となる人間が死んでしまっては、今までやった事が台無し、すべてが水の泡になった。

 

 (それもこれも、全部あのハゲのせいか……大体ハゲは俺だけでキャラは足りているんだよっ!)

 

 あのハゲ、絶対、許すまじ。

 

 「……女、戻ってあの臆病者(ハゲ)に伝えろ」

 

 空気が変わる、それはこの事を言うのか。

 クレマンティーヌは先ほどとは比較にならない無い恐怖を感じていた。

 これ程の純然たる殺意を撒き散らせる事のできる人間など存在するのか。

 いや、コイツは“本当に人間“なのだろうか。

 奥歯がガチガチと音を立てている。

 そう、クレマンティーヌ様ともあろう者が恐怖で震えていたのだ。

 だが、それも無理もない話しだ。

 何故ならば、目の前のコイツは……

 

 「必ズ、コノ俺ガ、殺シテヤル、トナ!!」

 

 人間などではなかったのだから……

 




私の中ではタイラントが使用している拳銃はハードボーラーで変換しています。
俺強ぇ展開が続きますので、駄目な方は静かにバックして下さい……

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